マテリアー

永井 彰

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グランド・アーク

馬は100km

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「ボックン、時速100kmであなたに勝てるよ。馬は100km。ボックンが考えたコトワザだよ」
「どんな意味だ」
「馬は時速100kmで勝てる」
「そのまんまだな・・・空転竜閃フェイント・ナイフ

 なぎ払いにフェイント、つまり牽制を交えただけではあるが、竜閃ナイフといい今の技といい、ダランが繰り出すと、ひと振りあたりのパワーが凄まじいのだ。
 竜閃ナイフはパワー、飛竜レーザーはスピード。ダランはそのように技を使い分けている。

「ボックンとここまで戦えるのは、あなたが初めてだよ」
「ほう、それは喜んで構わないのか?」
「ボックンは生まれたてだから、あなたが初めての敵なんだよ」
「じゃあ、喜べんじゃん」

 ダランは100kmが伊達ではないことを、氷の馬で痛感していた。
 先ほどから、会話していてもその速さは衰える事がない。氷の馬は氷だから、体力という概念すらないかもしれないと思えるほどだ。
 だが一方で、上級冒険者とは言えダランは人間だ。100kmを目で追い続けるだけでも、気力体力は確実に消費されていく。

「よし、ならば私も100km出そう」
「な、なんだって」
「馬は100km、ならば私も馬だ。行くぞ、駿馬之飛竜サラブレッド・レーザー

 翼竜槍ドラコには、電流装置以外に特別な装置はない。ただ単に、強い脚力のみでダランは時速110kmを超えたのだ。

「わああ、人間の速さじゃないよ」
「すまんね、並みの人間ではないんだ」

 ダランは氷の馬に迫っては、少しずつ氷武装を削っていく。氷の馬よりは堅い氷だが、削れない事もないと分かってからはひたすら持久戦だ。
 氷武装がなくなるまで、ひたすらダランは速さ競争に勝ち続けた。

 しかし、武装を剥がした瞬間にそれは起きた。

 氷の馬は、再び氷武装を身に付けたのだ。

「なんだと」
「シャシャシャ。氷がある限り、ボックンは負けないよ」

 そして、減速知らずの跳ね回りが再開した。ダランは超人的な技でかなり消耗しただけあり、やや不利になってきていた。

(だが、ここが氷の宮殿だとして、電磁竜閃リークは使えない。先がどれだけか分からない以上、安易に解禁は出来ぬ)

 しかも、ジュコの長牢獄以来、充電出来ていない翼竜槍では、電磁竜閃は1回しか使えないままなのだ。

「翼竜槍も体力も無駄遣いは出来ない、か」
「そういうの多分、独り言って言うんだよ」

 跳ね回りながら、氷の馬は左足だけは溶かしたままに余裕のコメントだ。

(ん?左足は治さないのか。―――いや、それとも)

 ダランは気付いた。氷の馬の左足は、溶けた状態から少しも変わりない。そこで、ダランは予想した。

 どういうわけ氷の馬は、自分自身の体の氷は修復出来ないのではないか、というのだ。

「馬よ、足は大丈夫か・・・・・・
「ダランとか言ったよね。その通り・・・・だよ。ようやく、本当の意味で戦いは始まったよ」

 しかし、ダランは動かない。
 もし、駿馬之飛竜で氷の馬を溶かしても無意味だったら困るのだ。実は溶けた左足はフェイクで、簡単に氷の床から復活されたとしたら、たまったものではない。

「どうしたんだよ。でも、ボックンは別に構わないよ。永遠に100kmだよ」

 ダランは待った。最低限の動きで時速100kmを回避しながら、機会を伺い続けた。
 そして、最低限の動きで氷の馬を全て溶かせるなら、それは試しても良いだろうという結論に達した。

(槍を極限まで器用に動かさなければなるまい。慎重に、かつ素早く。力強く、かつ精密に)

「む・・・!飛竜閃レーザー・ナイフ

 飛竜でも竜閃でも効率が悪い、とダランには分かっていた。それでは先々の戦いに耐えられないと。そこでダランは、飛竜と竜閃を同時にやってのけたのである。
 なぎ払いと打突の連携コンボ。それが立体的な攻めとなり、氷の馬は蒸発していくのだった。


「復活は、しないのだろう」

 しばらく待ってみても、部屋からは出られそうにない代わり、完全に消滅した氷の馬も復活しそうにはなかった。

「ふむ。他のみんなが勝たない限り、ここから出られないとしたら?」

 嫌な可能性が脳裏をよぎった。もしそうなら、1人の勝ち負けでは無意味で、むしろ1人の敗北が永遠の密室、つまり全滅を意味するのだ。

 そしてダランがもう1つ発見したのは、氷の馬が削り出したはずの氷の床は、入ってきた時と同じように整っていて傷もない事だ。

「つまり、壁や床を掘り進めようにも、こんな風に塞がったら動けないかもしれん、な」

 敵がいなくなったところで安心も出来ないというわけだが、進むのも戻るのも無理という状況には、ダランといえどもお手上げしかないのだ。

「スフィアたち、無事だろうか。それとも、この戦いすら魔法人形が見せる悪夢なら、私はこれからどうなるのだろう」

 憤りのために、ダランは無意味と知りながら翼竜槍で床を突いたのだった。
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