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グランド・アーク
アタック・カード
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スプスーが、口を開く。
「そういえば、ボクちん、かばんにいる意味はもうないプリよ」
一同は、スプスーの所在に気を配ることをすっかり忘れていたのだ。
「静かに。ケルベロスの聴覚は人間よりは鋭い。変にしゃべると」
天井が崩れ、一行は下に落ちた。
「ね、こうなるでしょ」
マジルはスプスーがいるかばんに皮肉を投げ掛けた。
「ちいっ、エサが来たと思ってやがる」
ワルガーの視線の先には、口からヨダレをだらだら垂らしたケルベロスの巨大な口があるのだった。
「食べられたら、流石に死ぬだろうな」
「おっさん。当たり前を言う暇で犬人間を出せ。ああ、犬と犬でややこしいなァ」
正確にはスプリガンは犬ではないが、スプスーは反論するのを控えることにした。改善の余地がないので、受け入れる方針に変えたのだ。
「スプスーさんに考えがあるプリ」
かばんから出してもらいつつ、スプスーが言いながら取り出したのは護符だ。
「悪魔呼びか。だが悪魔は地獄の番犬に勝るか」
「いや、おそらくデーモンじゃ負けるプ」
「なら、どうするの」
「コイツの使い道は、まだあるんだプリ」
攻撃魔紙。
魔力を込めた護符を武器として使う、スプスーが独自に編み出した戦い方だ。
「ワーちんたちには、すばしっこくて使わなかったのプ」
「なら、俺らはバックアップに回るぜ」
ワルガーたちはケルベロスの視野の外に駆けていく。5メートルはある巨大な番犬に対する、撹乱戦略だ。
「なるべく散らばれ。とばっちりには気を付けろよ」
「言われずとも」
「相手は強い。気を抜かないで」
スプスーが狙うのは、ケルベロスの角だ。
角を持つ哺乳類の多くは、その角は骨である。ケルベロスは哺乳類かは分からないが、事前に得たレアの情報によれば、骨らしいのである。
護符でも切断、最悪でも砕けるように、かなりの魔力を護符に込めなければならない。
鏡の塔でもそうだったが、魔力の充填には時間が必要なのだ。
だが、ケルベロスは3つの顔を持つ強敵。当然、生半可な陽動や撹乱は通用しないのだ。
右の顔が、炎を吹き出した。
大理石で出来た犬部屋が燃える事はないが、ダランたち人間にとっては大いなる脅威だ。
「なんとしても隙を作れ。目や足元を狙っていけ」
ダランが司令塔となる。ある程度の広さがある一般的な空間では、ダランの実戦経験は相当に生きていた。
「それはそうだが、敵さんも中々だな」
ワルガーは息を弾ませていた。
3つの首からは炎や氷の息、あるいは噛みつき。尻尾の振り回しや足踏み、けたぐりなど、たった一匹の魔物とはいえ、その攻撃は多彩で攻めいるチャンスは少ないのだ。
「よし、今だ」
ダランは大きく跳躍した。目の前にはケルベロスの目。
「竜閃」
竜翼槍を横一文字に振り切り、左首の右目に傷を与えたのだ。
だが、空中にいるのは無防備。すかさずケルベロスの左足、そしてそこに備わった刃のごとき爪がダランに遅いかかった。
「マジル、任せましたよ」
ダランは、戦闘の達人だ。
周囲を確認し、動ける者を把握する事など造作もない。
そして、ダランの言葉に続きマジルはダランを抱えて、落下の軌道を大きく逸らした。
特に大きな敵に対しては、攻撃だけが全てではない。
攻撃に当たらず、避ける。回復する方法がスプスーの魔法くらいしかないこのパーティーにとっては、殊更に重要な戦い方だ。
「助かった」
「考えて動け、エロジジイ」
鍛え上げた殺し屋の金的がダランを襲う。しかし、それもまたもっともなのだった。
しかし、成果もあった。
ダランが作った隙を縫い、スプスーもまたケルベロスの左首の角に向かってアタック・カードを投げ、その先端を切断したのだ。
手が空いたワルガーが、落ちてきた角をキャッチした。
「後は、とんずらするだけだな。マジル、案内を頼んだ」
「分からない」
「あ?」
「私は、屋根裏のルートしか知らない」
完全なる詰めの甘さだ。扉から出れば当然、王宮の兵士などがいるだろう。
「いや。案外、王宮には今、誰もいないんじゃないか」
ダランは、戦いにもかかわらず誰も気付かない不自然さに目を付けた。
「スプスー殿、生命探知は使えるか」
「もちろんプリ、しかも今やってみたら、確かに誰もいないプリ」
「僥倖。このまま、部屋から出て帰るとすっか」
一同がいる犬部屋は、ケルベロスを収容するための大扉と、人が通れるだけの普通の扉があった。そして、ケルベロスまで追って来ないよう、普通の扉から次々に脱出するのだった。
運の良い事に、ワレスやその配下は何らかの理由でどこかに出払っているのだろう。一行はほっと安心しながら、帰路に着いたのだった。
帰路においても、大きな戦いはなかった。
道中、一度だけ乗合馬車が盗賊団に襲われたが、ワルガーが拳で一掃すると、一般市民らしき他の客たちからは感謝の拍手をされるのだった。
「そういえば、ボクちん、かばんにいる意味はもうないプリよ」
一同は、スプスーの所在に気を配ることをすっかり忘れていたのだ。
「静かに。ケルベロスの聴覚は人間よりは鋭い。変にしゃべると」
天井が崩れ、一行は下に落ちた。
「ね、こうなるでしょ」
マジルはスプスーがいるかばんに皮肉を投げ掛けた。
「ちいっ、エサが来たと思ってやがる」
ワルガーの視線の先には、口からヨダレをだらだら垂らしたケルベロスの巨大な口があるのだった。
「食べられたら、流石に死ぬだろうな」
「おっさん。当たり前を言う暇で犬人間を出せ。ああ、犬と犬でややこしいなァ」
正確にはスプリガンは犬ではないが、スプスーは反論するのを控えることにした。改善の余地がないので、受け入れる方針に変えたのだ。
「スプスーさんに考えがあるプリ」
かばんから出してもらいつつ、スプスーが言いながら取り出したのは護符だ。
「悪魔呼びか。だが悪魔は地獄の番犬に勝るか」
「いや、おそらくデーモンじゃ負けるプ」
「なら、どうするの」
「コイツの使い道は、まだあるんだプリ」
攻撃魔紙。
魔力を込めた護符を武器として使う、スプスーが独自に編み出した戦い方だ。
「ワーちんたちには、すばしっこくて使わなかったのプ」
「なら、俺らはバックアップに回るぜ」
ワルガーたちはケルベロスの視野の外に駆けていく。5メートルはある巨大な番犬に対する、撹乱戦略だ。
「なるべく散らばれ。とばっちりには気を付けろよ」
「言われずとも」
「相手は強い。気を抜かないで」
スプスーが狙うのは、ケルベロスの角だ。
角を持つ哺乳類の多くは、その角は骨である。ケルベロスは哺乳類かは分からないが、事前に得たレアの情報によれば、骨らしいのである。
護符でも切断、最悪でも砕けるように、かなりの魔力を護符に込めなければならない。
鏡の塔でもそうだったが、魔力の充填には時間が必要なのだ。
だが、ケルベロスは3つの顔を持つ強敵。当然、生半可な陽動や撹乱は通用しないのだ。
右の顔が、炎を吹き出した。
大理石で出来た犬部屋が燃える事はないが、ダランたち人間にとっては大いなる脅威だ。
「なんとしても隙を作れ。目や足元を狙っていけ」
ダランが司令塔となる。ある程度の広さがある一般的な空間では、ダランの実戦経験は相当に生きていた。
「それはそうだが、敵さんも中々だな」
ワルガーは息を弾ませていた。
3つの首からは炎や氷の息、あるいは噛みつき。尻尾の振り回しや足踏み、けたぐりなど、たった一匹の魔物とはいえ、その攻撃は多彩で攻めいるチャンスは少ないのだ。
「よし、今だ」
ダランは大きく跳躍した。目の前にはケルベロスの目。
「竜閃」
竜翼槍を横一文字に振り切り、左首の右目に傷を与えたのだ。
だが、空中にいるのは無防備。すかさずケルベロスの左足、そしてそこに備わった刃のごとき爪がダランに遅いかかった。
「マジル、任せましたよ」
ダランは、戦闘の達人だ。
周囲を確認し、動ける者を把握する事など造作もない。
そして、ダランの言葉に続きマジルはダランを抱えて、落下の軌道を大きく逸らした。
特に大きな敵に対しては、攻撃だけが全てではない。
攻撃に当たらず、避ける。回復する方法がスプスーの魔法くらいしかないこのパーティーにとっては、殊更に重要な戦い方だ。
「助かった」
「考えて動け、エロジジイ」
鍛え上げた殺し屋の金的がダランを襲う。しかし、それもまたもっともなのだった。
しかし、成果もあった。
ダランが作った隙を縫い、スプスーもまたケルベロスの左首の角に向かってアタック・カードを投げ、その先端を切断したのだ。
手が空いたワルガーが、落ちてきた角をキャッチした。
「後は、とんずらするだけだな。マジル、案内を頼んだ」
「分からない」
「あ?」
「私は、屋根裏のルートしか知らない」
完全なる詰めの甘さだ。扉から出れば当然、王宮の兵士などがいるだろう。
「いや。案外、王宮には今、誰もいないんじゃないか」
ダランは、戦いにもかかわらず誰も気付かない不自然さに目を付けた。
「スプスー殿、生命探知は使えるか」
「もちろんプリ、しかも今やってみたら、確かに誰もいないプリ」
「僥倖。このまま、部屋から出て帰るとすっか」
一同がいる犬部屋は、ケルベロスを収容するための大扉と、人が通れるだけの普通の扉があった。そして、ケルベロスまで追って来ないよう、普通の扉から次々に脱出するのだった。
運の良い事に、ワレスやその配下は何らかの理由でどこかに出払っているのだろう。一行はほっと安心しながら、帰路に着いたのだった。
帰路においても、大きな戦いはなかった。
道中、一度だけ乗合馬車が盗賊団に襲われたが、ワルガーが拳で一掃すると、一般市民らしき他の客たちからは感謝の拍手をされるのだった。
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