傾奇者-KABUKIMONO-

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第9話 SMは本来SがMの事を理解し切って愛しているもの

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 客同士の喧嘩を仲裁したことでようやく飛んで出てきた『ジェラシー』の店主は「大事に至る前に止めてくれてありがとう、ほんの御礼に……」と、なんと三十万YENもの大金に加え、宝石の類いを一粒ずつ五種類、五粒も恵んでくれた。

「マジか!? ありがてえ……すまねえな」
「イイのよ! 贔屓にしてもらってるお客同士が傷むことや店を壊されるより全然マシよ。遠慮せず受け取って。……それから……」

 若き女店主は一通りヒロシの身なりを見てこう告げた。

「貴方も傾奇者? じゃあコーディネートは大事よ。本選ではある程度『テーマ』を持った装備の組み合わせをオススメするわ」

「テーマ?」

「『祭り』の本選は試合であると同時にそれこそ『お祭り』なの。派手な衣装で観客をあっと言わせることが出来れば、有利に事が運ぶわよ」

「へえー! 考えてみりゃ……そうかもな」

 『ジェラシー』の店主はくすっ、と笑った。

「装備の組み合わせ次第で傾奇者としての印象も変わるわ。無理はよしたほうがいいかもだけど、統一した『テーマ』の衣装……コスプレに近いノリかしらね。そうすれば『祭り』は大いに盛り上がるわ……まあ、試合で負けないことの方が大事だけど一応、ね」

 ヒロシはニカッ、と快活な笑みを浮かべた。

「わざわざありがとうよ! 頑張ってくるぜ!」

 深々と一礼し、ヒロシは踵を返し『ジェラシー』を後にした。

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 たまたま通りかかっただけだが、僅かな時間の間に大きな収穫があった。

 懸念していた武具は……まだその威力は定かではないかもしれないが、強力な闘士(普段は女子で喧嘩の時は某世紀末略)が扱う代物を二つ――刀と銃を手に入れた。

 傾奇ポイントを稼ぎ、さらに店主の厚意で軍資金まで得られた。

「よっし……よおっし…………!」

 街角で一人、ヒロシは野心への大きな一歩を踏みしめ、その場で身を屈めて大きくガッツポーズを取った。

(やったぜ! やったぜ! 俺、いけんじゃあねえのか!? 楽勝だぜ!!)

 若き傾奇者は、この短時間に様々なことがあったものの、総じて良き方向に転じていることに気持ちが高揚するばかりだ。

(よおっしゃ! 次はどこへ――おっ?)

 『祭り』での華々しい優勝を夢想しかけたところで、またもヒロシは足を止めた。

 何やら路地裏から、若い女の声が聴こえてくる……。

(――おっ? おっ? 売春か何かか? おっ?)

 増長したヒロシは好奇心の赴くまま路地裏を覗き込んだ。

 そこには、二十歳前後のツインテールにした女性と十一、二歳ぐらいの少年が向かい合って何やらやり取りする姿があった。

(まさか本当に売春――い、いや、さすがにアブノーマル過ぎて犯罪だろ……)

 他人が聞けばすかさず怒声が返ってきそうな想像をしたヒロシだが……聞き耳を立ててみると会話が聴こえてくる。

「あらあら、全くしょうがないわねえ、マーくんたら……わざわざお店空けて来たのよ? 早くトイレ行きなさい」

「う……ええ? じゃあなんでこんな路地裏に連れてきたの?」

 マーくんと呼ばれた少年は内股でもじもじと身を揺らしている。

(トイレに行きてえのか……確かになんでこんな路地裏に?)

 ヒロシは続けて会話を聴く。

「だぁかぁらぁ……誰も邪魔にならないような路地裏に来たんじゃないの……」

「いや……だから、公衆トイレとかあるでしょ!? なんでわざわざここなの!?」

「その様子だと公衆トイレまでもたないわよ? 何せ――――マーくんが勉強してる間に徐々に尿意を催すまじないをかけた上、店のトイレはリフォームの為に業者さんに邪魔――いやいや、入ってもらったんだから……」

「いい!? 今、邪魔って言ったよね? なんで急に店のトイレリフォームするのかと思ったら――それより、尿意を催す呪いって――――」

「ごちゃごちゃうるさい。そこに誰も迷惑しないような壁があるじゃあないの……さっさとおしっこ済ませちゃいなさい」

「うぐ……こんな所、すぐ人が通るよお~っ! 壁に立ちションするとか僕、野犬か何か!?」

「関係ない。もらせ」
「もらせ!? ……ひぐっ……ソロル姉さんがまたいじめるよお~っ!!」
「あらあら……いじめて欲しいの? 困ったわ~……姉さんにそんな心が痛むような真似、出来るかしら……ホント困ったわ~」
「今してるやんけ!!」
「も~、しょうがないわねえ~……じゃあ……ここで用を足すのと……利尿作用バッツグンで有名な牛乳『毎日眉太』を2リットル一気飲みした後、中心街のド真ん中で姉さんにジャイアントスイングされるのとぉ~……どっちがいーい?」

「あっ、ハイ……します……ここで……」

「だーいじょうぶよ。誰か来ないか、お姉さんがちゃ~んと見ててあげるから……ククク…………」

(……オイオイ……ひっでぇ姉だな……)

 ヒロシは少年(愛称:マーくん)にソロルと呼ばれた姉の嗜虐の悦びに燃える様にドン引きしながらも、義憤で己を奮い立たせた。

 家族や兄弟の姿、その幸せの在り方というのは人の数だけ存在していて、そこに他人が介入する余地など無いのかもしれない。

 だが……少なくとも荒れた気質を持っていても自分の血統と家族を誇りに思うヒロシにとって、親兄弟で戯れに傷付け合うような精神は理解出来なかった。

「――HEY!!」

 深く考え込むより先に、身体は動いていた。

「子供をいじめるSADISTIC LADY!! 俺が相手になってやる! 覚悟しやがれッ!!」


 ソロルと向かい合い、『ジェラシー』で貰ったばかりのゲンジバンザイソードを正眼に構えた。

「ああん!? ……貴方……誰に向かって喧嘩を売っているつもり?」

 ソロルは闖入者ちんにゅうしゃに怒気を込めて吠えたが、太刀を向けられても余裕の姿勢を崩さない。

「そ、そこのお兄さん! 悪いことは言わないから、謝って逃げた方がいいよ! ソロル姉さんはとっても強いんだから!!」

 叫び、ヒロシに撤退を促すマーくん。どうやら、本気でソロルが強いと言っているようだ。

 ソロルはそんなマーくんの頭を笑顔で優しくくしゃくしゃと撫でて言う。

「いいのよ、いいのよ、マーくん。すぐに終わらせるから…………」

 そして二歩ほどヒロシの前に進み出た。

 表情は笑顔のままだが、俄にソロルの全身から殺気が漂い始める……ヒロシはゲンジバンザイソードを強く握りしめた。

「私とマーくんのとの背徳の歓喜を邪魔した罪は重い。どんな国家元首同士の密談を邪魔したことの万倍、ね…………」

 そしてソロルは目を見開き怒気を露わにして低く鋭い声を発した。

「――――五 体 満 足 で  帰 れ る と 思 う な――――トランスフォオオオオオームッ!!」

 その雄叫びと共に、ソロルの眼は赤黒い光を放ち、どす黒いオーラと共に……見る見るうちにその姿を変貌させていく! 

 ぎぎぎぎぎ……という不快な音と共に、ソロルは僅か数秒で頭髪が蛇の化け物――――メデューサを思わせる姿に変わった。

「へっ! こんな術師までこの街にいるとはな……上等! 成敗してやるぜ!!」


 ここまでの成功で、ヒロシは変化へんげの術を使う恐ろしい相手まで怯むことなく立ち向かう。そんな漫画やアニメの燃え動画でも観たようなハイテンションをそのままに闘うことに迷いはなかった。

 弱き者を守るため。

 正義は俺にある。

「でやあああああッ!!」

 ヒロシは一気呵成に、目の前の妖女へと斬りかかった! 

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 弱き者を守るため。

 正義は俺にあり。

 そんな浮ついた勇気は一分と待たず崩れ落ちた。

 ヒロシの武器、ゲンジバンザイソードと44マグナムは偽りなく強力だった。 

 何しろ、ソロルから外れた斬撃や銃撃を受けた硬い石壁や鉄塊などはヒロシの予想をさらに上回るほどの威力――――『真っ二つ』『爆発四散』という表現がしっくりくるほど破壊する出鱈目な攻撃力だったからだ。

 現に、この強力な武器でソロルにいくらかダメージを与えた。

 だがソロルはヒロシが近付いた一瞬の隙を突き……忽ち目にも留まらぬ速さの関節技サブミッションめて万力のような力で締め上げた。

 その瞬間にヒロシは敗北を確信した。根を上げるのに数秒もたなかった。

「ぐぎぎ……んんんんん参りましたっ! アンタにゃ勝てねえっ!! だっから……生命だけは見逃してくれえ、あがががっ!!」

 獲物の身体の自由を奪うことは勿論、痛覚を的確に与えることに特化した関節技を極められ、ヒロシは情けない悲鳴を上げる。

 ソロルは万力のような力をほんの少しも緩めないまま、ヒロシに語りかける。

「んん~っ!? 見逃して欲しい~っ? ……ククク……だ~めっ♡ 少なくとも、貴方の全身をバキ折りにして一生病院で過ごす程度には破壊しないと、ねっ!!」

「ぐぎゃああああっ! あっ、アーッ!!」

 ソロルがさらに力を加え筋と骨がメリメリと悲鳴を上げ、ヒロシは半泣きになっている。

(ヤバイヤバイヤバイ……このままだと『祭り』に出る前に再起不能リタイアしちまう――――つーか……死んじまう!!)

 己の無茶な挑戦を後悔しかけ、今にも大事な関節や筋繊維を破壊されそうな中――――ヒロシの脳裏に微かな可能性がよぎった! 


 ――――現在ヒロシの傾奇ポイント百五十ポイント。予選終了まで三時間二十六分。予選通過に必要な傾奇ポイント百五十ポイント――――
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