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魂の還る惑星 第六章 Al-Shi'ra -輝く星-
第六章 第一話
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第六章 Al-Shi'ra-輝く星-
人気のない海辺でアトが歌っていた。拙いが一所懸命歌っている。きっと練習しているのだろう。
そのとき木の枝が折れる音がしてアトの歌声が途切れた。
「やだ、聴いた?」
「やめることないのに」
男性が近寄ってきて言った。
「だって、下手だし、恥ずかしいから。いつも聴こえてくるのってすごく綺麗な声なんでしょ」
「うん、前にお坊さんから極楽の話を聞いたことがあっただろ。きっと極楽で聴こえるって言う楽の音ってあんな感じだと思う」
「ちょっと! 縁起でもないこと言わないで!」
アトは強い口調で言ってから、
「今度……に行くんでしょ」
と心配そうな顔で訊ねた。
「うん」
「……へ渡る海は潮の流れが速くてよく船が難破するって……。いくら、綺麗な楽の音が聴こえるからって極楽なんか行ったりしないでよ」
「心配いらないよ。必ず帰ってくるから。今はアトボシは見えてないし、もし船が沈んだらアトが歌って導いてよ。そしたらきっと帰ってこられるから」
「あ、あたしは、歌えない! 絶対歌わないから、自力で帰ってきて!」
アトはそう言うと走っていってしまった。
朝、教室に入ると清美が大きな欠伸をしていた。
「寝不足?」
小夜が訊ねた。
もう三月だからテストはないし夜更かしが必要なほど大量の課題も出てない。
ドラマかマンガの一気見でもしたのだろうか。
「うん、夜遅くまで料理の練習してたんだけど、お母さんに片付けもちゃんとしなさいって言われちゃって……。小夜とご馳走作ったときは後片付けとか、あんなになかったのに、なんで普通の料理でいっぱいあるの?」
「片付けが必要ないように作るんだよ」
その言葉を聞いて思い返してみると、確かに小夜は必要最低限の道具しか使ってなかった。
効率が良くて余計な物を使ったりしないから出来上がった後に片付けるものも少ないのだ。
清美は感心するとともに頭を切り替えた。
「いきなり楸矢さんに食べてもらうわけにはいかないからお弁当作ってきたんだ。お昼のとき味見してよ」
「いいよ」
小夜は快諾した。
昼休み、
「あー、やっぱり……」
ランチボックスの蓋を開いた清美が肩を落とした。
中身は親子丼だった。
蓋に貼り付いてしまっている三つ葉などから見て綺麗に盛り付けてあったのだろう。
だが鞄に入れて持ってきたため盛り付けは崩れてしまっていた。
「親子丼はお弁当向きじゃないからしょうがないよ。大事なのは味なんだし」
小夜が慰めるように言った。
「でも、見た目が良くないとがっかりされるじゃん」
「お弁当のときはお弁当向きの料理を作ればいいだけだよ」
「それもそっか。じゃ、味見して」
清美はいつものようにすぐに頭を切り替えてランチボックスを小夜に差し出した。
小夜は自分のお箸を取り出して清美の親子丼を自分のランチボックスの蓋に少し取り分けると一口食べてみた。
「うん、美味しい。これなら楸矢さん、絶対喜んでくれると思う」
「ホント!? 味付けは? 好みの味とかってないの?」
「特にないと思うけど。今度うちに作りに来たら? それで作ってあげて、楸矢さんに直接聞けばいいんじゃない?」
「いいの!?」
清美が身を乗り出した。
「前に柊矢さんが、いつでも呼んでいいって言ってくれたから大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、改めて柊矢さんに聞いてみて」
「うん」
「文理選択で文系選んだの失敗したかなって思ってたんだけど……」
「理系の大学に行きたくなったってこと? 何かやりたいことがあるの?」
「ないよ」
清美があっさり答えた。
「じゃあ、なんで理系にしたいなんて思ったの?」
「早稲田の理工学部ならうちから歩いて五分もかからないじゃん」
「え、それだけ? 距離だけなら学習院の方が近くない?」
「学習院は明治通り渡らないといけないじゃん」
明治通りなんて渡るのに苦労するような道路じゃないと思うんだけど……。
「でも、文系にしておいて良かったって事は目標が出来たって事?」
「ううん、なんにも。ただ家から早稲田の戸山キャンパスへ行く途中で楸矢さんちの側通るじゃん。楸矢さんが大学へ通う道とも交差してるから時間が合えば帰りに待ち合わせとか出来るかなって」
すごい恋愛脳……。
高校ならともかく大学をそんな理由で選ぶなんて……。
就職先にも影響するのに……。
「小夜は? 最近よく先生のところに進路相談に行ってるってことは、やりたいことがあるって事?」
「ないから困ってるんだよ」
小夜は溜息を吐いて清美に進路の悩みを話した。
聞き終わった途端、清美が爆笑した。
「そこ、笑うとこ?」
小夜が怒ったように言った。
「なりたいものがあるならともかく、理由もないのに家を出るなんて過保護の柊矢さんが許すわけないじゃん。小夜、柊矢さんのこと分かってなさ過ぎ」
「今は後見人だからでしょ。成人したら、いつまでも居候してるわけにはいかな……」
「年なんか関係ないって」
笑うのをやめた清美が冷めた口調で遮った。
「成人したとしたってそんな理由じゃ柊矢さんは絶対許してくれないよ。居候が申し訳ないって言うなら家賃や食費受け取ってくれるように交渉した方が早いって」
清美はポジティブ思考といっても、それは良い方向に考えるようにしていると言うだけで実際はリアリストだ。
むしろ清美より遥かに苦労してきたはずの小夜がなんでこんなに現実が見えてないのか理解に苦しむ。
人気のない海辺でアトが歌っていた。拙いが一所懸命歌っている。きっと練習しているのだろう。
そのとき木の枝が折れる音がしてアトの歌声が途切れた。
「やだ、聴いた?」
「やめることないのに」
男性が近寄ってきて言った。
「だって、下手だし、恥ずかしいから。いつも聴こえてくるのってすごく綺麗な声なんでしょ」
「うん、前にお坊さんから極楽の話を聞いたことがあっただろ。きっと極楽で聴こえるって言う楽の音ってあんな感じだと思う」
「ちょっと! 縁起でもないこと言わないで!」
アトは強い口調で言ってから、
「今度……に行くんでしょ」
と心配そうな顔で訊ねた。
「うん」
「……へ渡る海は潮の流れが速くてよく船が難破するって……。いくら、綺麗な楽の音が聴こえるからって極楽なんか行ったりしないでよ」
「心配いらないよ。必ず帰ってくるから。今はアトボシは見えてないし、もし船が沈んだらアトが歌って導いてよ。そしたらきっと帰ってこられるから」
「あ、あたしは、歌えない! 絶対歌わないから、自力で帰ってきて!」
アトはそう言うと走っていってしまった。
朝、教室に入ると清美が大きな欠伸をしていた。
「寝不足?」
小夜が訊ねた。
もう三月だからテストはないし夜更かしが必要なほど大量の課題も出てない。
ドラマかマンガの一気見でもしたのだろうか。
「うん、夜遅くまで料理の練習してたんだけど、お母さんに片付けもちゃんとしなさいって言われちゃって……。小夜とご馳走作ったときは後片付けとか、あんなになかったのに、なんで普通の料理でいっぱいあるの?」
「片付けが必要ないように作るんだよ」
その言葉を聞いて思い返してみると、確かに小夜は必要最低限の道具しか使ってなかった。
効率が良くて余計な物を使ったりしないから出来上がった後に片付けるものも少ないのだ。
清美は感心するとともに頭を切り替えた。
「いきなり楸矢さんに食べてもらうわけにはいかないからお弁当作ってきたんだ。お昼のとき味見してよ」
「いいよ」
小夜は快諾した。
昼休み、
「あー、やっぱり……」
ランチボックスの蓋を開いた清美が肩を落とした。
中身は親子丼だった。
蓋に貼り付いてしまっている三つ葉などから見て綺麗に盛り付けてあったのだろう。
だが鞄に入れて持ってきたため盛り付けは崩れてしまっていた。
「親子丼はお弁当向きじゃないからしょうがないよ。大事なのは味なんだし」
小夜が慰めるように言った。
「でも、見た目が良くないとがっかりされるじゃん」
「お弁当のときはお弁当向きの料理を作ればいいだけだよ」
「それもそっか。じゃ、味見して」
清美はいつものようにすぐに頭を切り替えてランチボックスを小夜に差し出した。
小夜は自分のお箸を取り出して清美の親子丼を自分のランチボックスの蓋に少し取り分けると一口食べてみた。
「うん、美味しい。これなら楸矢さん、絶対喜んでくれると思う」
「ホント!? 味付けは? 好みの味とかってないの?」
「特にないと思うけど。今度うちに作りに来たら? それで作ってあげて、楸矢さんに直接聞けばいいんじゃない?」
「いいの!?」
清美が身を乗り出した。
「前に柊矢さんが、いつでも呼んでいいって言ってくれたから大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、改めて柊矢さんに聞いてみて」
「うん」
「文理選択で文系選んだの失敗したかなって思ってたんだけど……」
「理系の大学に行きたくなったってこと? 何かやりたいことがあるの?」
「ないよ」
清美があっさり答えた。
「じゃあ、なんで理系にしたいなんて思ったの?」
「早稲田の理工学部ならうちから歩いて五分もかからないじゃん」
「え、それだけ? 距離だけなら学習院の方が近くない?」
「学習院は明治通り渡らないといけないじゃん」
明治通りなんて渡るのに苦労するような道路じゃないと思うんだけど……。
「でも、文系にしておいて良かったって事は目標が出来たって事?」
「ううん、なんにも。ただ家から早稲田の戸山キャンパスへ行く途中で楸矢さんちの側通るじゃん。楸矢さんが大学へ通う道とも交差してるから時間が合えば帰りに待ち合わせとか出来るかなって」
すごい恋愛脳……。
高校ならともかく大学をそんな理由で選ぶなんて……。
就職先にも影響するのに……。
「小夜は? 最近よく先生のところに進路相談に行ってるってことは、やりたいことがあるって事?」
「ないから困ってるんだよ」
小夜は溜息を吐いて清美に進路の悩みを話した。
聞き終わった途端、清美が爆笑した。
「そこ、笑うとこ?」
小夜が怒ったように言った。
「なりたいものがあるならともかく、理由もないのに家を出るなんて過保護の柊矢さんが許すわけないじゃん。小夜、柊矢さんのこと分かってなさ過ぎ」
「今は後見人だからでしょ。成人したら、いつまでも居候してるわけにはいかな……」
「年なんか関係ないって」
笑うのをやめた清美が冷めた口調で遮った。
「成人したとしたってそんな理由じゃ柊矢さんは絶対許してくれないよ。居候が申し訳ないって言うなら家賃や食費受け取ってくれるように交渉した方が早いって」
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