死んだはずの令嬢は鉱山女王となって戻る〜奪われたもの、消された名前を取り戻すために〜

さんけい

文字の大きさ
21 / 26

20 奪われたと思う男

 ロレッタが屋敷へ戻らなかった夜、ヘンリーはほとんど眠れなかった。
 妻から届いた手紙は短かった。

 ――今夜は戻りません。
 ――明日、必要なものを取りに参ります。
 ――ロレッタ。

 それだけだ。責める言葉はない。説明もない。泣き言もない。
 今までなら、それだけでヘンリーはむしろ困ったはずだ。怒ってくれれば謝れる。泣いてくれれば慰められる。責めてくれれば、こちらにも言い訳ができる。
 だが、ロレッタは何も渡してこなかった。
 今夜は戻らない。ただ、その事実だけが机の上にある。
 ヘンリーは何度も手紙を読んだ。読んでも、字は変わらない。
 ロレッタの字は整っていて、少し硬い。結婚した頃、彼女はもっと丸い字を書いていた気がする。招待状や礼状を書くうちに、家の字になったのだろうか。

 ――家の字。

 その言葉が、嫌な形で胸に残った。
 ロレッタは今、ヴィヴィアン・ヴェイルのいるホテルに泊まっている。正確には同じホテルの別室だと聞いた。だが、そんな細かいことはヘンリーの頭には入らなかった。
 ロレッタが戻らない。そしてヴィヴィアン側にいる。
 その二つだけが、夜の間じゅう、机の上で灯りより明るく見えていた。

 ◇

 翌朝、ヘンリーは屋敷を出た。
 セドリックは警備隊とのやり取りで書斎にこもっている。エレノーラは自室から出てこない。アーネストはまだ戻らない。使用人たちは、ヘンリーが外出帽を取っても、いつものようには馬車の手配を尋ねなかった。
 屋敷の中で、誰もが何かを待っている。その待つ気配に耐えられなかった。
 ホテルに着くと、受付の男がヘンリーの名を聞いて、一瞬返事を飲んだ。

「ヴェイル様はご面会の予定が」
「伝えてくれ。ヘンリー・ウォードが来たと」
「ですが」
「伝えてくれ」

 声を荒げたつもりはなかった。けれど受付の男は一歩下がり、すぐに使いを走らせる。
 少し待たされる。その時間が、ヘンリーを余計に苛立たせた。
 昔なら、ウォード家の名を出せば通る場所が多かった。今は違う。ホテルの廊下で立ったまま、相手の返事を待たされる。
 やがてハンナが現れた。

「ヴィヴィアン様がお会いになります」
「ロレッタは」

 思わず聞いていた。ハンナはまばたきもしなかった。

「奥様は、別の部屋でお仕事中です」
「仕事?」
「はい」

 それだけ言って、ハンナは歩き出した。
 仕事。ロレッタが、ヴィヴィアンのところで仕事をしている。
 その響きが、ヘンリーにはどうにも呑み込めなかった。ロレッタは家のことをしていた。客を迎え、手紙を書き、使用人に指示し、食卓を整えた。もちろん、それも仕事だ。だがヘンリーは、それを仕事と呼んでこなかった。

 ――では、何だと思っていたのか?

 考える前に、案内された扉の前に着いた。ハンナは扉を軽く叩く。

「ウォード様です」
「通して」

 中から声がする。
 ヴィヴィアンは机の前にいた。黒い外出着ではなく、仕事用の深い緑のドレスを着ている。袖口は邪魔にならないよう細く、机の上には書類が何束も置かれていた。窓際には地図。壁には旧ハートウェル邸跡地の図面と、町の地図が並んでいる。
 ヘンリーは、その地図の上に赤いビンと糸が張られているのを見た。ウォード家から、役場へ。役場から警備詰所へ。旧邸跡地へ。リード運搬社へ。町医師の家へ。
 蜘蛛の巣のようだと思った。
 いや、蜘蛛の巣にかかったのはこちらかもしれない。

「お掛けになる?」
「ロレッタはどこだ」

 ヴィヴィアンはペンを置いた。

「挨拶の前に、それですの?」
「答えてくれ」
「奥様は仕事をしていらっしゃるわ」
「君がさせているのか」
「ご本人が望んだのです」
「そんなはずはない」

 言った瞬間、ヴィヴィアンの目がこちらへ向く。それが腹立たしかった。
 怒鳴られるなら、こちらも言える。軽蔑されるなら、まだ分かる。
 だがヴィヴィアンは、今の言葉をただ机の上に置いて、どこに傷があるのか見るように、こちらを見ていた。

「そんなはずはない、とは?」
「ロレッタは、ああいうことを望む人ではなかった」
「あなたの知っている奥様は、そうだったのね」
「あなたが唆したんだろう」
「何を」
「私の家を壊すだけでは足りないのか!?」

 声が大きくなる。自分でも分かった。けれど止まらなかった。

「父も、兄も、母も、もう滅茶苦茶だ。使用人まで警備詰所へ行き、町中が噂している。そこに今度はロレッタだ。君は、私から妻まで奪うつもりなのか」

 言い切った時、部屋の中が妙に静かになった。
 ハンナは扉のそばに立っている。少しも動かない。
 ヴィヴィアンはしばらく黙っていた。それから、椅子の背に軽く指を置いた。

「奥様は、物ではありません」

 短い言葉だった。ヘンリーは口を閉じる。

「奪う、奪われる、と口にするものではないわ」
「言葉の綾だ」
「そういう言葉の綾を、今までどれだけ奥様へ向けてきたのかしら」
「私は、ロレッタを粗末にしたつもりは」
「つもり」

 ヴィヴィアンは、その一語だけ繰り返す。ヘンリーの喉が詰まる。

「あなたの家の方々は、よくその言い方をなさるのね。殺したつもりはない。奪ったつもりはない。騙したつもりはない。粗末にしたつもりはない」
「私は父たちとは違う」
「そうね。十五年前の襲撃について、あなたが知らなかった可能性はある」

 その言い方に、ヘンリーは息を呑んだ。
 許された訳ではない。むしろ一つ、線を引かれた。

「なら」
「でも、奥様があなたの隣で何を呑み込んできたかについては、どう?」
「それは」
「死んだ婚約者の影。家の中での役目。義母の機嫌。義兄の横柄さ。義父の命令。あなたは、それをどこまで見ていたの」
「私は」

 知らなかった。そう言いかけて、止まった。
 まただ。また、その言葉だ。
 知らなかった。便利な言葉だ。あまりにも便利で、口にした瞬間、自分の足元だけ少し高くなる。周囲の泥から離れられる。だが、その高さで何が見える。
 ロレッタは、そこから見えたのか。

「奥様は、あなたから奪われたのではありません」

 ヴィヴィアンは紙の端を揃えた。

「ご自分の足で歩いてきただけです」

 ヘンリーは机の端をつかんだ。

「あなたは私を、憎んでいるのか」

 その問いは、予定していたものではない。けれど、出た。
 ヴィヴィアンの指が、机の上の紙に触れる。そこには何人もの名前が並んでいる。ウォード家の使用人名簿だろうか。ハートウェル家の名簿だろうか。

「憎んでいるかどうかが、今のあなたに必要な答え?」
「私には必要だ」
「なぜ」
「あなたは、私を見ているとき、まるで」

 言葉が続かない。
 まるで昔から知っているように。まるで、私が何をしたか知っているように。まるで、私の知らない私まで見ているように。

「まるで、何?」
「あなたは誰なんだ」

 ヴィヴィアンは答えなかった。ただ、ペンを手に取った。

「私はヴィヴィアン・ヴェイルです」
「それだけか」
「今のところは」
「今のところ」

 ヘンリーは一歩近づく。ハンナが静かに動いた。止めるほどではないが、止められる位置へ。
 ヴィヴィアンは少しも下がらなかった。

「なぜハートウェル家のことをそこまで知っている。なぜクレアの名を、そんなふうに扱う。なぜ、私の知らない十五年前を、まるで自分の傷のように」
「ヘンリー・ウォード様」
「答えてくれ」
「答えは、あなたの家の書類と土の中から出てきます」
「私はあなたに聞いているんだ」
「なら、聞き方を間違えているわ」

 ヴィヴィアンは紙に一つ印をつけた。

「あなたは今、妻を返せと言いに来た。私が家を壊したと責めに来た。自分から何が奪われたかを数えに来た」

 ヘンリーは何も言えなかった。

「でも、を、まだ本当に数えていない」
「数えている」
「いいえ」

 ヴィヴィアンの声は低かった。

「あなたは、だけです」

 ヘンリーは息を詰めた。
 その言葉だけは、まっすぐ入った。入ってしまった。

「違う」
「違うなら、証明なさい」
「どうやって」
「クレアではなく、ハートウェル家で殺された人たちの名を覚えなさい」

 ヴィヴィアンは机の上から一枚の紙を取った。

「トマス。家令。鍵束で確認中。エルシー。料理人。櫛で確認中。ビル。庭師。片眼鏡で確認中。ネッド。馬丁。馬具の金具で確認中。ルーシー。裁縫係。裁縫鋏で確認中。メイ。洗濯女。木櫛で確認中」

 ひとつずつ、彼女は読む。ヘンリーは、その名をほとんど覚えていなかった。
 トマスは覚えている。白髪の家令。クレアが走ると、廊下で叱った男。だが他は。
 顔が曖昧だった。ハートウェル家へ何度も行ったのに。彼女の家で遊んだのに。彼女の家の人々に世話をされたのに。
 ヘンリーは椅子の背に手を置いた。

「私は」
「あなたが知らなかったことは、あとで調べればいい」

 ヴィヴィアンは紙を置いた。

「でも、知らなかったと口にする前に、何を知らなかったのか数えなさい」

 扉の外で、小さな物音がした。ヘンリーは振り向く。ロレッタがいた。
 いつからそこにいたのか分からない。手には書類の束を持っている。たぶん、隣の部屋から戻ってきたのだろう。彼女はヘンリーを見て、次にヴィヴィアンを見た。

「入ってもよろしいでしょうか」
「ええ」

 ヴィヴィアンが答えに、ロレッタは部屋へ入った。
 ヘンリーは妻を見た。

「ロレッタ」
「はい」
「君は、本当にここで」
「仕事をしています」
「なぜ」

 ロレッタは少しだけ首を傾けた。

「昨日、お手紙に書いた通りです。今夜は戻らないと」
「それは理由ではない」
「では、今申し上げます」

 持っていた書類を机へ置く。

「私は、知った後で知らないふりをしたくありません。それから、自分がどの家の奥方として振る舞ってきたのかを、もう一度見直したいのです」
「私では駄目なのか」
「あなたは、まだご自分のことで手一杯です」

 ヘンリーは返せなかった。ロレッタの声は冷たくない。だが、戻る余地を与えるものでもなかった。

「私はあなたを見捨てに来た訳ではありません。けれど、あなたの隣に立ったままでは見えないものがありました」
「ヴィヴィアン嬢の隣なら見えるのか」
「見えます」

 即答だった。ヘンリーの舌の奥に、苦いものが残った。

 ――嫉妬か。

 そう思って、さらに情けなくなる。

「君まで、私を責めるのか」
「あなたは責められたいのですか?」

 ロレッタは問い返す。その問いは決して優しくない。

「責められれば、あなたは謝れる。謝れば、少し楽になる。そういうことではありませんか」

 ヴィヴィアンは口を挟まなかった。ハンナも動かない。
 ロレッタは続けた。

「私はまだ、あなたをどうするか決めていません。でも、自分をどうするかは決め始めています」
「離婚か」
「その可能性もあります」
「ロレッタ」
「ヘンリー。今、私を止めたいなら、ヴィヴィアン様を責めるのではなく、ご自分が何を見てこなかったのかを見てください」

 ヘンリーは妻を見る。
 彼女は、少し疲れていた。声には眠れていないかすれがあった。手袋を外した指には、インクがついている。今までのロレッタなら、そんな手で夫の前に出なかっただろう。だが今は、インクのついた指を隠しもしない。
 その指で、彼女は自分の名を書き、他人の名を書いている。ヘンリーの知らない仕事をしている。

「私は、君を何も知らなかった」

 ようやく出た言葉だった。ロレッタはうなずいた。

「そうですね」
「すまない」
「受け取ります。でも、戻る理由にはなりません」

 短い。それで終わった。
 ヘンリーは、もうここにいる理由を失った。それでも、最後にヴィヴィアンを見た。

「私は、クレアを忘れてはいなかった」

 ヴィヴィアンの手が止まった。ほんの一瞬。だが、止まった。
 ヘンリーはそれを見た。

「忘れてはいなかったんだ」

 言い訳だと分かっていた。それでも、言わずにいられなかった。
 ヴィヴィアンは、ゆっくり顔を上げた。

「忘れなかったことを、誰かへの償いだと思わないことね」

 ヘンリーは息を止めた。

「覚えているだけなら、誰でもできるわ。大事なのは、何を覚えていたかです」
「私は」
「クローバー姫?」

 その呼び方に、ヘンリーの背筋が強張った。ロレッタもヴィヴィアンを見た。
 ヴィヴィアンは淡々と続けた。

「四つ葉を見つけた子。死んだ婚約者。可哀想なあなたを作るための、綺麗な思い出」
「やめてくれ」
「ええ。やめましょう」

 ヴィヴィアンは紙へ視線を落とした。

「次に来る時は、トマスの名から覚えていらして」

 ヘンリーは立っていた。立っているだけで精一杯だった。
 やがて、小さく頭を下げた。礼なのか、謝罪なのか、自分でも分からない。

 部屋を出る時、ロレッタは追ってこなかった。
 廊下へ出ると、ホテルの窓から午後の光が入っていた。白い壁、磨かれた床、遠くで誰かが笑う声。
 世界は、まだ普通に動いている。
 ヘンリーは階段の手すりに手を置いた。
 トマス。エルシー。ビル。ネッド。ルーシー。メイ。
 声に出さず、ひとつずつ繰り返す。
 初めて彼は、クレアの周りにいた人たちの名を、クレアの飾りではなく、その人自身の名として覚えようとした。
感想 2

あなたにおすすめの小説

「妹の縁談のために家を追い出されたので森に帰りました。精霊と小動物と、魔女と間違えた騎士と暮らしています」

まさき
恋愛
伯爵家の長女ミアは、ずっと家のために尽くしてきた。 そんなある日、妹リナに有力な縁談が舞い込む。縁談相手は「長女がいると家督が継げない」と気にしていた。リナも「お姉様がいると思い通りにならない」と両親を焚きつける。利害の一致した両親はミアを家から追い出すことを決めた。 ミアは泣かなかった。怒りもしなかった。 ただ静かに荷物をまとめ、幼い頃に精霊と出会った森へと帰った。 森には精霊がいる。小鳥がいる。小動物がいる。 やっと、自分だけの時間が始まった。 一方、ミアがいなくなったエヴァンス家では作物が育たなくなり、取引先が離れ、使用人が去っていく。豊かだったはずの家が、じわじわと傾き始めた。 そんな森に迷い込んできたのは、魔女の噂を調査しに来た騎士レオだった。魔女はいなかった。畑を耕す可愛い元令嬢がいただけだ。任務を忘れて居座る騎士と、淡々と受け入れる元令嬢の、ほっこりスローライフが始まる。

病弱な幼馴染みには「俺がいないとダメなんだ」なら、一生背負わせてあげます。

ぽんぽこ狸
恋愛
公爵令嬢のソフィアは、今回も約束をすっぽかしたことを婚約者のセドリックに謝罪されていた。 セドリックはソフィアとのよく約束を放棄する。 重要な社交や両家が話し合うなどの場面ではやらないくせに、ソフィアの心情的に大切なお祝いなどでであえてすっぽかす。 そうして向かうのは病弱でかわいらしい幼なじみのパトリシアところである。 次こそは約束を守ると言う彼に、ソフィアは『誕生日の食事会』の誘いをかけた。 必ず行くと言う彼だが、当日来なかった。 そして、『ソフィアの成人祝いを兼ねた食事会後の、今後の話し合い』がセドリック抜きで始まる。 誰もがその場に居ないセドリックの心を察し、ソフィアの提案でそんなに想っているならばパトリシアと結婚させてあげることが決まる。 しかしそのパトリシアは両親が困り果てるほど、身内には苛烈な一面を持っていた。後日助けを求めに来たセドリックにソフィアは小さく微笑む。 他サイトにもアップしています。

忘れられない相手がいる婚約者にはお別れを

ジョナ
恋愛
――いっそのこと、別れてしまえばいい。 その考えは、私の心の中で、静かに、しかし確実に芽生え始めていた。

婚約者が病弱の幼馴染を優先しますが、一切構いません、最高です!

ジュリルン
恋愛
テンプレを少し変わった作品に仕上げました

捨てられた洗濯聖女は狂王に愛でられる〜不浄の泥にまみれて後悔してももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「五年間、この国を清めてきたのは私ですわ」ラズリス王国の聖女エレナは、魔力の限りを尽くして国を浄化し続けてきた。しかし、婚約者であるカイル殿下から告げられたのは、あまりに無慈悲な言葉だった。「エレナ、君は今日から『二番目』だ。君の魔法は所詮、汚れを落とすだけの洗濯だろう?」真の聖女を名乗る令嬢リリアに一番の座を奪われ、ボロボロになった魔法の洗濯板さえも踏みにじられたエレナは、絶望の末に国を去る決意をする 。 しかし、彼女が浄化の結界を解いた瞬間、王国は五年分の「穢れ」に飲み込まれ、泥の雨が降り注ぐ腐敗の地へと変わり始めた 。 一方、エレナは「生贄」として、世界中から恐れられるガルズイン帝国の皇帝ゼクスの元へ送られることになる。 そこで待っていたのは、死の運命ではなく、狂おしいほどの独占欲を孕んだ溺愛だった。 「逃がさない。お前は私の、帝国を潤す唯一の源泉だ」 捨てた男は泥にまみれ、拾った男は彼女を神と崇める。「二番目」の烙印を刻まれた少女が、美しき死神の腕の中で真の奇跡を起こす逆転ファンタジー、開幕。

娘を虐げ続けた継母たちに、ざまぁを届けましょう

柚木ゆず
恋愛
 ――今までよくも娘をいじめてくれたわね?――。  わたくしが死んでしまったあと娘ミニアエスは、継母や腹違いの妹、死の間際に娘を託した侍女や夫から陰湿な嫌がらせを受け続けてきました。  天国のルールによってこれまでは現世に降りられなかったけれど、ようやく許可が下りた。そこでわたくしはミニアエスの身体を一時的に借り、好き放題してくれた愚か者達に罰を与えることにしたのでした。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。