いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
239 / 869

239:赤い宝石

しおりを挟む






愛しい人がいた世界は銃が身近にあったなのかと聞けば、
違うと。国で禁止されていたという。
しかし、よその国や、物語の世界ではいくつもの話を聞くという。
違法に持ち込まれた銃などもあり、それで死んでいく者たちもいる。
戦争が起れば、銃を持たされる。
そんな話を聞いて知っているのに、と。
止めることはできない。



家に戻ると、すでに気を失っている彼女の服を脱がし、
風呂に入ったのだ。
一緒に入ることを望むのはよほどだ。
抱えるようにからだを洗っていると気付いた彼女が、
ぽつりぽつりと話してくれた。

「お前はいつも言ってるではないか?
いつかだれかがすることだと。今回は銃の革新の時に立ち会っただけだ。」
「そう、そうなんだ。わたしは神様じゃないからね。
傍観者でいたいんだけど。セサミンたちは守るよ?師匠も、トックスさんも。
ふふ、なぞかわたしを気に入ってくれているガイライさんも。
ああ、サバスさんも。じゃ、本屋さんは?石鹸屋さん、ゼムさん、奥さん。
関わった人全部?セサミンの奥さんたちや娘さん、ルグの奥さんに息子さん、
ドーガーの母様に妹ちゃん。じゃ、今度結婚するっていう人は?
師匠のお気に入りの料理屋さんでわたしの落語を笑ってくれた人は?
オート君は?
わたしの知っている人が銃で死んだら?
ここで何としても止めておけばよかったと後悔する?
でも、もう止まらない。
みなに防弾性能がいい服を渡す?どこまで?コットワッツの領民みんなに?
コムの人たちは?ジットカーフの魚屋の奥さんは?
糸にする方法を公表する?セサミンが出来ないなら、わたししかできない。
ずっと、ずっと、糸にしていく?悪いけど無理だ。
そういう装置を作る?砂漠石を細くする装置?
今度はそれを悪用してしまう輩が出てくる。
マティスだって気付いてるでしょ?
移動は便利だけど、高速に移動した石で人は死ぬ。
そんなことを不用意にする人は移動はできない。
悪用しないように人を選ぶ?だれが?
そのときはいい人でも先のことなんてわからない。」

「愛しい人、先のことはわからないし、皆を守る必要もない。
そんなことを考えてあなたが疲れてしまうのなら、
私はそれだけでこの世界を壊してしまうよ?
あなたと2人ならそんな心配もしなくていいだろ?」

「ぷくくく!もう!マティスはすぐそんなことをいう!
あはははは!そうだよ、皆を守る必要もない、先のこともわからない。
銃に対抗する手段が出てくる。あの蜘蛛の糸はいいかもね。
昔読んだ話で、そういう自然界にあるもので、防ごうと試みた話もあったよ。
そうなったらいいね。」

かなり本気で言ったのだが、彼女は笑って済ましてしまった。

「さ、準備をしよう。
銃がどうのこうのよりもコットワッツの生産品の宣伝のほうが大事だ。」

せっかく、彼女の希望で一緒に風呂に入ったので
最後まで、私が洗うことを望んだ。

「ん?そりゃうれしいけど。いいの?」
「もちろん。さ、私にもたれて?髪を洗おう。」

彼女はおとなしく私に身をゆだねている。
彼女のいうぴんくな雰囲気にならないように、丁寧に洗っていく。
髪を洗い、爪先まで洗っていく。

「ん?どうした?」
「マティス。」
「ん?なに?愛しい人?」
「うん。」
「ふふ、いいの?」
「うん。して。」
「ここで?」
「うん。ここで。」
「おいで?」
「うん。」






彼女の肌に赤い宝石を。












「姉さん!よかった!顔色もよくなりま、した?
兄さん!!あなたって人は!!」
「なんだ?セサミナ?言ってみろ?」
「え?セサミン?おかしい?化粧もマティスがしてくれたんだけど?」
「いえ、姉さん。きれいです。少し妖艶すぎますが。」
「?化粧がきついってこと?紅?とろうか?」
「いえ。そうではなく。兄さん!声がどうのという言う話ではありませんよ!」
「なに?」
「奥さん、あれだよ、色っぽ過ぎるんだよ。
さっきまで、愛されてました!って顔してるぜ?」
「な!!」
「トックスはさすがに的確に表現するな。まさにその通りだ。」
「いや、旦那、これ、領主さんが言うように、声とかの話じゃないぜ?」
「なに、馬車に揺られればちょうどいいだろ?どうした、愛しい人、きれいだぞ?」
「ええ、そうでしょとも。馬車には乗ります。確実に酔うから、ちょうどよくなるはず。
マティス!抱えなくていいからね!」
「それは残念だ。だが、今は抱えてしまえば、王城に行くことなく、
こちらに戻ってしまうからな、我慢しよう。」
「!!!」
「ほら、奥さん、毛皮は着ておけ。」
「うん、ありがとう、トックスさん。
ん?トックスさんはなんで着替えてるの?」
「俺は行かないよ?ちょっとやりたいこともできたから、
留守番しておくぜ?」
「そうなの?マティス?作り置きのご飯ある?」
「ああ、おにぎりとか、唐揚げとか出しておこう。」
「お!ありがたいね。あれは作業しながら食べれるからな。」
「例の蜘蛛は?ここにいてるの?」
「いや、ワイプの旦那が管理するそうだ。」
「そうなのね。けど、ここにトックスさん一人だと不安だから、
誰も来られなくするけどいい?
なにか困ったことがあれば呼べばわかるようにしておくから。」
「そんなことが出来るのか?ま、いいようにやっといてくれ。
じゃ、頑張ってきてくれよ?俺の店の売り上げにもかかわってくるからな。」
「もちろん!トックスさんの名前だしていいだよね?ジットカーフのトックスって。」
「ああ、それな。コットワッツにしてくれ。コットワッツに移住することになった。」
「お!!セサミン、やったね。お祝いはお風呂とお便所だね。」
「そうかい?それはうれしいな。」
「なにか希望があればいってね?」
「おう!ありがとな。」




彼女がうれしそうに笑ってることが一番うれしい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

異世界からの召喚者《完結》

アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。 それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。 今回、招かれたのは若い女性だった。 ☆他社でも公開

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...