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魔法の剣
少女
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テックは魔法剣・ニルヴァーナを安定させる修業を始めていたが、フレイアから珍しく、日常に集中するように言われた。
理由は2つある。
1つには、フレイアから見て素質があるとは言え、テックは結局のところ、実戦経験がまるでない人間でしかないという点だ。
そしてもう1つは、いわゆるアメとムチだ。休みを与える事で精神的な休息を確保し、テックから最低限の信頼を得るのが優先と判断したのだ。
「儂は儂で、こう見えて忙しいんだぜ。思考訓練でも積んでいてくれ」
思考訓練は、いわゆるイメージ・トレーニングである。学習の基本はイメージを捉える事にある、と言われるように、実戦内容のイメージがあるのとないのとでは、戦闘においても雲泥の差となるのだ。
また、魔法剣の扱いは実戦形式が効果的だが、魔法剣を形にするのは、日頃から如何にそれぞれの形態、そのイメージを構築しているかに関わる。
テックは勤勉なので、一を言われれば十として学ぶのは容易い。よって、思考訓練と言われただけで、そこまでの視野をテック自身、既に広げていた。
刺客がいつ来るか分からないという焦りが、妙に戦闘への感覚を鋭敏にしたために、そうした想定までもテックにさせたのだろう。
神託の庭から地下室に戻ったテックは、どきりとした。
無人のはずの地下室に、人がいるのだ。
最初は、ガディアかと思ったが、それにしては背丈がない。
夕方から修業して、戻ったのは日が沈んでからなので、夜目が効くテックでなければ気付かなかったかもしれない。
「誰だ?」
テックは問うた。警戒を帯びたその声は、侵入者であろう何者かに一定以上の効果があったらしい。
「ひっ、す、すみません」
明らかに、可憐な少女を思わせる、か細くも高い声だ。見ず知らずの女性が苦手なテックは、ここで不意に下手を打った。
「えっ、ああ。気にしないで。こんにちは」
これでは、どちらが不審者か分からない。
「本当に、何もしてないので。失礼します」
そして、少女らしき声の主は、駆け足で去ってしまった。暗がりからでは、誰なのか全く分からないままに、テックはただ茫然としていたのだった。
転校生がやって来た事を知ったのは、翌日だ。テックらは、ひとつしかないクラスにまた1人の仲間が増えた事を、素直に喜んだ。
「シマー。シマー=リッチーと申します。皆様、どうかよろしくお願いいたします」
田舎の村も同然のバカサに似つかわしくない、丁寧な言葉遣いだ。そして、それとは別にテックには、気掛かりな事があった。
(―――なんか、聞いた事がある声だぞ?)
肩より短い、整った髪型や、賢そうな顔立ちは清く正しく育ってきたのであろう生い立ちを思わせた。それだけに、テックには彼女が昨日の侵入者だと、にわかには信じられないのだった。
「お前、泥棒・・・!」
思わず、テックはそう叫んだ。
しかし、賑やかな教室は信頼感ゼロのテックに構わない。
悔しくとも、説得力があるだけの行いをしているとは言えない。すっかり不良の端くれみたいな扱いのテックなので、そうなってしまうのだ。
そのままその日は、テックはシマーに声を掛ける機会を逸した。しかし気のせいかシマーは、どこかテックを避けているような態度であった。
「リッチーって言やあ、有名も有名。きっと宝石商で財を成した、あのリッチー財閥のお嬢様じゃろうな」
事もなげにガディアは言った。そしてパイプをくわえてドーナツ型の煙をぷかぷかさせながら乱雑な記憶を整頓しつつ、ゆっくりと続けた。
「あれはちょうど、今から30年ほど前。つまりテツの生まれる、ずっと前じゃった。宝石っちゅうのは当時ただの光る石じゃったし、加工という発想もなかった。それをどこで育てたか知らん職人連中を従えて革命したのが、おそらくシマーっちゅう娘さんのおじいさんじゃ」
つまり話によれば、リッチー財閥はシマーの祖父が一代で築いた宝石商の財閥らしいのだ。
テックは、シマーの住居侵入疑惑を告げるか悩んだが、保留とした。「きっと、何か理由があったのだろう」そう、端的に言えば、テックは女性に甘いのだ。
その頃、シマーは1人、とある場所で佇んでいた。
目の前には、墓標。それが墓参りである事は一目瞭然だが、周りには誰もいない。
人知れずある粗末な墓場で、まともに手入れされた墓はシマーの前にある物くらいだった。
「誰も私を分かってない。でも、誰にも言えないの。お父様」
墓には、シマーの父の名が刻まれていた。
頼りなさげにそこに立つ墓石は、彼女を助けられそうにないままに、ただ静かにあるのだった。
「シマーさん、おはよう」
テックは、思いきって挨拶してみた。根はまじめなだけに、さん付けをきっちりとするのはここだけの話だ。
「・・・あ、どうも」
あまりに上の空の反応。それをどう捉えたら良いか、テックはそれから大いに悩む事になる。
新しい仲間を迎えて始まる、いつもの授業。そんなに変わらないはずなのに、なぜかテックの気持ちは落ち着かなかったのだった。
理由は2つある。
1つには、フレイアから見て素質があるとは言え、テックは結局のところ、実戦経験がまるでない人間でしかないという点だ。
そしてもう1つは、いわゆるアメとムチだ。休みを与える事で精神的な休息を確保し、テックから最低限の信頼を得るのが優先と判断したのだ。
「儂は儂で、こう見えて忙しいんだぜ。思考訓練でも積んでいてくれ」
思考訓練は、いわゆるイメージ・トレーニングである。学習の基本はイメージを捉える事にある、と言われるように、実戦内容のイメージがあるのとないのとでは、戦闘においても雲泥の差となるのだ。
また、魔法剣の扱いは実戦形式が効果的だが、魔法剣を形にするのは、日頃から如何にそれぞれの形態、そのイメージを構築しているかに関わる。
テックは勤勉なので、一を言われれば十として学ぶのは容易い。よって、思考訓練と言われただけで、そこまでの視野をテック自身、既に広げていた。
刺客がいつ来るか分からないという焦りが、妙に戦闘への感覚を鋭敏にしたために、そうした想定までもテックにさせたのだろう。
神託の庭から地下室に戻ったテックは、どきりとした。
無人のはずの地下室に、人がいるのだ。
最初は、ガディアかと思ったが、それにしては背丈がない。
夕方から修業して、戻ったのは日が沈んでからなので、夜目が効くテックでなければ気付かなかったかもしれない。
「誰だ?」
テックは問うた。警戒を帯びたその声は、侵入者であろう何者かに一定以上の効果があったらしい。
「ひっ、す、すみません」
明らかに、可憐な少女を思わせる、か細くも高い声だ。見ず知らずの女性が苦手なテックは、ここで不意に下手を打った。
「えっ、ああ。気にしないで。こんにちは」
これでは、どちらが不審者か分からない。
「本当に、何もしてないので。失礼します」
そして、少女らしき声の主は、駆け足で去ってしまった。暗がりからでは、誰なのか全く分からないままに、テックはただ茫然としていたのだった。
転校生がやって来た事を知ったのは、翌日だ。テックらは、ひとつしかないクラスにまた1人の仲間が増えた事を、素直に喜んだ。
「シマー。シマー=リッチーと申します。皆様、どうかよろしくお願いいたします」
田舎の村も同然のバカサに似つかわしくない、丁寧な言葉遣いだ。そして、それとは別にテックには、気掛かりな事があった。
(―――なんか、聞いた事がある声だぞ?)
肩より短い、整った髪型や、賢そうな顔立ちは清く正しく育ってきたのであろう生い立ちを思わせた。それだけに、テックには彼女が昨日の侵入者だと、にわかには信じられないのだった。
「お前、泥棒・・・!」
思わず、テックはそう叫んだ。
しかし、賑やかな教室は信頼感ゼロのテックに構わない。
悔しくとも、説得力があるだけの行いをしているとは言えない。すっかり不良の端くれみたいな扱いのテックなので、そうなってしまうのだ。
そのままその日は、テックはシマーに声を掛ける機会を逸した。しかし気のせいかシマーは、どこかテックを避けているような態度であった。
「リッチーって言やあ、有名も有名。きっと宝石商で財を成した、あのリッチー財閥のお嬢様じゃろうな」
事もなげにガディアは言った。そしてパイプをくわえてドーナツ型の煙をぷかぷかさせながら乱雑な記憶を整頓しつつ、ゆっくりと続けた。
「あれはちょうど、今から30年ほど前。つまりテツの生まれる、ずっと前じゃった。宝石っちゅうのは当時ただの光る石じゃったし、加工という発想もなかった。それをどこで育てたか知らん職人連中を従えて革命したのが、おそらくシマーっちゅう娘さんのおじいさんじゃ」
つまり話によれば、リッチー財閥はシマーの祖父が一代で築いた宝石商の財閥らしいのだ。
テックは、シマーの住居侵入疑惑を告げるか悩んだが、保留とした。「きっと、何か理由があったのだろう」そう、端的に言えば、テックは女性に甘いのだ。
その頃、シマーは1人、とある場所で佇んでいた。
目の前には、墓標。それが墓参りである事は一目瞭然だが、周りには誰もいない。
人知れずある粗末な墓場で、まともに手入れされた墓はシマーの前にある物くらいだった。
「誰も私を分かってない。でも、誰にも言えないの。お父様」
墓には、シマーの父の名が刻まれていた。
頼りなさげにそこに立つ墓石は、彼女を助けられそうにないままに、ただ静かにあるのだった。
「シマーさん、おはよう」
テックは、思いきって挨拶してみた。根はまじめなだけに、さん付けをきっちりとするのはここだけの話だ。
「・・・あ、どうも」
あまりに上の空の反応。それをどう捉えたら良いか、テックはそれから大いに悩む事になる。
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