凡人と超人

永井 彰

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代理戦争

超越感

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 神人は、大学生である。しかも、誰もが羨む有名な難関大学に入学している。
 天才とバレないようにするために、大学受験において神人は細心の注意を払った。十分な合格圏内に入りつつ、尚且つ首席合格しないように気を付けたのだ。
 神人はまごうことなき天才。本気で解答すると、どうしても結果がずば抜けてしまうために手加減をしたのだ。
 全ては天才である事実を隠すためである。

 ならば、そもそも大学のランクを下げるか、高卒で働けば良いと思うかもしれない。しかし、神人の家系は代々優秀であり、室町時代からの家系図が残されているほど品格ある名家だ。
 万が一、受験に失敗したなら、蜷川幸雄のように映画監督を目指せば良いという気楽な時期もあった。そう思えなくなる出来事が、神人をこうまで凡人偽装に駆り立てるのだが、それはまた後ほど明らかになるだろう。

 さて、ここで雷笛の能力を説明しておこう。

 基本的に、雷笛が備えるのは因果の力と雷の力だ。
 因果の力については、まず、これまでに見てきたように心の弱い他者に因果を植え付ける事が出来る。逆に、対象が持つ因果を抜き出し、運命変化を引き起こす事も出来る。

 つまり、運命操作する力と同義である。

 また、自分自身の因果の追加や取り出し、いわば編集を行う事により、因果応報をキャンセルする事さえ出来る。言ってみれば、恨みを崇拝に変える事も有罪を無罪にする事も自在、なんでもありなのだ。

 雷の力は、まだ不安定な所がある。単純に雷を放つだけなのだが、かなり強力に意識を集中しないと出力が一定にならず、思わぬ暴発が有り得るレベルだ。
 だが、ある時に神人は全くの偶然から、雷笛の第三の能力とも言える力を発見する。

 意識的に雷を最大出力で暴発させると、この世とは別の空間が開けるのだ。

 神人が渋袋宿駅で試みていたのは、そういう危険な行為だった。天才である事を隠すのは、尋常でない精神的負担が掛かる。その反動が時折、神人にぎょっとする行動をさせてしまうのだ。

 いっそ、天才だと世界中に伝えてしまいたい。

 神人の本心はそうなのだ。しかし、繰り返すようだがそれを許さない何かがかつてあり、その何かが神人に天才を暴露させないのである。

「立命館がいなければ、本当に危なかった」

 神人は呟いた。京舞があの場に偶然、居合わせなかったなら、きっと今頃、日本の首都はとんでもない、おぞましい事になっていただろう。

「こんなざまでは、とてもやり遂げられないぞ。そうだろ、加護盾 神人」

 神人は自分自身にそう言い聞かせた。
 生き残り、しかるべき時に自らの正体、天才である事実を世間に知らしめるという大義だけが、神人を奮い立たせる。
 裁きを求める神人は、そうして心の奥底に沈み、再び邪神になるのだ。

「俺には果たすべき使命がある。そのための生贄、すなわちスケープゴートとなるのだ、藤太郎」

 夕暮れ時の小高い丘の上で、そう言って高らかに笑う神人は、さしずめ全ての悪の元帥だ。
 そう、神人は神になるために、一時的に悪の道を行く事を覚悟したのである。

 また、評価されるのが正しい道とは限らない、という考えを神人は持っている。愚かな人々の過ちに巻き込まれる不毛を避ける権利が、賢い者にはある。神人は、そんな高踏思想に取り憑かれていた。
 賢くない人間の中にも、実に様々な人生があり価値観も多様だ。だからこそ、想定外の事態はいつだって起こり得る。
 恐らくそうした理由のためであろう。アインシュタインやユングといった歴史上の天才でさえ、権威を駆使して無益な交流は嫌っていた。片や科学のため、片や心理学のためである。

 では、神人という天才は何のために生きるのか。だが天才にさえ、実は未来は分からない。かつての天才たちでさえ、最初から未来が見えていたわけではないだろう。そう、まだ若い神人にとっては、生き残る事、それ自体が今は最高の目的なのだ。

 雷を制御する修業を積まねばな、と神人は考えていた。これから始まる神人の長く険しいシナリオに、その力は絶対不可欠だからである。

 雷笛を呼び出す。雷笛の銀鳩は苦痛に満ちた目で、神人を睨んでいる。

 それは、そうだろう。

 その身には余りに大き過ぎる因果をただの鳩が抱えるのだから、本能が常に良くない何かを訴えかけているはずだ。

 そして、また例の衝動が、神人を襲った。最大出力で雷を放ち、異次元を開きたい、と彼は渇望した。その感覚には強い精神依存性があり、神人と言えども抗いがたいのである。
 雷笛も、そこから現れる因果や雷も常人には見えない。ただ、もし今、神人の近くを誰かが通り過ぎたなら、強烈な何らかの気配を感じ取るかもしれなかった。

 神人の目の前で、空間が歪む。
 最大出力の雷を上空に放つ事で、被害を出す事なく異次元は遂に開いた。

 人が数人入れるほどの広い穴が、無造作に浮かんでいる。その向こう側では、八つ目八つ足の悪魔や、褐色に光る翼を持つ巨人が蠢いている。

 だが、穴はすぐに閉じられた。神人の意志ではない。向こう側、つまり異次元の住人たちから拒絶されたのだ。

 それと同時に、神とならんとする青年は意識を失ったのだった。
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