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RE124 「待て」もできる
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「あっち」
出来の悪いゴーレムでも操るよう、キリエのことを歩かせて。
中庭に置いたソファへ座らせた男の膝を「よいしょ」と跨ぎ、伊月はキリエと向き合った。
「何か用事ができたって言ってなかった?」
「なによ。嫌な予感でもした?」
そこはかとない不安をキリエに自覚させた当人が、にっこりと綺麗に笑って見せるものだから。これから何をされるのかと、キリエは戦々恐々。
かといって、逃げることも抗うことも選択肢にはないキリエの肩を、伊月が掴む。
「くち、」
求められるがまま口を開けば、唇の隙間から忍び込んだ(キリエにしてみれば「少女」と呼ぶのも躊躇われるような)幼い女の舌が、強請るように吸血鬼の牙を舐め――
「ん……」
そういうことなのだろうかと、スカートの裾から忍び込ませる手を、伊月は咎めなかった。
(生身の体をあんまり触ると怒るのに)
伊月の場合、突然気が変わったということも、ありえなくはないのだが。
これはもちろん、そんな話ではなく――
「――もういい」
あと少し。もう一押しで、お互いに引っ込みがつかなくなる。――そういう絶妙なタイミングで伊月から待ったをかけられても、どうせそんなことだろうと思っていたキリエは驚かなかった。
「口開けて」
キリエの手で乱されたブラウスも、唾液混じりの魔力に酔ったよう赤らんだ肌も、熱っぽくとろん、とした目元もそのまま。
キリエに口を開けさせた伊月は、押し込んだ指先を伸びかけの牙へと押し当てる。
子供らしく柔らかな皮膚が掻き切られ、溢れ出す血を――
「待て」
ほんの一滴たりとも、キリエは味わうことを許されなかった。
「――ひどい」
キリエの口腔から引き抜かれた指の先で、丸く纏められた血が結晶化する。
「誰もあげないとは言ってないでしょ」
魔力操作の応用で作り出す魔力結晶を、直径一センチほどの球状に育て上げると。それ以上は必要のなくなった血を流し続ける指先を、伊月はもう一度、キリエの口の中へと押し込んだ。
「(こんなのあんまりだ……)」
情緒も何もあったものではない伊月のやりように、さしものキリエも不満たらたら。
「(マテリアが欲しいなら、私のを幾らでもあげるのに)」
「自前の魔力で作ったマテリアじゃないと都合の悪いことだってあるでしょ」
そんなものは、伊月の技量とキリエの献身――具体的には、有り余る魔力と魔術演算領域の処理能力にあかせた力技――をもってすればどうとでもなる。
「(たとえば?)」
出来上がったばかりの魔力結晶を頭上へ翳し、仕上がりを確かめるよう眺めていた伊月が、大人しくさせていた指でキリエの口の中を掻き混ぜる。
「いいから、さっさと治して」
口の中に溜まった唾液ごと、ぱっくりと開いた傷口から滲む血を啜り。
綺麗に治した指先を、キリエは渋々解放した。
出来の悪いゴーレムでも操るよう、キリエのことを歩かせて。
中庭に置いたソファへ座らせた男の膝を「よいしょ」と跨ぎ、伊月はキリエと向き合った。
「何か用事ができたって言ってなかった?」
「なによ。嫌な予感でもした?」
そこはかとない不安をキリエに自覚させた当人が、にっこりと綺麗に笑って見せるものだから。これから何をされるのかと、キリエは戦々恐々。
かといって、逃げることも抗うことも選択肢にはないキリエの肩を、伊月が掴む。
「くち、」
求められるがまま口を開けば、唇の隙間から忍び込んだ(キリエにしてみれば「少女」と呼ぶのも躊躇われるような)幼い女の舌が、強請るように吸血鬼の牙を舐め――
「ん……」
そういうことなのだろうかと、スカートの裾から忍び込ませる手を、伊月は咎めなかった。
(生身の体をあんまり触ると怒るのに)
伊月の場合、突然気が変わったということも、ありえなくはないのだが。
これはもちろん、そんな話ではなく――
「――もういい」
あと少し。もう一押しで、お互いに引っ込みがつかなくなる。――そういう絶妙なタイミングで伊月から待ったをかけられても、どうせそんなことだろうと思っていたキリエは驚かなかった。
「口開けて」
キリエの手で乱されたブラウスも、唾液混じりの魔力に酔ったよう赤らんだ肌も、熱っぽくとろん、とした目元もそのまま。
キリエに口を開けさせた伊月は、押し込んだ指先を伸びかけの牙へと押し当てる。
子供らしく柔らかな皮膚が掻き切られ、溢れ出す血を――
「待て」
ほんの一滴たりとも、キリエは味わうことを許されなかった。
「――ひどい」
キリエの口腔から引き抜かれた指の先で、丸く纏められた血が結晶化する。
「誰もあげないとは言ってないでしょ」
魔力操作の応用で作り出す魔力結晶を、直径一センチほどの球状に育て上げると。それ以上は必要のなくなった血を流し続ける指先を、伊月はもう一度、キリエの口の中へと押し込んだ。
「(こんなのあんまりだ……)」
情緒も何もあったものではない伊月のやりように、さしものキリエも不満たらたら。
「(マテリアが欲しいなら、私のを幾らでもあげるのに)」
「自前の魔力で作ったマテリアじゃないと都合の悪いことだってあるでしょ」
そんなものは、伊月の技量とキリエの献身――具体的には、有り余る魔力と魔術演算領域の処理能力にあかせた力技――をもってすればどうとでもなる。
「(たとえば?)」
出来上がったばかりの魔力結晶を頭上へ翳し、仕上がりを確かめるよう眺めていた伊月が、大人しくさせていた指でキリエの口の中を掻き混ぜる。
「いいから、さっさと治して」
口の中に溜まった唾液ごと、ぱっくりと開いた傷口から滲む血を啜り。
綺麗に治した指先を、キリエは渋々解放した。
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