歌のふる里

月夜野 すみれ

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魂の還る惑星 第八章 Tistrya -雨の神-

第八章 第九話

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 朝子はこの辺に詳しいが椿矢は土地勘がない。
 おそらく追いつけないだろうと判断して楸矢のところへ戻った。
 運転手を眠らせるための呪詛ならともかく小夜を直接狙ったような呪詛ならどこにいても歌えるのだから彼女を追いかけてここへ来たわけではないだろう。
 お彼岸が近いから実父の墓参りの可能性もなくはないだろうが他に理由があるのかもしれない。
 昨日の小夜への呪詛も気になる。
「今、柊矢君と小夜ちゃん、どこにいるの?」
 椿矢の問いに、楸矢が答えると、
「柊矢君はうちにいるんだね。じゃあ、今からそこにお邪魔していいかな」
 と言うので楸矢は椿矢を連れて親戚の家に向かった。

 楸矢が椿矢を連れて帰ると柊矢は大して驚いた様子もなくお茶を入れた。
 椿矢がこっちに来ているのは知っていたし昨日の呪詛払いのムーシカが聴こえていたことも分かっているからだろう。
 小夜は友達と出かけたきり、まだ帰ってきていなかった。
 椿矢は朝子の叔父から聞いた話をした。
沙陽あのひとが小夜ちゃん狙うのは分かるよ。正気を疑うけど元々沙陽あのひとまともじゃないし。だけど、朝子さんの動機が分からないんだよね」
「その朝子って人で間違いないの?」
「リストを作ったのは彼女のお父さんだろうし、そうなるとリストのことを知ってそうなのは朝子さんくらいだから」
 沢口も朝子の叔父も、朝子の実父が「ムーシコスは邪悪」と言っていたと話している。
 偶然同じ頃に別の人間が同じ事を言う確率はかなり低い。
 しかもムーシコスは数が少ない。同時期に同じ事を言っていたのなら同一人物と考えて差し支えないだろう。
 それに朝子の叔父は兄に仲間がいたという話はしていなかった。
「リストには十五人くらい名前が載ってたでしょ。リストの人達がムーシコスの会でも作ってて頻繁に音楽会でも開いてたならともかく、全く繋がりのない十五人ものムーシコスを見つけ出せたとなると、それこそムーシコスを見分けられる能力のある人でもないとまず無理だよ。柊矢君と沙陽あのひとが付き合ってた期間は知らないけど交際しててもお互い相手がムーシコスだって気付かなかったわけでしょ」
 柊兄なら沙陽がムーシコスだって気付かなくても不思議はない気がするけど……。
 柊矢は沙陽に対してもイスかテーブル扱いの楸矢と同じような態度で接していた。
 未だに小夜だけ特別扱いなのが理解出来ないくらいだ。
 ムーシコスはパートナーだけは大事にするって言ってたけど、それにしても態度が違いすぎる気が……。
「動機とはちょっと違うんだが……」
 柊矢がおもむろに口を開くと昨日考えたことを話した。
「狙いはムーシケー……」
 椿矢が考え込んだ。
「朝子さんは一度クレーイス・エコーになってるからムーシケーの意志を知ってる可能性はあるね。朝子さんの叔父さんが、もしムーシケーの意志に賛同出来なかったらって言ってたっけ」
「ムーシケーの意志は分かったが従う気がなかったから外されたのか」
「いや、ちょっと待ってよ。ムーシケーって惑星だよ。普通の人間が惑星攻撃したり出来る?」
「だから、代弁者クレーイス・エコーを狙うんだろ」
「狙ってどうすんのさ。ムーシコスがいる限り、何人殺そうとムーシケーは新しいクレーイス・エコーを選ぶだけでしょ。ムーシコスを皆殺しにしなきゃ意味ないけど、そうじゃないんでしょ。雨宮家あんたんちや沙陽んちの人の名前、書いてなかったって言ってたよね? あんた、よく新宿うろうろしてるってことは家は東京か隣の県でしょ。だったら、リスト作った人がうちの祖父ちゃんや小夜ちゃんのお祖父さん見つけられて雨宮家あんたんちの人、見つけられなかったはずないよね?」
 楸矢の言葉に椿矢が考え込んだ。
「君達、ムーシケーの意志って分かる?」
 椿矢の問いに二人は首を振った。
 ムーシケーが柊矢と楸矢に直接ムーシカを伝えてきたことはあるが、あの時は緊急事態だった。
「……朝子さんの叔父さんにも、うちはクレーイス・エコーの家系だろって言われたんだけど……」
「そうなんでしょ」
「だから違うってば。けど、祖父様までは三代続けてなってたのは確かなんだよね。それも一度なった後は死ぬまで変わらなかった。けど祖父様が外された後は随分ころころ変わったみたいなのが引っかかっててね。前に君達に話したこと覚えてる? 小夜ちゃんの前は誰もムーシケーの意志は分からなかったって」
「本来は意志の分かるものが選ばれる」
「そう。多分だけど。三代続けて死ぬまでってことは一世紀前後雨宮家うちの人間がなってたってことでしょ。だからそれ以前はどうだったのか分からなくなっちゃってたってだけで元々クレーイス・エコーはムーシケーの意志が分かる者がつとめることになってたんじゃないかな」
「俺達は分からないが、キタリステースは補佐みたいなものだからな」
 意志に従うというのはムーシケーが伝えてきたムーシカを歌うということだからキタリステースは分からなくても支障はないのだろう。
 キタリステースに伝えてくるのはムーソポイオスが歌えないような非常時の時くらいである。
 補欠だから歌えないキタリステースで構わないのだ。
「ムーシケーってそんなにしょっちゅう色々言ってくるの?」
「前にも言ったけど、必要がなければ伝えてこないんじゃないかな。ムーシケー溶かそうとするようなバカが出てきたりとかね」
 そう言えば榎矢あいつに面と向かって「バカ」って言ってたな。
「ここはよその惑星ちきゅうだから」
 地球にもムーシケーのように意志があるのかは分からない。
 ムーシケーの意志ですら分からない一般ただのムーシコスによその惑星ちきゅうの意志など知りようがない。
 仮にあったとしても地球人でも分かる者はまずないだろう。
 もっともガイア理論を聞いた限りでは意志の有無はともかく地球も生命体であるのは間違いないようだが。
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