マテリアー

永井 彰

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魔法の剣

死神

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 テックとフレイアの一騎討ちが始まった。それは手合わせというより、生きるか死ぬかの決闘であった。
 それほどまでに、少なくともテックは全力以上の力を出さざるを得ないのだ。死を司るとはいえ、相手は神。ほんの少しの油断は、死の女神からすればノルマを1つ減らすだけだ。

「げほ、げほ。ぐっ・・・、少しはまともに指導、し・・・ろ」
「甘えるな小僧。刺客は命を奪いに来る。それに、儂はまだ親切指導な方だぜ」
「ふっ。がは・・・。流石に、嘘だろ。学校に行けなく、なるほど、なんだが」

 本当に限界に近いテックは、息も絶え絶えに言葉を吐き出す。
 その時、紫の波動がテックを包み込む。するとテックは身体が軽くなった。

 闇の治癒魔法。死の女神は回復すら自在だ。

 「小僧が死んでも代わりはいるんだぜ。ただ、お前、なかなか見所があるからな。特別にこうして稽古を付けている」
「俺だって、殺されたくはないから仕方なく付き合ってんだ」

 テックの本心だ。死の女神なんて、やはりこうした不可抗力でもなければ関わりたくないに決まっている。

「さあ、死闘レッスンを続けるぞ」
「いや、悪い。今日は勘弁してくれ。宿題が相当、出たんだ」
「けっ。命よりも大事か、それは?仮にも余は神ぞ。言葉を選んだ方が懸命だぜ」

 宿題。それもまたテックの本音だ。
 だが、神ともあろうものが、人間に戦いを優先させようとしている。その現実は、彼に絶望を与えた。

「あんた以外の神は、納得しているのか」
「神は人の上位互換でしかない。完ぺきでもなんでもない神々に平和はないんだぜ。まして人間がお行儀良く教養を積んで、何になる。―――お前が来ないなら、私から行くぞ!」

 これ以上は、戒律コマンドメントだけでは持ちそうになかった。テックが必死に編み出した、戒律剣の五つの型。
 それらが、例外なく見切られ始めていたのだ。

 テックに与えられた剣。
 名も無きその剣に、テックは魔法剣の名を与えた。
 かつて夢の中で、フレイアは魔法剣を彼に託した。そして、その扱い方も伝授した。


 魔法剣には、七つの形態モードがある。

 それを引き出すには、それぞれの名を理解し、同時にその意味を把握しなければならない。
 第二剣、コマンドメント。
 戒律を意味するその剣を、テックは瞬時に理解する事が出来た。
 妙だと思うかもしれない。実際、今日の授業で居眠りしていたテックを見ただけでは、戒律の対極にいると思うのも道理だ。

 だが、冷静に考えてみてほしい。
 テックは、もう魔法剣を授かっているのだ。

 そして、今のような地獄の特訓の連続。
 ただ、宿題を気にするようなテックだ。本来は、むしろマジメすぎるほどに勤勉なのである。さらに、素朴な環境での生活は彼に禁欲的な態度を恵んだ。


「悟りでも開くのだな」
涅槃ニルヴァーナ、か。未だによく分からないんだよ」
「そんな泣き言、神が聞くか?興が醒めた。もう今日は良い。勝手に負け犬への道を歩む事だぜ」

 聞くや否や、テックの表情は、ばあっと明るくなった。ストイックな彼にすら、人間らしさの欠片もない無情な修業は、流石につらいのだ。
 そして、マントラを使い、テックは我が家へと帰っていった。

「第一剣を無視し、第二剣を使った。お前は面白い。少し神の資質がある・・・・・・・・・。」

 去ってから、フレイアは独り言を口にした。

 テックを死神とする。

 それが、魔法剣とは無関係にフレイアの宿願となるのは、時間の問題なのであった。


 テックは、何事も真剣に考えすぎるという弱点を持つ。正論なのだが、普通はそこまで考えないという事がしばしばあり、彼の悩みの種となっていた。
 「マジメな俺には、悟りは来ないのだろう」とすら、彼には思えたほどだ。

 ヒントは、ガディアがくれた。

「悟りってのはな。良い事、悪い事なんでも色々を味わってねえと開けん。オイラにも無理じゃもん。テツには尚更じゃよ」

 悟りについて、納得行くまでガディアと話す。
 だが、この年で悟りなんて、却って怪しいと思わせてしまうかもしれないと考えたテックは、学校の宿題だと嘘を吐いた。

 魔法剣の使い手である事実を隠している事さえ、正直者のテックには厳しい。ただ事態が事態であり、他に良い考えがないというわけだ。

「悟りは、絶対に開けない人もいるって事なのかな」
「テツ。まあ、そう焦るなよ。今は無理じゃけど、という話さ。悟りかけた事なら、オイラにもあるぞ」
「どうだった?」
「体にまっすぐな何かが差し込んでる感じだ。それで、とんでもなく自分らしい。よく分かってはないけど、きっとそれが悟りじゃ」

 なるほど、とテックは思った。テックにとってガディアとは、いつだって納得行く答えをくれる、師匠のような存在でもあるのだ。

 分かった気になれば良い。

 それが、最終的にテックが達した涅槃ニルヴァーナの形になった。

 白銀の剣であるコマンドメントに対し、それは透き通った中に微かな蒼が宿る短剣となったのだった。

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