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5話
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しおりを挟む一日が経った。
ようやく味のあるものを食べられた、そんな、日常では疑いもしないごくごく当たり前がそうじゃなくなるだけでのしかかってくる不安、そしてそれを得ただけでこの幸福感。俺は幸せも一緒にしっかりと噛み締めた。あとは、色々あったが、特に変わらない人間らしい生活を過ごすことができた。
そして朝。今回は普通の夢を見た。あの子に、聞きたいことは山ほどあったが、こっちも疲れてるんだ。たまにはいいだろう。
俺は部屋からほとんど出なかった。何もせずぼーっと過ごしていたわけでもないが、何かしていたわけでもない。あるものを観察していたのだ。それは「時間」だ。解明して、元の世界に戻れるのに役に立つかどうかわからない。それでも何か規則性に基づいているのではないかと個人的に気になって仕方がなかったのだ。
見たまんまをメモに記す。観察を始めた時の時間は三時。分は書かない。時計の針の速度は変わらないが、進む幅に違いがあった。
この世界の時間はめちゃくちゃだ。3時の次は6時だった。その時は「60秒の速さで3時までにたどり着くため、1秒の間に動く針の幅が大幅に長い」。つまり、1秒は1秒しか動かないから1秒なのだが3秒でも10秒でも1秒と言う扱いになる。だから、とんでもない目盛りをすごい勢いで動く様を1秒ごとに見るのはなんとも不思議な光景だった。長い秒針もこの短い間に新たな時間を刻むのを確かにこの目で見た。しかし、1時間後は確かに6時なのだ。
そして次の1時間は、1秒ちゃんと進むけど59秒になった途端これまたとんでもなくぐるぐる回って数時間後の時計の針を指すのだ。以降この二つのパターンを繰り返す。そりゃあ時計がよく壊れるわけだ・・・。
そして規則性についてだ。どうして次はこの時間なのか。まずは時間をメモしていく。3時、6時、9時、11時、8時、5時、1時。どうしてこの時間を指すのか、計算式、無駄な文字が埋め尽くした紙とひたすらにらめっこした。
「これか・・・?」
あれからどれだけ経っただろう?と考えるのもこの世界では野暮か。しかし、解いてみれ案外簡単な規則性だった。足し算だ。
3時の6時の次は9時。これは単に3と6を足した数字だ。次の11時はわからないが、9と11を足すと「20」。20時と言う時間は時計には存在しないが、12時以降の時間を13時から24時までと表記する事もある。20時は8時なので、そしたら辻褄があう。次もそうだ。8と5を足せば13。13時と次の時間の1時は同じだ。
ただ、それらの規則とは関係なく決まる時間がある。6時、11時、5時がそうだった。ただ、さっき言った通りこの世界の時間は「2つのパターンの秒針の進み方がある」。この時間になるまでは「59秒になると時計の針が次の時間まで回る」異様な進み方だった。しかし、規則性のある時間になるまでの1時間は「次の時間になるまでに秒針が60秒の速さで進む」といったもの。以上を繰り返していた。
こればかりは俺も計算できず、ひとまずは「ランダムで決まる時間とそうでない時間がある」と言う結論に辿り着いた。
「・・・・・・。」
何をやっているんだろう、俺・・・。
ベッドに上半身だけを乗せて深くうなだれる。こんな事している場合じゃないのに、熱が入ると時間を忘れて夢中になってしまう。いつもなら、わからない事が分かると少しは嬉しい気持ちになるのに、全くそんな気持ちにならない。頭が疲れただけだ。
・・・後悔するのも虚しい。
「・・・。」
無性に甘い物が食べたい。なんでもいいから癒しが欲しい。睡眠以外で。・・・お湯にでも浸かるか?こんな時間に、って、もうここじゃ夜も朝も関係ないようなもんなんだよな・・・。
「帰りたい・・・。」
人によっては時間の概念がない世界を良しとするかもしれないが、俺は多分慣れもしない、と思う。
「父さん・・・。」
ふと、家族の顔が浮かぶ。今頃どうしているんだろう。この世界での俺の家は燃えてしまったが、そもそもあれはそっくりなだけの建物だ。
あまり子供に干渉しない父さんも、さすがに心配してるんじゃないかな。心配してくれてるといいなぁ・・・。
「・・・・・・。」
しっかりしろ、俺。
体を起こし、両頬を二回程手のひらで強く叩いて気合いを入れる。
俺は部屋を出た。特に目的はないが、部屋の中でじっとしているよりはマシだ。
そうだ。ロボの一人か二人でも付けてもらって外を探索しよう。なら安全に行動できるだろう。
廊下に出ると、セドリックの部屋から笑い声とハーヴェイの声も聞こえる。ジェニファーの部屋からはテレビの賑やかな音がした。みんなそれぞれの時間を過ごしている。それについてとやかくいうつもりはないし、わざわざ俺の用事に付き合わせようとも思わない。あのロボがいれば、大丈夫なはずだ。アマリリアもサポートしてくれる。だから、大丈夫、大丈夫・・・。
「冗談じゃねえ!」
突如、廊下の奥のからオスカーの怒鳴る声が聞こえた。あいつの声は大きいのに、さらに声量を上げられると本当、心臓に悪い。何かあったのかと急いで駆け寄り、ドアを開ける。
「あっ・・・。」
仁王立ちのオスカーと、ロボが一体。困惑した様子のアマリリアがそこにいた。
「どうしたんだ?」
アマリリアに尋ねると、先にオスカーが答える。
「だってコイツ、ずっと付いて回るってんだぜ?プライバシーも何もあったもんじゃねえ!」
ん?どういう事だ?俺たちが普通にここで過ごすにあたって過干渉してくるのか?それにしても、オスカーからプライバシーといった言葉が出てきたのも軽く驚きだが。
「だ、だって、如何なる時も危険から守っていただかないと意味が・・・。」
眉を八の字に下げ、口はうすら開いている。視線が定まらない。危惧の念がアマリリアをより不安にさせているのか。そこへそうまくしたてられたら、彼女の気持ちを考えるとあまりにも可哀想でならない。でも、オスカーの主張も全くわならなくはない。お互い落ち着いてもらうために、どう言えばいいんだろう。
「ロボットなんだろ?だったら別に見られてもいいじゃないか。見た目がこんなんだかれ、そう言いたい気持ちもわからなくもないが・・・。」
「コイツが見たモンは全部共有されるってよ。なあ?お前も見るんだよな?」
今までに見た事ないぐらい睨む目は、獣のようだ。そんな獣に睨まれてビクッと肩を跳ねる彼女は小動物のよう。いい意味ではない。オスカーは追い討ちをかける。
「常に監視されンだぜ?しかも女に。耐えれんのか?お前は。」
「あー・・・。」
状況的にアマリリアの味方につくつもりだったが、オスカーがのプライバシーがどうのとか言っていた意味を理解、納得してしまった。まあ、それは少し複雑な気持ちだよなぁ。
「私はそんなつもりは・・・。」
わかっている。アマリリアが、見た情報を必要な事以外に利用するとは思えない。
・・・待てよ?
「これが俺たちにずっと付き纏っていたことがあったか?」
オスカーはいったいいつのことを言っているのだろうか、聞いておかないと怖くなって落ち着いていられなかった。ここは俺たちの常識ではあり得ない現象だって普通に起こる場所なんだ。もしかして・・・。
「違うの。さすがにそんなことしないわ。オスカー君、今から外へ出かけるっていうから・・・ほら、危ないでしょう?だから・・・。」
なるほど。俺が懸念していた事ではなかった。というか、それなら話が別だ。外はとても危険なのはオスカーもよくわかっているはず。オスカー自身、どう思うかは知らないが、保身のためなら多少のデメリットには目をつむるしかない。外でプライバシーをどうこう言うような事、むしろコイツは何をするつもりなんだろう・・・。
「何かあった時にだけ知らせる仕様にすればいいだろうが!使えねえな!!」
「そ、それだと間に合わなかったらどうするんですか!?」
アマリリアも声を張り上げる。でも表情はやはり不安げだ。必死なのだ、俺たちのために。ここはオスカーの方をなんとかしなければ。なんとか理解してもらい、なるべくコイツの言い分を拒否しないように・・・。でも、いい案が浮かんでこない。俺は、こういう事が苦手だった。
「必ずしもコイツをつけなきゃなんねえのかよ。」
一彼女の方に踏み出すオスカーに、さすがに嫌な予感がして考えるより体が先に動いた。アマリリアの前に背を向け、まるで庇うように間に入る。
「お前・・・。」
真っ直ぐ、鋭い視線が突き刺さる。でもこれぐらい、元いた世界で慣れたものだ。怖気ついたりしない。
「オスカー、お前の言いたいこともわかるよ。・・・どうしても一人で行きたい用事でもあるのか?」
なんでこんな事を聞いたのかわからなかった。性格を考えたら、純粋に嫌なだけかもしれないが、理由があるのかもしれないとも考えてしまった。きっと、この世界に来て初めて見た一面が俺にそう思わせたのだろう。でも、嫌なら嫌とはっきり言うのがコイツなのには変わりない。
「クソ・・・!」
毒付いただけだった。嫌と言わなかった。どちらかと言うと、俺の問いに対して「どうやら図星だった」みたいな反応だった。オスカー、お前は一体何を・・・。
「あ、あのぅ・・・」
入り口の方から声が聞こえた。聖音が、僅かに開けたドアから顔だけ覗かせ、こっちの様子を伺っている。空気はあいも変わらず重くピリピリとしたままだが。だが聖音はこちら側の返事も待たずに続けた。
「あ・・・大事なお話かなー?お取り込み中だった?ごめんなさい。」
と言いつつ、普通に室内に入ってくる。聖音にはこの光景がどのように映ったのか。
「アマリリアさん、そちらのイケメンさん、一つ貸してくださいな。」
はい。さりげない発言のせいで微妙に場の空気が綻んだのを感じました。コイツはいつもそうだ・・・。でも、俺とオスカーには見向きもせず、アマリリアに話しかけたあたり、彼女だけに用事があってそれ以外は関係ないからお好きにどうぞと捉えられなくもない。
「は、はぁ。どうしてですか?」
アマリリアもすっかり緊張感が抜け、すっかり呆けている。俺だって一瞬、頭が留守になるかと思った。
「引きこもってばかりもいられないよ。暇だし、外を見て回りたいなって。でも、それだと危ないでしょ?」
そうだった、聖音のおかげで思い出した。
「偶然だな。俺もそのつもりでアマリリアを探していたんだ。」
「じゃあこんな所で何してるの?」
俺だって聞きたい。なんでこんな目に遭っているんだ。正直に言うか、このロボが原因で揉めていたんだと。
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