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魔法の剣
鳴動する暗黒
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黒界。杖魔たちが巣食うその領域の構造は、超自然的だ。
たとえば、ムオルがいる黒界とシーバースがいる黒界は別々に存在するが、ムオルとシーバースは同じ黒界を共有してもいる。
どういう事かというと、黒界に存在している限り、杖魔はあらゆる平行世界を一つの意識で見ているようなものなのだ。
杖魔だけがそれを可能にしており、キジュアのような人間では不可能だ。キジュアはあくまで杖魔が存在しない、擬似的な黒界を生成出来るに過ぎない。
ムオルたちは世界級鬼を倒された事で、暫くは黒界から出られなくなった。
フレイアが言っていたように、魂の杖はオーディンが魂の剣を新たに作った事で力を増した。
「無理するからやがな。余計、何も出来ひんなってもうたよ」
「いや、成果はあった。大鬼を一つ潰すのに、あれだけの時間が掛かるなら、我々があちらで力を得るのも間に合うだろう」
実はムオルたちは、テックたちがいる現実世界に出られるようになっただけである。黒界の中でしか、杖魔たちは本来の力を発揮出来ないのだ。
「あん時みたく、現実をコピーした黒界にしときゃあ良かったねんて」
「それは困る。たとえ一時は力を損なっても、我が分身を育てるのはあちらでしか不可能だ」
現実世界では、ムオルたちは力を大きく制限されている。これは現実での活動に必要な、普通の魔力を杖魔が得ていないためだ。
彼らは魂の杖が持つ、魔力を超える魔力と言うべき力を拠りどころとしている。この力は魔力より強いが、現実世界では肉体を動かすのには普通の魔力が使われ、魂の杖の力では大した力が出せない。
一方、黒小鬼や世界級鬼を召喚した力は、魂の杖によるものだ。肉体を動かす力としては使えなくとも、魔法を超える魔法を使う力としては、現実においても魂の杖は有用なのである。
ただ、魂の杖の力は現実世界では、消耗が激しいという弱点を抱えている。並の人間では、そもそも魂の杖は使えない。杖魔であっても、魂を削るレベルの行いだ。
もっとも、杖魔の魂は黒界ならば平行世界の自身が無限にいる事により簡単に回復出来る。だからこそ、ムオルは現実にこだわり、そこで魂の杖の力で出来る事を試し、改良し、現実世界でも猛威を振るおうとしている。
ところで、普通の魔力は現実世界で補充する事が出来る。杖魔はこれもまた狙いとしていた。
健常な人間ならば、魔法を使うなどして多少くらいの魔力を使ってしまったとしても、通常の生活をしていれば魔力は一定までなら自然回復していく。
杖魔もそうした肉体構造は、現実では人間に似ている。現実世界で活動するにあたって、杖魔たちは『魂の杖で、現実世界に人間に近い肉体を生成し、その肉体に精神を移植する』というややこしい方法を取っているのだ。
しかしその代わりに、人間に近い構造の肉体を通じて、杖魔は普通の魔力を活動のために取り込む事に成功したわけである。
「しかしあないに、おっきな鬼さん呼んで、よう死なんかったなあ。ムオル氏」
「いや、実際にはギリギリまで魂を削った。そこまでしてでも、我々には時間が必要だ。そうだろう?」
「せやな。三番目にもその内、手伝ってもらおうやない」
そう言いつつ、シーバースは無名の杖魔をちらりと見た。
黒界における今の焦点は、平行世界の内の三柱の杖魔が集う次元だ。
そして三番目と呼ばれた、ムオルでもシーバースでもない幼い杖魔は小柄な肉体を持て余し、ぴょんぴょんと跳ねて遊んでいた。
「剣の勇者。今の内に粋がっておれば良い。勝機は我々が持っているのだ」
「あんさん、頼りにしてまっせ」
魂の杖。その力は不安定だ。そのため慣れていないシーバースでは効果がまちまちだが、ムオルは剣の勇者を倒すための執念だけで魂の杖を7割は使いこなしている。
「貴殿はまだ若い。勇者との戦いに備え、貴殿も杖の修練に励め」
「なんやそんなん、面倒はワシ嫌いやん。出たとこ勝負が個性みたいなトコあんねん」
お気楽に見えるシーバースだが、テックに負けず劣らず真面目すぎるムオルにブレーキを掛けているのは彼だ。シーバースがいなければムオルは勝負を焦り、現実に出たっきり倒されていただろう。
「役割に徹するんは素敵やけども、ま、人間力を磨くんもええで」
「我々は人間ではない」
「いやいや、そういうんとは違うんや。なんや人間の頭は、分からんと読めんねや」
「ふ、ふむ。それならば一理あるな」
「一理あるがな言うてみ」
「それは断る」
ムオルとシーバースは、互いの欠点を補い合うように存在しているかのようだ。人のように単なる巡り合わせに違いないけれども、少なくともシーバースはムオルの猪突猛進をからかっては楽しんでいる。
「貴殿は勇者にどう出る」
「貴殿にお任せ、風任せ」
たとえば、ムオルがいる黒界とシーバースがいる黒界は別々に存在するが、ムオルとシーバースは同じ黒界を共有してもいる。
どういう事かというと、黒界に存在している限り、杖魔はあらゆる平行世界を一つの意識で見ているようなものなのだ。
杖魔だけがそれを可能にしており、キジュアのような人間では不可能だ。キジュアはあくまで杖魔が存在しない、擬似的な黒界を生成出来るに過ぎない。
ムオルたちは世界級鬼を倒された事で、暫くは黒界から出られなくなった。
フレイアが言っていたように、魂の杖はオーディンが魂の剣を新たに作った事で力を増した。
「無理するからやがな。余計、何も出来ひんなってもうたよ」
「いや、成果はあった。大鬼を一つ潰すのに、あれだけの時間が掛かるなら、我々があちらで力を得るのも間に合うだろう」
実はムオルたちは、テックたちがいる現実世界に出られるようになっただけである。黒界の中でしか、杖魔たちは本来の力を発揮出来ないのだ。
「あん時みたく、現実をコピーした黒界にしときゃあ良かったねんて」
「それは困る。たとえ一時は力を損なっても、我が分身を育てるのはあちらでしか不可能だ」
現実世界では、ムオルたちは力を大きく制限されている。これは現実での活動に必要な、普通の魔力を杖魔が得ていないためだ。
彼らは魂の杖が持つ、魔力を超える魔力と言うべき力を拠りどころとしている。この力は魔力より強いが、現実世界では肉体を動かすのには普通の魔力が使われ、魂の杖の力では大した力が出せない。
一方、黒小鬼や世界級鬼を召喚した力は、魂の杖によるものだ。肉体を動かす力としては使えなくとも、魔法を超える魔法を使う力としては、現実においても魂の杖は有用なのである。
ただ、魂の杖の力は現実世界では、消耗が激しいという弱点を抱えている。並の人間では、そもそも魂の杖は使えない。杖魔であっても、魂を削るレベルの行いだ。
もっとも、杖魔の魂は黒界ならば平行世界の自身が無限にいる事により簡単に回復出来る。だからこそ、ムオルは現実にこだわり、そこで魂の杖の力で出来る事を試し、改良し、現実世界でも猛威を振るおうとしている。
ところで、普通の魔力は現実世界で補充する事が出来る。杖魔はこれもまた狙いとしていた。
健常な人間ならば、魔法を使うなどして多少くらいの魔力を使ってしまったとしても、通常の生活をしていれば魔力は一定までなら自然回復していく。
杖魔もそうした肉体構造は、現実では人間に似ている。現実世界で活動するにあたって、杖魔たちは『魂の杖で、現実世界に人間に近い肉体を生成し、その肉体に精神を移植する』というややこしい方法を取っているのだ。
しかしその代わりに、人間に近い構造の肉体を通じて、杖魔は普通の魔力を活動のために取り込む事に成功したわけである。
「しかしあないに、おっきな鬼さん呼んで、よう死なんかったなあ。ムオル氏」
「いや、実際にはギリギリまで魂を削った。そこまでしてでも、我々には時間が必要だ。そうだろう?」
「せやな。三番目にもその内、手伝ってもらおうやない」
そう言いつつ、シーバースは無名の杖魔をちらりと見た。
黒界における今の焦点は、平行世界の内の三柱の杖魔が集う次元だ。
そして三番目と呼ばれた、ムオルでもシーバースでもない幼い杖魔は小柄な肉体を持て余し、ぴょんぴょんと跳ねて遊んでいた。
「剣の勇者。今の内に粋がっておれば良い。勝機は我々が持っているのだ」
「あんさん、頼りにしてまっせ」
魂の杖。その力は不安定だ。そのため慣れていないシーバースでは効果がまちまちだが、ムオルは剣の勇者を倒すための執念だけで魂の杖を7割は使いこなしている。
「貴殿はまだ若い。勇者との戦いに備え、貴殿も杖の修練に励め」
「なんやそんなん、面倒はワシ嫌いやん。出たとこ勝負が個性みたいなトコあんねん」
お気楽に見えるシーバースだが、テックに負けず劣らず真面目すぎるムオルにブレーキを掛けているのは彼だ。シーバースがいなければムオルは勝負を焦り、現実に出たっきり倒されていただろう。
「役割に徹するんは素敵やけども、ま、人間力を磨くんもええで」
「我々は人間ではない」
「いやいや、そういうんとは違うんや。なんや人間の頭は、分からんと読めんねや」
「ふ、ふむ。それならば一理あるな」
「一理あるがな言うてみ」
「それは断る」
ムオルとシーバースは、互いの欠点を補い合うように存在しているかのようだ。人のように単なる巡り合わせに違いないけれども、少なくともシーバースはムオルの猪突猛進をからかっては楽しんでいる。
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「貴殿にお任せ、風任せ」
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