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代理戦争
邪神
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神人は、一方的に藤太郎を監視している。
これは雷笛の能力でもなんでもない。単に神人は警視庁の上層部に兄がおり、頼めば後学の為にと、それしきは請け負ってくれるのだ。
ところで、雷笛の因果操作は過去を変える事までは出来ない。
よって、神人の兄を若干27歳にして警視庁公安部理事官になった事実は消すことが出来ない。
何らかの有り得る因果をもって、今からその座を引きずり下ろす事は可能だ。ただ、こと倫理観においては一家言を持つほどで神人を上回る兄をどうにかするのは、今の神人では事実上不可能だ。
もっとも、天才である自らを隠したいからといって、変に家族を貶めてしまっては、むしろ目立ってしまう恐れがある。神人の兄は、なにしろただの警察官僚ではない。公安部理事官に27歳という若さで抜擢されたというのは、史上最年少とまでは行かずとも、かなりの大出世なのだ。
しかし、因果は使いようであった。貶める因果はないが、錯覚を応用したのだ。
要は、兄に対して神人を兄より警察向きだと思わせ、未来の警視庁の逸材だと言わしめたのだ。そうすれば、相手は警視庁とはいえ人間である。
有能な警察官僚の家族なら、是非その腕前を見てみたくなる、というわけだ。
警視庁には優秀な人材が集まる。よって普通ならばたとえ因果を操る事が出来ても、こんな無謀はしないだろう。優秀であるほど自分、そして他人の因果もしっかり把握しているために、不自然な因果は直感なり洞察力なりで見抜かれてしまうかもしれない。
まして、警視庁に配属された者たちである。理に敵わない事に関しては、人一倍に敏感だろう。
もっとも、普通ならばと言うなら、そんな予測も立たず無闇に賭けに出るという考えもある。けれども、超人である神人は、ひとつひとつの有り得る可能性を丹念に吟味した上で実行する慎重さをも持ち合わせているのだ。
独房の監視カメラに映る藤太郎は、警官に何やら注意されている。おそらく食事が遅いからだ、と神人は検討を付けた。
無理もない。濡れ衣どころか、世界的犯罪の冤罪なのだから、食事をまともに出来る方がおかしいのだ。
神人が時計を見ると、8時40分を回っていた。朝食は8時からなので、あまりに時間が掛かっていると思われるの確かに仕方ないだろう。
「冷や飯を食わせるのは、流石に心が痛むよ」
聞こえるはずはないが、それでも神人は、向こうからすれば全く面識がない藤太郎に語りかけた。
不思議な話であるが、刑務所や拘置所では温かい食事も出る場合が少なくないのに対して、留置所は勾留に係る手続きのためでも最長で20日程度しか入らないのが原則であるためか、やや冷えた弁当が食事である場合が大半だ。
これには罪の重さとは別の経済的な事情が噛んでいるらしい。つまり、弁当代は税金から出ているという点が効いてくるのだ。
税金で買われるとは言え、ひとつ300~400円ほどの弁当をいちいち温めるサービスをしていては、その分の光熱費はバカにならない。
長期の裁判で体力が必要となるかもしれないからって、大犯罪者のほうが食事が良いなんておかしいという正論は、財政により相殺されているのが現状なのだ。
神人はそう言った犯罪者の事情を、兄から聞いて知っている。まさか凡人を利用するために、その知識を使う時が来るとは思いも寄らなかったが、と神人は舌打ちした。
ひとりきりのモニター室に、舌打ちがモニターの微妙な静止音と共に気味の悪い存在感を浮かべている。
因果をみだりに使うのは危険という理由で、京舞は関わらせていない。それに、彼女には彼女で他にやるべき事がある。時間は永遠ではないし、どの道、因果を操れなければモニターを見るしか出来ないこの状況は、京舞でなくとも監視以上の大した意味を成さないのだ。
腹が鳴る。緊急性を演出するために、神人は朝食を抜いてきた。事件に関する資料を洗うために必死である、そう見せ掛けている。
見せ掛けていると言うのは、一般的な意味ではない。実際には調べてないのではなく、神人は天才ゆえに超速度での速読が可能なのだ。
関連記事も含め、新聞、週刊誌、警視庁を通して借りた捜査資料、全てをほんの数分で完全に暗記してしまう。天才にはそれが出来るのである。
これでは神ではなく邪神だ、と神人は思った。監視カメラに映る藤太郎は、動かない。しかしその表情は恐怖や不安に引きつり、しかも溢れる涙を必死に指で押さえていた。
無実の若者を弄ぶだけの、最低な人間。真実を知る者にそう言われるだけの所業なのは明白であり、真実を知られていないだけで正当化しているに過ぎない。
神人には反省がないわけではない。しかし、隠さないで生きていくにはあまりにも天才なのが神人という人間だ。普通に生きようとしても目立つ。天才だからだ。
この宿命を、変えてくれるだろうか。
神人は藤太郎に期待していた。あらゆる手段で超人を理解した凡人は、超人をどう裁くのか。
そう。神人という孤独な超人は、裁きを求めているのだ。
これは雷笛の能力でもなんでもない。単に神人は警視庁の上層部に兄がおり、頼めば後学の為にと、それしきは請け負ってくれるのだ。
ところで、雷笛の因果操作は過去を変える事までは出来ない。
よって、神人の兄を若干27歳にして警視庁公安部理事官になった事実は消すことが出来ない。
何らかの有り得る因果をもって、今からその座を引きずり下ろす事は可能だ。ただ、こと倫理観においては一家言を持つほどで神人を上回る兄をどうにかするのは、今の神人では事実上不可能だ。
もっとも、天才である自らを隠したいからといって、変に家族を貶めてしまっては、むしろ目立ってしまう恐れがある。神人の兄は、なにしろただの警察官僚ではない。公安部理事官に27歳という若さで抜擢されたというのは、史上最年少とまでは行かずとも、かなりの大出世なのだ。
しかし、因果は使いようであった。貶める因果はないが、錯覚を応用したのだ。
要は、兄に対して神人を兄より警察向きだと思わせ、未来の警視庁の逸材だと言わしめたのだ。そうすれば、相手は警視庁とはいえ人間である。
有能な警察官僚の家族なら、是非その腕前を見てみたくなる、というわけだ。
警視庁には優秀な人材が集まる。よって普通ならばたとえ因果を操る事が出来ても、こんな無謀はしないだろう。優秀であるほど自分、そして他人の因果もしっかり把握しているために、不自然な因果は直感なり洞察力なりで見抜かれてしまうかもしれない。
まして、警視庁に配属された者たちである。理に敵わない事に関しては、人一倍に敏感だろう。
もっとも、普通ならばと言うなら、そんな予測も立たず無闇に賭けに出るという考えもある。けれども、超人である神人は、ひとつひとつの有り得る可能性を丹念に吟味した上で実行する慎重さをも持ち合わせているのだ。
独房の監視カメラに映る藤太郎は、警官に何やら注意されている。おそらく食事が遅いからだ、と神人は検討を付けた。
無理もない。濡れ衣どころか、世界的犯罪の冤罪なのだから、食事をまともに出来る方がおかしいのだ。
神人が時計を見ると、8時40分を回っていた。朝食は8時からなので、あまりに時間が掛かっていると思われるの確かに仕方ないだろう。
「冷や飯を食わせるのは、流石に心が痛むよ」
聞こえるはずはないが、それでも神人は、向こうからすれば全く面識がない藤太郎に語りかけた。
不思議な話であるが、刑務所や拘置所では温かい食事も出る場合が少なくないのに対して、留置所は勾留に係る手続きのためでも最長で20日程度しか入らないのが原則であるためか、やや冷えた弁当が食事である場合が大半だ。
これには罪の重さとは別の経済的な事情が噛んでいるらしい。つまり、弁当代は税金から出ているという点が効いてくるのだ。
税金で買われるとは言え、ひとつ300~400円ほどの弁当をいちいち温めるサービスをしていては、その分の光熱費はバカにならない。
長期の裁判で体力が必要となるかもしれないからって、大犯罪者のほうが食事が良いなんておかしいという正論は、財政により相殺されているのが現状なのだ。
神人はそう言った犯罪者の事情を、兄から聞いて知っている。まさか凡人を利用するために、その知識を使う時が来るとは思いも寄らなかったが、と神人は舌打ちした。
ひとりきりのモニター室に、舌打ちがモニターの微妙な静止音と共に気味の悪い存在感を浮かべている。
因果をみだりに使うのは危険という理由で、京舞は関わらせていない。それに、彼女には彼女で他にやるべき事がある。時間は永遠ではないし、どの道、因果を操れなければモニターを見るしか出来ないこの状況は、京舞でなくとも監視以上の大した意味を成さないのだ。
腹が鳴る。緊急性を演出するために、神人は朝食を抜いてきた。事件に関する資料を洗うために必死である、そう見せ掛けている。
見せ掛けていると言うのは、一般的な意味ではない。実際には調べてないのではなく、神人は天才ゆえに超速度での速読が可能なのだ。
関連記事も含め、新聞、週刊誌、警視庁を通して借りた捜査資料、全てをほんの数分で完全に暗記してしまう。天才にはそれが出来るのである。
これでは神ではなく邪神だ、と神人は思った。監視カメラに映る藤太郎は、動かない。しかしその表情は恐怖や不安に引きつり、しかも溢れる涙を必死に指で押さえていた。
無実の若者を弄ぶだけの、最低な人間。真実を知る者にそう言われるだけの所業なのは明白であり、真実を知られていないだけで正当化しているに過ぎない。
神人には反省がないわけではない。しかし、隠さないで生きていくにはあまりにも天才なのが神人という人間だ。普通に生きようとしても目立つ。天才だからだ。
この宿命を、変えてくれるだろうか。
神人は藤太郎に期待していた。あらゆる手段で超人を理解した凡人は、超人をどう裁くのか。
そう。神人という孤独な超人は、裁きを求めているのだ。
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