念願の転生を果たしたが、転生先は悪役令嬢付きのモブメイド!?お嬢様を更生させないとバットエンドってマジですか?

りんげる

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月下の出会い、ロマンチックだね!私ヒロインじゃないけど!!

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 使用人の館の裏には森が広がっていて、私はそこで真夜中の薬草採集を開催中だった。

「ドクダミって、どこに生えるんだ? 月明かりだけじゃ全然わからないんだけど……」

 外出がバレるのは絶対に避けたいから、ランタンは持ってこなかった。結果、視界はほぼ真っ暗。完全に判断ミスである。

 それでも今夜は満月で、雲ひとつない。木々の間を抜けて月光の差す場所へ出れば、なんとか探せるはず。
 そう信じて、私は明るい方へと一歩ずつ進んでいった。


 しばらく歩くと、木々の隙間から視界が開けていき、やがて湖が姿を現した。
 穏やかな湖面は月を鏡のように映していて、思わず息をのむほどに美しい。
 引き寄せられるように水際まで近づき、しばし見惚れる。

 その時、視界の端でふわりと揺れる草が目に入った。
「あった! 多分これだよね!?」

 かがんでよく確かめる。葉の形も匂いも、記憶にある薬草に近い。
 間違いないだろう。

 いくつかを手早く摘み取り、腰に下げた袋へ大事にしまい込む。
「よし……これで少しでも痛みが和らげばいいんだけど」

 達成感に胸をなでおろし、そろそろ館に戻ろうと立ち上がったその時――。

 ガサガサッ。
 森の奥から、不穏な音が響いてきた。


「こんな夜更けに、何をしているんだい?」

 気さくに聞こえるけれど、どこか警戒をにじませた声。
 驚いて振り返ると、木陰に人影が立っていた。

 月明かりでは顔がはっきり見えない。思わずフードを深くかぶり直し、どう答えようか言葉を探す。

 返事を待たずに、その人物は木の影から一歩前へ。
 月光に照らされた瞬間、私は息を呑んだ。

 白銀の髪、澄んだ眼差し。
 鋭さと気品を兼ね備えた横顔。
 見間違えるはずがない。

 彼は――この物語の主人公。
 #アーテル・レグルス・バシレウス皇太子__・__。

 ……本当に会ってしまった。
 夢なんかじゃない、現実に。
 私は今、推し本人と向かい合っている!

 確かに今日、メアリーは言っていた。今日はアーテルが来る日だと。
 でも、まさか宿泊までするなんて考えもしなかった。

「おっ、お屋敷の厨を担当している者です……。明日、食卓にあげるハーブを取りに来て、いました」

 咄嗟に思いついた嘘を、どもりながらもなんとか口にする。
 心臓は爆発しそうなくらい高鳴っているのに、口から出る言葉は必死に「モブ」らしく振る舞うためのものだった。
 繋がりを持ちたいなんて、烏滸がましい。推しにたとえ会えたとしても、ただ遠くから見ているだけでいい。それが私の流儀!

 アーテルは私の答えに、ほんの少し肩の力を抜いたように見えた。


「ここは迎賓館の近くだ。こんな時間に出歩くならもっと場所を考えたほうがいい。私の近衛に処罰されたくなければね」


 どうやら歩き回っているうちに、迎賓館の近くまで来てしまっていたらしい。

「ご忠告、感謝いたします。殿下。……失礼いたします」

 深く一礼し、私は足早にその場を去る。
 ……夢みたいな時間に浸るのは、部屋に帰ってからにしよう。


 一礼して彼の横を通り過ぎようとした瞬間、フードがずり落ちそうになり、慌てて左手で押さえ込む。
 その仕草を見とめたのか、背後から声が飛んできた。


「君、その手はどうした……?」


 ……あ、やばい。推しに心配されてる。
 夢でも幻でもなく、ガチで推し本人から直々に。
 心臓が跳ね上がって耳の奥まで熱くなるのを感じた。

「半人前ゆえ、誤ってケガをしました。お見苦しい姿をお見せし、申し訳ございません」


 ひたすら丁寧に、モブらしく。ここで変に関わろうなんて、烏滸がましいにもほどがある。


「これ以上、殿下のお時間を頂戴するわけにもいきませんので――失礼いたします!」


 ほぼ逃げるように小走りでその場を後にする。
 背中にまだ彼の視線を感じたけれど……繋がりを求めないのがオタクの矜持。

 ……自室へ戻り、再び左手の処置を終えるとベッドにばたりと倒れ込む。
 片手を額に当て、先ほどの出来事を反芻。

 でもどう考えてもおかしい。
 原作にアーテルがメアリーの屋敷へ来るシーンなんてなかったはず。
 そもそもメアリーとアーテルの描写自体がほとんどなく、今が物語開始前なのかどうかも分からない。

「やっぱり……情報不足、だなぁ………。」

 推しに会った高揚感と、先行きの不安が頭の中でぐるぐるしながら、私は眠りに落ちていった。
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