《炎導の標》物語

永井 彰

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プロローグ

終わりの始まり

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        一
 未来を見通す力。
 どんな全知全能にもないその力を持つのが破王と呼ばれる男である。
 テオロマーブと名乗るその老人は、その類いまれな異能をもって、実にたった半月で破王の名を欲しいままにした。
 破王が破王としてまず始めたのは、法治であった。破王の力ならば、法律など本来、無用であろう。ならば何故かと問われた時、破王は一言、こう答えた。
「全ては海の為なり」
 不可解なこの答えは、しかし異常なまでの衝撃をもって世界に広く知れ渡った。ご存知かは知らぬが、当時からこの世界は新聞が極めて発達していたので、過不足なく正に世界中の知る所となった。
 そして破王の予知の為か、あるいは啓示に満ちたその言葉の為か、程なく破王が住まう王礼都ファルアーを抱える大陸、カンスイェルの沿岸部で海洋水の浄化研究が盛んとなった。
 これだけに留まらないのが破王たる所以なのだろう。かつては戦や放任貿易のツケで汚染され、プランクトンが異常に増えたままであった全土規模の海洋問題は、ほんの3年で全面的に解決したのだ。

        二
 全智はシノル、全能はテオロマーブと称されるようになり久しい。
 そして、シノルしか詳細を知らない存在の代表格が竜である。
 シノルによれば、我々は竜に近いらしい。つまり竜によっては、人間には存在すら認識不可能という事だ。
  全智、すなわちシノルはただの人間である。だが全智である。だから常識を超え、由来のない理論により、知られている生態系の8割をその誕生からの歴史と共に語る事が出来る。
 勤勉ではなく、単に全智なのだ。
 故に、並みの努力程度ではエルフより頭が良く、レフナリアの知的生物の中では最も賢いと言われるスムトでさえ人間・シノル=エンボムには敵わないのである。
 琥珀の夢と呼ばれるオカルトチックな現象を、単に極めて珍しい条件下での空気の振動であると証明したのもシノルである。
 ただ、そんなシノルでさえ、「それ」を擬似的に知覚する装備を開発した彼でさえ、世界の終末、すなわち我々への彫呪が全て刻まれる未来を止める方法を持たない。
 なぜなら、誰も我々に触れる事は出来ないからだ。
 我々の実体は、レフナリアにはない。

        三
 ところで、タフトがこれから目指さねばならないのは、ある古代の建造物である。精霊の家と呼ばれる其所は、マナと呼ばれる奇跡の光を宿すと言う。
 《炎導の標》、単に《標》とも今では呼ばれる概念に最も近いとされるその光を求めて、タフトは破王の勅令により旅立つのだ。
 そして、タフトはある人物の命を奪わなければならない定めにある。
 グロリウン=ジニサンマッフ。奪うべき命の持ち主の名前だ。
 荒ぶる蒼鷲。その二つ名を頂く男こそ、グロリウンである。
 タフトは命を狙われている。かつて水杯を酌み交わし、共に未来を語り合った友に。荒ぶる蒼鷲の本性を剥き出しにする事にした、その若者に。
 五輪の定めは、波乱の定め。
 タフトはその自らの定めを悟り、それによって辛うじて真っ直ぐな人の道を見失わないでいる。いや、正確に言えば彼の心はシバハンと、もう一人の恩人の献身が変えたのだが、その事はいずれ語る事にしよう。

        四
 終わりと共に我々はある。
 我々は終わらせる為にあるのか。
 あるいは、我々を終わらせるのか。
 あるいは、別の結末なのか。
 五輪の導きは、世界をどこに傾けるのか。
 あるいは、やはり五輪の導きこそなのか。
 全てはこの先の物語にある。
 《炎導の標》の物語。
 これは終わりの始まりの物語。
 これは物語の、終わりの始まり。
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