マテリアー

永井 彰

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魔法の剣

ワールド・ビースト

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 テックが、至高の島に適当に描いたマントラ経路の経路法陣に戻ると、キジュアが話しかけてきた。

【テック。小鬼はどれくらいいた?】
【さあ。何十といたかな。百は出てきてたかも】

 第三剣マントラは、テレパシーのように精神通信を可能にする。魔法剣を知らない者に行うと怪しまれるため、実質的にはテックとキジュアの通信用となっているのだ。

【よし、テック。ひとまずテトンテスの前で落ち合うぞ】
【像の所だな。了解だ】

 そして、宿の辺りからテトンテスの像に向かってテックは進み出した。小鬼を放ったとしても、相手は残虐非道の刺客だ。
 杖鬼じょうきと名乗る彼らは、いつ再びテックに襲いかかるか分からない。細心の注意を常に払いながら、テックは駆け足気味に目的地に向かう。
 道中にも、黒小鬼こくしょうきはいた。テックには、むしろ何らかの方法で増殖しているような気さえしていた。700ほどの小鬼を倒したのに、まだ倒しきれていないのだ。

「みんな、大丈夫かな。ショーン、アナ」

 友人たちや、学生、教師の顔をテックは思い浮かべた。もし魔法剣でなければ戦えないなら、それなりの殺傷能力を有する黒小鬼によって、冒険学校の旅行参加者たちは全滅している恐れすらあったからだ。

 そして、ふと気配がしてテックは後ろを振り返った。

 正確には、テックがいる至高の島南部から北西側。そこに、巨大な鬼がいたのだ。
 黒小鬼をそのまま大きくしたような見た目で、体型はボールのように丸い。そのため、一目見ただけでは大きな球にしか見えないが、よく見ると顔や、鬼ならではのツノがあるのだった。


「テック、お前も気付いたか」

 テトンテスの像の方角から、キジュアの声がした。声の方を見ると、テックの姿を見つけたキジュアがこちらに歩みつつ、話しかけて来たのだとテックには分かった。

「あれは何だ。刺客とは違うし、小鬼でもなさそうだ」
「分からない。私も見た事がない」

 キジュアいわく、勇者として過去に刺客と戦っていた時には、そもそも刺客は黒界カオスから現実世界に出てくる事はなかったし、黒小鬼も初めて見たという。

「錆の者、そして喰らう腕。わざわざ名乗るだけの事はあり昔から強かったが、より進化したようだ」
「なあ、ババアなら何か知ってるだろうか」
「フレイア様とお呼びしろ。だがまあ、お聞きするのは確かに名案だと思うぞ」

 今度はキジュアと共に、神託の庭に向かう。以前にも述べたように、経路方陣を描きさえすれば、マントラ経路を通じた転移はどこからでも可能なのだ。
 そして第三剣マントラにより六芒星が八角四重結界体に変わると、二人の体は夜の闇に溶けていった。


「あんまし良くない事態だぜ」

 言葉を選びながらフレイアは説明を始めた。

 魂の杖から生まれ、魂の杖の本体でもある杖魔たちは、魔法剣が増えた事でその反魔力に呼応するように、強力な力を手にした可能性が高いという。

「魔法剣とか魔剣とかお前たちが呼んでるのは、元々は魂の杖から作られたモノなんだ」

 剣の正式名は、魂の剣。魂の杖が人の世を乱さないよう、安全装置としてオーディンが作ったのが、その剣。つまりテックが持つ魔法剣だ。

「じゃあ、ババアやオーディンのせいじゃん」

 テックはにべもなく正直に述べた。

「こら、テック、貴様。また私を怒らせたいか。それに、貴様さえ剣を私に返していれば、こんな事にはならなかったんだぞ」
「そ、それもそうだ」
「いや、ワシが甘かったんだぜ。魂の杖の潜在能力を侮っていた」
「ババア、そんな話は後にしよう。とにかく、あの鬼たちをブチ倒す方法はねえのか」

 フレイアにとって、今回の事件は初めての事態であり、オーディンの判断を仰がなければ分からない事だらけなのだと言う。

「ヤツらが黒界カオスにいる間でさえ、ヤツらを完全に消す方法は分からずじまいだった。だが、今はまずデカい鬼の討伐に向けて動くとしよう」

 見た目が鬼である以上、どんなに大きくてもムオルのしもべ、黒小鬼の仲間と見なされた。そして丸い大鬼はフレイアにより、世界級鬼ワールド・ビーストと名付けられたのだった。


 至高の島に戻った二人だが、転移の瞬間を人間に見られてしまった。

「お、転移魔法なんてキミら凄いじゃん」

 しかし、その女性―――キアと名乗る弓使いの冒険者は平然としていたために、事なきを得たのだ。

「あの大きい怪物は、何なのか知らない?」
「さ、さあ。実は俺たちも困ってるんです」
「えー、そうなのか。じゃあさ、考えがあるんだけど、ちょっと手伝ってくんない?」

 魔法剣が使えないキアの案に果たしてどこまでの有効性があるのかをテックもキジュアも測りかねた。しかし、キアは見たところ、かなり熟練の冒険者を思わせたので、一旦はキアの案に乗る事に決まった。

 そしてキアに指示されたように、三人一組となり、大鬼の視界の外に回っていったのだった。
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