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第9話

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「小隊長、また手紙が届いていますよ」
「ああ」

差出人の名前を訊かずともアンジェ様からの手紙だとわかる。
もう何通も手紙を頂いているし、万が一の可能性を考慮し中身も検められている。
そのせいでアンジェ様からのアプローチは小隊どころか騎士団でも有名になってしまった。

手紙の内容は無難なものが多かったが、こうやって頻度も周囲に知られることも含めて俺への好意を隠そうとはしていない。
外堀は埋まっていったが悪いものではない。
ただ…現実問題として、俺のような人間が伯爵様の婿になって良いものかと悩んでいる。

俺としてはアンジェ様を守りたいと思った。
職務だからではなく、不遇な境遇から救い出したいと思ったし、そのような境遇にも負けない芯の強さも尊敬に値する。
手紙によれば領地の立て直しも進んでいるようだし、領民を思う気持ちも十分伝わってきた。

俺は一介の騎士でしかない。
実家は伯爵家だから実家の釣り合いは取れるが…俺は爵位を継ぐ可能性も低い三男だ。
…ある意味都合がいいのか?

悩み事はそれだけではない。
不正を暴く仕事は恨みを買いやすいだろうから婚約者なんて作らなかったし、作ってしまえば巻き込んでしまうかもしれない。
…アンジェ様なら気にしなさそうだが。
きっと俺が守ると信じるだろう。
信用されるのは悪い気はしないし、実際に守る立場にあるなら守り通す意思はある。

それに少々年齢に差があることも気にならなくはない。
貴族は8歳差くらいならどうということはない。
だが…アンジェ様はまだ若すぎる。
婚約だけならまだしも、結婚はもう何年か待たなくてはいけないだろう。

時間が必要なら、その時間を有効活用すればいい。
俺は伯爵の婿として相応しいだけの功績を上げればいい。
文句を言わせない実績を積み重ねればいいのだ。

「小隊長、顔がにやけてますよ」
「…ふん」

隊員たちも俺の気持ちもアンジェ様の気持ちを知っているので協力的だ。
職務は順調。
不正を行っている貴族たちは戦々恐々としているらしい。

他家の乗っ取りを企てれば、お家取り潰しと首謀者が処刑されることになる。
愚かなオンネル男爵が見せしめとなって貴族たちの不正が抑制できればいいのだが…。

俺たちの手の届く範囲は狭い。
ましてや俺個人の手の届く範囲なんて、ごく狭い。
だからこそ誰も彼もを守るもとはできない。

俺が守るべきは………。

「お前たち、仕事をするぞ!」
「おう!」

今の俺にできることは実績を積み上げることだ。

* * * * * * * * * *

気付けば三年も経ってしまった。
その間に俺は十分すぎるほどの功績を上げたし、隊員も育ったので後を任せても安心だ。
だから俺は騎士を辞めた。
その後、どうするかはみんな知っているので笑顔で幸せになれよ、と送り出してくれた。

俺はアラベリー伯爵領へ向かっている。
会いに行くことはアンジェ様にも伝えてある。

「もう少しだな」

再会が待ち遠しい。
もうお互いの気持ちは手紙を通じてだが伝わっている。

* * * * * * * * * *

アラベリー伯爵邸に着いた俺を使用人たちが出迎えてくれた。
隙の無い振る舞いは使用人たちの質の高さと主への忠誠心が感じられた。

そして姿を現したアンジェ様。
見ないうちにすっかり大人びて…本当に美しくなったと思う。

「再会を嬉しく思います。ようこそ、ジェイラード様」
「お待たせしました。もう貴女のお傍から離れるつもりはありません。どうぞよろしくお願いします」
「ふふふっ、信用していますからね」

アンジェ様の笑顔がまぶしかった。
この笑顔は俺だけのものになるのだ。

俺はアンジェ様の笑顔を守りたい。
これからは俺と一緒に幸せになってほしい。
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