いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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392:白い塊

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モモはとりあえず収納。

さっそくクジラ肉だ。

薄くして炙って食べてみる。
瞬時に燃え尽きる。
臭い。

薄くしたものを湯がく。
油臭さが周辺に広がる。



「薄くするのがダメなのか?」

今度は塊のまま、炙るというか焼く。
油臭い。しかもコゲコゲ。
中までベリーベリーウェルダン。

どんなに弱火でも。
遠火でも。

湯がいても、油臭い。

なんせ臭いのだ。


「これ、日が経ってるから?」
「いや、これの自体の匂いだろう。
遠征時に嗅いだことがある。やはり、食べれるかどうか
試すものはいるぞ?結局諦めて土に埋める。」

んー、あきらめきれん。

熱するのがダメなんだ。
冷やす?冷蔵庫に入れておく。
冷凍庫にも。

全敗のものを砂浜の地中深くに埋めておく。
鍛練を兼ねて穴掘りは自力だ。

さ、どうだ?時間が足りないかもしれないが
うまさの片りんぐらいは見えるだろうか?

「・・・生はダメだな。」

火、もしくは熱を通したい。

結果は同じ。


「熱が問題?直接触れないように?
蒸すか?蒸気が触れる?塩釜?
マティス!卵白頂戴!」

この間、マティスは何をやっているかというと、
モモをムキムキ、コンポート作りや、テオブロマの綿からの甘味の抽出。
皮からも。実はチョコを作るので収納。
トウミギを湯がいて、実をきれいに取っていてる。
いつでも使えるように。粒と、削いだもの。
そして、セサミンと話をしている。
いろんな味のポップコーンはお届け済みだ。

匂いがひどいので、マティスだけ膜の中で作業だ。
食材にこの匂いが移ったら嫌だから。

「卵白だけ?卵黄は?」
「んー、いまは使わない。」
「いくつ?」
「10コ分ぐらい。」

師匠の家でご飯を作れば、卵と乳を各自が持ってきてくれる。
半分は消費するんだけどね。

塩屋になれるほどの塩がある。
これはコットワッツの砂漠産。
折角、目の前に海があるのだから。ここから塩を作ろうと思えば、
時間と根性があればできるが残念ながら今はない。
土下座級のお願いで塩を作った。

卵白でコネコネ。
まずは3つの赤い塊ならぬ白い塊を作ろう。


石肉の塊に、様々な香辛料を擦り付ける。
そして、塩で包む。

「これでダメならあきらめよう。今日は。」
「ははは。そうだな。今日はな。
どれくらいで焼けばいい?」
「まずは低温で10分?プクプク2.5回分。
で、そのまま出して余熱かな?
なんか、余熱で火が通るって読んだことあるんだ。」
「そうか。窯も最初の料理はわからんからな。」

優秀な窯はそのもののベストな焼き具合を提供してくれる。
が、なんじゃこりゃーなものはダメだ。
シフォンケーキも失敗作を生産し続けたのだ。
プクプクはジャグジーの1回分の長さだが、
わたしたち身内の時間の単位になっている。
もちろん命名はドーガーだ。



1回目。
塩は固まっている。
外に出し、10分放置。
それを割る。
石肉変化なし。

もう一度、塩を塗り、高温で。
真っ黒に燃え尽きた。
低温というのはあっていると、仮定。


2回目。20分。
変化なし。

もう一度、さっきより温度を高めで。
燃えました。この低温が最高温度。


3回目。
超低温、ちょっと熱めのお風呂ぐらい。
2時間。

その2時間の間に鍛錬、鍛錬。

「どうだ?」
「匂いはない。あ!やわらかい!
ほら!」

なんか、しっとりしている。人肌?
マティスもわくわくしているのが分かる。

「切ってみようか?」
「うん!切って!切って!!」

切れる!ぶよんぶよん。
火の通った生肉?

これはそのまま食べるのはちょっと抵抗がある。
あのおいしいお肉のように焼いてもらう。
網焼き。
クロスに焼き目が付くように。

「!!いい匂いだ!」
「そうだな。ほら、肉汁が出てる。
毒はなさそうだ。毒見は、どうする?ワイプを呼ぶか?」
「そうだね。なんせ、外に放置していた肉だ。
内臓は腐ってたし。んー、おなか壊すかもしれない。
いや、それを師匠に確かめてもらうのは違うかな?
おなかを壊したら、プニカの皮を食べてトイレの住人になろう。
そうなると、いろいろしてもらわないといけないから、
わたしが食べるよ。」
「・・・毎回思うが、そこまでして食べないといけないのか?」
「え?だって、ものすごくいい匂いだよ?肉だよ?
死にはしない。それはわかるから!!」
「ああ、それは私もわかる。
唾がでる。では、お願いします。」
「うむ、任せたまえ!」


・・・・。

「どうなんだ?味はあるのか?」

・・・・。


わたしは黙って、もう2枚の肉を焼く。
少し厚めで。素敵ステーキだ。
ワサビ、大根おろし、お醤油、バターも用意。

マティスは察したのか、お行儀よくテーブルに座って待っている。
飲み物は赤ワインだ。


焼き上がりを皿に盛り、
マティスの前に。

マティスも大きめに切って口に入れた。

・・・・。

わたしもまずは一口。
うむ。
次は熱いうちにバターを乗せる。
お醤油もちょっと。
なるほど。
大根おろし醤油。
ん。
ワサビ醤油。
ふーん。


なにも付けないほうがいい!!
うまい!!香辛料もいらん!
トロトロジューシーだ。
熟成肉というものを食べたことないけれど、
こういうものなのだろうか?


「あの丸いのと同じ驚きだな。うまい。
いや、食い物として純粋に驚きだ。うまい。」

丸いのは妖精のお酒で膨らした綿の種ことだ。
妖精のお酒の研究もしてないな。また今度ということで。


「おいしいね。お肉って感じで。
超低温がで2時間。塩にくるまっていた時間は3時間ぐらい?
香辛料はいらないけど臭みをぬいてるのかな?
塩が効いているのか?」

さっそく、すぐに塩を香辛料なしで包んで、2時間。
その間に香辛料無し、香辛料ありのものを作って置いておく。

また鍛錬。そしてポップコーン研究、チョコづくり。
発酵時間は調整したので、さらにおいしくなったと思う。

で、2時間。
ダメでした。石肉そのまま。
また包んで置いておこう。
3時間以上置くのがいいのか。
2時間置いたものを焼く。
でまた2時間。ごそごそ作業だ

固い。中途半端に固い。
やはり3時間以上か?
もう時間待って2時間焼く。
もう月が昇ります。

「3時間ものと変わらない。
そもそもあのクジラはいつ討伐したもんなんだろう?」
「はっきりはわからんな。元首のことがあって、土に埋めることを
後回しにしたんだろう?それでも、あの乾燥具合だ、
かなり前だろうな。」
「そのおいている時間が大事なのかな?
これ、ほんとにおいしいね。あのクジラ肉とまた違ったおいしさだ。
のこりのお肉はみんな塩に巻いて3時間以上置いておこうね。」
「塩は?海の塩?」
「あ!そうか。コットワッツの塩と王都とかで売ってる塩。
両方で確かめないとね。
普通に売っている塩ある?」
「領主館からもらった塩がある。」
「そうだ、そうだ。じゃ、ちょっと小さい塊で試そう。
海と、砂漠と、売ってる塩で。3つね。
作ったら、ここに露天風呂作ろう。
海が見えるお風呂。それに入りながら、例の石を洗うというか、磨こう。」
「飯は?」
「さすがに、今はいいかな?」
「ふふふ。今はな。」
「そうです、今はなーです。」


3時間後が楽しみだ。




波打ち際に作った温泉を作ろうにも、海水が入ってくる。
そうはならないように、ちょっとだけ高く砂漠石で仕切りを作った。
温泉の方から、海にお湯が流れるように。
もちろん半透明のまま。
湯舟の底にライトも入れて幻想的に。
しかし2人ですることはまず、クジラ石を洗うことだ。マッパで。
洗って、磨く。
何で磨けばいいかわからなかったが、
舞妓さん、絹で磨いた玉の肌って言葉があるから、
真綿で磨く。
なんか、よさそう。
ちょっと艶が出た。
龍涎香は、鯨が排泄して海を漂うからいい匂いがするってあったけど、
これはどうだろうか?
また、時間をおかないといないのかな?


「愛しい人の肌もこれで洗うか?」
「んー、蚕様がどんなものかわかないから遠慮しておく。
いつもみたいにマティスの手がいい。」
「喜んで!!」

なぜ居酒屋さんになるんだろう。

いつものように洗いっこ。
海にデッキを張り出して、そこで。
汚れた水海に落ちるときにきれいになるようにフィルター付きです。


月が昇って半分。
先にクジラ石を炙ってみようか?
いや、先に香木チャンナラだ。


「ほんの少しね。」

お香セットのように、
竹炭から灰を作り、軽石で香炉を作る。
そこに入れて、燃える寸前の小さな樹石を置く。
これで、よかったはず。

「火にくべるのではないのか?」
「この樹石の近くに置けば香が出るはず。
小さなかけらを置いてみよう。
あ、お願いは、食べ物でおなかを壊さないようにってことにしておこう。」
「それは大事だな。」


いい香だ。風呂に入れたものよりはっきり、
チューベローズのもっとねっとりした感じ。
合わさりの月の日にもう一度焚いてみよう。


「いいね。やっぱり、ルポイドでの香とはちょっと違うね。
あの部屋で、血の匂い、というか、体の壊疽した匂いと混ざっていたのはこれだ。
でも、その匂いを消し去ったのはこれじゃないね。似てるけど。」
「ああ、違うが、これも入っていたのでは?」
「混ぜてる?それもあるか。
じゃ、次いってみよう。風で匂いは全て飛ばすよ?」


『風よ、陸風よ。
漂う甘き香りを飛ばしておくれ。
海の住まう者たちへの土産になろう』



優しい風がすべてを持っていく。


「これ、削ってもいいよね?
叩き割る?」

結構大きいのだ。お米10kgの大きさ。でも、軽い。

「端を叩いて破片を作ろうか?」
「これさ、結局、うんちの塊だったらどうしよう?」
「・・・・。いや、肛門近くではなかった。」
「そうだよね。うん。じゃ、ちょっと叩くよ。」

短くした棒でコンと叩く。
固い。
ガツンとすれば、少し砕けた。

「いい感じだ。
これだけじゃ匂わないね。置くよ?」


「「!!」」


「マティスの香りだ!」「愛しい人の香りだ!」

「「え?」」

素早く膜を纏う。

まずいものか?
香炉からクジラ石を取り出し、水を掛ける。


『風よ、陸風よ。
漂う魅惑の香りを飛ばしておくれ。
海の住まう者たちへの話のタネになろう』

お互いがひしと抱き合う。

くんか、くんか


「あれ?違う。マティスのはさわやかなんだ。」
「愛しい人のはもっともっと甘いな。」
「なんでマティスのって思たんだろう?わたし、自慢じゃないけど結構、鼻効くんよ?」
「私もだぞ?」
「んー、見境なくマティスを襲うところだったよ。
あれか?フェロモン?」
「ふえろもん?」
「こう、異性を引き付ける匂い?火にくべたらダメな奴かな?
これ、セサミン案件?」
「そうかもしれんな。しかし。」
「ん?」
「おいで。」
「・・・うん。」

月が沈むまで抱き合った。
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