歌のふる里

月夜野 すみれ

文字の大きさ
96 / 144
魂の還る惑星 第五章 Sothis-水の上の星-

第五章 第十話

しおりを挟む
「小夜、聞いてくれた?」
「うん。お料理、上手じゃなくてもいいけど彼女に手料理作ってもらえたら嬉しいって言ってた。それ以外は特に好みとかはなくて、年にも拘らないって」
「ホント!? なら、頑張ってお料理の練習する! 楸矢さんの好きなものって何?」
「一番好きなのは親子丼。あとは……」
 小夜が楸矢の好きなものを言うと清美は必死でメモを取っていた。

「ごめん、待った?」
 楸矢は先に来ていた清美に謝った。
「いえ、あたしも今来たところです」
 二人は以前会った喫茶店で待ち合わせていた。
 楸矢が、柊矢と小夜のデートのことで改めて相談したいといって清美を呼び出したのだ。
「この前はごちそうさまでした。あたし、鯛なんて初めて食べました」
「あれ、卒業祝いって鯛は食べないものなの? もしそうなら小夜ちゃんには言わないであげてね。小夜ちゃん、知らないで作っちゃったんだと思うから」
「いえ、小夜にも言いましたけど、お祝いって家ごとに違いますから鯛を食べる家だってあるはずですよ。鯛ってお祝いのときに食べるお魚なんですから。あたしのうちでは食べなかったってだけで」
「そっか。なら良かった」
 楸矢が安心した表情になった。
「小夜に随分気を遣ってるんですね」
「そりゃね。親の顔も知らなくて育ての親は祖父ちゃんだけって言うのは俺も同じだけど、俺には柊兄がいるし、祖父ちゃんが亡くなってからもう七年もたってるけど、小夜ちゃんはついこの前でしょ。しかも家が焼けちゃったから何も残ってないし」

 確かにクラスメイトは皆小夜の祖父に少しでも関係ありそうなことには絶対れないようにけている。
 小夜の彼なのに柊矢のことを話題に出来ないのは亡くなった祖父の代わりに後見人になった相手でもあるからだ。
 さすがの清美でも、柊矢はともかく祖父のことは話題に出来ない。

「小夜ちゃんってかなり繊細そうだし、うっかり傷付けるようなことしたら普通の女の子のとき以上に罪悪感半端なさそうって思うとかなり怖いんだよね」
 確かに小夜は平気な振りをするからこそ怖い。
 常に、傷付いてない振りをしているのではないか、という不安が付きまとっているのだ。
「それで、聞いてくれた?」
 楸矢は話題を変えた。
「はい」
「どこ?」
「柊矢さんと一緒にいられればそれでいいそうです」
「え~! 女の子ならテーマパークとか好きそうだけど……」
「テーマパークは無理だと思います」
 深雪にテーマパークの写真を見せられたとき羨ましそうにしてたが恐らく口が裂けてもデートで行きたいとは言わないだろう。

「小夜ちゃん、テーマパーク嫌いなの?」
「いえ、行きたそうな顔はしてました。でも、お金かかるじゃないですか。行ったら支払いは全部柊矢さんがすることになりますよね」
「そりゃ、デートの支払いは男が持つものって考え方が古いとしても、仕事してて収入のある柊兄が、バイトすらしてない高校生におごってもらうわけにはいかないでしょ」
「でも、小夜は居候ですから、金銭的に負担になるようなところは……」
「家賃とかはもらってないけど居候じゃないよ」
「小夜はそう思ってます」
「けど、家事してもらってるし」
「家事はお祖父さんが生きてたときもしてましたから小夜にとってはチャラになるほどのことじゃないんです。この前、楸矢さん、何も言わずにあたしの分の勘定書き、さりげなく持っていってくれましたよね。あたしはそういうの、格好良かっこよくて素敵だと思いますけど、小夜だったら気にしちゃいます」
 確かに清美の言う通りだ。
 小夜は性格的におごってもらって嬉しいなんて考えないだろう。
 むしろ気に病むに違いない。
「でも、柊兄が小夜ちゃんに奢ってもらうってのも無理だよ」
 楸矢は清美に再度、後見人は財産をやすことが出来ないという話をした。

「うちみたいに自宅以外に家賃収入のある不動産があったとか、株を持ってて配当があるとかならともかく、小夜ちゃんのお祖父さんはそういう収入があるような遺産は残してないから出来る限り減らさないようにするのが精一杯だって言ってたし。それにテーマパークには行きたいんだよね? お金出してもらうのがダメっていってたら一生無理じゃない? 仮に小夜ちゃんが働くようになったとしても柊兄は割り勘でも嫌がると思うよ」
「その辺は段階を踏めば抵抗なくなると思います。まずはお金がかからないところに行けばいいんじゃないでしょうか。丁度この前、東京も開花宣言ありましたよね。お花見とかどうでしょう」
「お花見かぁ」
 楸矢が難しい顔で腕を組んだ。
「何か不都合でも……?」
 清美が恐る恐る訊ねた。

 考えてみたら楸矢が親の顔を知らないということは両親が亡くなった頃は柊矢もまだ子供だったということだ。
 幼くして両親を亡くしているのだから小夜ほどではないにしろ兄弟揃って普通の人よりれたらマズい部分が多いはずだ。

「そうじゃなくて、うちって公園に囲まれてるじゃん」
 霧生家がある住宅街は公園に食い込むような形になっている。
 動物園の予定地を住宅地や団地にしたため、広い公園の中に虫食い状態で住宅街や団地が入り込んでるのだ。
「あの公園って別に花の名所ってわけじゃないんだけど、桜がいっぱいあるからうちの近所の人ってわざわざ花見に行かないんだよね。せいぜい公園のベンチでお弁当食べるくらい。近くに住んでる人しか来ないから上野公園とかと違って人少ないしさ」
「だったら尚更なおさら好都合じゃないですか」
「え?」
「近所なら交通費もかからないわけですよね。小夜がお弁当作るなら柊矢さんの負担にならないか心配する要素ないわけですし」
 清美の言う通りだ。

 しかし……。

「名案だとは思うんだけど……」
 楸矢が考え込むような表情になった。
 もしかして花見に嫌な思い出があるのだろうか。
 清美は思わず身構えた。
「東京が満開の頃って俺達旅行中じゃない?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...