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第六章
第六章 第四話
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「名前を言ってなかったのに話を聞いて呼び出した男だと思った……」
心当たりがあるのか桐崎が口を噤んだ。
「それがしの門弟だったのなら何故今まで黙っていた」
桐崎の声が険しくなった。
確かあの時、水緒は仕事中に店の外に出たところを攫われたと言っていた。
知り合いに呼び出されたとなると話は違ってくる。
「もしかしたら偶然かもしれないと思ったものですから……」
目の前で女が連れ去られても助けない者は珍しくない。
特に相手が集団となれば尚更だ。
殺される危険を冒してまで助けたところで何の得にもならない。
流も水緒以外の人間なら助けないだろう。
というか実際助けたことはない。
男が水緒を呼び出したことと攫われたことに関係があるのか確信が持てなかったのも無理はない。
「今日になって鬼とグルだったのかもしれないと思うようなことがあったのか?」
「その方と今日、帰り道で会ったのですが、流ちゃんを見て驚いて逃げていったんです」
水緒の言葉にハッとして部屋を飛び出すと台所に駆け込んだ。
「水緒! それ、あいつか!?」
「流ちゃん、聞いてたの!?」
水緒が「しまった!」と言うように口を押さえた。
「お前、見たのか?」
「後ろ姿だけ。水緒から師匠の門弟の一人だって聞いた」
「門弟だと分からなかったのか?」
「最近来てないって」
「……あの時、てっきり流は後先考えずに飛び出していったから、それがしに何も伝えなかったのだと思っていたが……」
桐崎がそう言って黙り込んだ。
門弟が鬼の手先だと知らなかったのなら水緒の元に行く前に桐崎に伝えてくれと言っただろう。
水緒を鬼から助けたいなら流よりも腕の立つ桐崎がいた方が確実なのだ。
単に助けなかったと言うだけならあんなに慌てて逃げる必要はない。
水緒と流を鬼に売ったから仕返しを恐れたのだろう。
「あの辺は人が多いので今日は偶々会っただけかもしれませんが……」
確かに店が多く建ち並んでいる盛り場なのだから偶然ということもなくはない。
だが、まだ金に困っているなら水緒が無事で、また店に出ていると聞き付けて再び狙っていると言うことも考えられる。
水緒は途中で意識を失ってしまったし、流も記憶がないから水緒を攫った鬼を全て倒したかは知りようがない。
逃げた鬼が居たならまた水緒を捕まえに来るかもしれない。
流のことは狙っていなくても水緒は供部だ。
喰うために襲ってくることは十分考えられる。
覚えている限り流は常に鬼に襲われ続けてきたのだし、最後には水緒を喰うにしてもついでに流を呼び出して殺してから、と考えても不思議はない。
水緒が供部だと知っているかどうかはともかく、錦絵に描かれるほどの美女なのだから鬼だけではなく人間に対しても高く売れる。
金さえ積めば鬼の片棒を担ぐのも平気な男なのだ。
下見だったことも念頭に置いて警戒した方がいいだろう。
「そういう事なら送り迎えは必要だろうな。流、明日からは水緒の送り迎えをするように。仕事が入った時は流を早めに迎えに行かせるから水緒も店の人にそう言っておきなさい」
桐崎の言葉に流と水緒は頷いた。
水緒が夕餉を片付けを始めたので、流と桐崎は居間に移動した。
「あの男、門弟だって事は師匠も知ってるってことだよな。見当が付いてるんだろ」
「流、襲われた時ならいざ知らず、それ以外では手を出すな」
「また水緒を狙ってくるかもしれないのに!?」
「あの男が荷担したという証がないのに手を出せばお前の方が罪に問われる。街に住んでいられなくなるんだぞ」
流は別に街に住めなくても構わない。
鬼に襲われる心配がないという以外、決まりがうるさい人間の街に住みたいと思う理由がない。
「水緒と一緒にいられなくてもいいのか? それとも人里離れた山奥に水緒を連れていくのか? 山の中に住むことになったら水緒は苦労することになるぞ」
桐崎の言葉に流は返答に詰まった。
流のために殺されそうになるまで拷問に耐えたくらいだ。
山奥の暮らしがどれだけ大変でも弱音は吐かないだろうが、我慢を強いるようなことはしたくない。
何より山の中は町中より鬼に襲われやすい。
流は運良く大ケガをして倒れてから回復するまで別の鬼に襲われることがなかったから死なずに済んだがこの先もそんな幸運が続くとは限らない。
そして他に守れる者が居ない場所で流が動けなくなった時に襲われたら身を守る術のない水緒は殺されてしまう。
江戸に辿り着くまでの話の方がその後の五年間より長かったのも一つには水緒が供部で、村を出た後は頻繁に鬼に襲われていたからと言うのもあるのだ。
贄の印とか言うものがあったせいでもあるらしいが、無くても供部は普通の人間より鬼を引き寄せやすい。
流自身も狙われているのだから山の中では二人共長生き出来ないだろう。
となると水緒を人里離れたところに連れていくわけにはいかないし、流が水緒と離れたくないなら町中で暮らせなくなるようなことは出来ない。
「水緒が狙われているかもしれないなら送り迎えは止むを得まいが……」
「なんだ」
「水緒に深入りしそうになったら、それがしが言ったことを思い出せ。水緒がいなくなったら耐えられないほど入れ込んだら辛い思いをするのはお前の方なのだからな」
心当たりがあるのか桐崎が口を噤んだ。
「それがしの門弟だったのなら何故今まで黙っていた」
桐崎の声が険しくなった。
確かあの時、水緒は仕事中に店の外に出たところを攫われたと言っていた。
知り合いに呼び出されたとなると話は違ってくる。
「もしかしたら偶然かもしれないと思ったものですから……」
目の前で女が連れ去られても助けない者は珍しくない。
特に相手が集団となれば尚更だ。
殺される危険を冒してまで助けたところで何の得にもならない。
流も水緒以外の人間なら助けないだろう。
というか実際助けたことはない。
男が水緒を呼び出したことと攫われたことに関係があるのか確信が持てなかったのも無理はない。
「今日になって鬼とグルだったのかもしれないと思うようなことがあったのか?」
「その方と今日、帰り道で会ったのですが、流ちゃんを見て驚いて逃げていったんです」
水緒の言葉にハッとして部屋を飛び出すと台所に駆け込んだ。
「水緒! それ、あいつか!?」
「流ちゃん、聞いてたの!?」
水緒が「しまった!」と言うように口を押さえた。
「お前、見たのか?」
「後ろ姿だけ。水緒から師匠の門弟の一人だって聞いた」
「門弟だと分からなかったのか?」
「最近来てないって」
「……あの時、てっきり流は後先考えずに飛び出していったから、それがしに何も伝えなかったのだと思っていたが……」
桐崎がそう言って黙り込んだ。
門弟が鬼の手先だと知らなかったのなら水緒の元に行く前に桐崎に伝えてくれと言っただろう。
水緒を鬼から助けたいなら流よりも腕の立つ桐崎がいた方が確実なのだ。
単に助けなかったと言うだけならあんなに慌てて逃げる必要はない。
水緒と流を鬼に売ったから仕返しを恐れたのだろう。
「あの辺は人が多いので今日は偶々会っただけかもしれませんが……」
確かに店が多く建ち並んでいる盛り場なのだから偶然ということもなくはない。
だが、まだ金に困っているなら水緒が無事で、また店に出ていると聞き付けて再び狙っていると言うことも考えられる。
水緒は途中で意識を失ってしまったし、流も記憶がないから水緒を攫った鬼を全て倒したかは知りようがない。
逃げた鬼が居たならまた水緒を捕まえに来るかもしれない。
流のことは狙っていなくても水緒は供部だ。
喰うために襲ってくることは十分考えられる。
覚えている限り流は常に鬼に襲われ続けてきたのだし、最後には水緒を喰うにしてもついでに流を呼び出して殺してから、と考えても不思議はない。
水緒が供部だと知っているかどうかはともかく、錦絵に描かれるほどの美女なのだから鬼だけではなく人間に対しても高く売れる。
金さえ積めば鬼の片棒を担ぐのも平気な男なのだ。
下見だったことも念頭に置いて警戒した方がいいだろう。
「そういう事なら送り迎えは必要だろうな。流、明日からは水緒の送り迎えをするように。仕事が入った時は流を早めに迎えに行かせるから水緒も店の人にそう言っておきなさい」
桐崎の言葉に流と水緒は頷いた。
水緒が夕餉を片付けを始めたので、流と桐崎は居間に移動した。
「あの男、門弟だって事は師匠も知ってるってことだよな。見当が付いてるんだろ」
「流、襲われた時ならいざ知らず、それ以外では手を出すな」
「また水緒を狙ってくるかもしれないのに!?」
「あの男が荷担したという証がないのに手を出せばお前の方が罪に問われる。街に住んでいられなくなるんだぞ」
流は別に街に住めなくても構わない。
鬼に襲われる心配がないという以外、決まりがうるさい人間の街に住みたいと思う理由がない。
「水緒と一緒にいられなくてもいいのか? それとも人里離れた山奥に水緒を連れていくのか? 山の中に住むことになったら水緒は苦労することになるぞ」
桐崎の言葉に流は返答に詰まった。
流のために殺されそうになるまで拷問に耐えたくらいだ。
山奥の暮らしがどれだけ大変でも弱音は吐かないだろうが、我慢を強いるようなことはしたくない。
何より山の中は町中より鬼に襲われやすい。
流は運良く大ケガをして倒れてから回復するまで別の鬼に襲われることがなかったから死なずに済んだがこの先もそんな幸運が続くとは限らない。
そして他に守れる者が居ない場所で流が動けなくなった時に襲われたら身を守る術のない水緒は殺されてしまう。
江戸に辿り着くまでの話の方がその後の五年間より長かったのも一つには水緒が供部で、村を出た後は頻繁に鬼に襲われていたからと言うのもあるのだ。
贄の印とか言うものがあったせいでもあるらしいが、無くても供部は普通の人間より鬼を引き寄せやすい。
流自身も狙われているのだから山の中では二人共長生き出来ないだろう。
となると水緒を人里離れたところに連れていくわけにはいかないし、流が水緒と離れたくないなら町中で暮らせなくなるようなことは出来ない。
「水緒が狙われているかもしれないなら送り迎えは止むを得まいが……」
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