西方旅行

夏炉冬扇

文字の大きさ
5 / 5

病人旅行

しおりを挟む
そうだね。
こっちは何も感情というか、思いというか、
そういうのはないな。

いいも悪いもね。
よく言うだろ?好きの反対は嫌いではなく無関心だと。
好きも嫌いも感情があるんだ。
それがないんだよ。

だからね、あなたが、それだけ感情あらわになっていることに、
こっちは、そう、驚いている。
逆にね、ああ、俺の中にはそれすらもないんだって。
再認識して、それが、そうだな、寂しいかな?
いや、そうじゃないな。
あなたの感情に共感できないことが申し訳ない。

それだけだ。
それに対してなにも感情は湧かない。

きれいなものを見て、きれいだと。
おいしいものを食べて、うまいな、と。
同じ思いをすることができないのが、さみしいな。
嫌いな食べ物でもいいよ?
何かに対して、感情が出ることが、共感だ。

あの、なんだっけ?
現代美術の?なんかすごい賞をもらったみたいな彫刻?
あれね。あなたは、すごいと手放しに喜んでいたけど、
俺はちっとも良さが分からなかった。
逆になんなんだって。
バカにするなとすら思った。
感情が出たんだ。
だから、帰りに入った店が、
いわし尽くしの店だったけど、楽しかったよ?

そうだ!
今、この話をするのは不謹慎かもしれないけど、
生物はなぜ死ぬのかっていう話。
見出しだけ読んだから、
その偉い先生がなにを言いたかったかは、
わからずじまいなんだけど、
生物はなぜ死ぬのかではないく、
生きているから死ぬんだって。

あれ?うる覚えだな。
こういう言葉ではなかったかな?
なにせ、それを読んだ時、いや、読むこともしなかったけど。
目の端で認識したときに、
そりゃそうだと思ったんだよ。
死んだものはなにもできないだろ?
何も言えないし、感情も生まれない。
死んでいるんだから。
ああ、では俺は死んでいるのかもしれないな。すでに。


泣かないで。
怒らないで。俺にだったらいいけど。
自分で自分を責めないで。
おなじだよ?
どうにもならないことはどうにもならないんだ。
生物だから死ぬんだ。
そう考えればいい。
ということは、生きているんだよ。ね?


見に行くの?また?
同じものを見に?
え?5体増えたの?なんで?
家族?
あれか?本人よりもあとに親ができるっていう奴?

なめてんのか?

そうだね。
あれに関してはなぜか感情が湧くね。
はいはい。そうだね。
それが、芸術なんだ。




いや、いいよ。
いわしは。
さんまならいいんだけどね。
不漁だね、ここ最近。
潮の流れが変わってるんだよ。
ずっと同じものなんてないんだ。
変わって当然なんだよ。


わかったよ。
チケット取っておくよ。
店も?
なんて名前だけ?
この場所だよね?
ん?
焼肉屋に変わってるよ?
いいの?
いわしにこだわりがあるんじゃなかったの?
はいはい。そうだね。

その、5体展示は来月で終わりみたいだぞ?
今月末?いくの?
わかったよ。車いす、手配しておくよ。

変わらない?
だって、あなたは、ここにいるし、
いつもと同じだろ?
変わったのはあなただよ?

痛いのはなくすようにしてるでしょ?
怖いの?
どうして?

二度と目が覚めないかもって?
あははははは!

だったら、目が覚めて、
こうして話していることを楽しんで?
次も楽しいことができるって。
ね?


笑って。
まるで、病人みたいだ。




あははははは!




















そうだそうだ。



























忘れてたよ。
病人は・・・・・・







しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...