自由度の高いオープンワールドで普通に演奏家ロールプレイ

永井 彰

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第1章 未曾有の新世界!?

5kg.製作学事始(せいさくがくことはじめ)

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  キョウコの専用キャラクタと思っていたシロンが、タクミ以外の共有キャラクタだと知ったのはその翌日だった。
 心配したハヤトがタクミに声を掛けたのだ。

「兄貴、話ってほどじゃないんだけどさ」

 主夫の仕事を任せきりでいた事を、実はタクミ以外の家族たちはタクミに内緒で集まり反省していた。
 それで、わざとらしくならないように、最近は徐々に家事を手伝うようにもなってきた。

 タクミに内緒でシロンの共有を決めたのは、タクミを嫌っていたとか面倒とかではない。むしろ、主夫中心の生活になりがちなタクミに贅沢させてあげたい、だから専用のキャラを使わせてあげようという思いからだ。

「そうだったんだ・・・」
「昔から兄貴はさ、思い詰めるって言うの?そういう癖で前に進めない時があるじゃん。それを皆は、分かってるから。だからもっと楽に考えなよ。ゲームでもいい。人生をもっと楽しんでくれよな」

 道理で、シロンのレベルが高いわけだ。
 皆で空いた時間にレベリングしていれば、当然の結果とも言える。

「思い詰めてるように見えてたか?」
「兄貴は思い詰めると分かりやすいんだ。まばたきが減って、目がこんな虚ろになるんだよ」

 なぜかハヤトとの会話は標準語になってしまう。会社でのきびきびした言葉遣いの指導が互いにそういう癖を付けてしまったのかは分からない。

「ちゅうわけで、今日は俺が作りまーす」
「は?・・・」

 ハヤトが突然、何か言い出したよと言いそうになるタクミ。しかしよく考えてみれば、これはハヤトたち家族なりの気遣いなのだ、とタクミは思い出した。

「じゃあ、とりあえず、今日はお言葉に甘えるかな」
「ふふ、久しぶりに腕がなるぜ」

 久しぶりなのかよ、とタクミは心の中でツッコミを入れる。

(たまにはゲームするでもなく、ただのんびりと時間を過ごすのも悪くない。)

 ハヤトの料理ぶりを注意深く見守りながらも、タクミは家族と共に過ごす幸せを噛み締めていた。

「あ、そうだ兄貴」
「なんだ弟」
「折角だから、今日は協力して進めようか」

***

 バッシュとシロンが降り立ったのは、バッシュ側のエルドラだ。
 二画面分割で各々がただそれぞれのエルドラを冒険したり、同じエルドラを別行動したりも出来る。
 しかし今回はパーティープレイにしよう、と決まったのだ。

 ところでシロンには、実はメインクエストと呼ばれる、ゲームクリア上、必須のクエストをクリアする事で仲間に出来る強力な助っ人がいる。

 パフォーマーのフォヒエだ。

 パフォーマーという事は、バッシュと同じクラスだ。これはバッシュにとってはこの上ない幸運だ。
 フォヒエはバッシュよりは実績を持つ、クラスレベル3のパフォーマーである。よって、フォヒエの実績を確かめれば演奏職を極めるための第一歩を知るに等しい。

 少々、ずるいとは思うが、多くの場合に世渡りが人脈、コネであるのと同じと思えば仕方ないとも言えよう。
 実績として結果を示せば、事実としてバッシュは成長する。それで十分なのだろう。

 するとフォヒエが口を開いた。

「はじめまして。キミもパフォーマーなんだね。よろしく!」

 いかにも定型文といった台詞が大好きなのか。
 フォヒエはそれ以上は何もない言わないようだ。ワード・サーバーに繋がっていない現状では、言葉を最低限しか話さないのだろう。

 フォヒエの実績を確認する事は彼との会話を通して可能か。それを確かめてみると、会話ではなく味気ないステータス表示が返ってきた。
 以下がフォヒエのクラス実績だ。

#########################
フォヒエ

ギター・コンクール3位
(35ポイント)
不知火王を演奏で癒した
(100ポイント)
########################

 不知火王という辺りはファンタジーらしい。現実的な履歴書的な内容でなくとも、高難度クエストなどもクラス経験になるのだろう。
 というか、ファンタジー要素の方がポイントからしても扱いがかなり良い。

(結局、そういうところはゲームだよね)

 通貨の単位は捻るのに、実績はポイントというのは『エルド』の製作者たちも時間の限られた社会人であるという悲しい定めの現れだ。

 なんとなくはヒントになった気がする。しかし、不知火王などの如何にも辿り着く事がまず困難そうなキャラクタの下にはどうやって行くのか、それが最大の疑問だ。

 まあ、地道に町で聞き込みでもして様子を伺おう、と決断力には定評があるバッシュである。

 フォヒエの装備も序でに見てみる。

#########################

●太陽精霊のギター
 +演奏7
 +魅力3
レザーコート
レザーブーツ
◎不知火の指輪
 +炎抵抗120

#########################

 まだよく分からないものの、凄そうな装備がちらほら見受けられる。
 ギターにより演奏や魅力にブーストが掛かっているというような意味合いなのだろう、とバッシュは考えた。
 装備の詳細も手記を鑑定しないと分からないレベルの細かい内容となるようで、●や◎の記号の意味からブーストらしき表示の詳細まで、ヘルプサイトには載っていない。

 そんな面倒さは諸々にあるものの、そうした細々を楽しめる人がRPGに向いているというのは言い過ぎだろうか?

 バッシュがフォヒエに教えを乞う間、シロンはもう早速レベルを1上げてきていた。
 やはり戦士職は分かりやすい。戦うイコール成長なので、何をすべきか分かりやすいのだ。

 今からなら戦士キャラクタで作り直してセカンドキャラに引き継ぐという方法が時間の掛からない近道ではある。
 『エルド』では次世代キャラへの引き継ぎは任意のタイミングで可能だ。もちろん、やりこむほど次回のゲームで有利だし、結婚して生まれた子どもに引き継ぐと、様々なボーナスが付くのだ。

 加えて、演奏職はやはり、ゲームの勝手を分かっている中級者以上に向く、予備知識が必要なクラスなのは現段階で明らかでもある。

 が、バッシュ(=五十嵐家)には負けず嫌いの血が代々流れているのだ。

 よって、シロンがレベル上げの手伝いを申し出てくれても断固お断りだ。
 戦いでなくともレベル上げの手段がきっとある。いや、それどころか時間は掛かったものの、実は食堂のフリークエストの料理経験でキャラクタ・レベルが1上がったのだ。

(暫くは料理人を目指して食料で稼ごうか)

 確実にその方が近道そうなのである。しかも食堂ならどの町にもありそうなので、行動範囲が広がったとしても、料理は勉強の機会を失わないだろう。

(バイト代を貯めて役者を目指す人もいるわけだし)

 案外、理由付けしようと思えば出来るものだ。

 演奏も、欠かさず練習を続けていればバカにならない成長を見せるはずだ。
 とは言っても、「しばらく料理人としてエルドラまったり生活」になってしまうのもどうかとは思うバッシュ。
 とりあえず、演奏関連の目標としては楽器製作を目指す事にするようだ。

 フォヒエと何度か会話を試みると、持っている装備の話題になり、装備しているギターは「フォヒエ」の銘が入った自作品と分かった、という事も大きい。

 ワード・サーバーからオフラインの場合にも、根気強く話し掛ければそれなりに豊富な情報をもたらしてくれる事は今後もありそうだ。

 また、ワダツィルの町には演奏を学べそうな場所はないが、ここから南南東にあるナレの町には演奏の達人がおり、金さえあればレッスンを受ける事が出来るそうだ。
 これもフォヒエからの情報である。

 だが、何はともあれ楽器作りだ。
 バッシュは《ギルドリーダーズ・ブック》と書かれた手記を熟読し始めた。
 ギルドで貰ったマニュアルに、基本的な製作ハウツーは載っているのだ。

 それから暫くは、楽器作りの素材集めが始まった。現実の時間で考えても何日間かは掛かりそうだ。

 DIYグッズが取り揃えられた生活用品店ならばそれなりの物がすぐ集まりそうだが、ここはエルドラ。
 そう都合よい店まではない。しかし小規模ではあるものの、ワダツィルには、何でも屋という雑貨屋のような店がある。

 どんな楽器を作るかまでは決めていないが、とりあえず木材は何かとあれば便利そうだ。バイオリンやピアノの板部分は、確か木で出来ているな、とバッシュは自身に念を押した。

 ある程度は、生産系に向かうとこのように常識や教養がないと、マニュアルがない《エルド》では中々出来ることが見つからない。
 繰り返しにはなるが、それが嫌なら戦士職ほぼ一択なのだ。

 話を戻すと、バッシュは何でも屋での買い物に時間を使い始めた。
 弦となる素材は見当も付かない。糸とか紐でどうにかなるか?とひとまず安価なそれらを一通り買い揃えていく。

 または、笛ならば弦は必要ないし、打楽器ならば丈夫な布があればなんとかなりそうだ。
 楽器選択。それがやはり何よりの優先事項のようだ。

 予算も限られている。食費は節約しているには違いないのであるが、入りが多くはないので貯まらないからだ。

 と、シロンが融資を申し出てくれた。戦士は相当、エルドラでは食いっぱぐれもないらしい。
 もちろん、危険と隣り合わせなので楽をしているとまでは思わない。だからという事もあって、申し出を丁重に断るバッシュ。

「そういう所が、考えすぎなんだよな( ´,_ゝ`)」

 ご丁寧にチャットでメッセージを送るシロンである。

 バッシュとしては、当面の金策くらい自分で出来ないと先行きが思いやられるというしっかりした考えがあるのだが、泣き真似のエモーションポーズで場を和ませておいた。

 しかも、とバッシュはその時になってようやく気付くのだ。
 製作には付き物の作業台がそもそもない、と。

 が、それにはシロンに名案があった。

「自宅の裏手にお誂え向きのいい場所があるんだ」

 隠れ家の裏手には、裏庭とでも言うべき小さな広場がある。そしてその中央あたりに、そこそこの大きさの切り株がある。

 それを、作業台として使おうと言うのだ。

 悪くないとバッシュも思う。風化して表面が荒れているが、刃物で削るなどして整えれば良い。
 そうして、長い製作準備が幕を開けた。
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