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7話

白昼夢

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私は多少の魔法が使えた。

違う世界同士を繋げ、片方の世界の人間をもう片方の世界へ強制的に転送することのできる魔法。

しかし、この空間に閉じ込められてからは私の魔法もかなり制限がかけらている。まず、平均して一人の持つ魔力が少ない存在が占める世界に、強い魔力を持つ者を送ることはできない。二つ目は一度世界を繋げたらその魔法は二度と使えない。理由はわからない。この空間に閉じ込められてからだ、そうなってしまったのは。まあ、別にいいけど。私の目的が果たせたら他はどうでもいいんだ。

・・・その魔法も厄介なことに、魔法陣を仕掛けてそこに誰かがかからないと発動されない仕組みなのだ。つまり、あの人をこの世界に飛ばしたいと思ってもひっかけなければ意味がない。

あの人をここに呼んだらどうにかなったのかな?でもそれもできない。この空間に呼べることのできるのにも条件がある。今のところはっきりしているのは魔力が高い人しか呼べないということ。理由はわからない。そもそも、この空間がなにかわからないから、わかりようがない。

・・・そうして呼んだのが、今ここにいる犬みたいな何か。名前はパンドラ。とっても強い私の駒。この子をここに呼んだのは他でもない。魔女の拷問の末に私の名前を吐き出してしまいそうだったから。

にしても、本当にひどいことをするなぁ。サモンズドッグは傷の治りがとても速い、とはいうけど、至る所に生傷や火傷、毛が抜けた場所から覗く部分には痣。なにをしたか知らないけどお腹に当たる場所が赤い。・・・正直、見るに堪えない。だって
リコリスさんはアマリリアとは違ってお節介で根は優しい人なんだ。ただ、そこらへん常識が私たちと違うのか、何かにおいてやりすぎてしまう。誰かのためという善意で動いているから自分が正しいと思い込んでいる。だから一切のためらいもない。

私を好奇心で殺した人だった。こんなことをいまだに平気でする。怖い、けど・・・今は利用するしかない。それはさておき。私、回復系の魔法は使えないんだよね。パンドラも多分、助けるために連れてこられたとは思ってないはずだからほっといてもいいんだけど・・・。
「なんでだよ・・・。」
低い、弱々しい。責める声だ。説明しなきゃ。ネタ明かしという名の説明をしなきゃ。

「なんでリュドミールにわざわざ言ったの!?君が余計なこと言わなければ、今頃全部終わって、僕だってこんな目にあわなかったのに、なんで・・・。」

うん。そうだね。私が黙っていればリュドミール君はなにも知らずいうことに従って、なにも知らないまま元の世界に戻って、みんながいないのが当たり前になった世界で普通に過ごしていたのに。
「なんで邪魔をしたの・・・?意味がわかんないよ・・・。」
そうだよね。邪魔する理由がわからないよね。君にはまだ話してないもんね。私の目的を。あぁ、でも・・・君だって悪いんだから。まさか、私の計画の邪魔をするとは思ってもなかった。
「邪魔をしたのはパンドラのほうだよ。いや・・・。」
あっ、つい口が滑りそうだった。
十分か。ほら、鳩が豆鉄砲喰らったような顔して。あーあ、もう少し後で言いたかったな。
しょうがないなぁ。私の長い時間をかけた計画をついにここでばらしちゃおう。
「よりによってリュドミール君を元の世界に返そうだなんてするからだよ。」

そうよ。あの子を救い出すための計画よ。
二の句が告げないでいる状態かな?いいよ、最後まで黙って大人しく聞いていて頂戴。

「元々はリュドミール君を呼ぶためだったの。あはは、間抜けな顔しないでよ。すべてはこの時のためだったの。リュドミール君を、この世界に連れてくるための、ね。」
少し黒幕ぶって両手を大袈裟に広げてくるりと一回転してわざとらしい笑顔を作ってみる。効果は抜群かしら。見ればわかるわ。あなた、今にも泣き出しそうな顔してる。
「なんだよそれ・・・。」
「なにって、そのまんまだよ?」
根も葉もないことを言ってやる。さあて、これから長い説明になりそう。私、すぐ息が切れるから、大きく肺に空気を送り込むの。
「リュドミール君をここに連れてくるために私はいろいろな作戦を練ってきたわ。私の魔法ね、違う世界に無理やり送り飛ばすことができるんだけど、魔法陣に誰かが足を踏み入れてやっと発動できるむずかしいものなの。だからそうさせるための作戦・・・。」
息を吐ききらない程度にいったんやめて、また空気を吸い込む。
魔法陣それに足を踏み入れたら行方不明になるふしぎな噂として世間に広めさせようとしたの。その為に沢山の子供達を連れてきたわ。連れてくるだけで用事はないからすぐに返す予定だったけど。」
最初はうまくいかなかった。途中でパンドラの存在を知って、利用しだしてからはうまくいった。不可解な現象が引き続き起こり、噂になった。まんまと成功した。でもそれだけじゃ無理。あの子を連れてくるためにはこんなの、スタートですらないわ。
「・・・リュドミール君は疑り深いし、乗っからないだろうね。だから、少し魔法を改変して違う誰かの巻き添えとして連れてくることにしたの・・・君ならわかるんじゃない?」
わからないわけないわ。だって・・・。
「あの子の近くにいて、信じやすい子。ふふっ・・・セドリックはまんまと乗っかってくれたわ。加えて、目立ちたがり屋だから絶対他の誰か、特にリュドミール君は巻き込むって予想した。まんまと的中したわ!」
ごめんね。こればかりは流石に残酷だよね。だって。だって、だって、だって・・・。

君は偽物ですら利用されたんだから!!

「大丈夫よ。偽物とはいえ、セドリックはちゃんと返すつもりだったから。」
「・・・・・・。」
もう、いい加減その顔やめて。リュドミールさえなんとかできたら本当に何事もなかったかのように帰すつもりだったのよ?
「君は・・・君は・・・。」
なんてアホみたいなツラしてるのかしら。きっと私がいれば大丈夫って心の底ではそう思ってたんだろうね。でもそれって私が君に協力する前提だよね。なんだろう。なんでかな?君、本当に信じてたんだよね?私のこと。そう思うとさ・・・。
「あは、あははははははは!!!!!」
なんて惨めなんだろう!
可哀想で、滑稽で、笑えてくるわ!
「バーカバーカ!!カッコ悪ーい!!はははっ、あっはははは!!!」

なんでもいい。私は良い子じゃなくていい。
良い子じゃないもの、元々。良い子であっても意味なんかなかったもの。
「笑いすぎてごめんね。でも面白いんだもん。ふふ・・・私、てっきりあの中ならジェニファーを選ぶと思ってた。だって好きなんでしょ?」
パンドラも流石に呆れてものが言えない感じ?別にいいけど、泣き止んでくれてよかった。
「好きなんかじゃないよ。腐れ縁なだけさ。」
へぇ、意外。あの時だって・・・。あっ、そうか。君は私より良い子なだけか。
「ふぅん・・・まあいいや。私はさらさら協力する気ないから、頑張ってね。」
「別にネタばらししてもいいよ?いずれリュドミール君は「ここに残りたくなる」から。」
そうだよ。私は確信している。
君の努力なんか無駄なんだよ。
「ヘルベチカはリュドミール君のなんなの?」
・・・・・・。
「ふんだ。親友程度の君になんか教えてやるもんか。」
それを聞かれたらちょっとむかついちゃった。もう傷も治ってるとこあるでしょ。どっかその辺に送り飛ばしとこっと。



でも、おかしいなぁ。
リュドミール君がもしこの世界に残ったらパンドラにとっても、ここにいるにとってもいいことだと思うのに。特にパンドラはなんで・・・わざわざ自分が辛いと思う方を選ぶんだろう。

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