西方旅行

夏炉冬扇

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病人旅行

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そうだね。
こっちは何も感情というか、思いというか、
そういうのはないな。

いいも悪いもね。
よく言うだろ?好きの反対は嫌いではなく無関心だと。
好きも嫌いも感情があるんだ。
それがないんだよ。

だからね、あなたが、それだけ感情あらわになっていることに、
こっちは、そう、驚いている。
逆にね、ああ、俺の中にはそれすらもないんだって。
再認識して、それが、そうだな、寂しいかな?
いや、そうじゃないな。
あなたの感情に共感できないことが申し訳ない。

それだけだ。
それに対してなにも感情は湧かない。

きれいなものを見て、きれいだと。
おいしいものを食べて、うまいな、と。
同じ思いをすることができないのが、さみしいな。
嫌いな食べ物でもいいよ?
何かに対して、感情が出ることが、共感だ。

あの、なんだっけ?
現代美術の?なんかすごい賞をもらったみたいな彫刻?
あれね。あなたは、すごいと手放しに喜んでいたけど、
俺はちっとも良さが分からなかった。
逆になんなんだって。
バカにするなとすら思った。
感情が出たんだ。
だから、帰りに入った店が、
いわし尽くしの店だったけど、楽しかったよ?

そうだ!
今、この話をするのは不謹慎かもしれないけど、
生物はなぜ死ぬのかっていう話。
見出しだけ読んだから、
その偉い先生がなにを言いたかったかは、
わからずじまいなんだけど、
生物はなぜ死ぬのかではないく、
生きているから死ぬんだって。

あれ?うる覚えだな。
こういう言葉ではなかったかな?
なにせ、それを読んだ時、いや、読むこともしなかったけど。
目の端で認識したときに、
そりゃそうだと思ったんだよ。
死んだものはなにもできないだろ?
何も言えないし、感情も生まれない。
死んでいるんだから。
ああ、では俺は死んでいるのかもしれないな。すでに。


泣かないで。
怒らないで。俺にだったらいいけど。
自分で自分を責めないで。
おなじだよ?
どうにもならないことはどうにもならないんだ。
生物だから死ぬんだ。
そう考えればいい。
ということは、生きているんだよ。ね?


見に行くの?また?
同じものを見に?
え?5体増えたの?なんで?
家族?
あれか?本人よりもあとに親ができるっていう奴?

なめてんのか?

そうだね。
あれに関してはなぜか感情が湧くね。
はいはい。そうだね。
それが、芸術なんだ。




いや、いいよ。
いわしは。
さんまならいいんだけどね。
不漁だね、ここ最近。
潮の流れが変わってるんだよ。
ずっと同じものなんてないんだ。
変わって当然なんだよ。


わかったよ。
チケット取っておくよ。
店も?
なんて名前だけ?
この場所だよね?
ん?
焼肉屋に変わってるよ?
いいの?
いわしにこだわりがあるんじゃなかったの?
はいはい。そうだね。

その、5体展示は来月で終わりみたいだぞ?
今月末?いくの?
わかったよ。車いす、手配しておくよ。

変わらない?
だって、あなたは、ここにいるし、
いつもと同じだろ?
変わったのはあなただよ?

痛いのはなくすようにしてるでしょ?
怖いの?
どうして?

二度と目が覚めないかもって?
あははははは!

だったら、目が覚めて、
こうして話していることを楽しんで?
次も楽しいことができるって。
ね?


笑って。
まるで、病人みたいだ。




あははははは!




















そうだそうだ。



























忘れてたよ。
病人は・・・・・・







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