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4話

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ソファーに座り込んでいた。腰を浅くかけ、足を伸ばす。まあなんとだらけきった様だ。
一つ言い訳をするなら、だらけているのではなく疲労が取りきれていないのだ。さっきだって、あんな美味しそうなご馳走が俺にとって全くありがたみがなく、あの時間はただただ苦痛でしかない。オスカーがとりあえず、大人しかったからまだこの程度の疲れにとどまってくれた。
「俺はいつまで味のないものを食べていかなきゃなんねーんだ・・・。」
なんでもいいから味のあるものを食べたい。このさいまずくたって構わない。この際、大嫌いなキノコ類だって食べてやる。
「はぁー・・・。」
ため息しか出ない。ここまで深いともはや深呼吸だ。ため息と一緒になって生気まで出ていきそうだ。
「・・・。」
退屈だ。窮屈だ。虚無感でいっぱいだ。とても疲れた。体が重い。体調が悪いわけではないだろうが、なんだろう、これは・・・。
こんな事じゃあダメだと言い聞かせても、体が思うように動こうとしない。いや。心が動かしたくないと訴えているよう。
自己嫌悪すら湧いてこない。
どうしよう・・・。
そんな時、自然に飛び込んだあの銃。テーブルの上に無造作に置いてしまったが、アレがあるとないとでも違ってきたりするのだろうか?ならいっそ銃をどこかにしまおうと、重い腰を起こす。しまう場所はすぐに決まった。テレビの近くに棚がある。そこがいい。
「ん?」
棚の一番上を引き出すと、中には一枚の小さな紙が入っていた。ぱっと見、栞みたいだ。白に青の混じった複色の押し花が可愛らしい。誰かの忘れ物なのだろうか。手に取ってみると、紙なのにほのかに温かさを感じた。
「アマリリアに聞いてみるか・・・。」
忘れ物ぐらい、俺も放っておけばいいものの、不思議と気になってしまう。聞くだけなんだから、別にいいだろう。銃は一番下の棚の奥の方に入れた。
用が済んだ。そりゃあ、物をしまうだけなんだから当然だ。またさっきの虚無に戻る。かといってこの部屋で時間潰しする気も起こらない。テレビもあるのに、雑誌らしきものもあるのに、ゲームみたいな物だってあるのに。しばらく考えて、ある結果にたどり着く。
・・・・・・。
部屋を出てみよう。
思考放棄しそうな限界寸前の頭が導き出したのがこれだ。ここにいると、虚無感だけに蝕まれる。なんだかとっても、憂鬱な気分にさえなる。しかし、なにかしら部屋を出るきっかけがなければ動けないほど重症だった。
きっかけなら作ろうと思えば作れた。探検に外に出たいとか、外でなくとも屋敷内をみて回りたいとか、おかわりが欲しいとか・・・それは無いか。俺は、更に面倒なことに自分の行動に「意味」を求めていた。部屋を出たいだけならそのあと何もしなくても、ただ徘徊するだけでも構わない。それじゃあ部屋にいる時と変わらないじゃないか。アマリリアに栞の詳細を聞いたところですぐにまたこの部屋に戻ってくるだろう。聞きたい謎なら沢山あるが、脳が「難しく長い話」を珍しく拒否していた。何もしたくないなら動くだけ無駄なのではないか?部屋にいても一緒なのでは?どうしてここまで部屋にいるのが嫌なのか?
・・・・・・・・・。
一人でいるのが嫌なのかもしれない。
寂しさからか?まさか。一人でいると余計な事ばかり考えて嫌になるからだ。だからといって何も考えないと虚無の時間だけが過ぎていくのもそれはそれで今は耐えられない。何か、有意義な事でも考えられたらいいんだが、気分的に無理だ。少し気分転換でもしたら、頭もスッキリして気持ちを切り換えられるのでは・・・と思いついただけで決して寂しいわけではない。
しかし、部屋を出て立ち止まる。
誰のところに行こう。
ひとまず、部屋には誰かはいるはずだ。

今、選択肢にあるのはセドリック、ハーヴェイあたりだ。
一瞬だが、どうせ仲間と話すなら情報収集できたほうがいいと考えた。冷静になると一緒に行動する時間が多かったし、みんなも俺とほぼ同じ状況なのに得られる情報があるだろうか?そして二人を選んだのは消去法だ。オスカーはまず無いとして・・・いや、個人的に気がかりなことはあるのだが。女子の部屋をたいしたようも無いのに訪れようとは思わない。候補として最優なのはハーヴェイだ。あいつは誰かさんみたいにうるさくない。落ち着いている。それだけでも救いだ。あとは、冷静で観察力もあるので頼りにもなる。というか、洞察力もあるのかもしれない。もしかするとこの短い間にあいつなりに感じた事があるのでは?
セドリックは・・・まあ、気絶していた間話していないのもあったし。あいつへ求めるのはそれこそ気分転換だ。セドリックもあいつなりに気を遣ったり空気を読むこともできるんだが、ほとんどがあのテンションだからどうにもこうにも・・・。さて、どっちにしよう。
・・・・・・・・・・・・。

>>>「ハーヴェイの所へ行こう」

・・・。
ハーヴェイの所へ行こう。
そしてあいつの部屋のドアをノックした。すぐにドアが開いた。
「ん?」
特に何の変わりもない、いつものハーヴェイだった。
「よ、よう。」
やれやれ。教室で話しかける時は用事がなくとも自然に声をかけられたのに、どうしてだろう。今は大変ぎこちない。
「どうしたの?」
「い、いや特に用はないけど・・・。」
そうか。用事がないあとは本当に何もないから気まずいのか。
「なんかさ、一人でいると気が滅入ってさ。」
とっさに口から出たのがこれだ。間違いではない。
「ふぅん。まあいいけど、あがってあがって。今は親いないから。」
ハーヴェイはよく微妙な冗談をそのまんまの表情で言う。どうせならセドリックみたいに幼稚でバカみたいなジョークをかましてくれたら笑って返せるのに、こいつは下手したら面倒な語弊が生まれかねない事ばかり言うから冷や冷やして突っ込むしかできない。
「何言ってんだか・・・。」
でも逆に、普段通りの会話ができて少しホッとした。
「たまにはもっと子供っぽいジョークでも言えないのか?」
ついでに吹っかけてみる。
「やーい、うんこ。」
急に知能下がったな、おい。お前のジョークは危なっかしいものか低レベルな下ネタしかないのか。聞いた俺がバカだった・・・。しかも、相変わらずの無表情だ、と思いきや、手を押さえて震えている。自分の下ネタで笑ってそれを堪えているんだ!
・・・なんか、ごめん。何故かそんな気分になった。さすがにハーヴェイも軽く咳払いをして状況を戻す。
「実は俺もリュドミールに聞きたいことがあったんだ。」
「俺に・・・?なんだ?」
ほう。俺になにを聞きたいんだろう。ハーヴェイからわざわざ尋ねると八割は真面目な内容だ。
「とりあえず中に入って。」
そう言われて俺は部屋に入ってドアを閉めた。ますます気になりながら。
ハーヴェイの部屋は驚くほど綺麗だ。全く散らかっていない。強いていうならベッドがややシワになっているぐらいだ。休息だけしたのだろう。
「これなんだけど。」
ハーヴェイがテレビの下の棚の前にしゃがみこむ。俺の部屋にあるのと同じ棚・・・だが、一番上の引き出しに四つのボタンがあった。上に矢印が書いてある。
「これは・・・?」
「パズルかな?よくわかんないけど、これを解くとこの棚を開けられるみたいなんだ。」
俺のにはなかったのだが、なんだ、これは。普通の家にも、誰かを泊める為にある部屋にもまずこんなものは見られない。俺たちのいた世界では。
「遊び要素か知らないけどさ、気になるでしょ。」
確かに気にはなるが。
「アマリリアに言ったら開けてくれるんじゃないか?」
「まさか。客が来るとわかっていてこの状態にしてあるんだよ?て、ことは客に見られたくない物でも入ってんだよ。むしろ聞かない方がいい。」
そこまで理解しているなら、触れない方がいいのではないか?気になるけど。
「俺たちが来てまだ間もないだろ。開ける暇すらなかったんじゃないか?」
「それもあの男の人達に指示すればどうにでもなるじゃん。」
アマリリアが忙しいとしたら、あんなに沢山いるんだから一体ぐらい指示を出せそうなものだ。でも開けて欲しくないんなら頼みすらしないだろう。あれ?俺は何を話しているんだ・・・?口が止まらない。
「アマリリアしか開けれないとしたら・・・。」
するとハーヴェイは痺れを切らした。
「あーもういい!ほんと君、ああ言ったらこう言うんだね。いいよ、もう少し頑張ってみるから・・・。」
そう言ったあと、なんとハーヴェイは服の中から銃を取り出したのだ。一気に血の気が引く。何をどう頑張るつもりだ!?いきな最終手段に出たな!?なんにしても嫌な予感しかしない!!
「あーわかったよもう!」
するとハーヴェイはすぐに銃をしまった。全くもう、心臓に悪いったら、ない。
「矢印の順番に押してもダメだったんだな。」
そんな簡単な仕掛けなら俺に聞くまでもない。そうじゃないんだ。他の解き方か、仕掛けがあるのか。
今度は一つのボタンを二回ずつ押してみた。反応はない。
「・・・この!!」
むしゃくしゃして力づくで引き出しを引っ張ってしまった。もちろん、棚が振動により揺れるだけで引き出しに隙間すら開かない。
「リュドミール。」
ハーヴェイに止められて、我にかえる。
「今力技で開けようとしたよね。」
「あ、ああうんちょっと・・・。」
少しだけ恥ずかしい。一回冷静になろう。
さて、どうするか。
「三回押してみるか。」
「一緒じゃない?」
疑問形ということはまだ三回押した試しはない。期待はしないが、二がダメなら三。回数を増やしていけばどうにかなるみたいな、すごく単純な思考で再挑戦してみる。
カチ、カチ、カチとリズミカルに押した。すると、ガチャリと明らかに違う、手応えを感じる物音がした。
「・・・!!リュドミール、今の・・・。」
「ああ!」
次の矢印が示した方向のボタンを、音が鳴るまでゆっくりと押す。
バタン。と、また音がした。だが、さっきとは音が違う。違和感を覚えつつ、俺は次のボタンを押した。
ガチャリ。カチ、カチ、バタン。これで一通りのボタンを押した。
「やった!!」
と、二人で声を出して喜んだ途端、引き出しに書かれていた矢印の向きが変わった。
「・・・やっ・・・た・・・えっ?え!?」
魔法とか存在する世界なんだ、多分これもそう言った類の仕掛けだと目の前の現象に驚きつつも理解できた。しかし、なぜ変わった?まさかと思い、引き出しの取手を引く。
「開かない!!クソ!今ので解けたんじゃなかったのか!?」
またも力任せに引っ張るが微動だにしない。棚がガタガタ揺れる物音が腹立たしい。
「落ち着いてリュドミール!もう一回この通りにやってみよう
「・・・・・・。」
俺はしばらく、ボタンと矢印に何回か翻弄される羽目になった。



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