いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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378:鋏

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ワイプの家に行く前にセサミナのところにも差し入れをするという。
一番頑張ってるからね?と。

一番頑張っているのは愛しい人だと思うのだが、というと、
また、うふふふふ、と笑い、頭を摺り寄せ、
ありがとうと笑う。

愛おしいとおもった。


(セサミン?お疲れ様です。)
(姉さん!姉さんこそ、お疲れ様です。)
(ちょっと、いろいろ作ったんだ、もっていってもいい?)
(もちろん!うれしいです。いま、講堂なので、戻ります)
(戻ったら呼んで?)
(?どうやって?)
(月が沈んだあと、呼ぼうとしたんでしょ?それをしてみて?)
(わかりました)


彼女に月無し石が呼んだと言えば、実験しようというのだ。

「鳴るかな?どうかな?」
「わからんな。緊急性があるかないかではないのか?」
「そうだよね?呼ぶときの必死さ?」
「姉さん!姉さん!と10回とか?」
「ぶははははは!そうかも!!」

しばらくして、月無し石が光、リンリンと鳴る。

「セサミン?」

リン

「ありがとう!戻ったら水浴びしようね!」

リン


「おいで、一緒に行こう。」
「ん。お願いします。」


彼女がまたスリスリと抱き付いてくる。
彼女が私の匂いを嗅いでるのは知っている。私も同じだ。



「セサミン!呼んでくれたのわかったよ!」
「そうですか!良かった!」
「ちなみにどうやったの?」
「え?それは、ちょっと、言えません。」

なにかしたのだろうか?
心なしか顔が赤い。

「へ?そうなの?呼べたのならいいか。
これね、パイ類と、甘いパン。マティスの新作。
こっちはクッキーね。
チョコはいってるから。誰かにあげるときは気をつけて。」
「ありがとうございます。」
「ルグたちは?」
「まだ、講堂に。祭りの反省点とまとめをやってます。」
「えらいね~。で?儲かった?」
「儲かるとは言い難い。しかし、損はしていない。回収はできています。
あとは、ラーメン、ハンバーガーの店を領主直で出して、
広まり次第、誰かに売るという形ですね。」
「お!それもいい方法だね。
お醤油が作れるようになればいいんだけどね。」
「そうですね。イリアスにも塩漬けの豆が保存食としてあるので、
作ってもらえないかお願いしようと思っています。
もともとはマトグラーサの北の村の少年が持ってきたんですよね?
そこにお願いするのが筋なんでしょが、
マトグラーサというのが、今は避けたい。」
「いいんじゃない?おすすめは焼きおにぎりと海苔だよ?
海苔も置いておくよ。岩場にある、海藻を集めて、洗って、砕いて、
すだれに広げて、水分取って乾燥?
すだれはブラス。これも置いとくね。
で、塩で味付けたり、お醤油をさっとぬって炙ると。
ダメもとでね。これがお手軽に買えるならうれしい。」
「これ、うまうま籠にも入れてましたね。
駱駝馬も喜んでいました。」
「そうなの?馬がおいしいて言ったものは人もおいしいのよ。
あ、プニカの皮はダメだけどね。それは教えてくれるから。」
「それがわかるのは姉さんぐらいですよ?」
「そうかな?マティスもわかるよね?」
「食い物に関してはわからんな。」
「そうか、スー兄とわかり合えるのは師匠関連だけか。」
「ワイプ死ね死ね団なのだ。
常にいかにしてワイプが死ぬかを研究しているのだ。」
「そうか、そうか。うん、大変だね~。」
「姉さん、顔が苦しそうですよ?」
「へ?セサミンもじゃん!」
「「ぶはははははは!」」
「なぜ、そこで笑うんだ!!」
「いや、大変だからですよ?兄さん。
ワイプ殿は一度こちらに来ていただいて、
結果はトリヘビに運んでもらいました。
白いトリヘビは初めて見ましたよ。」
「ビャクっていうのよ。こっちによってから、うちにも来たんだね。
頭の上を掻いてやると喜ぶよ?」
「喜ぶんですか?今度やってみます。」

「ドーガーとルグ以外に人が来るな。」
「スビヤンでしょう。姉さん?面談のときにいたもので、
姉さんを紹介したいのですが?」
「え?あの時の人?いや、いいよ。生意気いったから今さらね。
マティスは知ってる人?」
「知ってるな。父の代からいてる。」
「ええ。兄さんにも会いたがっています。」
「いや、私も遠慮したいな。
そうだな、昔失くして大騒ぎしていた鋏は、
裏の木のうろにあるかもしれんといってくれ。」
「マティスが隠したの?」
「ふふ。それは言うべきことではないな。」
「わーるいんだ、わるいんだ~。」
「なんとでも。ではな。」


あれはうるさいのだ。何に付けても。
いまさら説教なぞ聞きたくはない。


彼女を抱え、いったん呪いの森に飛ぶ。

「ますます、一体化してるね。」

壁が一面なくなり、そこから木が伸びている。
何十年も前からあったと言っても不思議ではない。

「ここの木にもなにか隠しておこうか?」
「隠すのか?」
「そう。わすれたころに思い出したら面白い。
なにがいいかな?」
「鋏?」
「あははは!なんで、鋏を隠したの?」
「・・・鋏でな、その鋏で、鼻毛を切るんだ。
それはいい。自分の鋏で、自分の鼻毛だ。
しかし、ところかまわず切る。
それが嫌だった。」
「ぶはははははは!部長!うちの部長だ!!
勤めてた時の上司がね、あはははは!そういう人らしくてさ、
机の上に鋏があると、勝手にとって、鼻毛を切るのよ!
だから、出しっぱなしだと、部長に鼻毛切られるぞっていわれたの。
もちろん、そんなことしない、出しっぱなしだから
そういう風に言われたんだって思ったんだけど、違うんだ。
本当にやられた人がいた。あははははは!
いや、自分の鋏でするだけえらいよ?うん。
あはははははは!」
「・・・どこも同じなんだな。」
「いや、どこもって、ちょっと特殊だよ?
鼻毛ね、うん。お手入れは大事だ。
専用の鼻毛切りって売ってたよ?マティスはどうしてるの?」
「!!そういうことは聞かないものだ!!」
「え?そう?そうか、でも、鼻毛でてたら教えてね?
わたしも手入れしてるよ? 」
「女性もするのか!!」
「するでしょ?小さい鋏、それ専用にしてるよ?」
「愛しい人は、その、腕と足には毛ないな?脇も。
その、そこにもほとんどない。」
「あははは!これはね、生えてこないようにしてたのよ。
若かりし頃にね。でも、眉毛と、口廻り、顔の産毛はあるよ?
それはこっそり処理してます。」
「そうなのか?知らなかった。」
「でもさー、脇にさ、数本だけ生えてくるんだよね。
だから、それはピって抜いてるの。うふ。内緒だよ?」
「!見たい!」
「へ?だから、抜いてるってば。え?毛に魅力を感じる人なの?」
「違う!毛が無いのは不思議だったが、あなただからどちらでもいい。
しかし、数本だけ生えてくるとは!見たい!」
「いや、マティスだって鼻毛どうしてるか教えてくれないのに、
なんで腋毛が見たいのよ!」
「ん?そうか。私も同じで鋏だ。見せて?」
「なんなんだ。しかし、残念。この前抜いたから、今はないよ。」
「え!次抜きたい!」
「食いつくね。次ね、次。
じゃ、鼻毛切るとこ見せて?」
「え?」
「全部見たいもの。ひげ剃るところも。」
「・・・雨の日はずっと一緒だからその時に。」
「なるほど。じゃ、ピもその時に。」
「「・・・・。」」
「お間抜けだね。」
「間抜けだが、雨の日はそうなる。」
「そうか。うん。そうなんだ。」


雨の日はずっと一緒だから。



「もう、師匠は戻ったかな?」
「そうだな。月が昇ればここは寒いからな。移動しよう。」

(ワイプ!今どこだ?)
(おや、マティス君。いま仕事が終わって、戻るところですよ
人目があるので、もう少し歩いてから移動します。卵と乳は買っていますよ)
(では、先に家に入るぞ?飯はまだだろ?)
(ええ)
(なにがいいですか?師匠?)
(そうですね。鍋ですか?肉と赤菜の。あれがいいです)
(ん、わかりました。〆はおうどんで。カップ君たちは?いっしょ?)
(先に戻ってますよ。わたしとツイミと一緒です)
(はーい)


ワイプの家に移動し、ドアを叩く。
カップが気配に気づいたのだろう、慌ててドアを開けてくれた。

「先生!自由に入ってきてください。」
「誰もいなければそうするが、いるのなら、ドアから入るぞ?
礼儀は大事だ。」
「なるほど!ワイプ様はもうじき戻ります。ビャクが先に戻ってますから。」
「そういう合図があるんだね。晩御飯つくるよ、鍋にしようか?」
「やった!チュラル!ルビス!今日は鍋だ!」


何を作るか考えてていたところだったのだろう。
まだ、何も手つかずだ。
材料はすでに切ってあるから、昆布を入れて火にかけるだけだ。
その間に、パイ類を彼女が渡してている。焼けばいいだけのものを作ったので
冷凍庫に。あとはクッキー類。ちょっとずつだよ?と念を押しているが
すぐになくなるだろう。


「戻りましたよ。ああ、いいにおいだ。」
「魚の唐揚げと磯辺揚げですよ。海苔まぶしただけですけどね。
大蒜すり込んでますからおいしいですよ。」


・・・・
これをやってほしい。
私が戻ったら、えぷろんをつけてた彼女がでてきて
飯の説明をするのだ。
それをしてもらい、満面笑みなワイプとツイミ。
死ね!

「え?マティス君?なにか刺さりますよ?
着替えてすぐに頂きましょう。」

ご飯も炊いている。鍋は2つ。
ワイプとカップたち。私たちとツイミだ。
ゆっくり食べたいのだ。

クーとビャクの飯はカンランだそうだ。
赤粉付き。


「モウ様、これはうまいですね。ごま?ですよね?」
「胡麻ダレはおいしいよね。ごまをすりつぶして、
ちょっとお酒と、お砂糖、お醤油かな?」
「なにかとなにかを混ぜるというのがおもしろい。」
「そう?祭りでも、そんな感じだっただよね?」

話を振れば、カップが自分の取り皿に肉を確保してから答える。

「そうなんですよ。あれと、これ、それとこれ。
大抵はモウ様が先にやったことなんですが、
芋に蜜とか、リンゴに樹脂蜜とか、甘いものと甘いものの組み合わせは
すぐに皆が真似しましたよ。」
「そりゃそうだろうね。おいしいもの。」
「あのラーメンのところに置いてあった辛い油を気に入ったものが
なんでもかけて食べてましたよ?」
「辛いの好きな人はそうなんだろうね。
〆のおうどんに赤粉入れてもおいしいよ?少しだけね?」
「あれ、やっぱり赤粉なんですね?イリアスから来てた人が、
絶対そうだっていう人と、違うっていう人と喧嘩してましたよ?」
「絶対そうだっていう人は食べたことあるんだろうね。
ぴりっといいよね。
こういうのほかにないかな?たべると体がぽかぽかするのとか、
鼻につんってくるものとか。馬さん情報にはなかったんだ。」
「若い時に、食べることが十分でなかったとき、
川辺に生えていた草で、
鼻に刺激ですか?つんとくるという表現は的確ですね。そういうものがありましたよ?」
「え!ツイミさん、ほんと!それで?おなか壊したりした?」
「いえ、それはないですよ。かなり食べましたがなんとも。
ただ、鼻水がでるわ、涙が出るわで。腹も膨れませんでしたが、
口はさみしくなかったですね。」
「おお!それだけ単発ではね。それ、どこに生えてる?」
「タフトからの国境の川沿いです。
タフト、フレシア、メジャートは川が国境です」
「へー。その川はどこからどこにながれてるの?」
「それはわかりません。地下で湿地につながっていると言われています。」
「きれいな水なんだね。んー、それほしいな。」
「取ってきましょうか?」
「ほんと!え?今?」
「ええ、場所は分かっていますし、今の時期でも生えています。」
「うれしい!根っこごとね!根っこごと!」

彼女がものすごく興奮している。
なんだろう?鼻にツンと来るもの?

「私も行く。」
「え?マティスも?どうやって?」

小さな袋に月無し石を入れる。
ツイミがその場所に着いたら呼ぶようにと。
報酬は水浴び後の絹での磨きだ。

「これを持って行け。」
「マティス君?それで大丈夫なんですか?」
「私だけだ。」
「なんだ。」
「すごいね!マティス!さすがだ!」
「そうだろう、そうだろう。」
「えっと、では行ってきます。わたしはなにもしなくていいのですね?」
「そうだ。」
「わかりました。」

ツイミが消え、腰の石が光る。
どこだ?そこに行こう。



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