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魔法の剣
ダイ=キア
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ダイ=キアは、キルティル聖王国にある精霊正教会の大司教クタブロイト三世の子である。
その事もまた部外秘だ。
一般には、詩人フィルイン=キアの一人娘とされる。ただ、実はフィルインこそがクタブロイト三世の、世を偲ぶ仮の姿なので、間違いでもない。
しかし、いずれにせよ冒険者には無関係な父の仕事に、そしてそれを継ぐ事には拒否感を示していたと言われている。
その点は、冒険学校のペチャク=チンチに似ているが、ダイは今でも正教会に務める父と、教師をしている母、そして二人の兄と共に一つ屋根の下で暮らしている。
ただ、ダイは冒険者であるがゆえに滅多に家には帰らないわけである。
キアはダイ=キアである事をテックらに隠しているわけではない。キアというだけで、勘が良ければ十三傑を疑うはずだ。それに実力を隠す気もないため、適当なタイミングで名乗るのが常なのだ。
ただ、ダイと言う名前が男みたいという理由でキアと自称するのが恒例なのだが、そんな理由だとバレたくはないがために、自己紹介が遅れるというのは、あるらしいのである。
よって、以後のこの物語においても、キアはダイ=キアを指す事とする。
キアは戦士としての修行を、独学で行ってきた。十三傑を含む多くの冒険者は、学校に通うか師匠を持つかして様々な知識や技術を身に付けていくのだが、キアは両親が精霊正教会の人間である事を気にした。
聖職に身を置く立場にも圧力や敵意は付きまとう。それをキアは気にしたのだ。そして、そうした因縁を避けるため、自分で学べる範囲だけを学んでいったのが始まりである。
しかし、それならば人間にとって禁忌であるはずの魔法を使えるのはおかしい、となるだろう。
キアが魔法を使うようになったのは、世間にも魔法使いとして知られている数少ない人間であるムデュマという老師に教わってからだ。
つまり魔法に関してだけは、やはり独学は厳しかったのである。
十三傑とは言うが、かつては十三という数は必ずしも一定ではなかった。今のように十三傑として世界的に定着したのは、ちょうどキアが十三傑となったあたりだ。
家族には冒険者がいないどころか、二人の兄もそれぞれ教師と神聖学教授だ。十三傑で、そこまで身内に冒険者がいないのも珍しいのである。
そしてそんな叩き上げ冒険者のキアが十三傑になった事こそが、十三傑という地位を確固たる実力の証としたという説が有力なようだ。
また、強すぎるため孤独や単独行動を好む者が多い十三傑の中では珍しく、特定のメンバーとパーティーを組んでいる事でも知られている。
「キア!こんな所にいたんか」
獣人のププレイだ。かわいらしい名前だが、見た目は屈強な猪頭の大男だ。ボアートという猪頭の種族がおり、ププレイもボアートなのだが、一般的なボアートよりもププレイは体が小さい。
人間からすれば大男なのだが、一般にボアートは、小さな巨人と称されるほどに大きな肉体を持つのだ。
「ププ。コレは物理でいけるヤツだから、思い切っていいよ」
「了解。ヘルパーさんも、お疲れ」
テックを見て、冒険者の補助業務であるヘルパーと勘違いしたようだ。
「はぁおおお」
自らの拳に気を練り込んでいくププレイ。気は魔力と違うので人間でも出来るのだが、気の量が圧倒的に多いププレイが行う事により、ププレイの拳は鋼のごとき硬さを持つのだ。
「どぅほえ」
みるみる内に、大鬼が砕けていく。敵との相性があるのか、キアやキジュア以上に豪快なペースで世界級鬼という肉の塊を処理しているのだ。
「やるわね。ププが十三傑入りするのも、時間の問題かも」
「ガナッハッハ。やはりミーは強いだろ」
「思い出した。キアって、あのダイ=キアか?十三傑じゃないか。道理で凄い魔法をぽんぽん使うわけだ」
「テック、集中しろ。敵はまだいるんだ」
暫くププレイも含めた四人で大鬼退治していると、キアの仲間が更にやって来た。
「キアッシュ、お待たせ」
「変なあだ名を人前で呼ばないでよ」
「へいへい。じゃあとっとと依頼終わらせますかのう」
どう見ても、ただのアロハシャツのおじいさんだ。髪の毛はふさふさではないが、つるっぱげでもない。バーコードヘアに出来そうだが、そのおじいさん―――フッカストは、無造作にあるがままに任せているようだ。
「きえぃきええいぃい」
フッカストは素手にもかかわらず、凄まじい大きさの真空弾を怒濤の勢いで立て続けに放っていく。キア以外のメンバーは、物理攻撃が主体のようだ。
大鬼が完全に消滅するには、時間がかかった。夜から始まった討伐が終わる頃には、朝日が登り始めていたのだ。
「小鬼を探知出来れば良いけど、生命探知では反応しないわ。無機物なのかしら」
「まあ、あれくらいなら並みの冒険者でもいつか倒すだろ。良い修行場になったね」
「ワシらは帰って報酬を山分けじゃわ」
「え?遅れてきたからアタシが5割よ」
テックたちと別れ、十三傑の道を歩んでいくキアなのだった。
その事もまた部外秘だ。
一般には、詩人フィルイン=キアの一人娘とされる。ただ、実はフィルインこそがクタブロイト三世の、世を偲ぶ仮の姿なので、間違いでもない。
しかし、いずれにせよ冒険者には無関係な父の仕事に、そしてそれを継ぐ事には拒否感を示していたと言われている。
その点は、冒険学校のペチャク=チンチに似ているが、ダイは今でも正教会に務める父と、教師をしている母、そして二人の兄と共に一つ屋根の下で暮らしている。
ただ、ダイは冒険者であるがゆえに滅多に家には帰らないわけである。
キアはダイ=キアである事をテックらに隠しているわけではない。キアというだけで、勘が良ければ十三傑を疑うはずだ。それに実力を隠す気もないため、適当なタイミングで名乗るのが常なのだ。
ただ、ダイと言う名前が男みたいという理由でキアと自称するのが恒例なのだが、そんな理由だとバレたくはないがために、自己紹介が遅れるというのは、あるらしいのである。
よって、以後のこの物語においても、キアはダイ=キアを指す事とする。
キアは戦士としての修行を、独学で行ってきた。十三傑を含む多くの冒険者は、学校に通うか師匠を持つかして様々な知識や技術を身に付けていくのだが、キアは両親が精霊正教会の人間である事を気にした。
聖職に身を置く立場にも圧力や敵意は付きまとう。それをキアは気にしたのだ。そして、そうした因縁を避けるため、自分で学べる範囲だけを学んでいったのが始まりである。
しかし、それならば人間にとって禁忌であるはずの魔法を使えるのはおかしい、となるだろう。
キアが魔法を使うようになったのは、世間にも魔法使いとして知られている数少ない人間であるムデュマという老師に教わってからだ。
つまり魔法に関してだけは、やはり独学は厳しかったのである。
十三傑とは言うが、かつては十三という数は必ずしも一定ではなかった。今のように十三傑として世界的に定着したのは、ちょうどキアが十三傑となったあたりだ。
家族には冒険者がいないどころか、二人の兄もそれぞれ教師と神聖学教授だ。十三傑で、そこまで身内に冒険者がいないのも珍しいのである。
そしてそんな叩き上げ冒険者のキアが十三傑になった事こそが、十三傑という地位を確固たる実力の証としたという説が有力なようだ。
また、強すぎるため孤独や単独行動を好む者が多い十三傑の中では珍しく、特定のメンバーとパーティーを組んでいる事でも知られている。
「キア!こんな所にいたんか」
獣人のププレイだ。かわいらしい名前だが、見た目は屈強な猪頭の大男だ。ボアートという猪頭の種族がおり、ププレイもボアートなのだが、一般的なボアートよりもププレイは体が小さい。
人間からすれば大男なのだが、一般にボアートは、小さな巨人と称されるほどに大きな肉体を持つのだ。
「ププ。コレは物理でいけるヤツだから、思い切っていいよ」
「了解。ヘルパーさんも、お疲れ」
テックを見て、冒険者の補助業務であるヘルパーと勘違いしたようだ。
「はぁおおお」
自らの拳に気を練り込んでいくププレイ。気は魔力と違うので人間でも出来るのだが、気の量が圧倒的に多いププレイが行う事により、ププレイの拳は鋼のごとき硬さを持つのだ。
「どぅほえ」
みるみる内に、大鬼が砕けていく。敵との相性があるのか、キアやキジュア以上に豪快なペースで世界級鬼という肉の塊を処理しているのだ。
「やるわね。ププが十三傑入りするのも、時間の問題かも」
「ガナッハッハ。やはりミーは強いだろ」
「思い出した。キアって、あのダイ=キアか?十三傑じゃないか。道理で凄い魔法をぽんぽん使うわけだ」
「テック、集中しろ。敵はまだいるんだ」
暫くププレイも含めた四人で大鬼退治していると、キアの仲間が更にやって来た。
「キアッシュ、お待たせ」
「変なあだ名を人前で呼ばないでよ」
「へいへい。じゃあとっとと依頼終わらせますかのう」
どう見ても、ただのアロハシャツのおじいさんだ。髪の毛はふさふさではないが、つるっぱげでもない。バーコードヘアに出来そうだが、そのおじいさん―――フッカストは、無造作にあるがままに任せているようだ。
「きえぃきええいぃい」
フッカストは素手にもかかわらず、凄まじい大きさの真空弾を怒濤の勢いで立て続けに放っていく。キア以外のメンバーは、物理攻撃が主体のようだ。
大鬼が完全に消滅するには、時間がかかった。夜から始まった討伐が終わる頃には、朝日が登り始めていたのだ。
「小鬼を探知出来れば良いけど、生命探知では反応しないわ。無機物なのかしら」
「まあ、あれくらいなら並みの冒険者でもいつか倒すだろ。良い修行場になったね」
「ワシらは帰って報酬を山分けじゃわ」
「え?遅れてきたからアタシが5割よ」
テックたちと別れ、十三傑の道を歩んでいくキアなのだった。
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