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6話
白昼夢4
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「リュドミール君!!」
いきなり俺を呼ぶ声がする。気がつくと、例の白い空間にいた。後ろから、小走りで駆け寄ってくるのはこの空間でしか出会うことのできない不思議な少女、ヘルベチカだ。
彼女に聞きたい事は山ほどあるのに、冷や汗をかいて切羽詰まったような、何かに焦っている必死な表情だったから、今は俺の事情を優先するべきではないと察した。
「ヘルベチカ・・・一体・・・。」
「リュドミール君・・・!大変、私がいろいろしている間に、ああ、なんて事・・・。」
俺の肩においた手は力強く、息を切らしている。
「な、何が大変なんだ?落ち着いて、どうしたんだ?」
呼びかけに、今にも泣き出しそうな顔で見上げる。そして。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・、今から聞くことを信じて。お願い。」
彼女は息を呑む。
「パンドラから逃げて。」
「え・・・?」
なんで?
どうして?
それ以上の言葉が出なかった。驚きがやがて抱きたくもない不信感に変わる。でも、パンドラこそ、俺たちを裏切るようには見えない。根拠はないけど・・・。
「パンドラがなんであんなに協力的か知ってる?・・・アイツはね、みんなを元の世界に戻す方法を知っているの。みんなを救うことができるのはアイツだけなの。」
なんだって?
アイツは、ただの強い魔物という情報しか知らない。そんなことができるのか?アイツに?
「でもね、ただ帰すだけじゃない。パンドラは自分の能力「記憶のリセット化」でここにいる間の記憶を消してから帰すつもり。でもね、その力は・・・一人にしか使えないの。」
情報が多い。でも、ひたすら焦っている様子から、悠長に話す余裕はない事情があるのだろう。別に聞き取れないほど早口でもないのだ、こっちが理解する努力をしないと。
「一人に使ったら、他のみんなの記憶には残るでしょ?パンドラはそれを絶対に許さない。」
なんで許さないのか?気になるが、相手の気持ちを推測するのも後だ。今は、聞くんだ。
「じゃあどうするんだよ。」
かといって、本当に聞いてしまった・・・。余計急かしたようで申し訳ない。でもヘルベチカは嫌な顔一つせず説明してくれる。
「そのためにパンドラは猿真似の上位種・・・ドッペルゴーストっていう魔物を利用して、リュドミール君以外のみんなのそっくりさんを作るの。みんなをそれぞれ呼んでいたのは、そのためなんだよ。」
そのため・・・?
「記憶を消した一人を帰しても、他のみんなを帰さなかったら意味ないから、違和感ないように本物そっくりの偽物を本物として帰すんだよ。」
ヘルベチカの言うことは理解できる。せっかく、元の世界に戻って何事もなく過ごせたとしても、当たり前のようにいた仲間がそこにいなくては、記憶は消しても、確かに意味がない。でもパンドラはみんなを帰すには記憶を消すことを前提にしていて、それができないみんなには残ってもらって、かわりに偽物にすり替えさせる・・・。
「・・・なあ、じゃあ。本物は?」
今やすっかり落ち着きを取り戻したヘルベチカの表情は暗い悲しみに曇っていた。
「放置か・・・多分、一人を送ったあと、殺すと思う。」
放置もだめだ。ましてや、殺すなんてー・・・。
「なんで覚えているだけで殺されなきゃいけないんだ?覚えているだけで帰してもらえないんだ!?忘れなきゃダメなのかよ!」
ヘルベチカは忠告をしてくれて全然悪くないのに、あまりの理不尽に頭に血が昇って熱くなってたまらない、それを吐き出すあまり責めるつもりのない人を責めるしかできなかった。肩を掴んで、揺さぶって、でも抑えられなかった。
「そんなの私に言われてもわからないよ!」
「・・・!!」
そうだ。彼女にはわからない。
なのに、俺は・・・それしかできなかった。
そっと手を離す。でもヘルベチカは引かなかった。どれほど必死な思いで訴えようとしているのだろう。
「ねえ、私の予想なんだけど、その一人はリュドミール君が選ばれると思うの。」
「は・・・なんで?・・・なんで、俺なんだ?」
俺が選ばれる理由があるのか?もう、頭には「なんで?」とか「どうして?」とかしか浮かばない。謎が多い。疑問が多すぎる。
「それは・・・。」
突然、俺の体にテレビで言う砂嵐がかかって見える。体にはどうってことないのに、視覚に問題が発生した。
「あっ!もうそろそろ目覚めちゃう・・・!」
ヘルベチカは一歩下がる。歩み寄ろうにも、足が動かない。地面にしっかりと固定されているみたいに。声も出ない。
「リュドミール君!全てを忘れて、なかったことにしたいならパンドラについていってもいいけど、それが嫌なら私のいうことを信じて!!そ、それと・・・!」
彼女の声も遠くなる。それは彼女も気付いていた。だから最後、別れ際、ヘルベチカが叫んだ。
「パンドラに歯向かう気なら、聖音の言うことに従って!!理由は、いつかわかるからー・・・」
そこで俺は目が覚めた。
記憶にはしっかりと残っている、ヘルベチカが言っていた言葉・・・。
「・・・・・・。」
俺は、誰を信じたらいいんだ?
ーーヘルベチカsideーー
「あ・・・。」
行っちゃった。起きちゃった。
でも寂しくない。ここで一人なのはもう慣れたし、ずっと見てるから・・・退屈しない。
「リュドミール君・・・どうか逃げ切って・・・。」
心配は心配。リュドミール君は反対すると思った。友達が死んだとしても、何もかもを忘れて自分だけ元の世界に戻るなんて。だからこそ、逃げてほしい。パンドラは君にとって全てを無かったことにしようとしてる。
「・・・ふふっ。」
笑いが溢れる。それはリュドミール君や仲間たちにではない。
「ふっ、あっははははは!あは・・・あはは、私が協力しないと、元の世界に帰すことはできないんだけどね!!」
そう。リュドミール君にはああ言ったけど、パンドラにできることは「記憶をリセット」することのみ。元の世界に戻すことができるのは、私の力。パンドラは私が協力してくれると思っている。でしょうね。今までだってそうしてきたもの。
でもね。
君が悪いんだよ。
よりにもよって、リュドミール君を選ぶから・・・。
不信を買って、逃げられたらいい。あわよくば倒されたらいいんだ。
「ごめんね、パンドラ。今回ばかりは、君は協力者じゃなくて邪魔者だ。・・・私の計画の邪魔はさせないからね。」
そうだよ。全てはこのためにやってきたことなんだから。
そういう意味では、ありがとう。
ごめんね。さようなら。
いきなり俺を呼ぶ声がする。気がつくと、例の白い空間にいた。後ろから、小走りで駆け寄ってくるのはこの空間でしか出会うことのできない不思議な少女、ヘルベチカだ。
彼女に聞きたい事は山ほどあるのに、冷や汗をかいて切羽詰まったような、何かに焦っている必死な表情だったから、今は俺の事情を優先するべきではないと察した。
「ヘルベチカ・・・一体・・・。」
「リュドミール君・・・!大変、私がいろいろしている間に、ああ、なんて事・・・。」
俺の肩においた手は力強く、息を切らしている。
「な、何が大変なんだ?落ち着いて、どうしたんだ?」
呼びかけに、今にも泣き出しそうな顔で見上げる。そして。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・、今から聞くことを信じて。お願い。」
彼女は息を呑む。
「パンドラから逃げて。」
「え・・・?」
なんで?
どうして?
それ以上の言葉が出なかった。驚きがやがて抱きたくもない不信感に変わる。でも、パンドラこそ、俺たちを裏切るようには見えない。根拠はないけど・・・。
「パンドラがなんであんなに協力的か知ってる?・・・アイツはね、みんなを元の世界に戻す方法を知っているの。みんなを救うことができるのはアイツだけなの。」
なんだって?
アイツは、ただの強い魔物という情報しか知らない。そんなことができるのか?アイツに?
「でもね、ただ帰すだけじゃない。パンドラは自分の能力「記憶のリセット化」でここにいる間の記憶を消してから帰すつもり。でもね、その力は・・・一人にしか使えないの。」
情報が多い。でも、ひたすら焦っている様子から、悠長に話す余裕はない事情があるのだろう。別に聞き取れないほど早口でもないのだ、こっちが理解する努力をしないと。
「一人に使ったら、他のみんなの記憶には残るでしょ?パンドラはそれを絶対に許さない。」
なんで許さないのか?気になるが、相手の気持ちを推測するのも後だ。今は、聞くんだ。
「じゃあどうするんだよ。」
かといって、本当に聞いてしまった・・・。余計急かしたようで申し訳ない。でもヘルベチカは嫌な顔一つせず説明してくれる。
「そのためにパンドラは猿真似の上位種・・・ドッペルゴーストっていう魔物を利用して、リュドミール君以外のみんなのそっくりさんを作るの。みんなをそれぞれ呼んでいたのは、そのためなんだよ。」
そのため・・・?
「記憶を消した一人を帰しても、他のみんなを帰さなかったら意味ないから、違和感ないように本物そっくりの偽物を本物として帰すんだよ。」
ヘルベチカの言うことは理解できる。せっかく、元の世界に戻って何事もなく過ごせたとしても、当たり前のようにいた仲間がそこにいなくては、記憶は消しても、確かに意味がない。でもパンドラはみんなを帰すには記憶を消すことを前提にしていて、それができないみんなには残ってもらって、かわりに偽物にすり替えさせる・・・。
「・・・なあ、じゃあ。本物は?」
今やすっかり落ち着きを取り戻したヘルベチカの表情は暗い悲しみに曇っていた。
「放置か・・・多分、一人を送ったあと、殺すと思う。」
放置もだめだ。ましてや、殺すなんてー・・・。
「なんで覚えているだけで殺されなきゃいけないんだ?覚えているだけで帰してもらえないんだ!?忘れなきゃダメなのかよ!」
ヘルベチカは忠告をしてくれて全然悪くないのに、あまりの理不尽に頭に血が昇って熱くなってたまらない、それを吐き出すあまり責めるつもりのない人を責めるしかできなかった。肩を掴んで、揺さぶって、でも抑えられなかった。
「そんなの私に言われてもわからないよ!」
「・・・!!」
そうだ。彼女にはわからない。
なのに、俺は・・・それしかできなかった。
そっと手を離す。でもヘルベチカは引かなかった。どれほど必死な思いで訴えようとしているのだろう。
「ねえ、私の予想なんだけど、その一人はリュドミール君が選ばれると思うの。」
「は・・・なんで?・・・なんで、俺なんだ?」
俺が選ばれる理由があるのか?もう、頭には「なんで?」とか「どうして?」とかしか浮かばない。謎が多い。疑問が多すぎる。
「それは・・・。」
突然、俺の体にテレビで言う砂嵐がかかって見える。体にはどうってことないのに、視覚に問題が発生した。
「あっ!もうそろそろ目覚めちゃう・・・!」
ヘルベチカは一歩下がる。歩み寄ろうにも、足が動かない。地面にしっかりと固定されているみたいに。声も出ない。
「リュドミール君!全てを忘れて、なかったことにしたいならパンドラについていってもいいけど、それが嫌なら私のいうことを信じて!!そ、それと・・・!」
彼女の声も遠くなる。それは彼女も気付いていた。だから最後、別れ際、ヘルベチカが叫んだ。
「パンドラに歯向かう気なら、聖音の言うことに従って!!理由は、いつかわかるからー・・・」
そこで俺は目が覚めた。
記憶にはしっかりと残っている、ヘルベチカが言っていた言葉・・・。
「・・・・・・。」
俺は、誰を信じたらいいんだ?
ーーヘルベチカsideーー
「あ・・・。」
行っちゃった。起きちゃった。
でも寂しくない。ここで一人なのはもう慣れたし、ずっと見てるから・・・退屈しない。
「リュドミール君・・・どうか逃げ切って・・・。」
心配は心配。リュドミール君は反対すると思った。友達が死んだとしても、何もかもを忘れて自分だけ元の世界に戻るなんて。だからこそ、逃げてほしい。パンドラは君にとって全てを無かったことにしようとしてる。
「・・・ふふっ。」
笑いが溢れる。それはリュドミール君や仲間たちにではない。
「ふっ、あっははははは!あは・・・あはは、私が協力しないと、元の世界に帰すことはできないんだけどね!!」
そう。リュドミール君にはああ言ったけど、パンドラにできることは「記憶をリセット」することのみ。元の世界に戻すことができるのは、私の力。パンドラは私が協力してくれると思っている。でしょうね。今までだってそうしてきたもの。
でもね。
君が悪いんだよ。
よりにもよって、リュドミール君を選ぶから・・・。
不信を買って、逃げられたらいい。あわよくば倒されたらいいんだ。
「ごめんね、パンドラ。今回ばかりは、君は協力者じゃなくて邪魔者だ。・・・私の計画の邪魔はさせないからね。」
そうだよ。全てはこのためにやってきたことなんだから。
そういう意味では、ありがとう。
ごめんね。さようなら。
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