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グランド・アーク
空気との戦い
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「空気だと?そんなバカな」
マジルは透明者に向かって言った。空気がしゃべるのもおかしければ、空気が攻撃してくるのもおかしいからだ。
「私のド名前はエアエ。ほとんどド空気だから、どんなド攻撃も私には通じない。倒すのはド不可能だ」
エアエは透明なのでどんな表情かまでは分からない。しかし明らかにその声に含まれた愉快極まりないという感情は、敵として戦う事の厄介さに等しい。
「スプスー。なんでも良いから援護して」
「ちょ、いきなりは厳しいプリ」
「もう!用意くらいしておいてよ」
魔法といえども、空気を攻撃するのは困難だ。よほど上手い使い方があれば別として、少なくとも空気を攻撃する事を主な目的とした魔法にスプスーは心当たりがなかった。
もちろん目的外の使用法を検討したところで、すぐには勝利可能な秘策は思い浮かばない。
「ド手上げかな?」
「いや、お手上げじゃない」
マジルのそれは、ほとんど強がりだ。ただ、マジルの暗殺奥義の中には変わった技がある。
(試してみる価値はある、か)
取り出したクナイに、マジルは薬品を塗りつけた。彼女は暗殺のために8つの特殊な薬品、キラー・ボトルと呼ばれるそれらを常備しているのだ。
「息を止めておいて。一瞬だけ空気を抜くから」
マジルが塗ったのは、空気を吸収する薬品だ。ただ吸収するだけではなく、吸収量が普通ではない。体育館くらいの広さであっても即座に空気を無くしてしまうほどの凄さだ。
密室なら、確実に窒息する。ただ殺すためだけの薬物なのだ。
「な、なな、吸い込まれる」
怯えたような声を出すエアエ。―――と、次の瞬間。
「なんてね」
マジルはぎょっとした。ほんの3秒ほどで、全ての空気は吸収されるはず。そして敵が死んだのを確認したら、空気を生成する補助ビンを開ければ証拠すら隠滅される。
しかし、10秒経ってもエアエがいる。
「まあ、私は空気じゃないから。ド空気だから」
マジルは気付いた。
(もしかして、厳密には空気ではないのか!?)
分子式から組成に至るまで完全に空気でないと、マジルが使った薬品、サンプルD・断空気は効果を発揮しない。
「くそっ、造空気」
補助ビンを開けると空気が生成された。そして「呼吸していい」とマジルが促すと、苦しそうだったスフィアやスプスーの顔色も戻った。
「打つ手なしなら、あなたもお仕置きだ」
マジルの体も宙に浮いた。そして、二人と同じように、壁に向かって飛ばされたのだ。
(攻撃を食らっても、正体が掴めない)
マジルは冷静だった。攻撃を受けた感触が分かればあるいは、とは思っていたのだ。だがエアエの攻撃は、まるで重力を無視した空間で少し押されたかという程度の感覚しかない。
「マーちんも、やられちゃったっプリねえ」
「どうしましょう、本当にお手上げです」
「諦めないで。まだ何か、きっと手はある」
マジルはエアエとの戦いの記憶を、出来るだけ脳内再生した。反撃の糸口になる、どんな細かなヒントでも必要だからだ。
(まず、ヤツへの攻撃は通らなくはない)
序盤での五十音順刀で判明した事だ。
(次に、ヤツは空気とは違うが、ほとんど空気と同じだ。言い分が正しいという前提ではあるが)
断空気で吸収は出来ないから、空気そのものではない。しかし「ほとんど空気」「空気でなくド空気」というエアエ自らによる証言は、それなりに有用そうだ。
「スプスー。空気を固定してくれ」
マジルは閃いた。これなら勝機があるかもしれない、と。
「分かるとは思うけど、空気が動けなくなると、みんな体を動かせなくなるプリ。マーちん。それでも構わないプか?」
「ああ、構わない」
「なら、やるプリ」
スプスーは詠唱を始めた。それは比較的単純な魔法、普通は動けなくなるだけの役立たずな魔法だ。
詠唱すら1秒で終わる、下級魔法の中でもいたずら用の最下級魔法。
「動けないぞ結界」
下級魔法だけあり、持続時間は5秒。だがマジルには十分な時間だ。
「吸い上げが無理なら、燃えてもらう」
マジルは新たなキラー・ボトルを取り出した。
「サンプルG。燃空気」
空気が一瞬にして燃焼した。普通は簡単には燃え広がらない空気を無理やりに燃やす。焼死暗殺用の薬品だ。
マジルは訓練により燃やされても燃えない。そして二人は、事前に優しい泡で保護されていたので無事だ。
「燃える燃えるうう。私がド消滅するう」
断末魔は、空気が燃え尽きる頃には消えてしまったのだった。
マジルはスフィアの方を見た。暗殺者の技を使った事で、軽蔑されたのではないかと思ったのだ。
しかしスフィアは、にこりと微笑んだ。
(これで良かった。悪いヤツに勝ったんだ、私)
マジルは安心し、そしてスプスーに手伝ってくれたお礼を言った。
と、その時、大きな音がどこかからした。
3人が部屋を見渡すと、今まで無かった入り口が開いていたのだった。
マジルは透明者に向かって言った。空気がしゃべるのもおかしければ、空気が攻撃してくるのもおかしいからだ。
「私のド名前はエアエ。ほとんどド空気だから、どんなド攻撃も私には通じない。倒すのはド不可能だ」
エアエは透明なのでどんな表情かまでは分からない。しかし明らかにその声に含まれた愉快極まりないという感情は、敵として戦う事の厄介さに等しい。
「スプスー。なんでも良いから援護して」
「ちょ、いきなりは厳しいプリ」
「もう!用意くらいしておいてよ」
魔法といえども、空気を攻撃するのは困難だ。よほど上手い使い方があれば別として、少なくとも空気を攻撃する事を主な目的とした魔法にスプスーは心当たりがなかった。
もちろん目的外の使用法を検討したところで、すぐには勝利可能な秘策は思い浮かばない。
「ド手上げかな?」
「いや、お手上げじゃない」
マジルのそれは、ほとんど強がりだ。ただ、マジルの暗殺奥義の中には変わった技がある。
(試してみる価値はある、か)
取り出したクナイに、マジルは薬品を塗りつけた。彼女は暗殺のために8つの特殊な薬品、キラー・ボトルと呼ばれるそれらを常備しているのだ。
「息を止めておいて。一瞬だけ空気を抜くから」
マジルが塗ったのは、空気を吸収する薬品だ。ただ吸収するだけではなく、吸収量が普通ではない。体育館くらいの広さであっても即座に空気を無くしてしまうほどの凄さだ。
密室なら、確実に窒息する。ただ殺すためだけの薬物なのだ。
「な、なな、吸い込まれる」
怯えたような声を出すエアエ。―――と、次の瞬間。
「なんてね」
マジルはぎょっとした。ほんの3秒ほどで、全ての空気は吸収されるはず。そして敵が死んだのを確認したら、空気を生成する補助ビンを開ければ証拠すら隠滅される。
しかし、10秒経ってもエアエがいる。
「まあ、私は空気じゃないから。ド空気だから」
マジルは気付いた。
(もしかして、厳密には空気ではないのか!?)
分子式から組成に至るまで完全に空気でないと、マジルが使った薬品、サンプルD・断空気は効果を発揮しない。
「くそっ、造空気」
補助ビンを開けると空気が生成された。そして「呼吸していい」とマジルが促すと、苦しそうだったスフィアやスプスーの顔色も戻った。
「打つ手なしなら、あなたもお仕置きだ」
マジルの体も宙に浮いた。そして、二人と同じように、壁に向かって飛ばされたのだ。
(攻撃を食らっても、正体が掴めない)
マジルは冷静だった。攻撃を受けた感触が分かればあるいは、とは思っていたのだ。だがエアエの攻撃は、まるで重力を無視した空間で少し押されたかという程度の感覚しかない。
「マーちんも、やられちゃったっプリねえ」
「どうしましょう、本当にお手上げです」
「諦めないで。まだ何か、きっと手はある」
マジルはエアエとの戦いの記憶を、出来るだけ脳内再生した。反撃の糸口になる、どんな細かなヒントでも必要だからだ。
(まず、ヤツへの攻撃は通らなくはない)
序盤での五十音順刀で判明した事だ。
(次に、ヤツは空気とは違うが、ほとんど空気と同じだ。言い分が正しいという前提ではあるが)
断空気で吸収は出来ないから、空気そのものではない。しかし「ほとんど空気」「空気でなくド空気」というエアエ自らによる証言は、それなりに有用そうだ。
「スプスー。空気を固定してくれ」
マジルは閃いた。これなら勝機があるかもしれない、と。
「分かるとは思うけど、空気が動けなくなると、みんな体を動かせなくなるプリ。マーちん。それでも構わないプか?」
「ああ、構わない」
「なら、やるプリ」
スプスーは詠唱を始めた。それは比較的単純な魔法、普通は動けなくなるだけの役立たずな魔法だ。
詠唱すら1秒で終わる、下級魔法の中でもいたずら用の最下級魔法。
「動けないぞ結界」
下級魔法だけあり、持続時間は5秒。だがマジルには十分な時間だ。
「吸い上げが無理なら、燃えてもらう」
マジルは新たなキラー・ボトルを取り出した。
「サンプルG。燃空気」
空気が一瞬にして燃焼した。普通は簡単には燃え広がらない空気を無理やりに燃やす。焼死暗殺用の薬品だ。
マジルは訓練により燃やされても燃えない。そして二人は、事前に優しい泡で保護されていたので無事だ。
「燃える燃えるうう。私がド消滅するう」
断末魔は、空気が燃え尽きる頃には消えてしまったのだった。
マジルはスフィアの方を見た。暗殺者の技を使った事で、軽蔑されたのではないかと思ったのだ。
しかしスフィアは、にこりと微笑んだ。
(これで良かった。悪いヤツに勝ったんだ、私)
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