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魂の還る惑星 第六章 Al-Shi'ra -輝く星-
第六章 第五話
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「気にしないで。それで、どうしたの?」
「昨日の天気予報、見ました?」
「えっと……、今日は晴れて少し暑い、当分いい天気が続きそう……ってのとは別になんかあった?」
「桜の開花予想、早ければ来週半ばには八分咲きくらいになるそうです。来週末なら旅行の一週間前ですよね」
「そっか、ここのところ温かいから開花が早まったんだ」
「それで、お花見なんですけど、あたし達四人で行くのはどうかなって。それでお弁当食べ終わったら、楸矢さんとあたしが離れるか、柊矢さんと小夜に散歩を勧めれば二人きりになりますよね。それなら、小夜はデートとか構えることなく行かれるんじゃないかと思うんですけど、どう思いますか?」
「いいね。小夜ちゃんのことだから、近所でお弁当食べるだけでも最初から二人きりだと緊張するかもしれないけど、四人で行けばそんなことないよね」
「近くの公園でお花見なら、当日の朝に天気予報見て決められますよね」
二人は話し合って、清美が学校で小夜に花見の前振りをし、家で楸矢がパーティのお礼に清美も誘って四人で行こうと言うことにした。
「これで柊兄達がしょっちゅうデートに行ってくれるようになれば二人がイチャついてるとこ見ないですむようになるよ」
「やっと終わった」
榎矢が蔵の壁にもたれて溜息を吐いた。外はすっかり暗くなっていた。
「見境なく全部持っていったりするからだよ」
椿矢が冷たい声で言った。
とはいえ榎矢は中身が読めないのだから全部持っていくしかなかったのだろう。
「間違えずに置けたか確認しといてやるよ」
「兄さんがそんなことしてくれるなんて意外だね」
驚いてはいても裏があるのではないかと疑っている様子はない。
小夜や楸矢のように素直な性格ならあっさり信じても「可愛い」ですむが、普段敵視している人間を簡単に信用するのはバカとしか言いようがない。
愚か者ってのは榎矢のためにある言葉だな。
「じゃ、自分でやる? 読めないのにどうやって確かめるのか知らないけど」
椿矢の冷ややかな言葉に榎矢は口ごもった。
確かに読めない榎矢には確認のしようがないし正しく分類出来ていなかったら父に叱られるかもしれない。
やり直しを命じられたら椿矢に再度頼むことになるし、そうなればまたバカにされるネタが増える。
「……じゃあ、お願い」
「タダでやってやるとは言ってないよ」
「お金なんか持ってないよ」
「分かってるよ。これは貸し」
休み時間、清美は小夜に話しかけた。
「お花見?」
「うん、柊矢さんから誘われたりしてる?」
「してないけど……柊矢さん、人混み嫌いじゃないかな」
小夜は上野公園や千鳥ヶ淵などを思い浮かべているのだろう。
まぁ、東京の人間が考える花見といえば、上野公園みたいな場所でのどんちゃん騒ぎか、ラッシュ時の駅のホームみたいに混雑している千鳥ヶ淵のような〝花の名所〟を歩いて通り抜けるかのどちらかだろう。
「楸矢さんは? 友達と約束してるとか言ってた?」
考えてみたら小夜は柊矢と毎日一緒に帰っているのだから、帰り道で花見の話をされたら楸矢の出る幕がなくなってしまう。
「さぁ?」
「なら聞いといてよ」
「いいよ」
「お花見? 別に予定ないよ」
夕食の席で小夜に訊ねられた楸矢が答えた。
「そもそも花見なんかしたことないだろ」
柊矢が素っ気なく言った。
霧生家の前の細い道路を隔てた向かい側は公園で、ソメイヨシノが何本も植わっているから毎朝家から出る度に嫌でも桜が目に入る。
柊矢は元々人付き合いをしないから誰かと花見に行ったりしたことはないし、楸矢も仲のいい友人は皆フルートの練習に打ち込んでいて花見に行こうなどと眠たいことを言う者はいなかった。
小中学生の頃は区立の学校だったためクラスメイトは全員近所に住んでいたし、清美に言った通り、家や学校の周囲に山ほどソメイヨシノが植わっているからこの辺の住人はあまり花見に行かない。
職場などの付き合いで行くことはあるだろうが。
「そうだけどさ、この前清美ちゃん、卒業祝いしてくれたじゃん。だから、お礼に清美ちゃん誘って近所でお花見しない?」
「清美を誘ってもいいんですか?」
「うん、もちろん。今週末、天気が良かったら皆で一緒にお花見しようよ。確定申告終わってるから柊兄も行けるでしょ」
「ああ」
思った通り柊矢は即座に承諾した。
小夜が来るのに柊矢がついてこないはずがない。
「じゃあ、小夜ちゃん、清美ちゃん誘っておいてね」
「はい」
小夜が嬉しそうに頷いた。
椿矢は誰もいなくなった助手室で私物のノートパソコンを開いた。
助手室のパソコンに履歴を残したくなかったので自宅から自分のパソコンを持ってきたのだ。
リストの人物を検索しても収穫はなかった。
だが事件や事故に巻き込まれた人物なら検索で出てくるのは小夜の祖父で証明済みだ。
小夜は二歳の頃、大事故に遭っている。
車は大破したのに幼い子供だけ〝奇跡的に〟助かった事故なら検索に引っかかるだろう。
名字や事故に遭った場所が分からなかったので多少時間はかかったが十四年前という情報を頼りに交通事故を調べてなんとか探し出した。
ネットの記事では大したことが分からなかったので新聞記者になった昔のクラスメイトに頼んで詳しい資料をメールで送ってもらった。
資料によると
・車は急な坂道を猛スピードで下って壁に激突した
・車はかなり加速していて原形を留めないほど大破した
・損傷が酷すぎて故障があったかどうかは調べようがなかった
とのことだった。
「昨日の天気予報、見ました?」
「えっと……、今日は晴れて少し暑い、当分いい天気が続きそう……ってのとは別になんかあった?」
「桜の開花予想、早ければ来週半ばには八分咲きくらいになるそうです。来週末なら旅行の一週間前ですよね」
「そっか、ここのところ温かいから開花が早まったんだ」
「それで、お花見なんですけど、あたし達四人で行くのはどうかなって。それでお弁当食べ終わったら、楸矢さんとあたしが離れるか、柊矢さんと小夜に散歩を勧めれば二人きりになりますよね。それなら、小夜はデートとか構えることなく行かれるんじゃないかと思うんですけど、どう思いますか?」
「いいね。小夜ちゃんのことだから、近所でお弁当食べるだけでも最初から二人きりだと緊張するかもしれないけど、四人で行けばそんなことないよね」
「近くの公園でお花見なら、当日の朝に天気予報見て決められますよね」
二人は話し合って、清美が学校で小夜に花見の前振りをし、家で楸矢がパーティのお礼に清美も誘って四人で行こうと言うことにした。
「これで柊兄達がしょっちゅうデートに行ってくれるようになれば二人がイチャついてるとこ見ないですむようになるよ」
「やっと終わった」
榎矢が蔵の壁にもたれて溜息を吐いた。外はすっかり暗くなっていた。
「見境なく全部持っていったりするからだよ」
椿矢が冷たい声で言った。
とはいえ榎矢は中身が読めないのだから全部持っていくしかなかったのだろう。
「間違えずに置けたか確認しといてやるよ」
「兄さんがそんなことしてくれるなんて意外だね」
驚いてはいても裏があるのではないかと疑っている様子はない。
小夜や楸矢のように素直な性格ならあっさり信じても「可愛い」ですむが、普段敵視している人間を簡単に信用するのはバカとしか言いようがない。
愚か者ってのは榎矢のためにある言葉だな。
「じゃ、自分でやる? 読めないのにどうやって確かめるのか知らないけど」
椿矢の冷ややかな言葉に榎矢は口ごもった。
確かに読めない榎矢には確認のしようがないし正しく分類出来ていなかったら父に叱られるかもしれない。
やり直しを命じられたら椿矢に再度頼むことになるし、そうなればまたバカにされるネタが増える。
「……じゃあ、お願い」
「タダでやってやるとは言ってないよ」
「お金なんか持ってないよ」
「分かってるよ。これは貸し」
休み時間、清美は小夜に話しかけた。
「お花見?」
「うん、柊矢さんから誘われたりしてる?」
「してないけど……柊矢さん、人混み嫌いじゃないかな」
小夜は上野公園や千鳥ヶ淵などを思い浮かべているのだろう。
まぁ、東京の人間が考える花見といえば、上野公園みたいな場所でのどんちゃん騒ぎか、ラッシュ時の駅のホームみたいに混雑している千鳥ヶ淵のような〝花の名所〟を歩いて通り抜けるかのどちらかだろう。
「楸矢さんは? 友達と約束してるとか言ってた?」
考えてみたら小夜は柊矢と毎日一緒に帰っているのだから、帰り道で花見の話をされたら楸矢の出る幕がなくなってしまう。
「さぁ?」
「なら聞いといてよ」
「いいよ」
「お花見? 別に予定ないよ」
夕食の席で小夜に訊ねられた楸矢が答えた。
「そもそも花見なんかしたことないだろ」
柊矢が素っ気なく言った。
霧生家の前の細い道路を隔てた向かい側は公園で、ソメイヨシノが何本も植わっているから毎朝家から出る度に嫌でも桜が目に入る。
柊矢は元々人付き合いをしないから誰かと花見に行ったりしたことはないし、楸矢も仲のいい友人は皆フルートの練習に打ち込んでいて花見に行こうなどと眠たいことを言う者はいなかった。
小中学生の頃は区立の学校だったためクラスメイトは全員近所に住んでいたし、清美に言った通り、家や学校の周囲に山ほどソメイヨシノが植わっているからこの辺の住人はあまり花見に行かない。
職場などの付き合いで行くことはあるだろうが。
「そうだけどさ、この前清美ちゃん、卒業祝いしてくれたじゃん。だから、お礼に清美ちゃん誘って近所でお花見しない?」
「清美を誘ってもいいんですか?」
「うん、もちろん。今週末、天気が良かったら皆で一緒にお花見しようよ。確定申告終わってるから柊兄も行けるでしょ」
「ああ」
思った通り柊矢は即座に承諾した。
小夜が来るのに柊矢がついてこないはずがない。
「じゃあ、小夜ちゃん、清美ちゃん誘っておいてね」
「はい」
小夜が嬉しそうに頷いた。
椿矢は誰もいなくなった助手室で私物のノートパソコンを開いた。
助手室のパソコンに履歴を残したくなかったので自宅から自分のパソコンを持ってきたのだ。
リストの人物を検索しても収穫はなかった。
だが事件や事故に巻き込まれた人物なら検索で出てくるのは小夜の祖父で証明済みだ。
小夜は二歳の頃、大事故に遭っている。
車は大破したのに幼い子供だけ〝奇跡的に〟助かった事故なら検索に引っかかるだろう。
名字や事故に遭った場所が分からなかったので多少時間はかかったが十四年前という情報を頼りに交通事故を調べてなんとか探し出した。
ネットの記事では大したことが分からなかったので新聞記者になった昔のクラスメイトに頼んで詳しい資料をメールで送ってもらった。
資料によると
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とのことだった。
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