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魂の還る惑星 第十章 Seirios -光り輝くもの-
第十章 第一話
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第十章 Seirios -光り輝くもの-
小夜が柊矢にドアを開けてもらって車を降りると話があると言われた。
楸矢は何か言いたげに二人に目を向けたが黙って家に入った。
柊矢は、自分の祖父が呪詛の依頼をされたときのリストに小夜の祖父の名前があったこと、祖父は小夜の祖父を含めそのリストに載っていた人達に警告したらしいことを話した。
小夜の祖父はその警告を聞いた後、娘が事故に遭ったので安全のために養子に出して連絡を絶っていたようだと伝えた。
「お母さんのため……」
養子に出した後、会ったり連絡したりしなかったのは娘の安全を守るためだった。
小夜の頬を涙が伝った。
お父さんやお母さんがいる人が羨ましかった。
でも、それは口に出せない。そんな素振りも見せられない。
ただでさえ迷惑をかけているのにこれ以上困らせるわけにはいかないし、祖父を悲しませたくない。
そう思うと両親のことを訊ねることすら出来なかった。でも本当は聞きたかった。
両親がいないのは仕方ない。
ただ、せめて知りたかった。どんな人だったのか、自分の名前に由来はあるのか、何故いないのか、いつか話してくれると思って待っていた。
祖父が亡くなったのも悲しかったが、同時に両親のことを聞く機会が永久に失われたという喪失感も大きかった。
柊矢から、祖父は母を養子に出した後は一度も会ったことがなかったと聞かされて、いつまで待っても教えてもらうことは出来なかったのだと知ったときはもっと悲しかった。
TwitterやFacebookも無かった頃だったし、個人のホームページやブログも作ってなかったらしく、ネット上にも写真は残ってないとのことだった。
柊矢に事故の記事に載った写真ならあると言われたが躊躇いがあり、まだ見せてもらっていなかった。
もし母と縁を切っていたなら祖父の許可なく見るのは裏切るみたいで気が引けた。
育ててもらった恩を仇で返すのは嫌だ。
ましてや縁を切るほど嫌われていたとしたら尚更だ。
かといって今となっては許可をもらうことも出来ない。
だから見られなかった。
「……じゃあ、母は嫌われていたわけじゃなかったんですね」
小夜が掠れた小さな声で訊ねた。
「嫌っていたなら、わざわざ戸籍を偽ったりしない」
「え?」
「実際に養子に出した家とは別の家が戸籍に載ってた。お母さんの居場所を隠すために違う家に出したことにしてたんだ。祖父が警告していなければ……」
「柊矢さんのお祖父様は祖父を助けようとして下さったんですから何も悪くありません。感謝こそすれ、恨んだりするのは筋違いですから責任を感じたりしないで下さい」
口を開いたら涙が零れるのは分かっていたが、それでもこれだけはきちんと伝えなければいけないと思って顔を見てきっぱりと言い切った。
涙が次々と頬を伝わっていったが構わず、本心だと分かるように声が震えないように必死で力を込めた。
柊矢にちゃんと伝わったのは表情で分かった。
柊矢は黙って小夜にハンカチを渡すとドアを開けてくれた。
母は嫌われていたわけではなかった。
むしろ全力で守ろうとしたくらい大切に思われていた。
養子に出す前の写真すらなかったのも他人に知られないようにするために一枚残らず処分したからだろう。
それだけでも心の負担が少しだけ軽くなった。
それと同時に、改めて母が祖父と一緒に暮らせなかったこと、大事に思っていたからこそ会うことすら出来なかったことが余計に悲しかった。
小夜は部屋へ入ると枕に顔を押しつけて声が外に漏れないようにして泣き続けた。
泣き疲れて寝入ってしまう瞬間、クレーイスからムーシケーのムーシカが聴こえてきた。
小夜はそのムーシカを聴きながら眠りに落ちた。
狭いアパートの一室で若い男性がクラリネットで『愛の夢』を吹いていた。
若い女性が困ったような笑みを浮かべながら、
「また、近所の人から苦情が来るわよ」
と言った。
「今日は、お隣も下の階も留守だから大丈夫だよ」
吹き終えた男が答えた。
「そうやって恋人に演奏するの、なんて言ってたっけ」
「セレナーデ。日本語で小夜曲。小さい夜の曲って書いて小夜曲って言うんだ」
男の言葉に、
「小夜曲……じゃあ、もし女の子なら『小夜』っていうのは?」
女性が言った。
「え、もしかして……」
驚いた表情の男に女性が照れたような笑みを浮かべた。
「前に『愛の挨拶』を吹いてくれたでしょ。多分、あの日の……」
「やった! じゃあ、次は小夜のためにシューベルトの子守唄を……」
「まだ女の子かどうか分からないのに」
「子守唄なんだからどっちでも……」
男の言葉が大きなノックの音で遮られた。
「部屋で楽器の演奏しないでって何度言ったら分かるんですか!」
外から大家さんの怒鳴り声がして二人は首を竦めた。
男は大家さんに謝るために玄関に向かった。
翌日、椿矢は夕辺の場所へ向かっていた。
朝子が言っていた地球人の怨念の塊というものが明るい場所でなら見られるかもしれないと思ったのだ。
小夜は怨念の塊に捕らわれていた呪詛のムーシカは解放したが、地球人の怨念に対しては何もしてないからまだ残っているはずだ。
怨念だけしかなければ椿矢にも見えないが慰霊碑のような物があるかもしれない。
榎矢――と言うか椿矢達の父――が受けた依頼は幽霊の御祓いで怨霊の浄化ではないが、素人なら幽霊と怨霊を混同することは有り得るし、幽霊と怨霊を一纏めにしていたのかもしれない。
榎矢は幽霊の出る場所に目印はないと言っていたが粗忽なヤツだから聞き漏らした可能性がある。
小夜が消したのは呪詛のムーシカだけで怨念を浄化するムーシカは残っているから存在を確認出来たら浄化するつもりだった。
小夜が柊矢にドアを開けてもらって車を降りると話があると言われた。
楸矢は何か言いたげに二人に目を向けたが黙って家に入った。
柊矢は、自分の祖父が呪詛の依頼をされたときのリストに小夜の祖父の名前があったこと、祖父は小夜の祖父を含めそのリストに載っていた人達に警告したらしいことを話した。
小夜の祖父はその警告を聞いた後、娘が事故に遭ったので安全のために養子に出して連絡を絶っていたようだと伝えた。
「お母さんのため……」
養子に出した後、会ったり連絡したりしなかったのは娘の安全を守るためだった。
小夜の頬を涙が伝った。
お父さんやお母さんがいる人が羨ましかった。
でも、それは口に出せない。そんな素振りも見せられない。
ただでさえ迷惑をかけているのにこれ以上困らせるわけにはいかないし、祖父を悲しませたくない。
そう思うと両親のことを訊ねることすら出来なかった。でも本当は聞きたかった。
両親がいないのは仕方ない。
ただ、せめて知りたかった。どんな人だったのか、自分の名前に由来はあるのか、何故いないのか、いつか話してくれると思って待っていた。
祖父が亡くなったのも悲しかったが、同時に両親のことを聞く機会が永久に失われたという喪失感も大きかった。
柊矢から、祖父は母を養子に出した後は一度も会ったことがなかったと聞かされて、いつまで待っても教えてもらうことは出来なかったのだと知ったときはもっと悲しかった。
TwitterやFacebookも無かった頃だったし、個人のホームページやブログも作ってなかったらしく、ネット上にも写真は残ってないとのことだった。
柊矢に事故の記事に載った写真ならあると言われたが躊躇いがあり、まだ見せてもらっていなかった。
もし母と縁を切っていたなら祖父の許可なく見るのは裏切るみたいで気が引けた。
育ててもらった恩を仇で返すのは嫌だ。
ましてや縁を切るほど嫌われていたとしたら尚更だ。
かといって今となっては許可をもらうことも出来ない。
だから見られなかった。
「……じゃあ、母は嫌われていたわけじゃなかったんですね」
小夜が掠れた小さな声で訊ねた。
「嫌っていたなら、わざわざ戸籍を偽ったりしない」
「え?」
「実際に養子に出した家とは別の家が戸籍に載ってた。お母さんの居場所を隠すために違う家に出したことにしてたんだ。祖父が警告していなければ……」
「柊矢さんのお祖父様は祖父を助けようとして下さったんですから何も悪くありません。感謝こそすれ、恨んだりするのは筋違いですから責任を感じたりしないで下さい」
口を開いたら涙が零れるのは分かっていたが、それでもこれだけはきちんと伝えなければいけないと思って顔を見てきっぱりと言い切った。
涙が次々と頬を伝わっていったが構わず、本心だと分かるように声が震えないように必死で力を込めた。
柊矢にちゃんと伝わったのは表情で分かった。
柊矢は黙って小夜にハンカチを渡すとドアを開けてくれた。
母は嫌われていたわけではなかった。
むしろ全力で守ろうとしたくらい大切に思われていた。
養子に出す前の写真すらなかったのも他人に知られないようにするために一枚残らず処分したからだろう。
それだけでも心の負担が少しだけ軽くなった。
それと同時に、改めて母が祖父と一緒に暮らせなかったこと、大事に思っていたからこそ会うことすら出来なかったことが余計に悲しかった。
小夜は部屋へ入ると枕に顔を押しつけて声が外に漏れないようにして泣き続けた。
泣き疲れて寝入ってしまう瞬間、クレーイスからムーシケーのムーシカが聴こえてきた。
小夜はそのムーシカを聴きながら眠りに落ちた。
狭いアパートの一室で若い男性がクラリネットで『愛の夢』を吹いていた。
若い女性が困ったような笑みを浮かべながら、
「また、近所の人から苦情が来るわよ」
と言った。
「今日は、お隣も下の階も留守だから大丈夫だよ」
吹き終えた男が答えた。
「そうやって恋人に演奏するの、なんて言ってたっけ」
「セレナーデ。日本語で小夜曲。小さい夜の曲って書いて小夜曲って言うんだ」
男の言葉に、
「小夜曲……じゃあ、もし女の子なら『小夜』っていうのは?」
女性が言った。
「え、もしかして……」
驚いた表情の男に女性が照れたような笑みを浮かべた。
「前に『愛の挨拶』を吹いてくれたでしょ。多分、あの日の……」
「やった! じゃあ、次は小夜のためにシューベルトの子守唄を……」
「まだ女の子かどうか分からないのに」
「子守唄なんだからどっちでも……」
男の言葉が大きなノックの音で遮られた。
「部屋で楽器の演奏しないでって何度言ったら分かるんですか!」
外から大家さんの怒鳴り声がして二人は首を竦めた。
男は大家さんに謝るために玄関に向かった。
翌日、椿矢は夕辺の場所へ向かっていた。
朝子が言っていた地球人の怨念の塊というものが明るい場所でなら見られるかもしれないと思ったのだ。
小夜は怨念の塊に捕らわれていた呪詛のムーシカは解放したが、地球人の怨念に対しては何もしてないからまだ残っているはずだ。
怨念だけしかなければ椿矢にも見えないが慰霊碑のような物があるかもしれない。
榎矢――と言うか椿矢達の父――が受けた依頼は幽霊の御祓いで怨霊の浄化ではないが、素人なら幽霊と怨霊を混同することは有り得るし、幽霊と怨霊を一纏めにしていたのかもしれない。
榎矢は幽霊の出る場所に目印はないと言っていたが粗忽なヤツだから聞き漏らした可能性がある。
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