《完結》呆れた!ただの浮気で済むなら軽いものでしょうね。

さんけい

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23 断罪③

 ミレイユは震えていたが、エドガールと並んで前へ出た。
 若い二人だ。
 でももう、ここで逃がすつもりはない。

「ミレイユは第二工房監督補佐エドガールの婚約者です。レオンハルトは『昇格に関わる相談がある』と偽り、彼女を呼び出し、婚約者の将来を餌に関係を迫った」

 広間の空気が、今度は明らかに嫌悪へ傾いた。
 これまでの女遊びとは違う。立場の差が見えるからだ。

「違う!」

 とレオンハルトが叫んだ。

「私はただ、若い者の将来を――」
「私が決める工房の人事を、あなたがどうこうできるように言った時点で嘘よ」

 私はその声を切った。

「しかも婚約者を盾にしてね」

 ミレイユが、用意していた手紙を差し出す。
 私はそれを広げ、皆に聞こえるように読んだ。

「『君がもう少し物分かりのいい娘なら、エドガールの将来はずっと明るい』……よくもまあ、こんなものを堂々と書いたものね」

 エドガールは拳を握っていた。
 でも殴らなかった。偉いわ、本当に。

「私は、怖かっただけです」

 とミレイユが言った。

「でも、旦那様ではなく、私のほうを疑われました」

 その一言で、若い女たちの間に小さなどよめきが起きた。
 そうよね。そこはよくわかるでしょうとも。

「ですから、ここでもうはっきりさせます」

 私は広間を見渡した。

「愚かなことをした女はいる。でも、愚かさに付け込み、立場を利用し、職と将来を餌にしたのは――私の夫です」

 レオンハルトはもう、まともに私を見られなくなっていた。
 ここまで来れば、あとは最後だけ。

「五人目」

 私は少しだけ間を置いた。
 広間の奥で、リディアが微笑みを保ったまま、ほんの少しだけ姿勢を固くするのが見えた。

「リディア・フェルナー」

 名を呼ぶと、彼女はさすがに一瞬だけ瞬いた。
 でもすぐに、いつもの落ち着いた顔で前へ出てくる。

「何かしら、ナタリア」
「あなたには、いちばん長く騙されたわ」
「騙すだなんて」

 私は答えず、先にグレゴールへ合図した。
 老執事が、喫茶店の給仕の証言、ミレイユの聴取書、そして例の書き付けを差し出す。

「『あの娘はまだ完全には折れておりません。でも大丈夫。あの程度の子なら、怖がらせれば黙ります。ナタリアには、いつものように穏やかにしていてくださいまし』」

 それを読み上げた時、広間の空気がすっと冷えた。
 リディアの笑みが、初めて消えた。

「それは」
「あなたの字よ」

 私は言った。

「北通りの喫茶店でミレイユに会い、私の名を使って『うまく立ち回れば誰も傷つかない』と言ったのもあなた。さらに、西の倉庫の鍵と、子どもたちの午後の時間割――あなたにしか話していない偽の情報が、その日のうちに夫から私へ返ってきた」

 今度こそ、広間ははっきりとざわめいた。

「ナタリア、誤解よ」

 とリディアが言った。

「あの方が苦しんでいらしたから、私はただ」
「ただ?」

 私は笑った。

「ただ夫を慰め、若い娘を脅し、私の子どもたちに絵本を持ってきて、西の倉庫の鍵の話に食いついたの?」

 リディアの目が揺れた。
 ほんの少し。
 でも、その少しで充分だった。

「あなた、私のものが欲しかったのね」

 私は静かに言った。

「夫だけではなく、子どもたちの母の位置も、家の中の椅子も、仕事の鍵も」
「違うわ」
「違わない」

 私はきっぱりと言った。

「見ていればわかったもの。あなたはあの子たちを可愛いから見ていたんじゃない。手に入るものとして見ていた」

 リディアの唇が、初めて強く結ばれた。

「あなたは昔から何でも持っていたでしょう」

 と、彼女が低く言った。

「家も、仕事も、子どもも、立場も」
「だから盗んでいいと?」
「盗む、ですって」
「ええ、盗みよ。欲しいものを他人の家から順に奪おうとするのは、恋じゃなくて泥棒だわ」

 その時、レオンハルトがようやく顔を上げた。

「リディア……」

 ひどく間抜けな声だった。

「君は、私を……」
「ああ……」

 リディアは振り向きもしなかった。

「あなたなんて、ただの入口でしょう」

 ああ。それを本人の前で言うのね。
 さすがだわ。
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