マテリアー

永井 彰

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グランド・アーク

霊力魔法

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燃指モエユビ

 クワイダンは、熱くなったハサミでワルガーを中心に攻撃していく。人形のゼロより、生身の人間の方が熱によるダメージが大きいはずと考えたのだ。

「があっ!!あちッ」
「エビだから焼いてあげる」
「やめろ、エビ人間」

 ゼロは先ほどよりも力強く靴砲ホップ・キャノンを繰り出した。
 しかし、焼きごてのようなハサミは強度も増しているのか、先ほど以上に堅い、という感覚であると突撃して分かったゼロ。

(くそう。あの堅すぎる甲殻をなんとかしないと、何度叩いても無駄・・・!)

 ゼロは攻撃の隙がないか、さりげなくクワイダンを観察したが、全身が真っ赤な甲殻に覆われており、攻めいるポイントはなさそうである。

(む、近くにあるモノ・・・物質?なるほど、解は出た)

 ワルガーは一計を案じた。載るか反るかだが、当たれば勝てる秘策だ。

「ゼロ、お前、デカくなりたいか」
「え?どういう意味です」
「デカくなりたいかって聞いたんだ」
「ま、まあ、なりたいでしょうね、多分」
「なら、叶えてやる」

 ワルガーは念じた。霊力を使った魔法は詠唱なしで使えるのだ。
 巨大化魔法。鏡の塔で手斧を大きくした、スプリガンに源流のあるあの魔法をゼロに使った・・・・・・のだ。

「う、わあぁああぁあ!?」

 その部屋は、ほとんどゼロの体で埋め尽くされた。少し動くだけで、ワルガーまで潰されかねないほど、ゼロは極限まで巨大化されたのだ。

「な、エビだからってナメやがって」
「エビなのかよ」
「燃指!燃指!」
 クワイダンは熱ハサミでの攻撃を何度もゼロに当てるが、大きなゼロの足にはもはや、虫刺されにもならない。

「エビさん、じゃあさよなら」

 一思いに、思いっきり踏み潰すゼロなのだった。

「泥棒さん」
「なんだ、人形マン」
「どうやって元に戻るんですか」
「そうだなァ」

 大盗賊はニヤリと笑った。

「ワルガーさんと呼んだなら、考えてやってもいい」


 そして、不思議な事が起きた。

 クワイダンは霊体となり蘇ったのだ。

「あのー、これはエビに生まれ変わる前兆でしょうかカニ」
「ん?あー、そうだ、思い出した」
「私は地縛霊でしょうかカニ」
「ただ語尾がカニだったっけ?!」

 霊力魔法を帯びた攻撃で死んだ魂は、浄化される。浄化とは、天国に行く前段階になるのだ。

「では、このままおとなしくしていればエビになれるのですかカニ」
「まあ、エビかは知らんが生まれ変われるぜ」
「退屈カニ」
「だから語尾がカニだったっけ?」

 その後、色々な検討の結果、ゼロの中に霊体が入れる事が判明した。

「お世話になるカニ」
「地元はみなさん、語尾がカニらしいです」
「そ、そうなのか」
「召喚魔として頑張るカニ」
「やれるもんならやってみろエビ!?」

 魔法を極めた者ならば、霊体を召喚魔として使役する事は可能である。しかし、ゼロには到底、厳しそうだ。

「ここのボスへの恩義とか、ねえの?」
「はあ。突然、ワープさせられて、大量のエビをやるから暴れろって無茶言われてたカニ。もう未練は、なカニ」
「エビ好物なのかよ!?」

 そして更に色々な検討の結果、クワイダンは成仏出来るまで、ゼロの心の世界に住む事にした。

「未練あんのかよ!?」


「キミもボクなのかい」
「俺様はクワイダン。エビの中のエビなんだカニ」
「オールディント、キミは変わってしまったんだね」
「クワイダンなんだけどカニ」

 白衣の男は、クワイダンを冗談交じりに歓迎したようだった。


「とりあえず、心の世界とかいう概念は理解した。確かにそこなら霊体も住める。そういう構造だ。珍しい話ではあるが、人間の中にも似たようなのがいる」

 ムデュマという老師がいる。十三傑のダイ=キアに魔法を教えたという別格の存在だ。

「ムデュマはその身に千の魂を宿す事で、知識も千人分、持ってるらしい。本当なら、バケモンだよな」
「ただ、ボクはまだ自分の意思では心の世界に入れません」
「そりゃ、お前は人形なんだ。人間の心を持ってはいても、そのカタチも場所も分かってねえ。呼ばれねえと行けないらしいのは、恐らくそういうこった」

 これから、ワレスを倒すまでの旅路の中でゼロは、きっとまだまだ強くならなければならないだろう。そうなると、より強い魔法が必要となる時が必ず来るはずだ。
 心のカタチと場所。
 ゼロにとって、それは勝ち続けるために知らなければならない事らしいのである。


「ワレス、か」

 ワルガーは呟いた。悪の道に外れたワルガーは、果たして悪の王であるらしいワレスと戦えるのか不安に思っているのだ。

「俺に出来るのは戦う事と、モノをデカくする事、そんだけだ。もし俺がいなくなっても姫を守れ。約束だぞ」
「泥棒さん、急にどうしたんです」
「ワルガーだ」

 負ける可能性だけを言っているのではなかった。騎士への復讐心、悪への渇望は自らを裏切りに走らせるかもしれない。
 そんな弱い心を自覚しているからこそ、ワルガーは今のうちにゼロに望みらしき何かを託すのだった。
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