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魔法の剣
魂の杖
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その日は、突然訪れた。
いつものように学校の授業が終わり、帰路に着くテック。都会のような部活動はなく、学校はあくまで勉強する場所なのだ。
そして、気付くと景色は暗転した。
気絶したわけでもなければ、世界が滅びたわけでもない。テックは今までいたのとは別の次元、黒界に転移していたのだ。
黒界は、真っ暗なようでいて視界が効く空間のようだ。テックがそう判断出来たのは、真っ暗な空間にもかかわらず、目の前に真っ黒な鬼がいるのを視認出来たためである。
〈錆の者〉ムオル。
それが、最初の刺客の名だ。
「某は〈錆の者〉ムオル。いざ尋常に勝負致せ」
開口一番、そう言ったので間違いないだろう。テックも悩んだ末に、名乗りを上げる事にした。
「俺はテック。刺客め、ぶっ飛ばす」
そして戒律を取り出し、構えた。
フレイアのように怒涛の勢いで攻めるでもなく、ただ立ち尽くすムオル。
隙だらけにしか見えず、実戦慣れしていないテックには攻め時が掴めない、厄介な相手だ。
四番技・星割。
テックは見た目が堅そうな敵に対し、最も隙が大きい代わりに威力のあるその技を繰り出した。
大きく真上に振りかぶり、踏み出すと同時に振り下ろす。
隙が大きいとは言っても、剣技を比べた相対的な意味合いである。
白銀十字の剣はそれほど巨大な剣ではない。よって、絶え間ない鍛練の結果として、並の相手には避けようがない。
それほど、一連の動作が単純に速いのだ。
しかしその時、赤黒い二本角を戴くムオルの真っ黒な顔が消えた。
顔だけではない。忽然といなくなったのだ。
「がはっ」
その刹那、痛みでよろけるテック。
攻撃されたのだ。
「これが剣の勇者だと?いささか拍子抜けなのだが」
余裕の発言を始めたムオル。だがテックがその姿を探しても、どこにもいない。
「冥土の土産に教えてやる。某はただ、貴殿より速く動ける。それだけだ」
ただでさえ、暗さが体の感覚を狂わせる。それに加えて、発言が真実ならムオルはテックより速い。
勝機が見えない。それが、テックを焦らせてしまった。
「くそっ。これならどうだ」
何の剣技でもない、がむしゃらな振り回し。どこにいるか分からないから、適当に攻撃をしようという考えだ。
「甘い、甘すぎる」
憮然と言い放ったムオルからの、ただの手刀をテックは、もろに鳩尾に喰らった。
がくりと、膝が落ちた。
(はは、走馬灯って本当にあるんだな)
無意識に、いや、死を意識し始めたテックの脳裏には、今までの思い出が良い物から悪い物まで流れ始めた。
それは明らかに、良くない兆候だった。
思わずテックは目を閉じた。暗い空間なので、何も変わらなかったが、走馬灯を消すにはそれしかない、そう思ったのだ。
すると、何も変わらないわけではないという偶然にテックは気付いた。
音である。微かではあるが、動いているからには音がする。攻撃ばかりに気を取られ、完全に盲点となっていたのだ。
テックは武術の達人ではないが、それに戦いの行方を賭ける事にした。
目を閉じて戦い始めたのだ。
テックの実力では、本当にムオルには隙がない。音の場所が分かったと思う頃には、もうそこにはいないのだ。
(一手、いや、二手先を読むんだ)
白銀剣の切先を、慎重に、しかし限りなく素早くそこに突き出した。
それもまた、何の剣技でもないただの突きである。しかし、今度は手応えがあった。
「なんだと」
唸るムオル。攻撃が当たった。遂にテックは、一矢報いたのだ。
「おのれ、俺様の体によくも傷を付けたな」
一人称が某から俺様に変わっている。ムオルは本性を現したのだ。
だが、それでももうテックは冷静だった。
(相手は速い。ならば、堅さは二の次。速く打てる技で良い)
音の動きで、敵の速さを把握したテックは勝利を確信し、とどめの一撃を放った。
「二番剣・飛星。お前はもう、動けない」
黒界は消えない。
そして、とどめを喰らったはずのムオルは、どこにあったか知れない杖を握り締めていた。
「最終手段で使いたくなかったが、背に腹は変えられん。これは魂の杖。おい、人間。知っているか。この杖は何でも出来るのだ」
「たとえばこんな風にな」そう言うが早いか、ムオルは杖を天高くかざした。
変身。
一言で言うならそうとしか言えなかった。ムオルはムオルでない、別の何かになったのだ。
角には毒々しい赤い線がひび割れのように刻まれ、四本に増えている。そして、その体は二回りほど大きくなり、身軽そうだった見た目は重厚感を増している。
分かりやすく言えば、筋肉質に太ったというのが似つかわしいだろう。
「そう言えば、俺様の特技をまだ見せてなかったかな。錆の者、その由来を味わってくれたまえ。ただし、本来よりパワーアップしているがな」
そして次の瞬間、テックは錆びの固まりと化したのだった。
いつものように学校の授業が終わり、帰路に着くテック。都会のような部活動はなく、学校はあくまで勉強する場所なのだ。
そして、気付くと景色は暗転した。
気絶したわけでもなければ、世界が滅びたわけでもない。テックは今までいたのとは別の次元、黒界に転移していたのだ。
黒界は、真っ暗なようでいて視界が効く空間のようだ。テックがそう判断出来たのは、真っ暗な空間にもかかわらず、目の前に真っ黒な鬼がいるのを視認出来たためである。
〈錆の者〉ムオル。
それが、最初の刺客の名だ。
「某は〈錆の者〉ムオル。いざ尋常に勝負致せ」
開口一番、そう言ったので間違いないだろう。テックも悩んだ末に、名乗りを上げる事にした。
「俺はテック。刺客め、ぶっ飛ばす」
そして戒律を取り出し、構えた。
フレイアのように怒涛の勢いで攻めるでもなく、ただ立ち尽くすムオル。
隙だらけにしか見えず、実戦慣れしていないテックには攻め時が掴めない、厄介な相手だ。
四番技・星割。
テックは見た目が堅そうな敵に対し、最も隙が大きい代わりに威力のあるその技を繰り出した。
大きく真上に振りかぶり、踏み出すと同時に振り下ろす。
隙が大きいとは言っても、剣技を比べた相対的な意味合いである。
白銀十字の剣はそれほど巨大な剣ではない。よって、絶え間ない鍛練の結果として、並の相手には避けようがない。
それほど、一連の動作が単純に速いのだ。
しかしその時、赤黒い二本角を戴くムオルの真っ黒な顔が消えた。
顔だけではない。忽然といなくなったのだ。
「がはっ」
その刹那、痛みでよろけるテック。
攻撃されたのだ。
「これが剣の勇者だと?いささか拍子抜けなのだが」
余裕の発言を始めたムオル。だがテックがその姿を探しても、どこにもいない。
「冥土の土産に教えてやる。某はただ、貴殿より速く動ける。それだけだ」
ただでさえ、暗さが体の感覚を狂わせる。それに加えて、発言が真実ならムオルはテックより速い。
勝機が見えない。それが、テックを焦らせてしまった。
「くそっ。これならどうだ」
何の剣技でもない、がむしゃらな振り回し。どこにいるか分からないから、適当に攻撃をしようという考えだ。
「甘い、甘すぎる」
憮然と言い放ったムオルからの、ただの手刀をテックは、もろに鳩尾に喰らった。
がくりと、膝が落ちた。
(はは、走馬灯って本当にあるんだな)
無意識に、いや、死を意識し始めたテックの脳裏には、今までの思い出が良い物から悪い物まで流れ始めた。
それは明らかに、良くない兆候だった。
思わずテックは目を閉じた。暗い空間なので、何も変わらなかったが、走馬灯を消すにはそれしかない、そう思ったのだ。
すると、何も変わらないわけではないという偶然にテックは気付いた。
音である。微かではあるが、動いているからには音がする。攻撃ばかりに気を取られ、完全に盲点となっていたのだ。
テックは武術の達人ではないが、それに戦いの行方を賭ける事にした。
目を閉じて戦い始めたのだ。
テックの実力では、本当にムオルには隙がない。音の場所が分かったと思う頃には、もうそこにはいないのだ。
(一手、いや、二手先を読むんだ)
白銀剣の切先を、慎重に、しかし限りなく素早くそこに突き出した。
それもまた、何の剣技でもないただの突きである。しかし、今度は手応えがあった。
「なんだと」
唸るムオル。攻撃が当たった。遂にテックは、一矢報いたのだ。
「おのれ、俺様の体によくも傷を付けたな」
一人称が某から俺様に変わっている。ムオルは本性を現したのだ。
だが、それでももうテックは冷静だった。
(相手は速い。ならば、堅さは二の次。速く打てる技で良い)
音の動きで、敵の速さを把握したテックは勝利を確信し、とどめの一撃を放った。
「二番剣・飛星。お前はもう、動けない」
黒界は消えない。
そして、とどめを喰らったはずのムオルは、どこにあったか知れない杖を握り締めていた。
「最終手段で使いたくなかったが、背に腹は変えられん。これは魂の杖。おい、人間。知っているか。この杖は何でも出来るのだ」
「たとえばこんな風にな」そう言うが早いか、ムオルは杖を天高くかざした。
変身。
一言で言うならそうとしか言えなかった。ムオルはムオルでない、別の何かになったのだ。
角には毒々しい赤い線がひび割れのように刻まれ、四本に増えている。そして、その体は二回りほど大きくなり、身軽そうだった見た目は重厚感を増している。
分かりやすく言えば、筋肉質に太ったというのが似つかわしいだろう。
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