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魂の還る惑星 第五章 Sothis-水の上の星-
第五章 第十話
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「小夜、聞いてくれた?」
「うん。お料理、上手じゃなくてもいいけど彼女に手料理作ってもらえたら嬉しいって言ってた。それ以外は特に好みとかはなくて、年にも拘らないって」
「ホント!? なら、頑張ってお料理の練習する! 楸矢さんの好きなものって何?」
「一番好きなのは親子丼。あとは……」
小夜が楸矢の好きなものを言うと清美は必死でメモを取っていた。
「ごめん、待った?」
楸矢は先に来ていた清美に謝った。
「いえ、あたしも今来たところです」
二人は以前会った喫茶店で待ち合わせていた。
楸矢が、柊矢と小夜のデートのことで改めて相談したいといって清美を呼び出したのだ。
「この前はごちそうさまでした。あたし、鯛なんて初めて食べました」
「あれ、卒業祝いって鯛は食べないものなの? もしそうなら小夜ちゃんには言わないであげてね。小夜ちゃん、知らないで作っちゃったんだと思うから」
「いえ、小夜にも言いましたけど、お祝いって家ごとに違いますから鯛を食べる家だってあるはずですよ。鯛ってお祝いのときに食べるお魚なんですから。あたしの家では食べなかったってだけで」
「そっか。なら良かった」
楸矢が安心した表情になった。
「小夜に随分気を遣ってるんですね」
「そりゃね。親の顔も知らなくて育ての親は祖父ちゃんだけって言うのは俺も同じだけど、俺には柊兄がいるし、祖父ちゃんが亡くなってからもう七年もたってるけど、小夜ちゃんはついこの前でしょ。しかも家が焼けちゃったから何も残ってないし」
確かにクラスメイトは皆小夜の祖父に少しでも関係ありそうなことには絶対触れないように避けている。
小夜の彼なのに柊矢のことを話題に出来ないのは亡くなった祖父の代わりに後見人になった相手でもあるからだ。
さすがの清美でも、柊矢はともかく祖父のことは話題に出来ない。
「小夜ちゃんってかなり繊細そうだし、うっかり傷付けるようなことしたら普通の女の子のとき以上に罪悪感半端なさそうって思うとかなり怖いんだよね」
確かに小夜は平気な振りをするからこそ怖い。
常に、傷付いてない振りをしているのではないか、という不安が付き纏っているのだ。
「それで、聞いてくれた?」
楸矢は話題を変えた。
「はい」
「どこ?」
「柊矢さんと一緒にいられればそれでいいそうです」
「え~! 女の子ならテーマパークとか好きそうだけど……」
「テーマパークは無理だと思います」
深雪にテーマパークの写真を見せられたとき羨ましそうにしてたが恐らく口が裂けてもデートで行きたいとは言わないだろう。
「小夜ちゃん、テーマパーク嫌いなの?」
「いえ、行きたそうな顔はしてました。でも、お金かかるじゃないですか。行ったら支払いは全部柊矢さんがすることになりますよね」
「そりゃ、デートの支払いは男が持つものって考え方が古いとしても、仕事してて収入のある柊兄が、バイトすらしてない高校生に奢ってもらうわけにはいかないでしょ」
「でも、小夜は居候ですから、金銭的に負担になるようなところは……」
「家賃とかはもらってないけど居候じゃないよ」
「小夜はそう思ってます」
「けど、家事してもらってるし」
「家事はお祖父さんが生きてたときもしてましたから小夜にとってはチャラになるほどのことじゃないんです。この前、楸矢さん、何も言わずにあたしの分の勘定書き、さりげなく持っていってくれましたよね。あたしはそういうの、格好良くて素敵だと思いますけど、小夜だったら気にしちゃいます」
確かに清美の言う通りだ。
小夜は性格的に奢ってもらって嬉しいなんて考えないだろう。
むしろ気に病むに違いない。
「でも、柊兄が小夜ちゃんに奢ってもらうってのも無理だよ」
楸矢は清美に再度、後見人は財産を殖やすことが出来ないという話をした。
「うちみたいに自宅以外に家賃収入のある不動産があったとか、株を持ってて配当があるとかならともかく、小夜ちゃんのお祖父さんはそういう収入があるような遺産は残してないから出来る限り減らさないようにするのが精一杯だって言ってたし。それにテーマパークには行きたいんだよね? お金出してもらうのがダメっていってたら一生無理じゃない? 仮に小夜ちゃんが働くようになったとしても柊兄は割り勘でも嫌がると思うよ」
「その辺は段階を踏めば抵抗なくなると思います。まずはお金がかからないところに行けばいいんじゃないでしょうか。丁度この前、東京も開花宣言ありましたよね。お花見とかどうでしょう」
「お花見かぁ」
楸矢が難しい顔で腕を組んだ。
「何か不都合でも……?」
清美が恐る恐る訊ねた。
考えてみたら楸矢が親の顔を知らないということは両親が亡くなった頃は柊矢もまだ子供だったということだ。
幼くして両親を亡くしているのだから小夜ほどではないにしろ兄弟揃って普通の人より触れたらマズい部分が多いはずだ。
「そうじゃなくて、うちって公園に囲まれてるじゃん」
霧生家がある住宅街は公園に食い込むような形になっている。
動物園の予定地を住宅地や団地にしたため、広い公園の中に虫食い状態で住宅街や団地が入り込んでるのだ。
「あの公園って別に花の名所ってわけじゃないんだけど、桜がいっぱいあるからうちの近所の人ってわざわざ花見に行かないんだよね。せいぜい公園のベンチでお弁当食べるくらい。近くに住んでる人しか来ないから上野公園とかと違って人少ないしさ」
「だったら尚更好都合じゃないですか」
「え?」
「近所なら交通費もかからないわけですよね。小夜がお弁当作るなら柊矢さんの負担にならないか心配する要素ないわけですし」
清美の言う通りだ。
しかし……。
「名案だとは思うんだけど……」
楸矢が考え込むような表情になった。
もしかして花見に嫌な思い出があるのだろうか。
清美は思わず身構えた。
「東京が満開の頃って俺達旅行中じゃない?」
「うん。お料理、上手じゃなくてもいいけど彼女に手料理作ってもらえたら嬉しいって言ってた。それ以外は特に好みとかはなくて、年にも拘らないって」
「ホント!? なら、頑張ってお料理の練習する! 楸矢さんの好きなものって何?」
「一番好きなのは親子丼。あとは……」
小夜が楸矢の好きなものを言うと清美は必死でメモを取っていた。
「ごめん、待った?」
楸矢は先に来ていた清美に謝った。
「いえ、あたしも今来たところです」
二人は以前会った喫茶店で待ち合わせていた。
楸矢が、柊矢と小夜のデートのことで改めて相談したいといって清美を呼び出したのだ。
「この前はごちそうさまでした。あたし、鯛なんて初めて食べました」
「あれ、卒業祝いって鯛は食べないものなの? もしそうなら小夜ちゃんには言わないであげてね。小夜ちゃん、知らないで作っちゃったんだと思うから」
「いえ、小夜にも言いましたけど、お祝いって家ごとに違いますから鯛を食べる家だってあるはずですよ。鯛ってお祝いのときに食べるお魚なんですから。あたしの家では食べなかったってだけで」
「そっか。なら良かった」
楸矢が安心した表情になった。
「小夜に随分気を遣ってるんですね」
「そりゃね。親の顔も知らなくて育ての親は祖父ちゃんだけって言うのは俺も同じだけど、俺には柊兄がいるし、祖父ちゃんが亡くなってからもう七年もたってるけど、小夜ちゃんはついこの前でしょ。しかも家が焼けちゃったから何も残ってないし」
確かにクラスメイトは皆小夜の祖父に少しでも関係ありそうなことには絶対触れないように避けている。
小夜の彼なのに柊矢のことを話題に出来ないのは亡くなった祖父の代わりに後見人になった相手でもあるからだ。
さすがの清美でも、柊矢はともかく祖父のことは話題に出来ない。
「小夜ちゃんってかなり繊細そうだし、うっかり傷付けるようなことしたら普通の女の子のとき以上に罪悪感半端なさそうって思うとかなり怖いんだよね」
確かに小夜は平気な振りをするからこそ怖い。
常に、傷付いてない振りをしているのではないか、という不安が付き纏っているのだ。
「それで、聞いてくれた?」
楸矢は話題を変えた。
「はい」
「どこ?」
「柊矢さんと一緒にいられればそれでいいそうです」
「え~! 女の子ならテーマパークとか好きそうだけど……」
「テーマパークは無理だと思います」
深雪にテーマパークの写真を見せられたとき羨ましそうにしてたが恐らく口が裂けてもデートで行きたいとは言わないだろう。
「小夜ちゃん、テーマパーク嫌いなの?」
「いえ、行きたそうな顔はしてました。でも、お金かかるじゃないですか。行ったら支払いは全部柊矢さんがすることになりますよね」
「そりゃ、デートの支払いは男が持つものって考え方が古いとしても、仕事してて収入のある柊兄が、バイトすらしてない高校生に奢ってもらうわけにはいかないでしょ」
「でも、小夜は居候ですから、金銭的に負担になるようなところは……」
「家賃とかはもらってないけど居候じゃないよ」
「小夜はそう思ってます」
「けど、家事してもらってるし」
「家事はお祖父さんが生きてたときもしてましたから小夜にとってはチャラになるほどのことじゃないんです。この前、楸矢さん、何も言わずにあたしの分の勘定書き、さりげなく持っていってくれましたよね。あたしはそういうの、格好良くて素敵だと思いますけど、小夜だったら気にしちゃいます」
確かに清美の言う通りだ。
小夜は性格的に奢ってもらって嬉しいなんて考えないだろう。
むしろ気に病むに違いない。
「でも、柊兄が小夜ちゃんに奢ってもらうってのも無理だよ」
楸矢は清美に再度、後見人は財産を殖やすことが出来ないという話をした。
「うちみたいに自宅以外に家賃収入のある不動産があったとか、株を持ってて配当があるとかならともかく、小夜ちゃんのお祖父さんはそういう収入があるような遺産は残してないから出来る限り減らさないようにするのが精一杯だって言ってたし。それにテーマパークには行きたいんだよね? お金出してもらうのがダメっていってたら一生無理じゃない? 仮に小夜ちゃんが働くようになったとしても柊兄は割り勘でも嫌がると思うよ」
「その辺は段階を踏めば抵抗なくなると思います。まずはお金がかからないところに行けばいいんじゃないでしょうか。丁度この前、東京も開花宣言ありましたよね。お花見とかどうでしょう」
「お花見かぁ」
楸矢が難しい顔で腕を組んだ。
「何か不都合でも……?」
清美が恐る恐る訊ねた。
考えてみたら楸矢が親の顔を知らないということは両親が亡くなった頃は柊矢もまだ子供だったということだ。
幼くして両親を亡くしているのだから小夜ほどではないにしろ兄弟揃って普通の人より触れたらマズい部分が多いはずだ。
「そうじゃなくて、うちって公園に囲まれてるじゃん」
霧生家がある住宅街は公園に食い込むような形になっている。
動物園の予定地を住宅地や団地にしたため、広い公園の中に虫食い状態で住宅街や団地が入り込んでるのだ。
「あの公園って別に花の名所ってわけじゃないんだけど、桜がいっぱいあるからうちの近所の人ってわざわざ花見に行かないんだよね。せいぜい公園のベンチでお弁当食べるくらい。近くに住んでる人しか来ないから上野公園とかと違って人少ないしさ」
「だったら尚更好都合じゃないですか」
「え?」
「近所なら交通費もかからないわけですよね。小夜がお弁当作るなら柊矢さんの負担にならないか心配する要素ないわけですし」
清美の言う通りだ。
しかし……。
「名案だとは思うんだけど……」
楸矢が考え込むような表情になった。
もしかして花見に嫌な思い出があるのだろうか。
清美は思わず身構えた。
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