マテリアー

永井 彰

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魔法の剣

日常

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「テック、久しぶり」
「おう。ショーン、ちょっと見ない間に、えっと、なんか変わったな」
「そこまで来たら無理にでも誉めよう!?」
「いいじゃない、男でしょ」
「それも、そうだね」

 テック以外の冒険学校マースドントの旅行参加者たちは、世界級鬼ワールド・ビースト出現を知り、早々にノジアに引き上げていた。
 ガーンダムがテックについて、教師たちにどう伝えたかは気になるところだ。しかし特に退学などの処分は聞いていない以上、二週間程度の短い夏期休暇が終わればまた長い学習期間が始まるのだ。

「しんどい」
「テック。社会はもっとしんどいから」
「アナが言うと凄味がありすぎるよ」
「それは分かるわよ。ただ、ショーンはショーンで気を遣いなさい」


「テックさん。ちょっとだけ良いかな」
「ショーン。アナ。死んだら墓を頼む」
「イヤだ」
「そこまでは無理よ」

 スガンに呼び出され、テックは薬草学の教授室にいた。
 冒険学校は高校と大学の間にあるようなシステムだが、大学のように教授や研究室があるのだ。

「テックさん。魔法剣は内密に頼む」

 やはり、ガーンダムは正直に全てを伝えていたようだ。しかしスガンを始め、旅行に参加した教師たちは慎重に動いた。
 また、戦闘が得意な一部の教師は至高の島に残った上で、テックたちを密かに尾行していたために魔法剣らしき武器で戦うテックは、目撃されてしまっていたのだ。

「内密っていうのは、学校の都合ですか」
「まあ、それもある。でもテックさんも、冒険者である以前に知ってないといけない。魔法は人間の禁忌。十三傑ほど特別でもないテックさんが、気軽に使っていては平和が乱れるんだ」
「えー、でも、ヤバい鬼が来たらどうするんすか」
「次からは、まずは我々に連絡し、対応を任せてくれ。十三傑並みでなくとも、あのレベルの魔物に対応出来る組織はある」
「っ、いや、待ってください」
「待てない。それに魔法は禁忌と言うのは、使用者は制裁や懲罰の対象になる可能性が高い、という事でもある。少なくとも、人前では絶対に使わないこと。分かるね」

 言いくるめられた感もあるが、要するに何があったところで今までとそう変わらない。テックにとっては、そういう状況なのだ。


「テック。ここは勇者の溜まり場じゃないんだぜ」

 神託の庭を訪れても、フレイアも感じが悪い。早い話が、大鬼を十三傑に倒されたという、勇者にあるまじき結果はオーディンにウケなかったのである。

「じゃ、修行しなくていいのか」
「キジュアに早く追い付け。まだ第四剣サンサーラでは、敵の進化にまるで勝てないんだぜ」
「いや、どうしろと」
「え?まあ、その、それはじゃあその内、何か考えてやってもいい」
「騒がしいな、テック」

 キジュアもやって来た。魔剣があるので、自由に神託の庭に来られるというわけだ。

「キジュアさんに追い付かないといけないらしい」
「第七剣が難関だな」
「そうなのか?」
「第七剣は、他の剣以上に人それぞれなんだ。だからただ修行しても習得は不可能だ」
「いや、どうしろと」
「俺の場合は、何度も死んで悟った。ただ、今後ヤツらが黒界カオスに我々を呼ばないなら厄介だな。現実での死は復活出来ない」
「微妙に新情報じゃん、それ」
「ま、とにかくお前は大変な時代の勇者だ。少しばかり同情するよ」


 テックは久しぶりに、クラン暁鴉ぎょくあにも顔を出した。

「やあ、テックさん。調子はどうかな」

 ヤンはヤンで丁度、仕事の合間のようだ。さん付けはスガンを思い出すが、テックはわざわざ言う事でもないのでそれなりに近況を報告するに留めた。

「はは。闘技場は荒くれ者が集まるからね。色々言われるのは無理もないさ」

 テックが切り出したのは、闘技場清掃依頼での観客の酷さだ。
 ノジアには2つの闘技場がある。北部のスタダード闘技場と、南東部のノジア記念闘技場だ。
 テックは両方の清掃依頼をそれぞれ受けてみた。ノジア記念の方は見た目こそ彫刻が飾られた美的なセンス溢れる建物だったが観客は大差なく、やかましいばかりで、掃除するタイミングを待っているだけでも心ない言葉のオンパレードだったらしいのだ。

「ま、まあ。今は景気悪いからそれが影響してるだけだと思うよ。俺もたまに試合見るけど、そんなに感じ悪いのは運が悪かったね」

 じゃあ、講義があるから―――とヤンは颯爽さっそうと去って行った。
 すると、入れ違うように見覚えのない職員が入ってきた。

「あー。もしかしてキミ、テック=シヴァンじゃね?」
「は、はい。そうですけど」
「俺、ウィスパー。月下零のダメ長なんだ」
「は、はあ。そうですか」
「ちなみにヤンの親友でもある。たまにはウチにも遊びに来てくれよな」
「いや、忙しいんで」
「ええええ。おじさん、悲しいわあ。じゃ」

 ウィスパー=キー。テックの物語においては影が薄いが、何もしていないわけではない。
 単に影が薄いだけなのだが、テックは知るよしもないのだった。
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