マテリアー

永井 彰

文字の大きさ
17 / 100
魔法の剣

模擬戦

しおりを挟む
 マースドント冒険学校では、年に二度、夏と冬に模擬戦を行う事になっている。
 模擬戦は、実技の習得状況を評価するために行われるが、学生たちからは交流試合として絶大な人気を誇るイベントと見なされている。

 実技の要のひとつは、冒険者にとってはやはり戦闘だ。他にも、薬草の鑑定や魔物飼育、あるいは生存術など、さまざまな実技があるが、戦闘実技は実技全体の約4分の1を占める。
 つまり、戦闘実技が実技の大部分を担っているのだ。

 長剣、短剣、槍、斧、弓、つちといった様々な武器の扱いを、実技では一通り教わる。冒険者になって一から学べるほど、武器の扱いは単純でないところがあるためだ。また、特定の魔物と戦えない事態を避けるなどの理由で、サブ武器とも言える第二の得意武器を持つ事が、冒険者会ギルドからは推奨されている。

 テックは長剣も短剣もそれなりに扱えるが、弓だけはどうにも苦手だ。ただ、近距離武器である剣や斧などと違い、狙いを付けるという技術が必須の弓は、一夜漬けで得意になれるものでは当然ないのでやむを得ない。

 さて、模擬戦ではギルドからの推奨もあり、2つまで使用武器を指定して参加を申し込む。
 2つまでなので1つでも、もちろん構わない。また、得意武器であり戦闘倫理に抵触ていしょくしなければ、実技で扱わない杖や格闘グローブなども、その使用が認められている。


 夏の模擬戦の開催を知ったテックは早速、参加申請した。使用武器は短剣のみにした。
 長剣は戒律コマンドメントを特訓してかなり練り上げた動きになってきたので、出来すぎて怪しまれてしまう恐れがあったからだ。

 使用武器とは言っても、どの武器も学校側が用意する安全版だ。いわゆる痛いだけで傷付きはしないモノが支給される。
 あくまで戦闘実技なので、痛いのは自己責任なのだ。
 

 そして、テックの初めての模擬戦が幕を開けた。

模擬戦は4年生まで、学年ごとに別々の日に開催される。
 1年生模擬戦の参加者は、全部で212名。冒険学校の一年生が集ったのだ。

 模擬戦はリーグ戦形式、いわゆる総当たり戦だ。これは、模擬戦の特性上、試合が少ない者をなるべく出さないようにするという学校側の配慮である。
 ただし、参加者全員が総当たりしていてはあまりに時間がない。よって、原則として5つのブロックに組分けし、それぞれの優勝者だけが決戦としてトーナメント方式、いわゆる勝ち抜きで戦っていく。

 参加者数によって試合数が足りないブロックが出る場合は、同じブロック内でランダムに何回か追加試合を設けるなど細かなルールこそあるものの、大まかには以上の流れで執り行われる。


 ブロックは、公正を期してくじ引きで決められる。
 テックは「C」と書かれたボールを引いた。つまりCブロックでの試合だ。
 
 Cブロックには、42人が割り当てられた。
 試合数は自分を除くため、41戦もする事になる。公正とは言いながら、そんな連戦で体力は持たないのだが、そこはそれ。
 交流試合としての和やかな雰囲気は、そうしためちゃくちゃな所もある結果として発せられるのかもしれない。

 アナとは違うブロックになったが、ショーンもCブロックだったようだ。人懐こい笑顔でテックに手を、いや、得意武器の槍を振っていた。
 テックは、そこは冷静になりこっそりと小さめに手を振り返すのだった。

 ショーンとの戦いは、21戦目、ちょうど折り返しの試合だった。

 試合の勝敗は、ノックダウン1回、もしくは場外3カウントオーバーだ。

 無駄にくるくる槍を回してくるが、はっきり言ってショーンは弱い。
 スポーツがテック以上の苦手で、戦闘の才能もからきしなのだ。

「えいやー。えいえいえい」

 チワワのように無力な連続突きは、ひとつもテックに当たらない。テックは動いてないが、つまりそれがショーンなのだ。
 ショーンへの同情も込めて、これでもかと情け容赦ない急所攻めを繰り広げていき、決着は試合開始から20秒ほどでテックのノックダウン勝利だった。


 テックは短剣でも優勝争いに持ち込める自信があった。実際、テックはあと一歩でブロック優勝を勝ち取れたのだ。

 接戦でCブロック優勝者となったのは、弓使いのスクという女だ。
 総当たり戦なのでテックもスクと戦ったわけだが、負けてしまった。遠距離攻撃の経験がないために仕方ないのはある。
 しかしスクの弓の腕前もまた確かなものだ。距離を取らせまいと近づかれる前に、相手は足などを狙い転ばされてしまう。
 上手くすれば、コート際なら場外勝ちも有り得る良い作戦だ。

 テックは転びはしなかったが、目などに当たらないように気を付けて戦わねばならなかった事を覚えている。
 もし本当の戦いで弓使いと戦う練習としては、的確な射撃が出来るスクは実際、この上ない相手だったわけだ。

 ではテックの敗因は何だったか。それは、しかし場外負けだった。弓使いは、それだけで距離の取り方が難しい。
 加えて土俵際の戦いに巧みに誘導され、テックのみならず多くの近接戦士見習いが彼女に敗れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...