マテリアー

永井 彰

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グランド・アーク

怒れる罪人たち

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 ホアナッド。

 竜が人に進化したとも、人が竜の呪いを受けたとも言われる竜人だ。

「ゴボー。ゴボー。やっとオラのありがたみが分かったか、シュットめ」

 牢が次々に開け放たれていく音を、そして歓喜の囚人たちの声を聞いたホアナッドは、それに応えるようにゴボー、と風変わりな鳴き声を轟かせるのだった。


 面会室前。
 シュットは溶けるように姿を消した。

「魔法使えるじゃねえか、アイツ」
「魔力が半端ないプリ。ここまで魔力が来たのプ」
瞬間移動フライ・アウトか。確か、相当に高度な魔法だったはずだが」
「シュット、彼は怪物」

 口々にシュットに対する思いを述べる中、スフィアはゼロの身を案じた。

「ゼロさん、助けてあげるべきなのですよね」

 ダランの目を見ていた。冒険者であり賞金首の老兵はただ、じっとその目を見ていたのだった。


「いつまでイチャついてんだ。囚人が湧いてきたぜ」

 湧く、という表現は的確だった。解放された囚人たちは、所在なげにする者から殴られ、蹴られ、まさに地獄絵図だ。

「ゼロという人形ちん、死んでしまうプリよね」
「いや、囚人だろ。最悪、敵にもなり得ると思え」
「急ぐぞ、諸君」
「ダランさん、どこに行くのか決めてらっしゃるのですか」
「スフィア。私たちは罠なら戦い抜くと決めてる。任せて。みんなであなたを、守る」


 ゼロは、いまだ牢の中だ。ゼロの牢は開かれず、周りの囚人はどんどん出されていく。

「何が始まったんだ。姫、ご無事だろうか」

 トリシムが通りかかったが、ゼロには一瞥をくれるだけで言葉もなく去っていった。

魔法靴ホッパー。密室じゃあ何の意味もない」

 ホッパーは、跳躍魔法だ。靴に魔法を掛けて跳躍する力を最大限に高める。瞬間速度なら、元からある飛行能力を軽く超えるだろう。
 実際、ゼロは牢の中で、頭を打ってでも確かめたのだ。

「この力は、役に立つのか」

 ただ、もう一度、狼と戦っても勝てるかどうかはゼロには自信がなかった。
 そもそも、自らの意思では心の世界には行けないというのもある。力を求めた結果の狼との交代や、おそらくオールディントが呼んだ時、そうした時にだけ、心はゼロと繋がるようなのだ。

「オールディントさん。あなたなら、ここからどうするのですか。私はただ、無力です」

 ゼロは誰にでもなく声を紡いだ。それは、苦悩と知られる事すらない苦悩なのだった。


 ホアナッドには、野生の嗅覚があった。それは、強い者ほどよく匂う、強敵の匂いであった。

「ゴボー。見つけたぞ。オラの最初のおもちゃ」

 そして、超絶な速度をダランたち目がけて描いていく。翼があるが、ホアナッドは走っていた。陸路なら、飛ぶより速いのだ。

「1秒でも楽しませたら誉めてやるぞゴミ共ぉ」

 ホアナッドはダランたちに、宣戦布告した。
 そして、それを受けるかのように一斉にダランたちは戦闘の構えを取ったのだ。
 だが、その状態はダランが制した。

「ここは、私とスプスーでどうにかなるだろう。急ぐなら、仲良く総動員は時間の無駄だ」
「う、うむ。そうプリよ。ボクちんたちに任せて、先に進みなプ」

 スフィアを連れ、ホアナッドを素早く迂回し駆けてゆくマジルと、それを守るように追尾していくワルガー。ホアナッドは、取り立てて興味がなさそうに、それを見送ったのだ。

「じいちゃん。オラはアンタが面白そうだから来たんだ」
「じいちゃんではない、ダランだ」
「スプスーさんもいるんプリ」

 そして、翼竜槍と竜人との死闘は幕を開けたのだ。


「ヨロロロ。私たち、これから死ぬ所でしたのに」
「ユロロロ。そうですわね、残念でしてよ」

 憂鬱ゆううつそうな二人の少女が、言葉を掛け合っていた。

 双子霊童ファントムズ。双子のその少女たちは、ゆらりと同じ方角を見やった。

「あの二人は、けそうにない。ワルガー、スフィアをお願い」
「なっ、まあ、そうだがよ」
「なら頼まれて。じゃあ」

 そしてスフィアをワルガーに押し付ける形で、マジルは怪しい双子との戦いに身を投じたのだった。


 スフィアたちの目的は、ゼロの奪還も含まれてはいたが、ゼロの牢がどこにあるかなど分からない。

「おじょう、なんかねェのか。ゼロとかいう人形マンの場所を割れる方法はよ」
「すみません、盗賊さん。私、魔法の使えない普通の人間なんです」

 ワルガーは、スフィアが内なる魂の杖を解放した場面に居合わせたわけではない。そのため、スフィアの言い分ももっともだな、と思うのだった。

「いいけどよ。ただ、盗賊じゃなく、ワルガーな」

 名前を覚えてもらえないのは、大盗賊の名がすたるとも思ってしまう、繊細なワルガーなのだ。

「すみません、盗賊さん」
「いや俺こそ、すまねェ。あんま気にすんな」


 長牢獄の囚人は、決して弱いわけではない。世界中の大犯罪者が集う、闇の砦も同然なのだ。
 ただ、ワルガーは殺し屋に鍛えられた、正真正銘の大盗賊だ。半端な大物は軒並み一撃で倒しながら、スフィアを左腕に抱き、猛烈な速さで牢獄を突き進むのだった。
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