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第1章 未曾有の新世界!?
3kg.いきなり魔法使い
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翌日。いや寝たのが深夜なので、正確には同日の朝。
今日は水曜日。タクミは休日だ。
他の家族は皆、学校や仕事で既に外出していた。
「休みだからって寝過ぎも良くないけどね」
呟きながら、タクミはとりあえず、溜まっている原稿編集をさくっと完了させた。
いわゆる、出来るのにダラけるのもタクミの悪癖で、家事以外はついやるべき事を先伸ばしにしてしまう。
その為、家ではまあまあ良き主夫だが、社会人としてはもうすぐギリギリアウトかもしれない今である。
「このまま主夫になるかな」
悪くない、とタクミは思う。
妻のキョウコも元は高卒だが、働きながら難関大を一般入試で首席合格した最強の頭脳を持つ。よって、タクミにとっては逆玉で、お金には一般的な社会人男性より苦労がないのだ。
それでいて倹約家だからこそ、一緒にいる事を世間にも許されている感じはある。そうした空気に敏感でないと、逆玉はやっていけないらしい。
今では院卒エリートのキョウコは、一方でそんな事など全く気にしない。常に人生の100%を仕事に集中させてさえあげれば何も文句がない。
そういう分かりやすい信条がキョウコの長所だ。キョウコで良かった、とタクミは心の底から安堵しているくらいだ。
そして洗濯は珍しく誰かがやってくれている事に感謝しつつ(後で聞いたらハヤトらしい。ハヤトとは本当に珍しい、とタクミは盛大に笑った)、皿は洗い、そしていよいよ『エルド』の時間・午前の部だ。
***
エルドラの1日は、現実世界の3時間と意外と長い。朝・昼・夜が1時間ずつだ。
しかしもちろん、時間操作魔法や宿屋など、幾らかの時間調節のための手段は存在する。
バッシュは前回セーブした隠れ家で立ち尽くしていた。今は昼のようだ。
デンクロに教えてもらった町に向かう。覚えにくい名前なので忘れてしまったが、案内の看板なり親切な案内人なりで思い出せるだろう。
隠れ家、というのは正式な呼び名ではないが、デンクロが隠れ家として使っていたであろう質素な木製のほったて小屋、そして目立たず孤立した立地は正に隠れ家と呼ぶにふさわしい雰囲気を醸している。
ベッドやタンスなど、意外と生活の為の家具は揃っている。水は井戸から汲むらしい。
(現実なら感染症が怖いが、エルドラなら気楽だ)
タンスを漁ったら最低限の生活費として700geld入っていた。ゲルドは『エルド』での通貨の単位だ。とりあえず、有り難くいただいておくとする。
盗みは「徳レベル」が下がる要因だが、今回はデンクロの親切なのか変動は特にない。
厳密には、人目がなかったからなのだが、今のバッシュは知るよしもない。
そして、いざ町に向かい歩き出した。
道中で、薬草を摘んだり木の実を拾ったりしつつ進むバッシュ。薬草も木の実もおそらく店か市場かで売れるに違いないし、最悪、食糧としてしまえば良いのだ。
周りを警戒するのも怠らない。牛頭ほどのサイズでなくとも、例えば野犬が草むらから飛び出してくるのは有り得る。
その為、万全を期して草むらからはやや距離を取りつつ歩いていく。近くに町があるとは言っても、人里離れた小屋からはよく整備された歩道などないのだ。
と、その時。人影が近付いて来た。どうやらローブを全身に纏っており、性別は分からない。
「旅の者か。魔法を知りたいかね」
どうやら魔法を教えてくれるらしい。手持ちはそんなにないが、冷やかしと思われるのを覚悟しながら、バッシュは肯定的な返事をした。
すると、教えてくれる魔法の一覧が書かれた上等な羊皮紙を見せてくれた。
3つほど無料で教えてくれる簡単な魔法も載っていたので、魔法に関心はあるバッシュは取り急ぎ〈聴覚強化〉を教えて貰うことにした。
「デルオルス。カイラ。ハンビーハン。魔の契約をここに交わす。この者に法を与えよ!」
如何にもという文句の後にバッシュの全身がほんのり輝きを放ち、バッシュは〈聴覚強化〉を覚えた。
「ではまた何処かでな」
そう言うなり煙となり、ローブの人は消えた。
(もしやレアキャラだった・・・?!)
ともあれ、バッシュはいきなり魔法を覚えてしまった。ローブの人には滅多に会えないのだとすると、かなり幸先の良いスタートだ。
試しに早速、唱えてみた。
「ベルスタ」
すると今度はバッシュの耳の辺りが淡い光に一瞬だけ包まれた。これが〈聴覚強化〉である。エルドラ時間で2時間ほど聴覚が強まり、魔物の気配を知りやすくなったり噂話が聞こえやすくなるなど様々な効果をもたらす。
探索や戦闘など、使える局面の多い便利な魔法だ。
エルドラは1日24時間。そこは現実と同じである。よって15分が実質的な〈聴覚強化〉の有効時間と思ってくれれば良い。
デンクロの土地選びは中々らしく、町に辿り着くまで魔物どころか獣さえいなかった。
狩人からすれば損な場所だろうけれども、無力な旅人に等しいバッシュからすればとてもありがたい。
町の至る所にある柱に「Vadazir」と記してある。西洋風のお洒落な濃緑色の枠に、オフホワイトの地、その上にこれまた濃緑色の文字で綴られた、粋なデザインだ。
(ワダツィルか。思い出した)
デンクロが言っていた町の名前が記されているのだ、と理解した。タクミに英語でない外国語の教養はそんなにないが、憧れはあるのであれこれ色々と見たり読んだりする内に勘が備わっていたのだ。
(とりあえず、飯を食わせよう)
バッシュは腹が減っていて、敵にこそ遭わなかったが体力まで減り始めていた。井戸水でもがぶ飲みすべきだったかもしれないほどの空腹ぶりである。
(死んで教会送りも半ばデフォなんだろうな)
前にも述べたが、基本的には『エルド』の世界に死は存在しない。正確にはウォーエルが命を再び与えてくれるのだ。
しかし、人間の場合は死ぬと最寄りの教会に送られる。死ぬとひとまずどうなるか、は種族によるのだ。これはウォーエルの思う所というより、システム上の都合である。
というのも、実は敵である魔物にさえ死の概念はないのだ。
その為、蘇る所が教会に統一されていると、魔物が易々と町に入るとんでもない世界になってしまい、少々まずい。
ちなみにバッシュはキャラメイクの結果、人間の種族となっている。実は、タクミが種族の存在にすら気付かずデフォルトの種族になっているだけではある。
更に余談だが、見た目の雰囲気を出すために顔のパーツこそタクミだが、瞳は青、髪はブロンズ。国籍不明のファンタジー世界の住民といった風情だ。
さて、バッシュは死ぬには至らずどうにか食堂を見つけた。〈聴覚強化〉が効いた。遠方から聞こえてきた、貴族をもてなす使いの道案内が、ちょうど食堂への道の話だったのだ。
バッシュの少し遅めの昼食は食パン10枚。食パンが圧倒的に安いからだ。
そこそこ腹が満たされ、夜まではなんとか生き延びそうだ。ただ、教会なら1日3枚までなら食パンが無料と知るのは、バッシュが初めて死ぬ時の話、もう少し先の事である。
町の地理を覚えたいが、思いの外ワダツィルは広く、何日かに分けて散策しなければ厳しそうだ。その時、〈韋駄天〉で光のごとき速さで通りすぎていく冒険者の姿。
いや、実際には冒険者かどうか、辛うじて人であるらしいとだけしか分からない速さだったが、とにかく羨ましいとバッシュは思う。
エルドラでの生活にあたって優先し覚えたいのは「食堂」「宿屋」「ギルド」 の場所だ。
いずれも町の中心部にあり、東西南北にあるどの入り口からワダツィルに入っても、ただひたすら真っ直ぐ進めば良い。
魔物の侵入を防ぐために、RPGのご多分に漏れず『エルド』では、町は壁囲いが基本なので入り口という概念があるのだ。
また、東西南北という方角は現実のそれと同じである。デフォルトで持っていたコンパスには、今はバッシュが北西を向いていると表示されている。
地図はないので、金を貯めて買う、もしくは「製図」する、あるいは絵として仮の地図を描くことになる。
悪人になる覚悟があるなら冒険者などから奪うという選択肢もあるが、ゲームの中とはいえ悪事を働きたくないバッシュは素直に金を貯めるだろう。
まずはギルドに向かうと決めたバッシュ。食堂から近い上に、ギルドは分かりやすく紋章が門に大きく描かれている。その為、移動にさほど時間は掛からなかった。
いよいよ演奏職としてのエルドラ人生の第一歩だ。
***
が、残念。現実でもお昼の時間です。
今日の昼食はサンドウィッチ。シーチキンや手で千切ったレタス、輪切りにしたトマトで簡単に作ったツナサンドだ。
そして、たまの贅沢であるフルーツグラノーラ。栄養にも一応、タクミなりに気を遣っているのだ。
バッシュの気分を味わう意味で、食パン部分だけで食べてみる。うーん、やはり食パンは食パンだ、とタクミは月並みの感想を思った。
ところで、〈聴覚強化〉は現実にはないが、アオナはかなりの地獄耳である。とりわけアオナ自身の話題にはどんなに遠くにいても気付く。
勘が尋常でなく鋭いのだろう。
そんな他愛もない事を思いながら、タクミは5切れほどツナサンドを頂いた。コンビニで買うよりずっと安く、つい食べ過ぎてしまうらしい。
昼休憩でキョウコが帰ってきた。職場がそう遠くなく、自由な社風なのでたまに家で食事を取るのだ。タクミが作っておいたツナサンドをぺろりと平らげていく。
子どもらよりはゲームに理解があるキョウコ。まあ、雑誌「しあげ」でアプリ開発の監修もしている手前もあるのだが、元々はむしろキョウコがゲーマーであり、実はタクミは引きずり込まれた側だ。
楽しみが他にはあまりなく、ゴルフなどの付き合いが運動音痴ゆえにやりづらいという生々しい理由もあるにはある。
そして、結局は今やタクミがゲーマー、キョウコは仕事人だ。
ただ、ひっそりとキョウコが作成したキャラクタ「シロン」のセーブデータが『エルド』に入っている話をタクミがすると、キョウコは些か照れながら職場に戻っていった。
今日は水曜日。タクミは休日だ。
他の家族は皆、学校や仕事で既に外出していた。
「休みだからって寝過ぎも良くないけどね」
呟きながら、タクミはとりあえず、溜まっている原稿編集をさくっと完了させた。
いわゆる、出来るのにダラけるのもタクミの悪癖で、家事以外はついやるべき事を先伸ばしにしてしまう。
その為、家ではまあまあ良き主夫だが、社会人としてはもうすぐギリギリアウトかもしれない今である。
「このまま主夫になるかな」
悪くない、とタクミは思う。
妻のキョウコも元は高卒だが、働きながら難関大を一般入試で首席合格した最強の頭脳を持つ。よって、タクミにとっては逆玉で、お金には一般的な社会人男性より苦労がないのだ。
それでいて倹約家だからこそ、一緒にいる事を世間にも許されている感じはある。そうした空気に敏感でないと、逆玉はやっていけないらしい。
今では院卒エリートのキョウコは、一方でそんな事など全く気にしない。常に人生の100%を仕事に集中させてさえあげれば何も文句がない。
そういう分かりやすい信条がキョウコの長所だ。キョウコで良かった、とタクミは心の底から安堵しているくらいだ。
そして洗濯は珍しく誰かがやってくれている事に感謝しつつ(後で聞いたらハヤトらしい。ハヤトとは本当に珍しい、とタクミは盛大に笑った)、皿は洗い、そしていよいよ『エルド』の時間・午前の部だ。
***
エルドラの1日は、現実世界の3時間と意外と長い。朝・昼・夜が1時間ずつだ。
しかしもちろん、時間操作魔法や宿屋など、幾らかの時間調節のための手段は存在する。
バッシュは前回セーブした隠れ家で立ち尽くしていた。今は昼のようだ。
デンクロに教えてもらった町に向かう。覚えにくい名前なので忘れてしまったが、案内の看板なり親切な案内人なりで思い出せるだろう。
隠れ家、というのは正式な呼び名ではないが、デンクロが隠れ家として使っていたであろう質素な木製のほったて小屋、そして目立たず孤立した立地は正に隠れ家と呼ぶにふさわしい雰囲気を醸している。
ベッドやタンスなど、意外と生活の為の家具は揃っている。水は井戸から汲むらしい。
(現実なら感染症が怖いが、エルドラなら気楽だ)
タンスを漁ったら最低限の生活費として700geld入っていた。ゲルドは『エルド』での通貨の単位だ。とりあえず、有り難くいただいておくとする。
盗みは「徳レベル」が下がる要因だが、今回はデンクロの親切なのか変動は特にない。
厳密には、人目がなかったからなのだが、今のバッシュは知るよしもない。
そして、いざ町に向かい歩き出した。
道中で、薬草を摘んだり木の実を拾ったりしつつ進むバッシュ。薬草も木の実もおそらく店か市場かで売れるに違いないし、最悪、食糧としてしまえば良いのだ。
周りを警戒するのも怠らない。牛頭ほどのサイズでなくとも、例えば野犬が草むらから飛び出してくるのは有り得る。
その為、万全を期して草むらからはやや距離を取りつつ歩いていく。近くに町があるとは言っても、人里離れた小屋からはよく整備された歩道などないのだ。
と、その時。人影が近付いて来た。どうやらローブを全身に纏っており、性別は分からない。
「旅の者か。魔法を知りたいかね」
どうやら魔法を教えてくれるらしい。手持ちはそんなにないが、冷やかしと思われるのを覚悟しながら、バッシュは肯定的な返事をした。
すると、教えてくれる魔法の一覧が書かれた上等な羊皮紙を見せてくれた。
3つほど無料で教えてくれる簡単な魔法も載っていたので、魔法に関心はあるバッシュは取り急ぎ〈聴覚強化〉を教えて貰うことにした。
「デルオルス。カイラ。ハンビーハン。魔の契約をここに交わす。この者に法を与えよ!」
如何にもという文句の後にバッシュの全身がほんのり輝きを放ち、バッシュは〈聴覚強化〉を覚えた。
「ではまた何処かでな」
そう言うなり煙となり、ローブの人は消えた。
(もしやレアキャラだった・・・?!)
ともあれ、バッシュはいきなり魔法を覚えてしまった。ローブの人には滅多に会えないのだとすると、かなり幸先の良いスタートだ。
試しに早速、唱えてみた。
「ベルスタ」
すると今度はバッシュの耳の辺りが淡い光に一瞬だけ包まれた。これが〈聴覚強化〉である。エルドラ時間で2時間ほど聴覚が強まり、魔物の気配を知りやすくなったり噂話が聞こえやすくなるなど様々な効果をもたらす。
探索や戦闘など、使える局面の多い便利な魔法だ。
エルドラは1日24時間。そこは現実と同じである。よって15分が実質的な〈聴覚強化〉の有効時間と思ってくれれば良い。
デンクロの土地選びは中々らしく、町に辿り着くまで魔物どころか獣さえいなかった。
狩人からすれば損な場所だろうけれども、無力な旅人に等しいバッシュからすればとてもありがたい。
町の至る所にある柱に「Vadazir」と記してある。西洋風のお洒落な濃緑色の枠に、オフホワイトの地、その上にこれまた濃緑色の文字で綴られた、粋なデザインだ。
(ワダツィルか。思い出した)
デンクロが言っていた町の名前が記されているのだ、と理解した。タクミに英語でない外国語の教養はそんなにないが、憧れはあるのであれこれ色々と見たり読んだりする内に勘が備わっていたのだ。
(とりあえず、飯を食わせよう)
バッシュは腹が減っていて、敵にこそ遭わなかったが体力まで減り始めていた。井戸水でもがぶ飲みすべきだったかもしれないほどの空腹ぶりである。
(死んで教会送りも半ばデフォなんだろうな)
前にも述べたが、基本的には『エルド』の世界に死は存在しない。正確にはウォーエルが命を再び与えてくれるのだ。
しかし、人間の場合は死ぬと最寄りの教会に送られる。死ぬとひとまずどうなるか、は種族によるのだ。これはウォーエルの思う所というより、システム上の都合である。
というのも、実は敵である魔物にさえ死の概念はないのだ。
その為、蘇る所が教会に統一されていると、魔物が易々と町に入るとんでもない世界になってしまい、少々まずい。
ちなみにバッシュはキャラメイクの結果、人間の種族となっている。実は、タクミが種族の存在にすら気付かずデフォルトの種族になっているだけではある。
更に余談だが、見た目の雰囲気を出すために顔のパーツこそタクミだが、瞳は青、髪はブロンズ。国籍不明のファンタジー世界の住民といった風情だ。
さて、バッシュは死ぬには至らずどうにか食堂を見つけた。〈聴覚強化〉が効いた。遠方から聞こえてきた、貴族をもてなす使いの道案内が、ちょうど食堂への道の話だったのだ。
バッシュの少し遅めの昼食は食パン10枚。食パンが圧倒的に安いからだ。
そこそこ腹が満たされ、夜まではなんとか生き延びそうだ。ただ、教会なら1日3枚までなら食パンが無料と知るのは、バッシュが初めて死ぬ時の話、もう少し先の事である。
町の地理を覚えたいが、思いの外ワダツィルは広く、何日かに分けて散策しなければ厳しそうだ。その時、〈韋駄天〉で光のごとき速さで通りすぎていく冒険者の姿。
いや、実際には冒険者かどうか、辛うじて人であるらしいとだけしか分からない速さだったが、とにかく羨ましいとバッシュは思う。
エルドラでの生活にあたって優先し覚えたいのは「食堂」「宿屋」「ギルド」 の場所だ。
いずれも町の中心部にあり、東西南北にあるどの入り口からワダツィルに入っても、ただひたすら真っ直ぐ進めば良い。
魔物の侵入を防ぐために、RPGのご多分に漏れず『エルド』では、町は壁囲いが基本なので入り口という概念があるのだ。
また、東西南北という方角は現実のそれと同じである。デフォルトで持っていたコンパスには、今はバッシュが北西を向いていると表示されている。
地図はないので、金を貯めて買う、もしくは「製図」する、あるいは絵として仮の地図を描くことになる。
悪人になる覚悟があるなら冒険者などから奪うという選択肢もあるが、ゲームの中とはいえ悪事を働きたくないバッシュは素直に金を貯めるだろう。
まずはギルドに向かうと決めたバッシュ。食堂から近い上に、ギルドは分かりやすく紋章が門に大きく描かれている。その為、移動にさほど時間は掛からなかった。
いよいよ演奏職としてのエルドラ人生の第一歩だ。
***
が、残念。現実でもお昼の時間です。
今日の昼食はサンドウィッチ。シーチキンや手で千切ったレタス、輪切りにしたトマトで簡単に作ったツナサンドだ。
そして、たまの贅沢であるフルーツグラノーラ。栄養にも一応、タクミなりに気を遣っているのだ。
バッシュの気分を味わう意味で、食パン部分だけで食べてみる。うーん、やはり食パンは食パンだ、とタクミは月並みの感想を思った。
ところで、〈聴覚強化〉は現実にはないが、アオナはかなりの地獄耳である。とりわけアオナ自身の話題にはどんなに遠くにいても気付く。
勘が尋常でなく鋭いのだろう。
そんな他愛もない事を思いながら、タクミは5切れほどツナサンドを頂いた。コンビニで買うよりずっと安く、つい食べ過ぎてしまうらしい。
昼休憩でキョウコが帰ってきた。職場がそう遠くなく、自由な社風なのでたまに家で食事を取るのだ。タクミが作っておいたツナサンドをぺろりと平らげていく。
子どもらよりはゲームに理解があるキョウコ。まあ、雑誌「しあげ」でアプリ開発の監修もしている手前もあるのだが、元々はむしろキョウコがゲーマーであり、実はタクミは引きずり込まれた側だ。
楽しみが他にはあまりなく、ゴルフなどの付き合いが運動音痴ゆえにやりづらいという生々しい理由もあるにはある。
そして、結局は今やタクミがゲーマー、キョウコは仕事人だ。
ただ、ひっそりとキョウコが作成したキャラクタ「シロン」のセーブデータが『エルド』に入っている話をタクミがすると、キョウコは些か照れながら職場に戻っていった。
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