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RE123 憧れと現実
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庭に敷かれた玉砂利の上をざらざらと、なぞるよう動いた足が円を描く。
「親のいる子供が羨ましかった」
だけど、もう違う。――奈月の声は、明瞭に紡がれる言葉よりも雄弁で。
「親から無条件に愛されて、守られて、幸せな……そんな子供になりたかった」
自分一人を囲むよう描いた円の中心で小さく跳ねた奈月の体が、不自然に丸く纏まった影へと落ちる。
「そんなもの、本当はどこにもいなかったのに」
キリエは何もしていない。
何もしていないのに、奈月が「影の中の亜空間」へと落ちてきて。
(奈月が自由にできる、私の……〔真祖〕の魔力で、〔影の皇〕を……?)
驚いたキリエは咄嗟に、アストラルボディとも呼べないような「魔力の塊」で奈月を抱き留めた。
キリエが〔影の皇〕をもって掌握する亜空間内で、傀儡としての奈月を操っていた〔傀儡廻し〕が解かれる。
限定術式による遠隔操作――魔術の操り糸――を解かれた奈月の体は眠りに落ちるかのよう目を伏せて。
それと入れ替わるよう、ニライカナイに留まっていた伊月が目を覚ます。
「――何かあった?」
ガレージのロフトで横になっていた伊月は、すぐ傍で本を読んでいる片割れに気付くと、更夜の腕の中から――ずるっ、と――這うよう抜け出した。
「重い」
膝の上へと乗り上げられ、鏡夜が零した不満は聞かぬ振り。
そのまま、ずるずる這い上がろうとしてくる伊月に根負けして。自分から後ろ向きに倒れた鏡夜が、もうどうとでもしてくれとばかり目を伏せる。
大人しくなった片割れへ遠慮無く馬乗りになった伊月は、鏡に映したよう自分とそっくりの容貌に顔を近付け、お互いの額を重ね合わせた。
双子が揃って目を閉じ、じっと動かずにいた時間は、ほんの十秒にも満たない。
「――好きにしたら」
先に目を開けた鏡夜からぞんざいに押しやられた伊月は、されるがまま畳の上に転がった。
「キリエ」
伊月を押し退け、起き上がった鏡夜が顎をしゃくる。
「ちゃんと見張ってて」
「わざわざ言われなくたって、キリエは私たちから目を離したりしないわよ」
のっそり起き上がろうとしていたのを諦めて。鏡夜の言い様に、笑い混じりの声を上げた伊月の体が――ずるり、と――畳に落ちた影へと沈み込む。
「お前は、また……」
影の中へと落ちてきた生身の伊月を、キリエは今度こそ、きちんと編み上げたアストラルボディで抱き留めた。
「(こっちの体で皇国に出向かないといけない用事ができたんだけど……とりあえず、ティル・ナ・ノーグの固有領域でいいわ)」
徒人が生存できるような環境のない亜空間へとその身一つで落ちて来て、保護されることが当然と構えている。
まったき闇の中で手探りにしがみついてきた伊月を連れて、キリエは言われるがまま影を渡った。
「親のいる子供が羨ましかった」
だけど、もう違う。――奈月の声は、明瞭に紡がれる言葉よりも雄弁で。
「親から無条件に愛されて、守られて、幸せな……そんな子供になりたかった」
自分一人を囲むよう描いた円の中心で小さく跳ねた奈月の体が、不自然に丸く纏まった影へと落ちる。
「そんなもの、本当はどこにもいなかったのに」
キリエは何もしていない。
何もしていないのに、奈月が「影の中の亜空間」へと落ちてきて。
(奈月が自由にできる、私の……〔真祖〕の魔力で、〔影の皇〕を……?)
驚いたキリエは咄嗟に、アストラルボディとも呼べないような「魔力の塊」で奈月を抱き留めた。
キリエが〔影の皇〕をもって掌握する亜空間内で、傀儡としての奈月を操っていた〔傀儡廻し〕が解かれる。
限定術式による遠隔操作――魔術の操り糸――を解かれた奈月の体は眠りに落ちるかのよう目を伏せて。
それと入れ替わるよう、ニライカナイに留まっていた伊月が目を覚ます。
「――何かあった?」
ガレージのロフトで横になっていた伊月は、すぐ傍で本を読んでいる片割れに気付くと、更夜の腕の中から――ずるっ、と――這うよう抜け出した。
「重い」
膝の上へと乗り上げられ、鏡夜が零した不満は聞かぬ振り。
そのまま、ずるずる這い上がろうとしてくる伊月に根負けして。自分から後ろ向きに倒れた鏡夜が、もうどうとでもしてくれとばかり目を伏せる。
大人しくなった片割れへ遠慮無く馬乗りになった伊月は、鏡に映したよう自分とそっくりの容貌に顔を近付け、お互いの額を重ね合わせた。
双子が揃って目を閉じ、じっと動かずにいた時間は、ほんの十秒にも満たない。
「――好きにしたら」
先に目を開けた鏡夜からぞんざいに押しやられた伊月は、されるがまま畳の上に転がった。
「キリエ」
伊月を押し退け、起き上がった鏡夜が顎をしゃくる。
「ちゃんと見張ってて」
「わざわざ言われなくたって、キリエは私たちから目を離したりしないわよ」
のっそり起き上がろうとしていたのを諦めて。鏡夜の言い様に、笑い混じりの声を上げた伊月の体が――ずるり、と――畳に落ちた影へと沈み込む。
「お前は、また……」
影の中へと落ちてきた生身の伊月を、キリエは今度こそ、きちんと編み上げたアストラルボディで抱き留めた。
「(こっちの体で皇国に出向かないといけない用事ができたんだけど……とりあえず、ティル・ナ・ノーグの固有領域でいいわ)」
徒人が生存できるような環境のない亜空間へとその身一つで落ちて来て、保護されることが当然と構えている。
まったき闇の中で手探りにしがみついてきた伊月を連れて、キリエは言われるがまま影を渡った。
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