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5話
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「オスカーも外へ出たいんだけど、こいつについてきて欲しくないって言ってるんだ。」
といって(恐らく何も感じていないんだと思うが)さっきから言われ放題で不憫なソレを指さした。さりげなくオスカーのせいにもしてしまったが。
「そうなの?」
聖音もアマリリアと同様、不安げな顔をオスカーに向けた。
「そんなの危険だよ、何かがあってからじゃ遅いんだよ?」
珍しく聖音から至極真っ当な意見が聞けた。・・・いや、多少感覚がズレてるだけで彼女自身、普通なんだろうけど。
「・・・・・・・・・。」
「オスカー?」
どうしたものか、さっきまで俺とアマリリア相手にずいぶん偉そうに出ていたオスカーがさらに機嫌を損ねる事もなく、腕を組み、真顔で俺たちを見ている。緑の瞳が何周も端から端へ移動している。
「ああ、わかったよ。大人しくお前の言うことに従ってやる。」
急にどうしたんだ?俺だけでなく来たばかりの聖音やアマリリアも、みんなが拍子抜けしたような顔だ。だって、あまりにも予想していない反応だったから。意外にもあっさりと受け入れた。
「勘違いすんなよ、この女が言ったからその気になったんじゃねぇ。ここには同じ目的の奴らが集まったのを今知ったからだ。」
一瞬、聖音の言うことに従ったんだと思ったが、冷静に語るその態度から見てもそうではないと確信した。
「ん?でもオスカー、それはわかったけど、知ってどうするんだ?」
そうだ。聖音が心配するのと俺たちの目的が一致しているのは関係ない。とは言うが、なんとなく察しがついている。オスカーからその考えが出るとはとても思えないが。
「そこで、だ。俺からいくつか提案がある。」
片腕を上げグーの手を見せてすぐ、人差し指を上げる。
「目的が同じ奴ら同士固まって行動するのはどうだ?」
予想が当たった。しかし、まさか、群れるのが嫌いそうなこいつがそんなことを言うとは・・・。
「それともなんだ?一人でこそこそしたい用事でもあるのか?」
なんて睨みながら言う。もしかしたら聖音は聖音なりに事情があるに違いない。聞けば和平的な案に聞こえるが、強制するべきではない。
「私は別に、本当に外を見て回りたいだけだもん。」
だが、聖音にこれといった事情はなかったようだ。
「俺も、聖音と同じだ。じゃあ、一緒に行くか?」
個人的な目的がなく、大まかな目的自体ならわざわざ散って行動する意味がない。改めて聖音に問うとすぐに頷いた。
「でも珍しいな、オスカーがそんな事言うなんて。」
おっと、ついうっかり口が滑ってしまった。
「うるせぇ。」
オスカーは一言毒づくだけだった。
「そしてもうひとつ」
そして次に中指も立てる。
「一人につき一体とすると、三人に三体になる。逆に目立ちやしねぇか?俺たちは外では目立つことを避けたい、こんなでかいの三つも、それこそ余計に気をつかって、行動がかなり限られる・・・とは思わないか?」
と、話しかけたのは俺の方だ。
「まあ。安全面で言ったら多いに超した事はないが、逆に狙いやすいよう的が大きかったらあんまり意味もないと思う・・・つまり、何が言いたいんだよ。」
ここまで来ておおむね察しがついたが、あくまで提案しているのはオスカーだ。
「俺ら三人に対し、コイツは一体で十分だ、と言っているんだ。」
人差し指だけを立てる。アマリリアはやはり、すぐに頷かなかった。
「一体では心許ないですわ・・・。」
しかしこっちだって負けちゃいない。
「数を増やせば良いってもんでもねぇだろ。」
どっちもお互いの主張を一向にぶつけあう。側から傍観している立場から見てみれば、アマリリアの方が若干押され気味な感じがする。予想外の案を提示された上に、気のせいか、やや疲れているようにも見えた。オスカーは発言する内容がなんであれ態度で押し切ってしまう事がある。まず対等な年齢なら、大抵は言い争う前で怯んでしまう。アマリリアがどうかは、わからないけど。
「そらこんなのが多けりゃ多いほど戦力にはなるだろうが、その分目立ってかっこうの獲物だぜ?こいつら、ずっと動くのか?」
加えて今度のオスカーはやたら口が回る。俺の知るオスカーはここまで理に適った事を言わない、不真面目なガキ大将のはずだった。
「な、なぜそれを・・・っ!」
オスカーの問いに急に、まるで図星をつかれたみたいだった。対して、してやったりみたいな、意地の悪い笑みを浮かべる。
「なぜって、機械つーことは電池かなんかで動いてるんじゃねえかって考えただけよ。それより。」
あくまで奴の予想が鎌をかけたようだ。
「どうなんだ?」
たった短い言葉にとてつもない圧迫を感じる。オスカーは聞いているだけだ。アマリリアはまだイエスともノーとも言える。しかし、聞いているのに「イエス」以外を封じるかのような、選択する自由を与えながら奪っている。
これが奴のやり方。俺にはとてもできそうにない。
「わ、私は・・・。」
気迫に押されて二の句がつげないでいた。
「お前らはどうだ?」
オスカーがまたも俺たちに振ってくる。ここで俺たちがどっちに味方をするかによって状況は大きく変わるだろう。・・・いや、アマリリアについても今のオスカーは更にどう出るか予測できない以上、自信がない。
というより正直な感想、三体は邪魔だと思っていた。
「どうって言われても・・・。」
すぐに断言するのは控え、あえて間を置く。そして。
「俺は、これがそこまでヤワじゃない、三人なら一体でも十分に守ってくれると信じているんだが。」
信じさせる作戦に出た。「これなら大丈夫」とさせる事で少しでも不安な要素を取り除く。上手くいくとは思えないが。それに、事実俺たちはこいつらが化物を倒していくのを見た。倒すこちらは傷一つなく。頼りになるのは間違いない。
「・・・・・・。」
とはいえ、俺たちよりこのロボを把握しているのはアマリリアだ。彼女以上の知識はない。まだ不安そうだ。
「じ、えっ、ほら、これがさ、あいつら相手に余裕だったのを実際見たんだ。単体でも十分強かったぞ、なあ?」
咄嗟に聖音に振ってしまった。相手はキョドる。
「へ?はえ!?うっ、うん!・・・建物ごと燃やすぐらい、すごい武器も持っていたし!」
やめろ。武装もしっかりしている、とアピールしたいんだとしても人のトラウマを無自覚に掘り起こすな。その建物は俺の家なんだぞ、一応。皮肉の一つでも言ってやりたいところだったが、面倒だった。
「・・・まあ、大丈夫なんじゃないか?俺はオスカーに賛成したい。」
三体も邪魔だし。と、どうしてもこの素直な感想だけはさっきから口から飛び出したくて仕方がないようだ。オスカーがご丁寧に言ってくれてるじゃないか、全く。
あと、アマリリアよりオスカーに賛成した方が話が早く片付きそうな気がしたからだ。さて、残るはあと一人。
「・・・わ、私も、四人がいいと思う。」
目を泳がせたあと、聖音は体を縮こまらせ俯いて答えた。どう考えて賛成したかは知らない。もしかしたら無難な方に流されただけかもしれない。その割には四人で、とは言わず四人が、とはっきり言ったのでどうなのやら。
「それに、私空手やってたし!オスカー君も多分強いし!リュドミール君だって、一体化物を倒したんだよ!?案内なんとかなる、かも・・・。」
途端に早口で説得を試みる。それに、にはあまり説得力を感じない。しかし、実際の現場を目の当たりにしていないので言い切れないが聖音は数匹の化物を倒している。オスカー相手にまるで赤子の手を捻るみたいだったし、意外と頼りになるかもしれない。オスカーも度胸と力はある。メンバーの中で戦闘力というステータスで考えればダントツで高い。俺は・・・偶然だろうけど。
「・・・・・・。」
しばらく沈黙が続いた。毎回、この重い空気は勘弁してほしい。
「・・・・・・はぁ~・・・。」
中々聞かない、それはもう肺の中の空気を全部吐き切ったかのような深いため息と同時に、肩の力も抜いて猫背になる。アマリリアは呆れ顔だ。今のため息だって散々通してきた主張が否定された不満より、緊張から解き放たれたあとにどっと押し寄せた疲れからきたものに見えた。
「・・・わかりました。あなた方の意思を尊重します。」
もっと粘るかと思いきや、折れてしまった。オスカーは自信に満ちた笑顔だったが、俺と聖音は素直に喜べない。
「そちらの方が良案であれば、従いましょう。・・・念には念ということで武装させます。」
しかし、そうと決まればすぐに気を取り直しててきぱきと動くアマリリアの行動力はすごい。
「おい、それも別に・・・。」
「ダメです。」
オスカーがまだ何か言いたげだったが途中で制止された。
「何のために一体のみの護衛にしたとでも?たった一体です。その一体に、あなた方を守ってもらわなくてはいけないのですから、理解してくださいね?」
子供に言いつけを聞かせる親のように厳しい顔だ。威厳ではない。それもそうだ。全部、俺たちのことを考えての行動、発言なんだ。
オスカーは何も言い返さなかった。
「ですが、町の中心部は避けて、かといって森の中も禁止。・・・あまり厳しいことは言いたくないけど・・・。」
今度は穏やかな眼差しを向ける。でもなんだか、少し寂しそうな、悲しそうな、そんなふうにも感じた。
「無茶はしない。絶対帰ってくるからさ、あっその・・・。」
ふと、何か安心させる一言を探し始めてしまった。
「お昼までに帰るかわからないから、えっと・・・昼は俺たちの分はいいから、夕食・・・楽しみにしてるんで・・・。」
「なんだよそりゃ!ってオイ!なに人の飯まで抜きにしようとしてんだよ!!」
ごもっともな返事がオスカーからかえってくる。さっきのマシューからのお裾分けについてまだ話していないので、勿論話すつもりでいる。
「えー?もしお昼までに用事終わったらどうするの?」
聖音まで・・・。
「わ、わかってるって!いや、実はだな・・・。」
二人から同時に責められてしどろもどろになった。アマリリアは、そんな光景を微笑みながら眺めていた。ようやく笑顔が戻ってくれたことに関しては嬉しいが、この状況を傍観しないでなんとかしてほしい。
「ふふっ、お昼の事もお任せください。帰ってきても、ご飯抜きなんてことはありませんからご安心を。」
声の調子が弾む。それを聞いてホッとした。こうなったら慎重に行動しなくては、ご馳走が待っているんだから。いや、皆無事で帰る、それ以外考えてもいないけど。
「十分お気をつけになさって下さいね?何かあったら通信機能もあります、遠慮なく頼ってください。あ、今から武器を一つ、持ってこなくちゃ。少しお待ちを・・・。」
アマリリアは小走りでどこかへ行ってしまった。そこはこのロボに取りに行かせるのではなく、自分で持ってくるんだ・・・。
「なーんか忘れてる気ィするが・・・ま、いっか。」
オスカーは自分の思う通りにことが運んで尚不服を呟いていたが、すぐに腑に落ちた。聖音はというと、顔にやや疲れが見て取れる。
「オスカー・・・わっ!?」
話しかけるやすぐに苛立ちに満ちた顔が目の前に迫った。なんで!?まだ何もいってないのに!
「テメェ・・・もし帰ってきて飯がなかったら絶対に許さねぇからな。」
そこ!?と口には出さなかった。俺だって考え無しにあんな風に言わない。が、こうも迫られるとまるで悪さをしてないのにそんな気になってしまうほど、怖いし近い。俺は目を逸らした。
「アマリリアがああ言うんだから大丈夫なはず・・・それに!俺だってあんな勝手なこと言わない!マシューから差し入れがあるんだ!」
そう、昨日はマシューがこの屋敷にお詫びという名の差し入れを持ってやってきた。しかしアマリリアは食事ぐらいは自分で用意できるからとみんなにその存在を言いもしなかった。
「はぁ?初耳だぞ?なんでお前だけ知ってる?」
ここにすでに食べ物があるのならわざわざ配る必要はない、非常用にでも置いておこうと判断したのかもしれない。あとは、ちょっとしたプライドというか、悔しかったのかも。安易に想像できる。だからあの場にいた俺しか知らない。
「アマリリアが受け取るところに遭遇したんだ。多分、ここぞというときのために置いておくことにしたんだろうな。別に言うぐらい構わないと思うけど。」
「いったら、誰かがつまみ食いするんじゃないか?って予想したんじゃない?」
聖音がいきなり割り込んでくる。確かに、あり得る。
「べ、別に誰がするとか言ってないからね!?」
なんでいつも余計なことを加えるんだ。それ自体がもう言っているようなもんだろうが。視線は思いっきりオスカーの方向いてるし。焦る態度もわざとらしいし。でもオスカーは、食糧の存在を知って少しご満悦だった。
「ふぅん、へぇ、そーゆーことね。ならいい。ま、あんま期待してねーけどな。」
中身を知っているのも俺だけだ。ご機嫌をあげるために付け加えておこう。
「それがオスカー、カップ麺とか、お菓子とか、どこからどう見ても俺たちが食べてるものとどれもそっくりなんだよ。お前がよく食ってるチョコフレークもあったぜ。」
「マジかよ。」
細い目がまんまるに開く。食いついた。学校には基本お菓子を持ち込むことは禁止だが休み時間、お構いなしに食べているのをみんな知っているからな。
「あ、ねえねえリュドミール君!ビーフラーメンはあった!?」
元いた世界では有名なカップ麺だ。
「沢山あるのをいちいち見てないからわからないが、それっぽいのもあったような・・・。」
「やった!!」
適当なこと言って申し訳ないが、聖音はたいそう目を輝かせた。どうやら聖音はそのビーフラーメンとかいうのが大好きらしい。もしかしたらご馳走が待っているかもしれないというのに、そんじゃそこらで見るカップ麺やお菓子でここまで喜ぶとは・・・。
「じゃ、なんとしてでも昼に帰らないと!」
聖音がそれでいいなら、別にそれでもいいや。なんて、半ば投げやりな気持ちになった。
まあ、今から命をかける戦いに出かけるわけでもないんだ。安全に、外の世界を見回るだけでいいんだから、気を緩めすぎず、神経質になりすぎずに行こう。それに、わずかでも何か楽しみがあった方がいいに決まっている。
といって(恐らく何も感じていないんだと思うが)さっきから言われ放題で不憫なソレを指さした。さりげなくオスカーのせいにもしてしまったが。
「そうなの?」
聖音もアマリリアと同様、不安げな顔をオスカーに向けた。
「そんなの危険だよ、何かがあってからじゃ遅いんだよ?」
珍しく聖音から至極真っ当な意見が聞けた。・・・いや、多少感覚がズレてるだけで彼女自身、普通なんだろうけど。
「・・・・・・・・・。」
「オスカー?」
どうしたものか、さっきまで俺とアマリリア相手にずいぶん偉そうに出ていたオスカーがさらに機嫌を損ねる事もなく、腕を組み、真顔で俺たちを見ている。緑の瞳が何周も端から端へ移動している。
「ああ、わかったよ。大人しくお前の言うことに従ってやる。」
急にどうしたんだ?俺だけでなく来たばかりの聖音やアマリリアも、みんなが拍子抜けしたような顔だ。だって、あまりにも予想していない反応だったから。意外にもあっさりと受け入れた。
「勘違いすんなよ、この女が言ったからその気になったんじゃねぇ。ここには同じ目的の奴らが集まったのを今知ったからだ。」
一瞬、聖音の言うことに従ったんだと思ったが、冷静に語るその態度から見てもそうではないと確信した。
「ん?でもオスカー、それはわかったけど、知ってどうするんだ?」
そうだ。聖音が心配するのと俺たちの目的が一致しているのは関係ない。とは言うが、なんとなく察しがついている。オスカーからその考えが出るとはとても思えないが。
「そこで、だ。俺からいくつか提案がある。」
片腕を上げグーの手を見せてすぐ、人差し指を上げる。
「目的が同じ奴ら同士固まって行動するのはどうだ?」
予想が当たった。しかし、まさか、群れるのが嫌いそうなこいつがそんなことを言うとは・・・。
「それともなんだ?一人でこそこそしたい用事でもあるのか?」
なんて睨みながら言う。もしかしたら聖音は聖音なりに事情があるに違いない。聞けば和平的な案に聞こえるが、強制するべきではない。
「私は別に、本当に外を見て回りたいだけだもん。」
だが、聖音にこれといった事情はなかったようだ。
「俺も、聖音と同じだ。じゃあ、一緒に行くか?」
個人的な目的がなく、大まかな目的自体ならわざわざ散って行動する意味がない。改めて聖音に問うとすぐに頷いた。
「でも珍しいな、オスカーがそんな事言うなんて。」
おっと、ついうっかり口が滑ってしまった。
「うるせぇ。」
オスカーは一言毒づくだけだった。
「そしてもうひとつ」
そして次に中指も立てる。
「一人につき一体とすると、三人に三体になる。逆に目立ちやしねぇか?俺たちは外では目立つことを避けたい、こんなでかいの三つも、それこそ余計に気をつかって、行動がかなり限られる・・・とは思わないか?」
と、話しかけたのは俺の方だ。
「まあ。安全面で言ったら多いに超した事はないが、逆に狙いやすいよう的が大きかったらあんまり意味もないと思う・・・つまり、何が言いたいんだよ。」
ここまで来ておおむね察しがついたが、あくまで提案しているのはオスカーだ。
「俺ら三人に対し、コイツは一体で十分だ、と言っているんだ。」
人差し指だけを立てる。アマリリアはやはり、すぐに頷かなかった。
「一体では心許ないですわ・・・。」
しかしこっちだって負けちゃいない。
「数を増やせば良いってもんでもねぇだろ。」
どっちもお互いの主張を一向にぶつけあう。側から傍観している立場から見てみれば、アマリリアの方が若干押され気味な感じがする。予想外の案を提示された上に、気のせいか、やや疲れているようにも見えた。オスカーは発言する内容がなんであれ態度で押し切ってしまう事がある。まず対等な年齢なら、大抵は言い争う前で怯んでしまう。アマリリアがどうかは、わからないけど。
「そらこんなのが多けりゃ多いほど戦力にはなるだろうが、その分目立ってかっこうの獲物だぜ?こいつら、ずっと動くのか?」
加えて今度のオスカーはやたら口が回る。俺の知るオスカーはここまで理に適った事を言わない、不真面目なガキ大将のはずだった。
「な、なぜそれを・・・っ!」
オスカーの問いに急に、まるで図星をつかれたみたいだった。対して、してやったりみたいな、意地の悪い笑みを浮かべる。
「なぜって、機械つーことは電池かなんかで動いてるんじゃねえかって考えただけよ。それより。」
あくまで奴の予想が鎌をかけたようだ。
「どうなんだ?」
たった短い言葉にとてつもない圧迫を感じる。オスカーは聞いているだけだ。アマリリアはまだイエスともノーとも言える。しかし、聞いているのに「イエス」以外を封じるかのような、選択する自由を与えながら奪っている。
これが奴のやり方。俺にはとてもできそうにない。
「わ、私は・・・。」
気迫に押されて二の句がつげないでいた。
「お前らはどうだ?」
オスカーがまたも俺たちに振ってくる。ここで俺たちがどっちに味方をするかによって状況は大きく変わるだろう。・・・いや、アマリリアについても今のオスカーは更にどう出るか予測できない以上、自信がない。
というより正直な感想、三体は邪魔だと思っていた。
「どうって言われても・・・。」
すぐに断言するのは控え、あえて間を置く。そして。
「俺は、これがそこまでヤワじゃない、三人なら一体でも十分に守ってくれると信じているんだが。」
信じさせる作戦に出た。「これなら大丈夫」とさせる事で少しでも不安な要素を取り除く。上手くいくとは思えないが。それに、事実俺たちはこいつらが化物を倒していくのを見た。倒すこちらは傷一つなく。頼りになるのは間違いない。
「・・・・・・。」
とはいえ、俺たちよりこのロボを把握しているのはアマリリアだ。彼女以上の知識はない。まだ不安そうだ。
「じ、えっ、ほら、これがさ、あいつら相手に余裕だったのを実際見たんだ。単体でも十分強かったぞ、なあ?」
咄嗟に聖音に振ってしまった。相手はキョドる。
「へ?はえ!?うっ、うん!・・・建物ごと燃やすぐらい、すごい武器も持っていたし!」
やめろ。武装もしっかりしている、とアピールしたいんだとしても人のトラウマを無自覚に掘り起こすな。その建物は俺の家なんだぞ、一応。皮肉の一つでも言ってやりたいところだったが、面倒だった。
「・・・まあ、大丈夫なんじゃないか?俺はオスカーに賛成したい。」
三体も邪魔だし。と、どうしてもこの素直な感想だけはさっきから口から飛び出したくて仕方がないようだ。オスカーがご丁寧に言ってくれてるじゃないか、全く。
あと、アマリリアよりオスカーに賛成した方が話が早く片付きそうな気がしたからだ。さて、残るはあと一人。
「・・・わ、私も、四人がいいと思う。」
目を泳がせたあと、聖音は体を縮こまらせ俯いて答えた。どう考えて賛成したかは知らない。もしかしたら無難な方に流されただけかもしれない。その割には四人で、とは言わず四人が、とはっきり言ったのでどうなのやら。
「それに、私空手やってたし!オスカー君も多分強いし!リュドミール君だって、一体化物を倒したんだよ!?案内なんとかなる、かも・・・。」
途端に早口で説得を試みる。それに、にはあまり説得力を感じない。しかし、実際の現場を目の当たりにしていないので言い切れないが聖音は数匹の化物を倒している。オスカー相手にまるで赤子の手を捻るみたいだったし、意外と頼りになるかもしれない。オスカーも度胸と力はある。メンバーの中で戦闘力というステータスで考えればダントツで高い。俺は・・・偶然だろうけど。
「・・・・・・。」
しばらく沈黙が続いた。毎回、この重い空気は勘弁してほしい。
「・・・・・・はぁ~・・・。」
中々聞かない、それはもう肺の中の空気を全部吐き切ったかのような深いため息と同時に、肩の力も抜いて猫背になる。アマリリアは呆れ顔だ。今のため息だって散々通してきた主張が否定された不満より、緊張から解き放たれたあとにどっと押し寄せた疲れからきたものに見えた。
「・・・わかりました。あなた方の意思を尊重します。」
もっと粘るかと思いきや、折れてしまった。オスカーは自信に満ちた笑顔だったが、俺と聖音は素直に喜べない。
「そちらの方が良案であれば、従いましょう。・・・念には念ということで武装させます。」
しかし、そうと決まればすぐに気を取り直しててきぱきと動くアマリリアの行動力はすごい。
「おい、それも別に・・・。」
「ダメです。」
オスカーがまだ何か言いたげだったが途中で制止された。
「何のために一体のみの護衛にしたとでも?たった一体です。その一体に、あなた方を守ってもらわなくてはいけないのですから、理解してくださいね?」
子供に言いつけを聞かせる親のように厳しい顔だ。威厳ではない。それもそうだ。全部、俺たちのことを考えての行動、発言なんだ。
オスカーは何も言い返さなかった。
「ですが、町の中心部は避けて、かといって森の中も禁止。・・・あまり厳しいことは言いたくないけど・・・。」
今度は穏やかな眼差しを向ける。でもなんだか、少し寂しそうな、悲しそうな、そんなふうにも感じた。
「無茶はしない。絶対帰ってくるからさ、あっその・・・。」
ふと、何か安心させる一言を探し始めてしまった。
「お昼までに帰るかわからないから、えっと・・・昼は俺たちの分はいいから、夕食・・・楽しみにしてるんで・・・。」
「なんだよそりゃ!ってオイ!なに人の飯まで抜きにしようとしてんだよ!!」
ごもっともな返事がオスカーからかえってくる。さっきのマシューからのお裾分けについてまだ話していないので、勿論話すつもりでいる。
「えー?もしお昼までに用事終わったらどうするの?」
聖音まで・・・。
「わ、わかってるって!いや、実はだな・・・。」
二人から同時に責められてしどろもどろになった。アマリリアは、そんな光景を微笑みながら眺めていた。ようやく笑顔が戻ってくれたことに関しては嬉しいが、この状況を傍観しないでなんとかしてほしい。
「ふふっ、お昼の事もお任せください。帰ってきても、ご飯抜きなんてことはありませんからご安心を。」
声の調子が弾む。それを聞いてホッとした。こうなったら慎重に行動しなくては、ご馳走が待っているんだから。いや、皆無事で帰る、それ以外考えてもいないけど。
「十分お気をつけになさって下さいね?何かあったら通信機能もあります、遠慮なく頼ってください。あ、今から武器を一つ、持ってこなくちゃ。少しお待ちを・・・。」
アマリリアは小走りでどこかへ行ってしまった。そこはこのロボに取りに行かせるのではなく、自分で持ってくるんだ・・・。
「なーんか忘れてる気ィするが・・・ま、いっか。」
オスカーは自分の思う通りにことが運んで尚不服を呟いていたが、すぐに腑に落ちた。聖音はというと、顔にやや疲れが見て取れる。
「オスカー・・・わっ!?」
話しかけるやすぐに苛立ちに満ちた顔が目の前に迫った。なんで!?まだ何もいってないのに!
「テメェ・・・もし帰ってきて飯がなかったら絶対に許さねぇからな。」
そこ!?と口には出さなかった。俺だって考え無しにあんな風に言わない。が、こうも迫られるとまるで悪さをしてないのにそんな気になってしまうほど、怖いし近い。俺は目を逸らした。
「アマリリアがああ言うんだから大丈夫なはず・・・それに!俺だってあんな勝手なこと言わない!マシューから差し入れがあるんだ!」
そう、昨日はマシューがこの屋敷にお詫びという名の差し入れを持ってやってきた。しかしアマリリアは食事ぐらいは自分で用意できるからとみんなにその存在を言いもしなかった。
「はぁ?初耳だぞ?なんでお前だけ知ってる?」
ここにすでに食べ物があるのならわざわざ配る必要はない、非常用にでも置いておこうと判断したのかもしれない。あとは、ちょっとしたプライドというか、悔しかったのかも。安易に想像できる。だからあの場にいた俺しか知らない。
「アマリリアが受け取るところに遭遇したんだ。多分、ここぞというときのために置いておくことにしたんだろうな。別に言うぐらい構わないと思うけど。」
「いったら、誰かがつまみ食いするんじゃないか?って予想したんじゃない?」
聖音がいきなり割り込んでくる。確かに、あり得る。
「べ、別に誰がするとか言ってないからね!?」
なんでいつも余計なことを加えるんだ。それ自体がもう言っているようなもんだろうが。視線は思いっきりオスカーの方向いてるし。焦る態度もわざとらしいし。でもオスカーは、食糧の存在を知って少しご満悦だった。
「ふぅん、へぇ、そーゆーことね。ならいい。ま、あんま期待してねーけどな。」
中身を知っているのも俺だけだ。ご機嫌をあげるために付け加えておこう。
「それがオスカー、カップ麺とか、お菓子とか、どこからどう見ても俺たちが食べてるものとどれもそっくりなんだよ。お前がよく食ってるチョコフレークもあったぜ。」
「マジかよ。」
細い目がまんまるに開く。食いついた。学校には基本お菓子を持ち込むことは禁止だが休み時間、お構いなしに食べているのをみんな知っているからな。
「あ、ねえねえリュドミール君!ビーフラーメンはあった!?」
元いた世界では有名なカップ麺だ。
「沢山あるのをいちいち見てないからわからないが、それっぽいのもあったような・・・。」
「やった!!」
適当なこと言って申し訳ないが、聖音はたいそう目を輝かせた。どうやら聖音はそのビーフラーメンとかいうのが大好きらしい。もしかしたらご馳走が待っているかもしれないというのに、そんじゃそこらで見るカップ麺やお菓子でここまで喜ぶとは・・・。
「じゃ、なんとしてでも昼に帰らないと!」
聖音がそれでいいなら、別にそれでもいいや。なんて、半ば投げやりな気持ちになった。
まあ、今から命をかける戦いに出かけるわけでもないんだ。安全に、外の世界を見回るだけでいいんだから、気を緩めすぎず、神経質になりすぎずに行こう。それに、わずかでも何か楽しみがあった方がいいに決まっている。
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王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
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