自由度の高いオープンワールドで普通に演奏家ロールプレイ

永井 彰

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第1章 未曾有の新世界!?

1kg.タクミ、ゲーマー歴20年

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  ゲーマー。
 それは、ゲームオタクを揶揄する言葉である。
 しかし、少なくとも五十嵐タクミ31歳の前でそんな常識は通用しない。

 制覇したゲームの総数、実に838本。

 その手の界隈では有名人だ。
 そんなタクミは今、人生初のオープンワールドRPGに手を伸ばそうとしていた。
 比喩ではなく、電化製品店のレジで、正に新発売の『エルドラ・ワールド』、通称『エルド』を、手を伸ばし店員から受け取った。

 当然の如く、初回限定特典のために予約に抜かりがないのである。

「ここの会社は勢いある上に、初回特典にハズレがないんだよなあ」

 ひっそりと、タクミは一際大きめのBOXをその場で開きたい衝動に駆られた。が、30歳を過ぎた手前もあり流石にぐっと我慢。
 事前の下調べで中身は分かっている。スペシャルアニメのブルーレイとか設定集といった、玉石混交のよくある内容だ。

 ところで、皆さんはオープンワールドをご存知だろうか。
 インターネットで検索してみてほしい。すると、今やちょっとしたムーブメントであると分かるはずだ。ちなみに、やはりサンドボックス型のアレが最も有名である。

 自由。

 オープンワールドを一言で表すならこうだ。そして、箱庭。広大な世界でありながら、緻密に組み立てられた箱庭なのだ。
 事前の綿密なリサーチを信条とし、滅多な事では購入を決断しないタクミをして買うに至らしめた『エルド』。

 その魅力の一つは「NPCのAIが高機能」という点だ。まるで人間が入っているか裏でスタッフが対応しているか、という具合にセリフが多彩で、質問内容を徐々に学習し、1キャラあたり最大10万パターンの受け答えが可能になるのだ。

 それを可能にするのが「ワード・サーバー」と呼ばれる、言語専用サーバーだ。ここにユーザーからの大量の文章データが送られ、解析され、照合、検索されて徐々に対応がプログラムされていく。
 難関大学出身の天才が創始者なだけあり、その為だけに組まれたスクリプトがGoogleの検索アルゴリズム並みに秀逸なのだ。
 さらに、教える事によって店を始めさせたり、戦士に転職させたり、果てには建国させる事まで出来る。

 NPC関連だけで、この自由度だ。

 そして『エルド』はハクスラ好きにも死角がない。
 ハクスラとは、滅びかけていると言われながらも密かな愛好家が後を絶たないジャンル、ハック&スラッシュの略である。
 鬼のような量のアイテム収集に快感を感じる、ちょっとした変態に捧げられたジャンルと言っても過言ではない。

 ランダムエンチャント。

 この言葉でテンションが上がるなら、あなたにもハクスラをお勧め出来る。
 更に昨今では、今までなら小説の中でしか不可能と言われてきた自作装備に近い機能を持ったゲームが密かな愛好家を吸い上げまくっているという。

 この自作装備、実は『エルド』にもある。

 ただ、この話はまた追って話そう。
 そしてタクミはそうこうする内に、ホクホク顔でマンションの鍵を開けていた。脇には『エルド』のパッケージを抱えて。

「ただいま」

 誰もいない。主夫っぽい生活をしているタクミは、家族の中で最も早帰りだからだ。

 五十嵐家のメンバーは、全部で5人。
 まずはタクミ。二児の父であり、地域密着フリーペーパー「しあげ」の編集者であり、兼業主夫である。
 妻のキョウコ。「しあげ」の代表取締役、つまり社長である。
 長男のケイ。中学1年生。
 長女のアオナ。小学5年生。
 そして、ハヤト。タクミの弟。

 なぜタクミの弟までいるのか。それはハヤトが最近、とあるアホな事情で持ち家を失ったからだ。
 担保、という言葉を知っているだろうか。
 ハヤトは目先のお金に囚われ、なんとなくで家を売ってしまったのだ。本当にアホである。
 しかも地価も何も見ないので、というのは本旨を外れるので止めておこう。

  ちなみに、タクミはゲーマーの中でもヘビーゲーマーに属する。世間から浮かない程度に常識も気にするからそんなに目立ちこそしないが、ヘビースモーカーが絶対にタバコ臭いのと同じような癖はきっとあるんだろう、とタクミとしては諦めの境地だ。
 タクミはRPG専門のゲーマーと自負するほど、やりこんだゲームの実に8割がRPGである。
 MMOなどに手を出していた時期もあるが、金銭感覚に訴えかけてくる、あの課金アイテムの嵐が嫌になってタクミは数ヶ月ほどで見切りを付けた。

 そんな苦くもない思い出に浸るのも時間の無駄、と早速BOXをオープン。
 いろんなおまけは、あくまでコレクションだ。買ったからには、遊ばなくては。
 タクミはそう思いつつパラダイス・ステーション(PS)4の電源をオンした。色々と節約するからと家族に我が儘を言って買った最先端の据え置きゲーム機だ。

 そしてネットへの接続など設定を確認。
 準備万端を理解したらディスクを格納。小気味良くホルダーがするりと本体に引き入れられた。

 おなじみのロゴ。こんなに科学が進歩したのに待ち時間かよ!とはタクミも思わないではない。
 しかし、完全な理想なんてどこにも存在しないのだ。そう、ゲームにさえ。
 ただ、デモムービーは圧巻。『エルド』への気持ちは十分に整った。曲も中々に渋い。

 当然、ニューゲームを選択するタクミ。するとキャラメイク画面が始まった。最近ではRPGに限らずよくある導入だ。
 かなり細かく作り込めるというのに、ほとんど自分とそっくりにしてみるタクミ。インナーなどは適当でも装備で見えやしない。
 ボイスはまだまだ今時のバリエーション。少なくはないが、慣れると物足りないレベルだ。まあこれもどうせ誰かと被る。タクミはまた適当にボイスも選んだ。

「名前かあ」

 一人、居間で呟くタクミ。さんざん悩むという事もなく素早く「バッシュ」と入力。これは子供の頃からバスケットボール、いわゆるバスケと何かと縁があり、社会人バスケを現在でもしている事もあって最近ではタクミのほぼデフォルトでのプレイヤーキャラ名なのだ。

 次に、「クラス選択はチュートリアル後に解放されます」の文字が現れた。まあ、職業のようなもんだったよな、と取説も見ずにタクミは残りのキャラメイクであるパラメーター振り、初期Perkも適当に終えた。

 Wikiで下調べしてから買う派であるタクミは、既にクラスなどの基本システムは頭に入っている。
 そして、その上でクラスは演奏職と既に決めてあるのだ。
 しかし、それに左右されるようなテンプレパラ振りもPerk選択も、まだ情報は未解禁。何せ、今日が『エルド』発売日だからだ。
 だからこそキャラメイクが楽しい。正解が分からない試行錯誤こそゲームの醍醐味、そう考えるタクミにとってはWikiで見るのは発売前情報のみである。

 オープニングが始まる。

 ここからゲーム内の描写はバッシュ目線でお楽しみください。もっとも、心の声はタクミですが。

***

「目覚めよ、名も知らぬ人間よ」

 バッシュが目を覚ますと 、そこは粗末なベッドの上。そして、視線の先には紫髪で、耳の尖った角耳族の男がいる。

「気付いたか。私はデンクロ」

 男が、デンクロと名乗った後、自らも自己紹介するかをいきなり選択肢で出され、
(うーん、善人プレイはもどかしいが)
と思うも結局はこう告げた。

「我が名はバッシュ。旅の者だ」
「旅の者?いや、キミはむしろ冒険者だろう。旅人にしては鞄がしっかりしている」

 着眼点がリアルだ、などと感心していると、突然目の前にモンスターが現れた。

(な、なんだ?バグだろうか)

 現れたのはザコとは思えない、いかつい牛頭。するとデンクロ、紫髪がバッシュに小刀を寄越す。

「そいつを使え。おっと、後でちゃんと返せよ」

 言うなり、呪文を詠唱し始めるデンクロ。訳が分からないが、成り行きなので構えるバッシュ。

(取説、 見とけば良かった・・・!)

 HPを表すゲージがもりもり減る。しかしタクミが操作方法を知らないが故にバッシュはただ、うろうろするだけだ。
 が、次の瞬間、牛は破裂し、霧になって消えた。

「おお、悪い。まあ戦えるとまでは思ってなかったから気にするな」

 何気に嫌味らしき事を言われた。話を聞く限りでは、どうやらデンクロが攻撃魔法を発動し、一撃で牛人間がやられた、という事のようだ。

「俺の呪いのせいで、すまない」

 デンクロの発言だ。意味ありげな展開。一応、『エルド』の機能で相づちを打てる時間なのだが、これまた取説を見てないので方法が分からない。
 そもそも、タクミはまだ今がその時間とすら分からないのである。

「俺はもう、ここにはいられそうにない。この洞穴は、お前にやろう。まあ、後は自分でどうにかするか―――」

 デンクロはそう言うとぽっかり開いた入り口からある方角を指差す。

(そもそもここ、洞くつだったんだ・・・!)

「ここから南西にあるワダツィルの町に行くんだな」

 そして別れを告げるでもなく去っていくデンクロ。

***

 感傷に浸るでもなく、行動可能になったのでメニューからセーブ。オートセーブもあるので、便利な時代になったなとタクミはつくづく思う。

「お、誰か帰ってきたな」

 息子のケイである。ただ、彼はこれから直ぐに塾に行かねばならない。

「おい。なんでまたゲームしてるんや」

 関西なまりでも標準語でもない岐阜県特有のイントネーションが一際大きく、マンションの一室に響く。

「ご、ごめんて。でも近所に噂されるとケイも」
「ケイ君や言うとるやろ!」
「『エルド』なんやから、ええやん。流行りやから怒らんでよ」

 『エルドラ・ワールド』は家庭用ゲームで売上トップ10入りを予想されるほどの人気で、事実、テレビで見る限りでも、都会では長蛇の待ち行列が至る所で出来ているらしい。

「まあ・・・塾、行ってからなら聞くわ。ほんじゃあ」

 と、ケイは着替えるでもなく必要なテキストを鞄にしまい家を出た。
 ゲームは恥ずかしい物と思うのが当然の中学1年生だ。ただ、冷ややかではあるものの、流行りに置いていかれるのも嫌だ、という気持ちで揺らいだのだろう。

「行ってらっしゃい」

 珍しく、ゲーム論戦で敗北しなかったタクミであった。
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