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第十一章
第十一章 第一話
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花月と光夜は人気のない火除け地に差し掛かった。
「今夜は久々の稽古なんだけど……」
花月がそう言って立ち止まった。
「どうやら先に実戦稽古があるようだな」
光夜も花月とぶつからないところまで移動してから足を止めた。
二人の周りを男達が取り囲む。
黒い羽織袴に頭巾で顔を隠している。
「人が来る前に片付けろ」
一人がそう言うと男達が一斉に斬り掛かってきた。
光夜は一番近い男に駆け寄りながら抜刀して横に払った。
脇を通り過ぎた男が腹を割かれて倒れる。
反転して刀を振り下ろしてきた男を逆袈裟に斬り上げる。
横から突き出された切っ先を体を開いて避ける。
男がそれを横に払ってきた。
光夜は鎬で跳ね上げると大きく踏み込んで男の喉を突く。
周りの男達を倒した光夜は花月の方を振り返った。
花月は男の刀を弾きながら後ろに下がったところだった。
他の男達は倒れている。
残っているのは一人だけだ。
光夜は男に駆け寄ると刀を振り下ろした。
同時に花月も前に踏み込んで刀を突き出す。
男は光夜の刀を払うと花月の刀を弾きながら踏み込んで横に薙ぐ。
花月は屈んで避けると曲げた膝を伸ばして勢いを付け懐の飛び込み突きを放つ。
男は体を開いて躱しながら刀を横に払った。
花月が刀で受け止めると同時に光夜が男に突きを放つ。
男が花月の刀を押しやりながら後ろに飛び退き着地と同時に前に飛び出した。
花月の顔に向かって刀を突き出す。
それを避けずにそのまま刀を振り下ろした。
刀が花月の頬を掠める。
男は体を開いて花月の切っ先を避けながら刃を倒して横に薙ぐ。
花月が姿勢を低くして避けながら後ろに跳んだ。
光夜が男に向かって刀を振り下ろす。
花月を追撃しようとしていた男は光夜の刀を弾きながら後ろに飛び退いた。
「小僧の持っている者を寄こせば此度は見逃しても良いぞ」
男の言葉に光夜は眉を顰めた。
「……追い剥ぎか? 金目の物なんか持ってねぇぞ」
「こやつは以前、西野家の籠を襲ってきた男故、目当ては連判状――」
花月が光夜にそう言ってから、
「――であろう?」
と男に向かって訊ねた。
あれか……。
「そういう事だ。あれを渡して二度と西野家に関わるな。その綺麗な顔に傷が付いたら嫁の貰い手が無くなるぞ」
「心配御無用。ケガをしたら貰ってやるという者がおるのでな」
「…………」
当てにされてると思っていいのか?
「二目と見られぬ顔になってもそう言うかな」
「顔が気に入ったから言ったわけじゃねぇよ」
その言葉に男がちらっと光夜に視線を向けた。
「そやつが死んだらどうする」
「剣術の師範として糊口を凌げる故、独り身でも困らぬ」
若先生なら喜んで家に置いといてくれそうだしな……。
「そなたこそ、それだけの腕があるなら仕官の道があろう」
頭巾から見えている男の眉が上がった。
一時雇いではなく既に仕官しているのだ。
次丸派の誰かに。
「これだけ盗っても意味ねぇぞ。書き写した物があるからな」
「筆跡が違えばどうとでも言い抜けられる」
連判状の中に名前がある者に送り込まれたのだ。
そしてその者は次丸派だという事を知られたら困るのだろう。
男は刀を青眼に構えた。
花月が八双に構える。
男の目が向いた瞬間、花月が刀身の向きを変えた。
刀身に反射した夕陽が男の目を射貫く。
「ちっ……!」
男が咄嗟に目を逸らす。
即座に花月が踏み込んで刀を振り下ろした。
男が咄嗟に受けようと刀を振り上げる。
花月はその瞬間、一旦刀身を引き、素早く前に突き出した。
同時に光夜も懐に飛び込んで突きを放つ。
男は刀を振って花月と光夜の剣を弾きながら大きく後ろに跳んで二人の刀の間合いから出た。
牽制するように前に剣先を二人に向けている。
夕陽で眩んだ視界が元に戻るのを待っているのだろう。
日没間近の日差しは弱いから目はすぐに戻ってしまうはずだし同じ手が通用するとは思えない。
元々日の光が目に入らないように常に夕陽に背が向くようにしていたのだろう。
花月もそれに気付いたから刀身を利用して反射させたのだろうがそろそろ完全に日が沈む。
他に目眩ましになるような物は……。
懐に手を入れると懐紙が手に触れた。
光夜は懐紙の束を掴み出すと男に向けて放り投げた。
懐紙が散って宙を舞う。
花月は納刀すると男に向かって懐紙の間を駆け抜けていく。
男が花月に刀を向けようとした瞬間、懐紙の死角から花月が脇差を投げ付けた。
男が脇差を上に弾く。
刹那、花月が抜刀して斬り上げた。
男はそれを払うと返す刀で横に払う。
花月が後ろに飛び退いて避ける。
男は花月を追うように刀を突き出した。
花月がぎりぎりまで待ってから体を開いて躱す。
男の腕が伸びきり引き戻されるまでの僅かな隙に光夜が駆け寄って刀を突き立てた。
「ぐっ!」
男は口から血を流しながらも光夜を睨み付けると刀を薙いだ。
光夜は刀から手を放すと背後に身体を倒した。
目の前を刀身が通り過ぎていく。
花月が背後から心の臓を貫いた。
男は声もなく絶命して倒れた。
「まだ明るいし人が来たら面倒だから早く離れましょ」
花月はそう言って地面に倒れている光夜に手を差し出した。
光夜はその手を掴んで立ち上がると、花月と共に急いでその場を離れた。
「今夜は久々の稽古なんだけど……」
花月がそう言って立ち止まった。
「どうやら先に実戦稽古があるようだな」
光夜も花月とぶつからないところまで移動してから足を止めた。
二人の周りを男達が取り囲む。
黒い羽織袴に頭巾で顔を隠している。
「人が来る前に片付けろ」
一人がそう言うと男達が一斉に斬り掛かってきた。
光夜は一番近い男に駆け寄りながら抜刀して横に払った。
脇を通り過ぎた男が腹を割かれて倒れる。
反転して刀を振り下ろしてきた男を逆袈裟に斬り上げる。
横から突き出された切っ先を体を開いて避ける。
男がそれを横に払ってきた。
光夜は鎬で跳ね上げると大きく踏み込んで男の喉を突く。
周りの男達を倒した光夜は花月の方を振り返った。
花月は男の刀を弾きながら後ろに下がったところだった。
他の男達は倒れている。
残っているのは一人だけだ。
光夜は男に駆け寄ると刀を振り下ろした。
同時に花月も前に踏み込んで刀を突き出す。
男は光夜の刀を払うと花月の刀を弾きながら踏み込んで横に薙ぐ。
花月は屈んで避けると曲げた膝を伸ばして勢いを付け懐の飛び込み突きを放つ。
男は体を開いて躱しながら刀を横に払った。
花月が刀で受け止めると同時に光夜が男に突きを放つ。
男が花月の刀を押しやりながら後ろに飛び退き着地と同時に前に飛び出した。
花月の顔に向かって刀を突き出す。
それを避けずにそのまま刀を振り下ろした。
刀が花月の頬を掠める。
男は体を開いて花月の切っ先を避けながら刃を倒して横に薙ぐ。
花月が姿勢を低くして避けながら後ろに跳んだ。
光夜が男に向かって刀を振り下ろす。
花月を追撃しようとしていた男は光夜の刀を弾きながら後ろに飛び退いた。
「小僧の持っている者を寄こせば此度は見逃しても良いぞ」
男の言葉に光夜は眉を顰めた。
「……追い剥ぎか? 金目の物なんか持ってねぇぞ」
「こやつは以前、西野家の籠を襲ってきた男故、目当ては連判状――」
花月が光夜にそう言ってから、
「――であろう?」
と男に向かって訊ねた。
あれか……。
「そういう事だ。あれを渡して二度と西野家に関わるな。その綺麗な顔に傷が付いたら嫁の貰い手が無くなるぞ」
「心配御無用。ケガをしたら貰ってやるという者がおるのでな」
「…………」
当てにされてると思っていいのか?
「二目と見られぬ顔になってもそう言うかな」
「顔が気に入ったから言ったわけじゃねぇよ」
その言葉に男がちらっと光夜に視線を向けた。
「そやつが死んだらどうする」
「剣術の師範として糊口を凌げる故、独り身でも困らぬ」
若先生なら喜んで家に置いといてくれそうだしな……。
「そなたこそ、それだけの腕があるなら仕官の道があろう」
頭巾から見えている男の眉が上がった。
一時雇いではなく既に仕官しているのだ。
次丸派の誰かに。
「これだけ盗っても意味ねぇぞ。書き写した物があるからな」
「筆跡が違えばどうとでも言い抜けられる」
連判状の中に名前がある者に送り込まれたのだ。
そしてその者は次丸派だという事を知られたら困るのだろう。
男は刀を青眼に構えた。
花月が八双に構える。
男の目が向いた瞬間、花月が刀身の向きを変えた。
刀身に反射した夕陽が男の目を射貫く。
「ちっ……!」
男が咄嗟に目を逸らす。
即座に花月が踏み込んで刀を振り下ろした。
男が咄嗟に受けようと刀を振り上げる。
花月はその瞬間、一旦刀身を引き、素早く前に突き出した。
同時に光夜も懐に飛び込んで突きを放つ。
男は刀を振って花月と光夜の剣を弾きながら大きく後ろに跳んで二人の刀の間合いから出た。
牽制するように前に剣先を二人に向けている。
夕陽で眩んだ視界が元に戻るのを待っているのだろう。
日没間近の日差しは弱いから目はすぐに戻ってしまうはずだし同じ手が通用するとは思えない。
元々日の光が目に入らないように常に夕陽に背が向くようにしていたのだろう。
花月もそれに気付いたから刀身を利用して反射させたのだろうがそろそろ完全に日が沈む。
他に目眩ましになるような物は……。
懐に手を入れると懐紙が手に触れた。
光夜は懐紙の束を掴み出すと男に向けて放り投げた。
懐紙が散って宙を舞う。
花月は納刀すると男に向かって懐紙の間を駆け抜けていく。
男が花月に刀を向けようとした瞬間、懐紙の死角から花月が脇差を投げ付けた。
男が脇差を上に弾く。
刹那、花月が抜刀して斬り上げた。
男はそれを払うと返す刀で横に払う。
花月が後ろに飛び退いて避ける。
男は花月を追うように刀を突き出した。
花月がぎりぎりまで待ってから体を開いて躱す。
男の腕が伸びきり引き戻されるまでの僅かな隙に光夜が駆け寄って刀を突き立てた。
「ぐっ!」
男は口から血を流しながらも光夜を睨み付けると刀を薙いだ。
光夜は刀から手を放すと背後に身体を倒した。
目の前を刀身が通り過ぎていく。
花月が背後から心の臓を貫いた。
男は声もなく絶命して倒れた。
「まだ明るいし人が来たら面倒だから早く離れましょ」
花月はそう言って地面に倒れている光夜に手を差し出した。
光夜はその手を掴んで立ち上がると、花月と共に急いでその場を離れた。
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【登場人物】
帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。
織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。
斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。
一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。
今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。
斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。
【参考資料】
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