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EP01「〔魔女獄門〕事変」

SCENE-050

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 私もそこまで間が抜けてはいないので。二度目の発光からは、しっかりと顔を背けて目を庇うことに成功した。


                                    
「眩しくするなら言ってよ……」
 目の前に生まれた光源から、咄嗟に背けた顔を伏せた先。
 カガリの鎖骨のあたりに額を押しつけながら、私が文句を言うと。何がおかしいのか、くすりと吐息で笑ったカガリの手が、「よしよし」とでも宥めるように背中を撫でてくる。
「〔魔力視〕を切ったらいいのに」

 ……実際の明るさは、それほどでもないってこと?
 私が見えすぎているだけなのだとしたら。逆に、魔力に対する感受性が死んでいる――魔力を見るどころか、ほとんど感じ取ることもできない――ユージンの目に、私の動きはさぞ、大袈裟なものとして映ったことだろう。


                                    
 カガリに言われたとおり、〔魔力視〕スキルをオフにする――何気なく見ていた魔力を、あえて見ないように意識する――と。途端に、辺りがぐっと暗くなる。
 祭壇の内側を舞っている魔力の輝きも、私の目には映らなくなって。
 ……せっかく、綺麗だったのに。

 少しくらい眩しくてもこっちの方がいいな、と。すぐに〔魔力視〕を戻した。


                                    
 クリスマスシーズンのイルミネーションもかくやという美しさと抱き合わせバーターの眩しさに、目を細めながら。
 いつまで経っても女神像の方に飛んでいかない『魔力の塊』を振り返ると。カガリの干渉を受けてくしゃりと丸まっていた二枚目の契約書は、女神像ではなく、私の方へと寄ってきて。私の手首に巻きつきながら、細身の腕輪に姿を変えた。

 ――称号【ゲートキーパー】を獲得しました。

 ……なんか生えた。
 身に覚えのない――私が把握している限り、クエスト報酬にはなかったはずの――称号獲得アナウンスとともに、視界の端で開きっぱなしにしていたインフォメーションウィンドウがクローズする。

 クエストの達成とともにアーカイブされるクエスト情報インフォメーションが私の視界から消えるのは、AWOのシステムUIを私が設定カスタマイズした通りの挙動だ。

「ミリー、クエストは?」
「終わったみたい」
 AWOだと、報酬の獲得タイミングはクエストによってまちまちなので。どうやら今すぐ降って湧くようなことはないらしい『神造生物』については、ひとまずおいておくとして。

「ジーン?」
 この後はどうするの? と、すっかり一仕事終えた気分でいる私が、お伺いの声をかけると。
 女神像を横目に、私とカガリの前に立ったまま、僅かに逸らした視線の先で自分の電脳領域に開いているウィンドウを触るような仕草をしていたユージンは、私の方をちらりとも見ないまま、まるで羽虫でも追い払うよう、私とカガリに向かって手を振った。
「用が済んだら帰っていいぞ」


                                    
 さっきの『指図』は駄目で、これは構わないらしい。
 私に対して気安い――ともすれば、私のことをぞんざいに扱っている、ともとれるような――ユージンの態度を気にする様子もなく、カガリは私のことをいそいそと抱き上げた。
 ……調子がいいんだから。

「イユンクスの術師に説明とか、引き継ぎとか……しなくていいの?」
「ここまで辿り着きもしなかった給料泥棒どもにお前の時間を割いてなんになる?」
 私と違って立派に社会人をやっているユージンからもっともらしく言われると、そんなものかという気もしてくる。

「お前が状況を掌握できているなら、それでいい」
 それだと万が一、私に何かあったとき、困ったことになりそうなものだけど。

 カガリが守っている私に、いったい何があるのかという話。
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