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グランド・アーク
ワーレンの過去
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ワーレンは、その頃から魔物を目指し始めた。人間はごく一部を除き、魔法を使う事は古代においても既に禁忌であった。
もし仮に人間が魔物になれたならば、魔法を使っても問題ないと考えたのだ。
実際には、元が人間ならば魔物になること自体が倫理的にまずいだろうし、魔物になったところで人間であった過去は変わるわけがない。
結局、ワーレンは狂い始めていたのだ。そして己の内にある狂った心の行き先を、魔物になるという目標として定めたのだった。
◇◇◇
「ワーレン、なぜだ。キミは優秀なだけでなく心根が温かい人間だった。どうしてキミのようは天才が」
意気消沈するオールディントに対し、何を言ってよいのかクワイダンには分からなかった。
(俺様には分からんカニ。天才?だから何になる。こうして見ていると、俺様が正しいと分かるカニ。天才じゃなくて正解なんだカニ)
◇◇◇
「くっくく。この草をコイツの唾液に混ぜてゴブリンに与えたらどうなるのかを試してみようかな」
ワーレンは狂気の研究室を、マテリアー城下町の自宅に作った。タンスの奥に隠し扉があり、普通は気付かない。
そして心ゆくまで、魔物化の研究に明け暮れた。魂の杖に関しては、その頃には更に優秀な科学者たちの手で最先端の研究として精力的に取り組まれており、ワーレンは引退寸前の貧乏科学者として冷遇されていた。
それだけに、私的な研究の時間は限りなくあったのだ。
皮肉なものである。世界に平和をもたらす力を持つ魂の杖を預かる偉大な国で、大魔王はその誕生の時に刻一刻と近付いていたのだ。
「転生しかない、か」
幾千に渡る予備実験の末、ワーレンは人間が魔物になるには転生、つまり生まれ変わるしかないという仮説を生み出した。
転生という概念は、ワーレンが幼少の頃に錬金魔法の使い手たちによって発見された。その事をワーレンが知ったのは、彼が32歳になり研究者としての生活に余裕が出てきてから調べた結果だ。
ワーレンは、マテリアー王国の出身ではない。
極寒の地、タイガー・ドア。ママルマラなどがあるスイビー氷陸の一国で、ワーレンの家は極貧の生活を強いられていた。
ワーレンの父が、彼が生まれて間もなく事業で失敗したのだ。
少年時代には、酷いいじめをワーレンは受け続けた。蔑みの言葉ばかりを投げ掛けられ、そして学校には行けても授業を受ける事は実質、禁じられていたのだ。
机は何度も壊され、ペンや紙は何度も踏み潰された。まるで何かの犯人という扱いを一貫され、ワーレンは自分が人間ではなくなってしまったような感覚を覚えた。
「天才になって、成り上がってやる」
ワーレン少年はなんでもした。泥水をすするような本当の奴隷稼業もしたし、盗賊を手伝ったりもした。そこから少しずつ、人間が持つ悪意を学んだのだ。
(底辺の世界に居場所を作る方法。それさえ分かれば、失う物は何もあるまい)
そして、機会は突然訪れた。
ワーレンが21歳の頃である。
マテリアー王国の研究者に選ばれたばかりという若者が、偶然にもタイガー・ドアにやって来たのだ。
ワーレンは裏の情報網で宿泊先を聞き、並々ならぬ演技で知識人を装いその男に近付いた。
「へえ、魂の杖の研究、ね」
「ああ、キミなら相当に分かるだろうけどね。ただ少し憂鬱だよ。これからマテリアー王国入りするにあたっての予備調査に来ているんだが、魔力の強そうな場所をこの辺りに知らないか?」
この会話でワーレンは、まだこの男が王国に入っていないという極めて重要な情報を手にした。
(コイツになろう)
ワーレンの中の狂気は、思えばこの時から始まっていたのだ。
身分証は偽造し、学歴を証明する書類は、男が持っている物を模倣した。ただボロが出ないように、少年時代から念入りに下調べしたママルマラ国立アカデミーの魔力物理学の出身であると偽る事は忘れなかった。
あとは、男の命を奪うだけであった。
密かに、したたかに、狡猾にそれは成された。
そしてその業は成就し、ワーレンは貧しいながらも本物の科学者として老いぼれるに至ったのだ。
「ふう、つまらん事を思い出してしまった」
転生の事を考えていたはずが、回想に捕らわれていた自分を自覚したワーレンだったが、しかしそんな日々も終わると思うと、不思議と心は晴れやかだ。
判明したのだ。
ただのスライムの体内代謝物に適量の魔力とワーウルフの血を足し、高温で長時間、熱する。それにより特殊な反応を引き起こす事が、ほんのくだらない適当な実験から分かったのである。
そしてその反応物をグライド・ドラゴンの乳に混ぜた液体を猿に飲ませた結果、バフォメットの幼体に転生したのだ。
ワーレンは何度かそれを試した。そして、とうとう自らで試す覚悟をしたのだ。
(幼体になると記憶はどうなるのか。だが、そんな小さな事はどうでもよかろう)
人間に試す機会はなかった。流石にそこまで隙のない人間はマテリアーにはいなかったし、強い存在になられたら困る。
そうやってワーレンは、何かに転生したのだ。
もし仮に人間が魔物になれたならば、魔法を使っても問題ないと考えたのだ。
実際には、元が人間ならば魔物になること自体が倫理的にまずいだろうし、魔物になったところで人間であった過去は変わるわけがない。
結局、ワーレンは狂い始めていたのだ。そして己の内にある狂った心の行き先を、魔物になるという目標として定めたのだった。
◇◇◇
「ワーレン、なぜだ。キミは優秀なだけでなく心根が温かい人間だった。どうしてキミのようは天才が」
意気消沈するオールディントに対し、何を言ってよいのかクワイダンには分からなかった。
(俺様には分からんカニ。天才?だから何になる。こうして見ていると、俺様が正しいと分かるカニ。天才じゃなくて正解なんだカニ)
◇◇◇
「くっくく。この草をコイツの唾液に混ぜてゴブリンに与えたらどうなるのかを試してみようかな」
ワーレンは狂気の研究室を、マテリアー城下町の自宅に作った。タンスの奥に隠し扉があり、普通は気付かない。
そして心ゆくまで、魔物化の研究に明け暮れた。魂の杖に関しては、その頃には更に優秀な科学者たちの手で最先端の研究として精力的に取り組まれており、ワーレンは引退寸前の貧乏科学者として冷遇されていた。
それだけに、私的な研究の時間は限りなくあったのだ。
皮肉なものである。世界に平和をもたらす力を持つ魂の杖を預かる偉大な国で、大魔王はその誕生の時に刻一刻と近付いていたのだ。
「転生しかない、か」
幾千に渡る予備実験の末、ワーレンは人間が魔物になるには転生、つまり生まれ変わるしかないという仮説を生み出した。
転生という概念は、ワーレンが幼少の頃に錬金魔法の使い手たちによって発見された。その事をワーレンが知ったのは、彼が32歳になり研究者としての生活に余裕が出てきてから調べた結果だ。
ワーレンは、マテリアー王国の出身ではない。
極寒の地、タイガー・ドア。ママルマラなどがあるスイビー氷陸の一国で、ワーレンの家は極貧の生活を強いられていた。
ワーレンの父が、彼が生まれて間もなく事業で失敗したのだ。
少年時代には、酷いいじめをワーレンは受け続けた。蔑みの言葉ばかりを投げ掛けられ、そして学校には行けても授業を受ける事は実質、禁じられていたのだ。
机は何度も壊され、ペンや紙は何度も踏み潰された。まるで何かの犯人という扱いを一貫され、ワーレンは自分が人間ではなくなってしまったような感覚を覚えた。
「天才になって、成り上がってやる」
ワーレン少年はなんでもした。泥水をすするような本当の奴隷稼業もしたし、盗賊を手伝ったりもした。そこから少しずつ、人間が持つ悪意を学んだのだ。
(底辺の世界に居場所を作る方法。それさえ分かれば、失う物は何もあるまい)
そして、機会は突然訪れた。
ワーレンが21歳の頃である。
マテリアー王国の研究者に選ばれたばかりという若者が、偶然にもタイガー・ドアにやって来たのだ。
ワーレンは裏の情報網で宿泊先を聞き、並々ならぬ演技で知識人を装いその男に近付いた。
「へえ、魂の杖の研究、ね」
「ああ、キミなら相当に分かるだろうけどね。ただ少し憂鬱だよ。これからマテリアー王国入りするにあたっての予備調査に来ているんだが、魔力の強そうな場所をこの辺りに知らないか?」
この会話でワーレンは、まだこの男が王国に入っていないという極めて重要な情報を手にした。
(コイツになろう)
ワーレンの中の狂気は、思えばこの時から始まっていたのだ。
身分証は偽造し、学歴を証明する書類は、男が持っている物を模倣した。ただボロが出ないように、少年時代から念入りに下調べしたママルマラ国立アカデミーの魔力物理学の出身であると偽る事は忘れなかった。
あとは、男の命を奪うだけであった。
密かに、したたかに、狡猾にそれは成された。
そしてその業は成就し、ワーレンは貧しいながらも本物の科学者として老いぼれるに至ったのだ。
「ふう、つまらん事を思い出してしまった」
転生の事を考えていたはずが、回想に捕らわれていた自分を自覚したワーレンだったが、しかしそんな日々も終わると思うと、不思議と心は晴れやかだ。
判明したのだ。
ただのスライムの体内代謝物に適量の魔力とワーウルフの血を足し、高温で長時間、熱する。それにより特殊な反応を引き起こす事が、ほんのくだらない適当な実験から分かったのである。
そしてその反応物をグライド・ドラゴンの乳に混ぜた液体を猿に飲ませた結果、バフォメットの幼体に転生したのだ。
ワーレンは何度かそれを試した。そして、とうとう自らで試す覚悟をしたのだ。
(幼体になると記憶はどうなるのか。だが、そんな小さな事はどうでもよかろう)
人間に試す機会はなかった。流石にそこまで隙のない人間はマテリアーにはいなかったし、強い存在になられたら困る。
そうやってワーレンは、何かに転生したのだ。
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