水上の都

風城しき

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第1章

水上の都 1

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如月は絵師で歳は十八の頃である。街の看板、芸者の似顔絵などを描いて生計を立てている。両親と暮らしたことは覚えておらず、母方の祖母と二人で暮らしていた。しかし、その祖母が亡くなり、現在住んでいる小さな一部屋へと越したのだった。
四季国の都、金華。国の都とあって人が集まり街は賑わう。如月の家はその北に位置する。何軒もの家が連なっていて、通りの建物の階数は2階までと整えられている。その内の一階の小部屋に住んでいる。その家の向かい側には道路を挟んで商店が軒を連ねる。如月の住む北の地は、都の中では比較的安い土地である。
四季国はこの都を中心に土地が広がっている。
その中心には帝が住まう水上宮があり、彼らは神に最も近しい存在として崇められ、その血縁を神人とよぶ。
人々は彼らには不思議な力が宿っているのだと信じて疑わない。実際に奇術的なものを見たとか、見えない者が視えたという噂があるからだ。
水上宮のある地は正方形に四方を水路で囲まれており、民が住む家三軒分程の幅がある。城側の水路の周りには大小百程の建物が並ぶが、それらは店か上流階級や金持ちの住む場所である。
出店に売られる珍しい品やその優美な町並みを見るために、人々は金華に足を運ぶ。
中でも水上宮は人々を寄せ付けぬ程に立派な建物である。その建物と言えば、五階建てで、柱は太く赤に統一されていて高さは都一である。
東に面する橋が通常門であり、人々はその橋を渡って水上の都へと足を踏み入れる。東橋は他の三つの橋よりも倍は広い。二台の馬車が楽々すれ違える。両端の柵には鮮やかな色の布が所狭しと巻き付けられている。これは金華を訪れる者たちが記念に、またはそれぞれの想いを込めて巻いていくものである。
残りの左右の橋では一般人が通ることはほとんどなく、常に見張りがついていて庶民が通ることはできない。


 水上宮を横目に、如月の軽やかな足取りに合わせて薄桃色の髪がふわりと揺れる。隣で建物に目をやる翡翠も似たような背格好だが顔はあどけなさが残っているので若く見える。翡翠色の癖のある毛先は四方に跳ねていて、長さは首を隠すぐらいだ。その瞳も翡翠色で二重がはっきりしているので目が大きく人目を引く。
 大通りに入り、雄大に佇む水上の都に如月は目を奪われる。旅する者は誰もがその場にまず立ちすくみ、大きな呼吸で身体を膨らます。
「わあ!」
 と如月は街から水上宮の先まで見渡す。
赤、黄、緑、橙、その他の明るい色が交じり合い、水上宮の周りを取り囲む。それはまるで活気が色づいて空を染めているような光景。実際にそのように見える人はいない、しかし如月にはそう視えている。
 翡翠は特に驚きもせずに辺りを見回す。足早に荷を運ぶ者、語らいながら手すりに寄り掛かっている者、金華の橋の往来。ただ瞬きをしながらそれを見ていた。
 この二週間、如月はこうして翡翠と外に出た。何か記憶の手掛かりになるものがあるかもしれないし、知り合いと会うことができるかもしれないからだ。
 皆翡翠の髪や顔に目を止めるが、声を掛けるのはお年寄りで、その髪の色や容姿を褒めるのだった。目の保養になるらしい。

 如月は水上宮の周りの屋敷を見た。
二階建てに統一されているが、庶民が住む家々とは違って装いが派手である。動物の置物が屋根や入り口にあったり、金色や赤の装飾がチラチラ見えたり、職人技とみられる装飾が施されている。この水上宮内でのみ許される技術だからだ。人々はそれを見てこの場所に憧れるものなのだ。
その中の一軒に、他よりも広い建物があった。木の板で覆われ、白い壁と調和している。通り側には五つほどの片引き窓がありいくつか開いている。派手ではないが、気品がある造りだ。
如月が何となしにそれを見ていると、その建物の窓の一つに目が行った。顔一つ通せるぐらいの広さだ。
丁度その向こうに人影が映った。垣間見えたのは一人の視線。目が合った。
 その瞬間、視えた。
 どっ、と目の前に。如月の中に。数え切れないほどの色の渦のようなものが現われた。まるで正面から風が吹いてきたようだった。いつもすれ違う人とは違う色が如月には視えた。
 水上宮の街に住むのは神に近しい者達だと言われている。それゆえに水上宮内に住む責任が自然と高まる。
そこに住まうは正しく生きる者であるはずが、一瞬目が合った人物を見て、如月にはその存在が不思議に思えた。
善でも悪でもない。まるで何かを試すような氣を感じたのだった。

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