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EP01「〔魔女獄門〕事変」

SCENE-021

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 よく効く薬の強い副作用でぐっすり眠った私が、次の日の朝になって、ようやく目を覚ますと。
 『身代わりのアミュレット』は七つに増えていた。

 ……あの後で六回も〔托卵〕されたわけ……?
 さすがに愕然とする私に、この期に及んで悪びれるどころか、いっそ満足そうなカガリがうりうりとすり寄ってくる。
「これだけあれば、ひとまず安心だね」

 カガリは根が魔物なので、わりとそういうところがある。
 命あっての物種というか。
 カガリの中で、私の意思や権利は守られるべきもの、という位置付けで。私の命や、身の安全に優先されるほどのものではない。

 アバターでしかないバーミリオンに対してさえそうだったのだから、向こうと違ってリスポーンできるかわからない生身の私に対してなら、尚更だろう。


                                    
 何故か(何故も何も、私が薬の副作用で眠り込んでいる間にカガリが〔托卵〕してきた、その『結果』以外の何物でもないわけだけど!)増えている『身代わりのアミュレット』以外にも、ベッドの上にはカガリが自前の魔力で作り出したものと思しき琥珀アンバーがいくつも、無造作に転がされていて。そのうちの幾つかには、何かしら魔法が付与されているような気配もあった。
 意識を失う前と違う点、ということなら寝具も、シーツやカバーの類が幻世のホームで使っている――無防備に眠っている間の守護まもりとして、その手の護符に使われる印章シジルをいくつか、魔力を帯びた特別な糸を使って刺繍してある――ものに掛け替えられている。

 たったそれだけのことで、寝室の雰囲気というか、空気感が、幻世で構えた『ホーム』のそれへと一気に近付いた。
 そんな気がする。


                                    
「もう無理だって言ったのに……」
 寝起きの私が恨みがましく睨んでも、カガリは少しも堪えた様子がない。
「一応、日付が変わるまではそっとしておいたんだよ?」
 それどころか、いっそ清々しいほど堂々とした態度で私にすり寄ってくる始末。

「『今日は』って、そういう意味じゃないんだわ……」
 真面目に取り合うのも馬鹿馬鹿しいと、重苦しい溜め息を吐いた私に、それが私なりの、気持ちを切り替えるスイッチだと知っているカガリは、何食わぬ顔で話題を変えてくる。
「ミリーは疲れてるだろうから、朝は僕が用意するよ」

 何か食べたいもの、ある?
 そう聞かれて。真っ先に思い浮かんだのは、我ながらどうかと思うくらい、蜂蜜をたっぷりとかけたハニートーストだった。
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