マテリアー

永井 彰

文字の大きさ
88 / 100
グランド・アーク

科学者たち

しおりを挟む
 スフィアのパーティーが、ようやく全員、無事に合流した。

 そして、氷の迷宮の第一層、その全貌もまた明らかとなったのだ。

「やはり、全面的に氷ですね」
「窓もない室内だから、照明だけはあるな。敵さんも妙な親切だぜ」
「宮殿の入り口らしき扉、開きそうにない」
「悪い人形さんが閉じ込めてきたプリね」
「我々は進むしかないのだな」
「ボク、足手まといにならずに頑張ります」

 そうしてそれぞれが口々に宮殿に対する印象や、戦いへの意気込みなどを口にしていると、どこからともなくゾーンが現れた。

【我が名はゾーン。大魔王ワレス様の第一のしもべにして、災厄の人形なり】

「な、何ですか、この頭に響く声は」

 スフィアだけではない。一様に、脳を直接揺らすような声が響いてくるのだ。

「そんで、災厄のなんかが俺たちに何用だ」

 スフィアとゼロ、そしてダランを除いては、ゾーンを見た事すらない。そして、スフィアやゼロでさえ、ゾーンはワレスが操る魔法人形であるらしいくらい事しか知らなかったのだ。
 そのため、それはワルガーでなくとも、ごく自然な疑問なのだろう。

【グランド・アーク。ここがその場所なのは分かるな。そしてアークはもう、目覚めつつある】
「目覚める。それは一体―――」

 マジルの問いなど見透かしていたかのように、ゾーンは、むしろ穏やかに質問を手で制した。

【グランド・アークは命を持つ。スプリガンが作り、神が完成させた地上の奇跡。私にはキサマたちを全員、この場で抹殺する力を得ている。それもアークの恵み、なのだァア】

 言うなり、ゾーンは戦いを挑んできた。弱すぎて先に進ませる価値などない、スフィアたちをそう判断したのだ。

 ゾーンは巨大な氷の塊に魔力を帯びさせ、氷大砲とでも言うべき勢いで、スフィアたちに発射した。
 しかしそれはフェイント。そちらに気を取られている隙に背後や側面に回り込んでは次々に殴る、蹴る、投げ飛ばすと、ゾーンはやりたい放題だ。
 そして、氷塊が来るタイミングすら計算しており、物理攻撃に対する追撃としてスフィアたちをもれなく打ちのめしていく。


 格上。その表現が唯一にして最大の、スフィアたちに対するゾーンなのである。

【まだ本気ではないぞ。これで1割だ】

「な、なんだとプ」
「実力が―――違いすぎンぜ」

 ゾーンは不遜を隠さない、冷酷にして尊大な人形の笑みを浮かべた。

【オールディント。出来損ないの半端な賢者。早くキサマも、大魔王様に下るのだ。素晴らしい力を頂けるだろう】
「オールディントを知っているのか?何者だ、あなたは」
【ワーレン。その転生体が大魔王様だ】

 オールディントの記憶を持たないゼロには、何の事だかさっぱりだ。
 

 だが、白衣の男オールディント=ゼライールはゼロの心の世界で絶望していた。

「ワーレン。ワーレンが全ての黒幕だと?」

 ワーレン。それは、オールディントが死の直前に魂の杖の研究を託した、マテリアー王国の科学者にして無二の親友である男の名なのだ。

「だ、大丈夫かカニ。気をしっカニ持て」

 成り行きで同じ世界にいるだけのクワイダンには、それらしい慰めの言葉くらいしかないのだ。

◇◇◇

 ワーレン=ガルボア。古代マテリアー王国で彼は、オールディントに並ぶ天才科学者と言われていた。そのため、何かと彼と比べられる事は多かったのである。
 だが良き戦友として切磋琢磨する幸せを味わっていたという点に関しては、決してワーレンは不幸でなく、むしろ幸福に分類されるべき人間に違いなかった。

「ワーレン。魔力制御装置の出力原理なんだが、ここがルルカ反応で短縮出来ないかと思うんだ。キミ、どう思うかい」
「うーん。それよりはむしろ反応触媒なんじゃないかな。わざわざ経路を変えなくても、ヒルデニウムがあればルルカ反応の5倍は速くなったはずだ」

 ワーレンに不幸があったとすれば、その生い立ちだ。彼は本来、王族に仕える事が出来ない奴隷だったのである。

「うう。っくそ、くそ、クソが。アイツ、俺が実績に繋がらない地味な反応しか見つけないのを笑ってやがる。あの目はそうだ。―――オールディント、オールディントめ」

 実際、過去を抜きにしてもワーレンが発見する成果は地味で、有用な割には特定の分野にしか貢献しない、尖った研究と見なされる活動ばかりであった。
 ただ、尖っていると思われたのは何もワーレンが悪いわけではない。
 オールディントが優秀すぎたのだ。

(俺が今を見ているのに、オルディは1000年先を見ている。それが俺には恐ろしい。アイツは歴史に残り、俺は、俺は)

 しかし、オールディントは出ていってしまった。そして秘匿とはされていたが、実は故人となっていたのがワーレンの耳に入ったのは、彼がちょうど50歳を迎えた、ある秋の朝の事だ。

「俺は―――欺かれていた。勝ち逃げ野郎、卑怯な天才。あは、あはははは」

 ワーレンの精神に、ぴしりとヒビが入った。奴隷であった事を隠し続けてきたのも、ワーレンの心を手遅れなほどに歪ませてきたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...