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グランド・アーク
転生の呪い
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マジルは、死の淵にいた。
三途の川は本当にあり、マジルはそこにいた。そして、すぐ傍には彼女が取り込んだ怨霊がいたのだ。
「ここなら対等だね、怨霊さん」
「ヨロロ。ヨーロイという名前がありますのよ」
そして戦いは始まった。
死語の世界に武器はない。地獄に凶器は持ち込めないからだ。しかし、三途の川は石ころに事かかない。
マジルはここで今まで何千と戦ってきた。三途の川こそ、戦いにおけるマジルのホームなのだ。
「石を侮ると、本当に痛いから」
そして、マジルは片っ端からそこらの石を恐るべき速さで蹴り上げていく。
「ヨロ。並みの戦士なら見えない速さですがねェエ」
それを上回りかねない速さで、ヨーロイの猛攻が始まった。生者の世界では人を呪っていた双子だが、たとえ一人でも、また肉弾戦だとしても強烈な技の数々を持っているのだ。
「魂弾珠霊」
マシンガンのように打ち込まれたのは、ヨーロイの強靭な腕が繰り出す超級の連続張り手だ。
「ぐっ、でも布石は整った」
マジルのその発言の真意にヨーロイは気付かず、張り手をかまし続けた。防御一辺倒で反撃してこないマジルを見て、優勢だと思ったのだ。
「ねえ、幽霊さん。石はどこまで飛んだと思う?」
かなり耐えてからの、マジルの呟くような質問だった。何か、取り返しの付かない事をしたような感覚に捕らわれ、ヨーロイは上を見た。
「重力。たとえばビルの屋上からガラス玉を落とす。すると地上で当たれば人は酷く怪我をするの。最悪、命を落とす」
石の雨が、怨霊に降り注いだ。マジルはタイミングを取って回避していたので、当たらなかった。
そう、マジルは敵の攻撃に耐えながら、重力加速度と高度を計算していたのだ。そして、自由落下のタイミングだけを考え、ひたすら無心を装っていたのだった。
「汚い石の涙。私だけが、いつもまた戻っていくわ」
マジルは不死者ではないが、不死に等しい。たとえ死んでも、気付くと蘇っているのだ。
地獄の暗殺訓練は、彼女にゾンビのごとき肉体を与えた。仮死状態からでさえ、意思だけで復活可能だ。
マジルは自らの生命に与えられたその理不尽を揶揄し、転生の呪いと呼ぶ事にしている。
「ふう。つまらぬ殺生だった」
「てめえ、よくもお姉さまを」
「あら、あなたも地獄で死にたいの?」
一瞬の間があり、「い、いえ。力ずくで天使を倒して成仏します」と言い残してユーロイは現世から去ったのだった。
「二手に分かれよう。私は外から裏口を探す。スプスーは姫様と合流し、助けてやってくれ」
ダランは、このあまりに長い牢獄には入り口が複数あるはずだと考えた。それを片や外側から、片や内部から探し、ゼロを探し出すというわけだ。
「がってん承知のプリだプ」
ワルガーが開いていった敗北者たちの花道を、スプスーは軽やかに進んでいった。
そしてダランはダランで、来た道を戻り、別の入り口を探しに行くのだった。
「くそ、どうなってやがる。お前、そんな事が出来るほど強かったか?」
武器破壊ワルガーにタビウン=ハークは震えていた。タビウンが知るワルガーは、騎士らしい普通の騎士といった、ごく普通の少年だったからだ。
「長い時間はお互い、色んなモンを変えちまったようだなァ」
「ハンッ、ほざけ。俺が変わり果てたのはワルガー、お前のせいなのだからな」
「よし。意味が分からんから、ぶっ飛ばす」
しかし武器がない以上、ワルガーの巨大化魔法は使えない。霊力魔法の対象としては生命を選べないため、自らの拳を巨大にしたりは出来ないのだ。
タビウン=ハークは、ワルガーの一つ後輩だ。そのため、騎士学校時代にワルガーとの接点はそれほどないはずである。
しかし、タビウンにはワルガーに、個人的な怨みがあった。他ならぬ、ワルガーのヒルミス更迭である。
これにより、ワルガーが本来担うはずだった騎士学校での役目、剣神オーディンへの祈りをタビウンが代表して行うようになったのだ。
タビウンもまた、名のある騎士の子。しかし、世間の目の冷たさはタビウンにまで及んだ。
「どうせ騎士なんて、みんなロクでもないんだろ」
「私たちまで恥をかくの。どれだけ余計な気を遣えば終わるのかしら」
「はあ。次の面汚しはあんたか」
タビウンには耐えられなかった。善良な行いでるはずの祈りすら責められる。それはまだほんの少年だったタビウンには厳しすぎたのだろう。
だが理由はなんであれ、その重圧に堪えかねたタビウンは祈りの代表から追いやられ、そのかどで騎士学校を追放された。
そのため、自らの人生をワルガーのせいにし、復讐のためだけに生きる怒りの騎士となったのだ。
ワルガーの拳を次々に避けては、タビウンは効果的で強力な一発をワルガーの顔面に叩き込んだ。
「この鎧も折られた剣も、私のものではない。奪ったのだ。私を追放した憎き騎士団、その長の力を私は頂いた。そこまでの力を私は持っているのだ」
タビウンという地獄の騎士のその叫びは、長牢獄中に響いたのだった。
三途の川は本当にあり、マジルはそこにいた。そして、すぐ傍には彼女が取り込んだ怨霊がいたのだ。
「ここなら対等だね、怨霊さん」
「ヨロロ。ヨーロイという名前がありますのよ」
そして戦いは始まった。
死語の世界に武器はない。地獄に凶器は持ち込めないからだ。しかし、三途の川は石ころに事かかない。
マジルはここで今まで何千と戦ってきた。三途の川こそ、戦いにおけるマジルのホームなのだ。
「石を侮ると、本当に痛いから」
そして、マジルは片っ端からそこらの石を恐るべき速さで蹴り上げていく。
「ヨロ。並みの戦士なら見えない速さですがねェエ」
それを上回りかねない速さで、ヨーロイの猛攻が始まった。生者の世界では人を呪っていた双子だが、たとえ一人でも、また肉弾戦だとしても強烈な技の数々を持っているのだ。
「魂弾珠霊」
マシンガンのように打ち込まれたのは、ヨーロイの強靭な腕が繰り出す超級の連続張り手だ。
「ぐっ、でも布石は整った」
マジルのその発言の真意にヨーロイは気付かず、張り手をかまし続けた。防御一辺倒で反撃してこないマジルを見て、優勢だと思ったのだ。
「ねえ、幽霊さん。石はどこまで飛んだと思う?」
かなり耐えてからの、マジルの呟くような質問だった。何か、取り返しの付かない事をしたような感覚に捕らわれ、ヨーロイは上を見た。
「重力。たとえばビルの屋上からガラス玉を落とす。すると地上で当たれば人は酷く怪我をするの。最悪、命を落とす」
石の雨が、怨霊に降り注いだ。マジルはタイミングを取って回避していたので、当たらなかった。
そう、マジルは敵の攻撃に耐えながら、重力加速度と高度を計算していたのだ。そして、自由落下のタイミングだけを考え、ひたすら無心を装っていたのだった。
「汚い石の涙。私だけが、いつもまた戻っていくわ」
マジルは不死者ではないが、不死に等しい。たとえ死んでも、気付くと蘇っているのだ。
地獄の暗殺訓練は、彼女にゾンビのごとき肉体を与えた。仮死状態からでさえ、意思だけで復活可能だ。
マジルは自らの生命に与えられたその理不尽を揶揄し、転生の呪いと呼ぶ事にしている。
「ふう。つまらぬ殺生だった」
「てめえ、よくもお姉さまを」
「あら、あなたも地獄で死にたいの?」
一瞬の間があり、「い、いえ。力ずくで天使を倒して成仏します」と言い残してユーロイは現世から去ったのだった。
「二手に分かれよう。私は外から裏口を探す。スプスーは姫様と合流し、助けてやってくれ」
ダランは、このあまりに長い牢獄には入り口が複数あるはずだと考えた。それを片や外側から、片や内部から探し、ゼロを探し出すというわけだ。
「がってん承知のプリだプ」
ワルガーが開いていった敗北者たちの花道を、スプスーは軽やかに進んでいった。
そしてダランはダランで、来た道を戻り、別の入り口を探しに行くのだった。
「くそ、どうなってやがる。お前、そんな事が出来るほど強かったか?」
武器破壊ワルガーにタビウン=ハークは震えていた。タビウンが知るワルガーは、騎士らしい普通の騎士といった、ごく普通の少年だったからだ。
「長い時間はお互い、色んなモンを変えちまったようだなァ」
「ハンッ、ほざけ。俺が変わり果てたのはワルガー、お前のせいなのだからな」
「よし。意味が分からんから、ぶっ飛ばす」
しかし武器がない以上、ワルガーの巨大化魔法は使えない。霊力魔法の対象としては生命を選べないため、自らの拳を巨大にしたりは出来ないのだ。
タビウン=ハークは、ワルガーの一つ後輩だ。そのため、騎士学校時代にワルガーとの接点はそれほどないはずである。
しかし、タビウンにはワルガーに、個人的な怨みがあった。他ならぬ、ワルガーのヒルミス更迭である。
これにより、ワルガーが本来担うはずだった騎士学校での役目、剣神オーディンへの祈りをタビウンが代表して行うようになったのだ。
タビウンもまた、名のある騎士の子。しかし、世間の目の冷たさはタビウンにまで及んだ。
「どうせ騎士なんて、みんなロクでもないんだろ」
「私たちまで恥をかくの。どれだけ余計な気を遣えば終わるのかしら」
「はあ。次の面汚しはあんたか」
タビウンには耐えられなかった。善良な行いでるはずの祈りすら責められる。それはまだほんの少年だったタビウンには厳しすぎたのだろう。
だが理由はなんであれ、その重圧に堪えかねたタビウンは祈りの代表から追いやられ、そのかどで騎士学校を追放された。
そのため、自らの人生をワルガーのせいにし、復讐のためだけに生きる怒りの騎士となったのだ。
ワルガーの拳を次々に避けては、タビウンは効果的で強力な一発をワルガーの顔面に叩き込んだ。
「この鎧も折られた剣も、私のものではない。奪ったのだ。私を追放した憎き騎士団、その長の力を私は頂いた。そこまでの力を私は持っているのだ」
タビウンという地獄の騎士のその叫びは、長牢獄中に響いたのだった。
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