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グランド・アーク
骨への冒険
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「うむ、やはり魔熱の治療には、アレが一番さな」
レアは何かしきりに考え込んでいたが、遂に結論を導きだしたようだった。
「要するに、体に魔力を与えてやりゃええのだ。そうすると、魔力欠乏の影響は3日もありゃあ完全に治るんさ」
「なるほど。して、アレとは?」
「まあ、それだけが問題なんよ」
レアが言うアレは、ある魔物の骨だ。
骨の持ち主は、ケルベロス。
三つ首の地獄の番犬だ。
「この辺にゃいない」
「いないだと?じゃあ、諦めっか」
「プリプリプリ。諦めないプリ」
野生のケルベロスは存在するが、寒さを嫌う。そのため、スイビー氷陸には生息していないのだ。
「太陽国にいる。王宮でデカい犬、私、見た」
マジルが珍しく口を開いた。
バルタークに住んでいたダランは心当たりがないが、マジルの言い分を信じるならば王宮の飼い犬になっているようだ。
「骨がいるなら、足の一本もいるな。下手を打てば、大魔王に気付かれる」
「じゃあ、別の場所を探すプリ」
「いや、そうも言っていられんかもな。早くしないと、姫様の体力まで空になっちまう」
レアによれば、魔熱は投薬で完治するが、重症化すると死に至る可能性がある病だ。
ニースからメンベフリ行きの船は、明朝にしか出ない。そして、船旅は片道2日ほどと長い。
さらに、バルタークがあるガワウ大陸の港町、メンベフリからバルタークまでは、馬車でも片道3時間とこれまた近くはない。
「行って帰るだけで、良くて5日。しかも犬をどうにかするのが長引きゃあ、スフィア姫はお陀仏、か」
ワルガーは遠い目をした。
「助かってもまた、酷な旅だろ。だったら女子供と甘やかしてねえで、殺しておけば良かったかもなァ」
「盗賊、貴様というヤツは!」
ダランはワルガーの胸ぐらを掴んだ。
「俺の骨でも煎じて飲ますか?無理なんだから早く寝て、さっさとやる事やろうぜ」
「冗談の通じねぇジジィだな」と吐き捨てながら、ワルガーは診療所のベッドに直行し、瞬く間にイビキが聞こえてきたのだった。
「ワルガー、ああ見えて女性に優しい」
「ふふ、私と同じだな」
「ボクちんが一番優しいのプ」
「仲が良いんだね」と言いたげな暖かなレアの視線を受けながら、3人、いや、2人と1匹は笑った。
思えば鏡の塔以来、マジルは久しぶりに笑えた、と密かに皆に感謝した。
出航の朝を迎えた。
天気は快晴。天運はひとまず、ダランたちにあるらしい。
「3人だ」
「あいよ、1人120ペギュだから、360ペギュな」
スプスーは魔物だ。そのため、ガワウ大陸では人前に出られない。
そこで、ダランが槍と共に背負っている大かばんに積み込まれていたのだ。
(もう酔ってきたプ・・・リ)
帆船、ゴーイング号は港を出発した。
長い船旅が始まったのだ。
「スプスー殿、さっきから変な声が漏れてるぞ」
「お、おっさん、ボクちん気分がっプ・・プリ」
ダランはどうにか人目が少ない場所を見つけ、スプスーに海に向かってリリースさせた。
「船なんて久しぶりだ」
「ワルガー、斧はどうした」
「ああ、ぶっちゃけ調子乗って折った。マジルよ、男はみんなバカなのさ」
賞金首とは思えない、和やかな会話が続いた。
船旅は、終止平和に進み行き、メンベフリには予定より早い、1日と7時間で到着した。
メンベフリは大魔王がいる大陸と思えないほど、観光が栄えている。
よくよく考えれば、ワレスが船旅を許していると言うのはおかしな話ではあるが、それはここで考えても詮なき事だ。
「よし、馬車探して、魔王ン家に直行だな」
「まだ馬車が営業するまでには、少しある。買い物なり食事なりなら、出来なくはないぞ」
朝日が昇ったばかりであったが、港町の食堂は、幾つかが既に店を開いていた。
「じゃあ、ボクちんは海鮮盛りがいいプリ」
「かばんから、声を張るんじゃねェ。後で魚卵くらい食わしてやるから」
「失敬な。ボクちんはバリバリの肉食プリよ」
ワルガーとスプスーは、戦いなどなかったかのように和気あいあいと食の話に華を咲かせた。
そして、一行は馬車で目的地に移動したのだった。
バルターク。
常夏の国。日が沈まないその美しい国は、意外にもあまり変化がなかった。
大魔王の支配下にあるのだから、町には魔物がたむろしていたり、空が暗黒の波動でゆらめいていたりしそうなものだが、そうした気配は奇妙なほどにないのだ。
「私、案内する。着いて来て」
マジルは、王宮の裏口を知っていた。暗殺のために調べた成果なのだろうが、今は皆、静かに案内に従うのが懸命だと分かっていたのだった。
「それにしても、暑いな」
「しっ、誰かに聞こえたらまずいぜ」
一行は、マジルに従い王宮の屋根裏へと上がり込んだ。
裏口の警備はがら空きだし、都合の良い所に屋根裏への穴が開いていたため、実に首尾よく事は進んでいた。
「ほら、あんな所に」
「本当プリ。顔が3つあるプね」
ケルベロスだ。
屋根裏の気配には気付かないのか、地獄の番犬はとても、くつろいでいるようであった。
レアは何かしきりに考え込んでいたが、遂に結論を導きだしたようだった。
「要するに、体に魔力を与えてやりゃええのだ。そうすると、魔力欠乏の影響は3日もありゃあ完全に治るんさ」
「なるほど。して、アレとは?」
「まあ、それだけが問題なんよ」
レアが言うアレは、ある魔物の骨だ。
骨の持ち主は、ケルベロス。
三つ首の地獄の番犬だ。
「この辺にゃいない」
「いないだと?じゃあ、諦めっか」
「プリプリプリ。諦めないプリ」
野生のケルベロスは存在するが、寒さを嫌う。そのため、スイビー氷陸には生息していないのだ。
「太陽国にいる。王宮でデカい犬、私、見た」
マジルが珍しく口を開いた。
バルタークに住んでいたダランは心当たりがないが、マジルの言い分を信じるならば王宮の飼い犬になっているようだ。
「骨がいるなら、足の一本もいるな。下手を打てば、大魔王に気付かれる」
「じゃあ、別の場所を探すプリ」
「いや、そうも言っていられんかもな。早くしないと、姫様の体力まで空になっちまう」
レアによれば、魔熱は投薬で完治するが、重症化すると死に至る可能性がある病だ。
ニースからメンベフリ行きの船は、明朝にしか出ない。そして、船旅は片道2日ほどと長い。
さらに、バルタークがあるガワウ大陸の港町、メンベフリからバルタークまでは、馬車でも片道3時間とこれまた近くはない。
「行って帰るだけで、良くて5日。しかも犬をどうにかするのが長引きゃあ、スフィア姫はお陀仏、か」
ワルガーは遠い目をした。
「助かってもまた、酷な旅だろ。だったら女子供と甘やかしてねえで、殺しておけば良かったかもなァ」
「盗賊、貴様というヤツは!」
ダランはワルガーの胸ぐらを掴んだ。
「俺の骨でも煎じて飲ますか?無理なんだから早く寝て、さっさとやる事やろうぜ」
「冗談の通じねぇジジィだな」と吐き捨てながら、ワルガーは診療所のベッドに直行し、瞬く間にイビキが聞こえてきたのだった。
「ワルガー、ああ見えて女性に優しい」
「ふふ、私と同じだな」
「ボクちんが一番優しいのプ」
「仲が良いんだね」と言いたげな暖かなレアの視線を受けながら、3人、いや、2人と1匹は笑った。
思えば鏡の塔以来、マジルは久しぶりに笑えた、と密かに皆に感謝した。
出航の朝を迎えた。
天気は快晴。天運はひとまず、ダランたちにあるらしい。
「3人だ」
「あいよ、1人120ペギュだから、360ペギュな」
スプスーは魔物だ。そのため、ガワウ大陸では人前に出られない。
そこで、ダランが槍と共に背負っている大かばんに積み込まれていたのだ。
(もう酔ってきたプ・・・リ)
帆船、ゴーイング号は港を出発した。
長い船旅が始まったのだ。
「スプスー殿、さっきから変な声が漏れてるぞ」
「お、おっさん、ボクちん気分がっプ・・プリ」
ダランはどうにか人目が少ない場所を見つけ、スプスーに海に向かってリリースさせた。
「船なんて久しぶりだ」
「ワルガー、斧はどうした」
「ああ、ぶっちゃけ調子乗って折った。マジルよ、男はみんなバカなのさ」
賞金首とは思えない、和やかな会話が続いた。
船旅は、終止平和に進み行き、メンベフリには予定より早い、1日と7時間で到着した。
メンベフリは大魔王がいる大陸と思えないほど、観光が栄えている。
よくよく考えれば、ワレスが船旅を許していると言うのはおかしな話ではあるが、それはここで考えても詮なき事だ。
「よし、馬車探して、魔王ン家に直行だな」
「まだ馬車が営業するまでには、少しある。買い物なり食事なりなら、出来なくはないぞ」
朝日が昇ったばかりであったが、港町の食堂は、幾つかが既に店を開いていた。
「じゃあ、ボクちんは海鮮盛りがいいプリ」
「かばんから、声を張るんじゃねェ。後で魚卵くらい食わしてやるから」
「失敬な。ボクちんはバリバリの肉食プリよ」
ワルガーとスプスーは、戦いなどなかったかのように和気あいあいと食の話に華を咲かせた。
そして、一行は馬車で目的地に移動したのだった。
バルターク。
常夏の国。日が沈まないその美しい国は、意外にもあまり変化がなかった。
大魔王の支配下にあるのだから、町には魔物がたむろしていたり、空が暗黒の波動でゆらめいていたりしそうなものだが、そうした気配は奇妙なほどにないのだ。
「私、案内する。着いて来て」
マジルは、王宮の裏口を知っていた。暗殺のために調べた成果なのだろうが、今は皆、静かに案内に従うのが懸命だと分かっていたのだった。
「それにしても、暑いな」
「しっ、誰かに聞こえたらまずいぜ」
一行は、マジルに従い王宮の屋根裏へと上がり込んだ。
裏口の警備はがら空きだし、都合の良い所に屋根裏への穴が開いていたため、実に首尾よく事は進んでいた。
「ほら、あんな所に」
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ケルベロスだ。
屋根裏の気配には気付かないのか、地獄の番犬はとても、くつろいでいるようであった。
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