いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
115 / 869

115:耳掃除

しおりを挟む

講堂の中央に出て、ルグの気合からはじまった。
ルグとドーガーは槍使いだ。
彼女は素手だ。手甲は嵌めている。

ルグの一撃を躱し、その間にドーガーが打つ。
2人の連携はとれている。
ただ彼女は、難なく躱す。
打つ、躱す、これが繰り返され、ふっと彼女が息を吐くと
攻撃に転じていった。
その動きが、出来上がった演武なのだ。

ドーガーの呼吸が乱れたそのとき、彼女の蹴りが
2人に食い込む。


「んー、、手を抜かれたわけじゃないよね?」
「姉さん、素晴らしかったです。1つの演劇を見ているようでした。
しかし、兄さん、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、見ただろう?うつくしかったな。」
「ええ、それはもう。ルグ、ドーガーお前たちはどうなのだ?」

「ええ、こちらも実力以上に力が出たと思うのですが、彼女の、そのなんとお呼びすれば?」
「んー?赤い塊の時はそれで、いまは、、」
「奥方だな。」

私の妻なのだから。

「あ、はい、奥方様の流れに引き込まれるというか、決して操られいるということはないのです。
ただ、打つべきところと、次の踏み込み、それが、考えることなく決まっているのです。」
「わたしもその感覚でした、ルグさんの動きもわかるのです。次に右から、そこでわたしは左から。
その感覚が続きました。息を吐く間を間違えたと思ったら、その時は打たれていました。」

彼女の思いに動きにつられたということだろう。
上位と打込めば、たまにあることだ。
下位の息の乱れでそれは終わる。
なかなかに続いたほうではないか?
なるほど、この2人もそこそこというわけだ。

「愛しい人、よく動けたな。息は上がっていないな?
十分に体力もついてる。さ、風呂にいこう。」

それをルグが止めにかかる。
邪魔をするのか?

「マティス様、お待ちください。マティス様とも手合わせをお願いしたい。」
「わたしもです。」
「ああ、兄さん、お願いします。手合わせでなくてもいい、軽く鍛錬してやってください。」

鍛錬か、それはいいな。

「お?マティスが指導するの?見たいな。自分がされてても
自分のことでいっぱいだから、マティスのかっこいいところが見れるね。」

やらねばなるまい。

「軽くだぞ?では、そうだな、やはり軽く手合わせをしよう。
私は仕掛けないから、打ってこい」

そこからは、なかなかに楽しめた。
彼女との鍛錬はけっして彼女に傷がつかないように、彼女の力を伸ばすようにと
神経を使うが、この2人なら多少は大丈夫だ。
私も久々の複数の模擬戦で汗を流し、鍛錬の項目を3人でこなしていった。
うむ、なかなかに、ついてくるではないか。
2人が完全にへばってしまい、私も軽く汗がにじみ出る。

すこし、夢中になってしまった。
彼女とセサミナは?と振り返ると、なんと、彼女の膝枕で
セサミナが耳掃除をしてもらっている。


「うわ、兄さん!!落ち着いて、死ぬ、その気は死ぬ!!」
「おお、これが殺気か、ちょっとすごいね?」
「離れろ!!お前も何をしている?」
「いや、さすがは、マティス、惚れ直すねって見てたけど、鍛錬になっちゃうと地味でしょう?
でも、嬉しそうにしてたから、待ってる間に耳掃除の実演してたの。」
「二度とするな!!」
「ははは、しないよ?最後の”ふっ”もしてない。あれはマティスにだけだ。
それにしてもさすがは、わたしのマティスかっこいいね。」

「ん?ふっはしてないんだな?かっこいいか?そうか?ふふふ、それはよかった。」
「うん、マティスもしっとり汗かいてるね。わたしもお風呂入りたい。
セサミンお風呂借りてもいい?」
「あ、はい、場所は中庭の中にあります。」
「あれか、記憶にない建物だったんでなにかと思っていた。」
「今日はもう、誰も使わないようにしています。湯も張っています。
砂漠石を入れれば温まりますから。中に入ったら、一応、防音と気配消しは行ってください。」
「わかった。終わったらそのまま家に帰る。明日は月が沈み切る前に
お前の部屋に行こう。ではな。」
「じゃあ、また明日ね。あ、ルグとドーガー伸びたままだね。
 これ、使って?冷たいタオルとおいしい水。ここから、飲んで。」

彼女の腰を抱き、中庭にで、その建物の中に入った。
なるほど、セサミナが自慢するだけのことはある。
これは楽しみだ。





「おい、ルグ、ドーガー、起きろ、これを。姉上が下さったぞ。」
「はい、起きてます。あの殺気で腰が抜けただけです。」
 「あれはセサミナ様に向けて?ご無事で?」
「ははは、あれは兄上の威嚇だ。死にはしない。死ぬかとは思ったが。
ほら、これがタオルだ。」
「この冷たいのは気持ちがいい。これが完成品なのですね。売れますよ!」
「これは、どうやって?ここから?あ、じょっぱい。でも冷たくて、ああ、いいですね。
この容器も売れそうですね。」
「タオルはいいが、それは全部砂漠石だ、無理だな。」
「え?砂漠石を加工してるのですか?なんて、贅沢な。それにこれほどの石をお持ちとは。
マティス様の奥方様は、高原の民の豪族か何かなので?」
「それは聞くな。それで、念願の姉上の手合わせと兄上の鍛錬はどうだった?」
「あ、はい。奥方様とのは、なんというか、先ほども言いましたが、決まっているのです、動きが。
流れるように、舞っているような感じで、心持もとても穏やかで、もっと演じていたい、そう思いました。
ドーガーの息が切れていなければ、わたしの息も切れましたので、あれ以上は無理でしたが。」
「マティス様の鍛錬もギリギリ限界のところで、緩和が入り、どんどん進められるのです。
しかし、寝ずには無理ですね。これに耐えられた奥方様はすごい。」
「そうだな。さ、風呂に行きたいだろうが、今日は湯あみで我慢しておくれ。
いま、兄上たちが使っている。家族で入るというのはいいかもしれないな。
時間を決めて入る順番を決めればいいだろう。夫婦、家族、親子限定だ。婚約止まりではだめだな。」
「それはみなが喜びますね。さっそく提案してみましょう。」
「そうしておくれ。では明日のために今日はもう、引き揚げよう。」



「おお、広いね。さすが、いい石使ってる。
排水は?一応あるのか?給水は?ん?汲んでるの?
で、砂漠石を入れると。へー。おもしろいね。
でも、窓がないね。庭に面してるんだから、庭を見ながら入りたいね。」
「覗きがでるぞ?」
「いや、そこは囲いをつくってさ。そうすると中庭が台無しか。
ま、いいか。洗い場は?ないね?浸かるだけか。
そうか、さっと、湯をかけてザボンと入ろう。この広さ、泳げるね。」
「泳げるのか?それはすごいな。私も騎士団で川や湖にいくまで泳げなかった。
そのときは皆が私を鍛え上げようとしたな。おかげですぐ泳げるようになったが。」
「そうか、学校ね。プール、ひろーい水を張った、うん、このお風呂の何倍もの大きさのものが
あって、そこで、教えてもらったの。授業の一つだったよ。」
「そうか、そんなことも教えるのだな、学校は。」
「うん、運動もね。勉学もそうだけど、集団生活の訓練みたいな要素もあるんじゃないかな?
いじめとかもあるけどね。それをうまくかわすのも勉強かな?」
「そうか、さ、湯をかけて、入ろう。石はこの大きさだとかなり入れなければいけないな。」
「青い海峡石君に熱湯を出してもらおう。お願いね。」

青い海峡石を呼びよせ湯舟の中にぽちゃんと入れた。
すぐに適温になる。

「はは、ほら、泳げる。」
「ああ、いい眺めだ。」
「もう!!」

わたしを抱きかかえて浮いてもらうのは気持ちよかった。
ただ、そんなにいちゃつくこともできない。
やっぱり人さまの家なのだ。

「これ、お湯どうしよう?排水して、掃除して新しいお水張っておけばいいのかな?」
「それは聞いてなかったな。それでいいんじゃないか?」
「そう?じゃ、これ抜いて、と。」
『きれいに』『水も』

この言葉は魔法の言葉だ。

「んじゃ、家のお風呂で、体洗ってくれる?」
「もちろんだ!」

体力はついたが、やっぱりぐったりした。
使う体力が違うのだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...